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弟に対する疑惑と決意

 

 それにしても、ますます記憶との剥離が気になるんだけど、もしかしてあいつ、禁忌魔法の先天所持者だったのか?

 精神魔法を最初から持っていて……それでもそれを行使するにはナニカが必要だ。

 そう、悪事を悪事と思わないような、ある意味生まれながらに悪意を持っているとか。


 そうじゃないとオレの記憶の説明が付かないんだよ。


 あいつが生まれた頃から変わらず純真なままとかさ、確かに後から印象を変えられるかも知れないけど、それにしても強引な方法……つまりは精神魔法が必要なんだ。


 人は第一印象が他人の評価に大きな位置を占めているので、あいつが物心付いた頃の記憶は恐らく元のままなのだと思う。

 となるとだよ、その頃に悪意を持って印象操作をするとなると、オレみたいな転生者で記憶のある者というのがもっとも可能性が高い。


 なのであいつも転生者の可能性があるんだけど、どの程度覚えているかはかなり個人差があると思う。


 オレの場合は死の原因だけはっきりしない……酔っ払っていたからな……けど、他は殆ど思い出せる。

 幼い頃の事は今は言わないが、工学科の学部の2回生だったはずだ。

 空想概念理論化研究会……おたくと言うな……に入っていて、そのせいで魔法の開発に有利だったので良かったんだけど。

 その関係で成人祝いの飲み会を先輩が催してくれて、そこで羽目を外してかなり飲み過ぎたんだ。


 それで気付いたら研究会の連中とはぐれていて、帰ろうかと思ったけど小腹が空いていて、ラーメン屋に入ろうとして誰か……多分自由業の人……にぶつかったんだ。

 それでどっちからぶつかったかの言い合いになって、てめぇだろ、って……シラフなら到底言えない……相手を殴ろうとして避けられて逆に殴ると言うか突き飛ばされたようになって、後ろに……。


 そこから分からない。


 多分、車か何かにぶつかったんだろうけど、押し出された衝撃とごっちゃになっているのか、どうなったか分からないんだ。


 ドドン……死んだ、ってそんな感じ、多分。


 つい話が逸れたな。


 でさ、弟も同様に覚えているのなら、いきなり家族に対しての悪意をぶつけたりはしないと思うんだ……まあ、それこそ自由業の方なら分からないけど。

 なので何か強い情念……恨みを残して死んだとかだと、そうなるらしいと言われているが、本当かどうかは知らない……のみの場合、いきなり外の存在に対して自分を庇護させると言うか、庇護欲を刺激すると言うか、やれるのならやるかも知れないと。


 ただ、それだけだと魔法の習得速度に問題が出るので、一般的な知識は残っていたのだと思う。

 そう考えると、オレと同じような記憶はあるものの、恨みを抱えて死んだから外の連中に対して攻撃的になってしまった存在とも言える。


 オレ? 気付いたら死んでました、だから恨みも何も無いよ。


 まあ、今から思えばあの自由業の方には、よくも殺してくれたな、とは言いたいけど、もはや別世界の存在になってしまったんだし、諦めるしかないだろう。


 こっちで出会ったら? 殺しちゃおうかな、なんてな。


 だって、先に相手が殺したんだし、こっちが仕返ししても良いだろ。

 例え殴るにしても歩道に向かって殴ってくれれば、怪我だけで済んだ可能性が高いってのに、それを車道に向かって殴るとか、殺意があったとしか思えない。


 そんな奴が転生して……まさかな。


 まさか弟があいつ……だけどもしそうなら……うん、殺したほうがいい。

 何より世界の為にもそのほうがいい。

 そんな、人をあっさり殺そうとするような奴なら、この世界でも何をやらかすか分かったもんじゃない。

 オレは今度こそのんびりと暮らしたいのに、そんな奴が好き勝手に世の中を荒らしたら、その望みも叶えられなくなる。


 だからもし、その推測が合っていたら、もはや躊躇いはしない。


 ◇


 翌日、馬車の迎えを宿の前で待つ。

 今度はちゃんと着替えてますよ。


 しばらく待っていると、以前の人が迎えに来る。


「ふむ、準備は出来ているか」


 同じ失敗は繰り返しませんよ。


「善き心がけだ」


 どうにも雰囲気と言うか、何かおかしい感覚。

 オレに対する態度がまるで、以前の客という感じから同輩、つまりは同じ雇われって風に感じてしまう。

 まさかもう話が通っていて、強制的に勤めさせられるんじゃないだろうな。


 そんなのごめんだからな。


 前回と同じ道を通って屋敷まで連れて行かれ、やはり同じ部屋でしばらく待たされた後、同じように連れられて扉の前。

 相変わらず迫力満点の「入れ」の声に従い、今度はリラックスして中に入る。


「たびたび済まんの。実は全て終わっての」


「はい」


「おぬしの弟の調べも終わっての、あやつが元凶なのが明らかになった」


「そうですか」


「今、離れに監禁しておるが、どうにも支離滅裂な話をしておっての。前世の記憶とか、正気を疑う話じゃ」


 推測が、いや、まだ確定じゃない。


 それなら少し調べてみないとな。

 恐らくは司祭に命じてステータスは調べさせたんだろうから、それを見つければ、何かが分かるかも知れない。


 この部屋にある?


 後ろ手の片方だけの水化で、精霊の導きのままにその場所に水化した手を送り出す。

 動きが止まったので指を戻すと、紙のようなモノに触れる。

 それをつまんだまま、またもや精霊の導きによって辺境伯から見えない場所を経由して近付けて、何とか腕に繋がったので財布に送り出す。

 新しい試みだったけど、何とかやれたな。


 精霊さん、助かったよ。


「聞いておるのか」


「びっくりして、その、確かに色々あったけど、元凶とか、思えなくて」


「そうであろう。わしも今でも信じられぬ」


 ちょっと焦ったな。


 今度はちゃんと話を聞いてみると、あの8人はやはり弟が組織したある裏組織の連中で、少数精鋭での仕事をかなりこなし、裏での知名度急上昇中らしい。

 弟の貴族の顔を利用して、普通ではやれない殺しを請け負ったり、誘拐した日に殺した癖に、身代金を要求する犯罪を犯したりと、余罪の追及でいくらでも出て来たらしい。

 今その8人の行方も追っているらしく、捕らえたら改めて弟との関連を追求すると共に、国からの判断を待ちはするが、恐らくは死罪となるであろうと。


 弟のステータスは後で見るとして、さっきの新規プロジェクトで上の空になっていたのを、説明を聞いて呆然としていたのだと勘違いしてくれて、またもや今日は泊まっていけと勧めてくれて、案内された部屋で少し気持ちを落ち着けたいので独りにして欲しいと頼み、昼は食欲が出ないので夕食をお願いしますと伝えておいた。


 そして弟のステータスが刻印された羊皮紙を見て、更なる決意を固めたんだ。


 だって酷いんだよ。


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