弟は俺TUEEEでした
うわ、なんだこの数値。
火10・土10・風10・水10・光(-)・闇40・精神10・暗黒10・魔力1800(×2)
確かに弟の名前だけど、こりゃチートもチート、極まってるだろ。
あいつ、もしかしたら神様とかに会って直接貰ったんじゃないだろうな。
いや悪魔かもな……そんな存在がいればだけど。
これは多分、捕らえた時に調べられたんだろうが、あいつはまだ14才。
それで既に魔力がオレの倍かよ。
しかも、何かの影響で魔力2倍とか。
多分、暗黒辺りが怪しいな。
しかも、禁忌の精神魔法。
やはり持っていたんだな。
だからあんなに弟を信頼していたと。
裏組織を作っていたって話だけど、それってあれだよな。
普通、10才かそこいらのガキがそんなの作れる訳が無い。
つまり、オレの時と同じく、精神魔法で何とかしたんだろうな。
オレの告発で捕まらなかったらきっと、将来相当にヤバい事になっていたはずだ。
もしかしたら魔王とかになった可能性もある。
本来なら同じ記憶あり転生だし、話を聞いてやりたいところだけど、いきなり洗脳もどきな攻撃とか、オレがやれてもやらないはずだ。
つまり、新しい家族なのにゲームか何かの登場人物としか考えてない可能性がある。
いわゆるNPCだな。
もしオレの話を信じたとしても、またぞろ精神魔法で操られるかも知れない。
元々、お前からの悪意だし、これは報復だと思って諦めて欲しい。
なんせお前が余計な事をしなければ、恐らくオレは記憶が戻り次第、お前に後継者を譲った可能性もある。
確かに操られていたようなものだとしても、跡継ぎをあっさりと諦められるような心なら、そもそも向いてないだろう。
大体、いくら家が裕福じゃないとしても、薬草採取で小遣い稼ぎとか、それは既に貴族の子息じゃねぇよ。
やはり断片記憶の弊害で、心は既に平民になっていたんだろうと思う。
だからこいつはある意味、余計な事をしてオレの恨みを買っただけであり、それが自らを滅ぼすのは自業自得って事になるな。
ああ、殺すさ。
あんなステータス、放置しといたら世の中が大変な事になりそうだし、そんな世界になっちまったら、のんびりと好きに暮らせないだろうが。
だから、殺す。
オレの安楽な未来の為に殺す。
お前だって自分の未来の為にオレの成長の可能性を殺したんだし、お互い様だよ。
水化して離れに向かうと精霊から妙な気配を感じるけど、水化が解けるほどじゃない。
つまりは魔法を阻害するナニカがあるようだけど、それが何なのかがよく分からない。
それでも離れの建物の中に潜り込んだ時、この空間の異常さを知る。
魔素が全く無い。
おや、うちの精霊さん、タンクからナニカを……ああ、それででかいタンクにしたんだな。
確かに莫大な水があれば、含有魔素も莫大になる。
それならこんな異常な環境でも間違いなく存在を継続出来る。
しかしそれならここに捕らえられているあいつは魔法が今は使えないか。
それで逃げられないんだな。
おかしいと思ったよ。
おお、居ましたね。
魔法が使えない空間なのに、ご丁寧に壁に鎖で拘束するとか、どんだけ危険視されてんの。
まあ、あんなステータスを見れば過剰警戒するのも分かるけど、普通に考えて14才の子供にする事じゃない。
まあ、今は好都合だけど。
お前が拘束されているのを良い事に、オレはお前を殺す。
卑怯? 知らないな、そんな事。
お前だって勝手に人を操ったじゃないか。
それにしても冷たい瞳をしているが、オレの記憶にそんな瞳は無い。
まあいい、最後に挨拶をしてやるさ。
物陰で水化を解いて貫頭衣を被る。
そうして壁に鎖で縛り付けられている、14才の少年の前に歩いていく。
やはり魔法は封じられているようで、これからする事には実に都合が良い。
「やあ、久しぶり」
「兄ちゃん。兄ちゃんも捕まったの? 」
おいおい、こいつは魔法が封じられているんじゃないのかよ。
つまり、それ以前に芝居が上手なんだな。
さっきの冷たい瞳はどうしたよ。
「うん、殺し屋みたいなのに襲われてね」
「えっ」
ふふん、精霊のサポートなのか、こいつの心の動揺が丸分かりだぞ。
自分からの手より先に辺境伯からの手で捕らえられ、殺すはずが殺せなくなった事に動揺しているんだな。
本当に頼もしいよな、精霊さんは。
「魔法で壊せないの? 」
「うん、この部屋、魔法が使えないんだ。お願いだよ、兄ちゃん。この鎖を外してよ」
うわぁ、この縋り付くような瞳。
こいつに精神魔法は要らないだろ。
芝居だけで充分人を操れるだろ。
こういうのを鬼に金棒って言うんだな。
「その前に、聞かせてくれるかい」
「うん、何でも聞いてよ」
「お前さ、どんな死因だったんだ」
「えっ、それってどういう」
「オレはヤクザに車道に付き飛ばされて、車に跳ねられて死んだんだ」(多分な。酔っていたから分からないんだけど)
「まさか……いや、そんなはずないよ。だって、調べたけど、そんな言葉に反応しなかったし」
「ほお、精神魔法で調べられるのか。便利だな。さすがは禁忌魔法だけの事はある」
「じじいに聞いたんだな。その時にその言い回しも教わったんだろ。兄貴は転生者じゃない。このオレが調べてシロだったんだから」
