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ねんがんのしょうかんにいくぞ

 

 湖の後始末……魔物の骨を引きずって沿岸にそれとなく置いておくのも含めて……を終えた後、そのまま直線的に領都に行こうと思っていたオレの琴線に何かが引っかかる。


 精霊の導き? 何か違うような、何だろうこれ。


 気になるのでそのまま導かれていくと、水化の最中は性欲とかも抑制されているはずが、妙にその気になったこの町で水化を解く。

 途端に強くなる性欲に堪らなくなり、界隈をぶらついているうちにビビンと来た。


 この店が良さそうだ。


 さすがに裸族みたいな格好じゃ拙いので、かつて着ていた普段着に着替えてある。

 いや、かつてと言っても裸族になった訳じゃなく、貫頭衣に慣れただけなんだけど、特に夏も近いこの気候だと、あれが涼しくて良いんだよな。


 特に走ると。


 本当に20代になったら羞恥を感じるんだろうな。

 もう既に新しい扉が開いているんじゃないかって、妙に不安になるんだよ。


「あら、いらっしゃい。女の子よね? 」


「男です」


「男でそんな胸も珍しいわね」


「若気の到りです」


「あはは、あんた、何才よ」


 軽い会話でのリラックス効果を狙ってくれているのか、随分と気が楽になっている。

 その気分のままに奥に入ると……女のほうから選ぶのかよ。


「この子、気に入った」


「あら、珍しいわね。彼女で良い? 」


「はい」


 おかしいな、相手の身体からも精霊を感じるんだけど、彼女って人族だよな。

 部屋に同行すると、やっぱり感じた水の入っている桶。

 近くに水があると匂いと言うのかな、何かそんなのを感じるんだけど、これって精霊が探知しているのを感じているのかも知れない。


 かなり大きな桶は、そのままバスタブになりそうだ。


「やっぱりこれが気になるのね」


「水の中でやろうか」


「あは、やっぱり同類みたいね」


 どうやらあの衝動みたいなのが性欲を刺激していたらしく、こうして相対してみるとさっきまでの激しさが嘘のように静まり返っている。


 拙いな、やれるかな。


 まずはトークからと、かつて先輩が連れてってくれた風俗店での記憶を思い出しながら話を聞いてみたところ、どうやら彼女は生まれつき精霊を感じるらしい。

 ステータスの紙は教会のぼったくり鑑定が高いから持ってないと言うので、ステータス表示魔法を教えてみた。


「うわ、凄い。こんなのあったんだ」


「精霊の文字あるよね」


「うん、あるよ」


 オレは後天性なのを明かすと、さすがに驚いたようだけど、同類を増やせる可能性は嬉しいようで、コツなんかを教えてみた。


 こんな体質? になっても本能はあるようで、さすがに異性の裸の前では屹つモノは屹つようで、行為自体は速やかに終わったものの、お互いに水化をして漂ってみたり、その状態で抱き合うような感覚を味わってみたりと、実に新鮮な体験が出来た。

 彼女は田舎から出て来て今はこの娼館で資金稼ぎをしているものの、同類探しのつもりもあったようで、オレに同行したがったけど、生憎と用事を済ませに向かう途中だ。


 水化をすると元来の体調に戻るようなところがあって、それで疲れた時の回復代わりにもなるから重宝しているんだけど、どうやらその効果は女性の状態にも及ぶらしく、妊娠はおろか処女膜すら再生するらしく、毎回処女として顧客を楽しませているらしい。


 つまり、さっきのは本当は……まあいいや。


 とりあえず帰りまでに気が変わらなかったらという約束をして、辺境伯の領地に向けて移動を開始した。


 ひょんな事から同類に出会え、どうやら同行になるみたいだ。

 オレもどうせなら同じ技能を持つ存在のほうがありがたいし、何より身体の相性がとても良かったのだ。


 嫁さんゲットだぜ。


 ◇


 彼女には借金バンスは無いらしいが、挨拶もあるのでちょうど良いと言われ、帰りにまたここに寄って欲しいと頼まれた。

 日程の予定が立たないが、なるべく早く終わらせて戻ると約束した。


 その日の夕刻には到着し、またしても普段着で門番に伝言を入れておく。


 実は正門は人がいないけど、勝手口みたいなのがあって、そこには門番がいると教えてもらっていたのだ。

 どうやらあれは辺境伯の顔のようなもので、余計なモノ……つまりは門番の為の小屋とか馬小屋とか……は置いてないそうだ。


 更にあの門は特別な時にしか開けないらしく、前回はあの豪華な馬車がたまたま空いていたので、辺境伯のいわばイタズラみたいな感じだったらしい。

 確かに貴族落ちの平民なら、あんなの見せられたら呑まれてしまって相手のなすがままになりそうなところであり、包容力を見せ付けるような事をされれば、師匠が居なければ頼りたいと思ったはずだ。