興奮しているのか、段々とボロが出ているぞ。
「あの日は成人式の後の飲み会でさ、ちょいと飲みすぎてヤクザと言い合いになっちまってな」
「そんな言葉は使って……じゃあ、やっぱり。けど、兄貴のステータスに精神とか無かったのに、どうしてだ」
「さあ、当時は記憶が無くてな」
「くそっ、後で思い出すタイプかよ。てか、酔っ払い? 殺された? まさか、てめぇ、あの時の」
「ラーメン屋の前で」
「やっぱりかよ、てめぇ。お陰でオレは昇進がふいになるどころか、お務め最中に病気で……てめぇさえ絡んで来なかったら今頃は……許せねぇ」
自分の事ばっかりだな。
そもそもは確かにそうかも知れないけど、お前がそこで歩道に向けて突き飛ばしていれば何も問題は無かったんだよ。
しかも突き飛ばされてから衝撃までの時間が短いって事は、車が来ているのを知っていての可能性がある。
つまり、重傷になっても構わないつもりで突き飛ばしたけど、まさか死ぬとは思わなかったって事だろ。
それをあたかもオレが悪いみたいに言われるのは合わないぞ。
なんせオレは多分即死したんだろうし。
それならそれで、お前流でやってやるよ。
ちなみにオレは水化中は何時間でも水に潜っていられるから、まさか数分で死ぬとは思わなかったってね。
「これな~んだ」
水の球を空中に浮かべて見せる。
「どうして魔法が使えるんだ。ここでは使えないんだぞ」
そりゃ精霊さんが全力で補佐してくれているからだよ。
この空間では魔素が吸い取られているようで、オレの体内の魔力の保持が難しいけど、その分以上にタンクの魔素を引っ張ってくれているから、何とか魔法が使えているに過ぎないんだけど、そんな事を教える筋合いは無い、となれば。
「水の才覚70は伊達じゃないよ」
「まさか、いやそんな」
お、信じたか。よしよし。
「オレは水中で何時間でも呼吸しなくても耐えられる」
「才覚が高ければそんな事も出来るのか。くそぅ、そんな事ならバラけさせるんじゃ無かったな」
ほほお、やはり何かの存在から得たステータスなのだな。
「いやいや、修練次第ではお前にもきっと出来るさ。さあ、今から特訓だよ」
「待てよ、おい、止めろ。止めてく……ガボガボ」
首から下が動かせないと、それぐらいの水でも振り払えないんだな。
水化したオレなら余裕で防ぐ攻撃だし、オレより凄いステータスのお前なら余裕でクリアして欲しいものだけど……動かなくなっちまったな。
成程、術者が死ねば食らった魔法の効果が弱体化するんだな。
それも急速に薄れていくこの感じは、呪いが解けていく感じかな。
まさに呪いだよ、お前の精神魔法はさ。
ああ、かなり解けたようなのはこの空間も影響しているのかも知れない。
なんせ魔素の無い空間だから、ただでさえ解け易い環境なのに、元凶の術者を目の前で滅ぼしたんだ。
さて、水化……。
お前を殺したのは、何も恨みとか世界の未来の為ばかりじゃない。
確かに憎い相手だけど、それでも一応はオレの弟だったんだ。
あんな魔法のせいか、憎いのに憎み切れない奴だけど、前世の記憶のある転生者って括りで言うと、仲間みたいなものだ。
だから将来の苦しみから救ってやったんだ。
あのままだと死ぬまで拷問の日々だったはずだ。
そもそもあのじいさんがあっさりと殺すはずなんて無い。
オレには妄想とは言ったが、異界の知識持ちをあっさりと手放すはずもない。
師匠がオレの言えない秘密を聞かないのも、そういう事例があったからこそだろう。
ならば二匹目かそれ以上かは知らないが、どじょうが全て口を割るまで追求は止まらないはずだ。
しかもこの世界には回復魔法も回復薬も存在していて、恐らくは精神魔法の使い手も存在しているはずだ。
いかに禁忌とて、今回のような使い手への対処として、絶対服従の元に飼っている可能性は極めて高い。
魔法を封じられた状態で逃げ出すのは恐らく不可能。
となるともう、精神が破綻するか油断して自殺されるか、知識の欠片すらも無くなって、使い物にならなくなったとして殺されるかしかない。
いや、もしかすると二匹目の精神魔法の使い手として1生を絶対服従の中で汚れ仕事に従事させられるかも知れないが、そんな生涯は嫌だろう?
次もまた記憶付きの転生ならさ、今度は家族を洗脳とかは止めておいたほうがいい。
こういうどんでん返しがあるかも知れないから。
さようなら同類。
今度はまともに生きろよ。
世界のミニ知識
禁忌魔法の使い手は、国王専属として存在しています。
確かに反逆は出来ないように縛られていますが、隷属などはされておらず、その代わりに契約術式で生涯の忠誠を誓わされています。
生活の苦労もしなくて済みますし、存在自体が秘されているので結婚などは無理でもその類の人員も派遣され、かなり良い暮らしになっているようです。
なので任務の時には真面目に従事する者も多く、かつては隷属して必要最小限にしか動かなかった人員も、今ではかなり協力的になっているようです。
今回の場合も国に要請しての事になってはいるものの、契約術式には反しない、特別報酬を与えられての長期任務となっており、辺境伯はその為に様々な手を尽くしていたようです。