今回は通用門のほうから入る事になりそうだけど、こちらの門もでかいんだよな。


 まあ学校の正門と裏門ぐらいの違いだけど。


 そうして従者門……これも通称みたいなもので、本当はかつて功績をあげた配下の名を冠しているらしいんだけど、やたら長いから誰も使わないらしい(ウェリントン・サストラントマルクトル=ツェレントバグラス門)……で明日の迎えを頼むと言い、送られてきた手紙を見せると中に連絡を取った後に承諾をもらえたので、宿の名前を告げておいた。


 確かに数日で着いたし、宿も今回が初めてだ。


 だけど普通は馬車で1ヶ月も掛かる道のりなんだし、用事があるのならもう今回限りにして欲しいものだ。

 時間が空いたので、ギルドでまたぞろ回復薬を売ろうと思い、中に入って受付の……。


「あら、久しぶり。今日は何本かしら。在庫が少ないからたくさんでも大丈夫よ」


 たった2回なのに覚えてくれたんだ。


「そりゃあね。で、何本なの? 」


「今、528本あるんですけど」


「あははは、さすがに多いわね。そうね、まあいいわ、全部構わないわよ」


 うえっ、マジで。


「実はね、明日、領主様からある発表があるんだけど、その後に大量に掃けそうなのよ」


 本当は内緒とか言われたけど、迷宮解放の話題はそこらの冒険者もしているぞ。


「同時に2つなのが内緒なの」


 ああ、前例が無いんだね。


「だけど2ヶ所なら倍とは言わなくても売れると思うからさ、多めでも構わないわ」


 そういう事ならと、手持ち全部を売り払い、ギルド預金には入れずに銀貨と銅貨で支払いを受ける。


「おや、もしかして。うんうん、若いもんね」


 確かに娼館では余程の大金じゃ無い限りは銀貨で支払う慣習があるってのは今日知ったけど、行かないよ、もう。


「行きません」


「あら、違ったかしら」


「1日に2回はさすがに」


「あら、やっぱり。なんかそんな匂いがしたのよね」


 水化した時にそんなの消えているはずなのに。

 もしかしたら彼女も何かの先祖返りなのかもな。

 そんな嗅覚だと、彼女の相手は絶対に浮気は出来ないだろうな。

 顔は好みだけど、もう嫁さんは見つかったんだ。

 前回の時に誘われたら、その気になったかも知れないけど。


 だからそんな上目遣い、やっても無駄だぞ。


 それにそういう類の匂いなら、オレも僅かだけど感じたから余計だ。

 まるで自分が草食動物になったような、狩られて食われるような感覚。

 それが性的な意味ならまだしも、食欲的な意味の場合は洒落にならん。


 ただ、それを感じたのは己の体内。


 つまり、人食いって意味じゃなくて精霊喰いの可能性。

 それこそ伝説だけど、そもそも精霊魔法すら伝説の世の中となれば、それを食らう存在も伝説である以上、精霊魔法を確立したのなら、それを喰らう存在がいないなどと何故言えるのか。


 大体、精霊自体が意思を持った魔素とも言えるようなものなので、他人の魔力を吸う能力ならありそうだし、彼女がもしそうなら体内の魔力を吸われる可能性もゼロじゃない。


 ほら、サキュバスの先祖帰りとかさ。


 特に今は体内に精霊を宿していると言っても過言じゃない状態なんだし、万が一、億が一の可能性でも、匂いとして感じたのなら避けるべきなのだ。


 下手に危うきに近付いて、もし喰われでもしたら次は無いかも知れないんだ。

 そうなってからどんなに願っても叶う事が無いのは、師匠の光(-)が証明している。

 だからもしそんな事態になったりしたら、折角見つけた嫁さんにどんな言い訳をすればいい。


 だから近付かない。


(あれ、警戒された? 変ねぇ、イケると思ったんだけど)

 

世界ミニ知識


この世界は過去に様々な種族が生き残りを賭けて交配に明け暮れたので、現在でも様々な先祖返りが発生します。

ただ、中には忌まわしき種族の先祖返りなどもある為、恐怖を感じた親によって抹殺される場合もあり、中々世の中に出て来る事は無いようです。

懸念の受付嬢ですが、自由の身になるまで自らの衝動を抑え込んでいたが為に、親の目をかい潜って世の中に出て来れた稀有な例です。

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