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続・辺境伯のお呼び出し

 

 来いと言われてもすぐには行けるかよ。


 またぞろ旅費の欠片も用意されてない文面は、ただ来いという言葉を装飾的にかつ歪曲に表現したもので、無駄な文字数を連ねた文章には何の意味も含まれてはいない。

 こういうのを書くのも貴族の義務なのだとしたら、放逐になって幸いと思うしかない。

 ただ、あんな魔法で追放されなければ、自発的に出て行けたと言うのが心残りだけど、今更戻れと言われても誰が戻るかと、そんな気分になってしまっている。


 内容の無い文章から意味らしき言葉を連ねると、どうやら弟の事で話があるらしいって事のみだ。

 オレの導きの結果を教えてくれるのなら、行くだけの価値はあるだろうけど、もう馬車の旅はごめんだな。


 「C」の字の先から先に移動するのが馬車であり、直線的に移動出来れば、自転車でも1日で到達出来そうな距離なんだよな。


 今やっているアレが巧くいけば……。


 ◇


 念の為の資金も貯まり……それと言うのも新移動方法の恩恵で、離れた場所のギルドにも通えるようになり、今では初級回復薬を売りに来る、ミステリアスな存在になって……仕方が無いんだよ。


 だって全裸での移動が前提だからさ、奴隷の服みたいな薄い布一枚の被ったら終わりな服……貫頭衣と言うらしいな……を使うようになり、潰したと言っても肉まんだろ。

 すっかり奴隷女と思われるようになり、それでちょっかいを出されたら魔法でいなしてたんだけど、奴隷に見えるのに魔法を使う、訳の分からない女って評価になっちまい、誰も上半身しか見ないからバレてないのを良い事に、そのままの路線でやる事にしたんだ。


 えっ、アレが小さいからバレないんだろうって?


 馬鹿にするなぁぁぁ。


 はぁはぁはぁ……。


 まだ15才なんだから仕方が無いだろ。

 そのうちきっと大きくなる……はずなんだ。

 かつては人並みだったんだし、今の身体も同様に、せめて同様になって……くれるんだろうな、頼むぞ。


 って誰に頼んでいるんだ。


 ◇


 ともかく、いよいよ移動開始となる。


 熟練した恩恵か、かなりスムーズな変化になると共に、変装の技法を磨いた。

 どのみち衣服を毎回着けるのが面倒になったのと、前張りみたいなのは可能になったので、見た目は丸裸だけどふんどしか紐パン風の前張りで隠している状態。

 あくまでも見た目だけだけど、貫頭衣を脱がされて触られない限りは早々にバレない造りになっているはずだ。


 奴隷で似たような格好の奴が居たし。


 そうして顔は変装して男女不明に見せてやれば何とかなると思っていたんだけど、師匠の家にあった古いシーツを流用したせいなのか、すっかりくたびれていて向こうが透けてみえるんだよ。

 だからもしかしたらバレるかもと、最初は思っていたんだけど、みんな胸しか見ないから安心してさ、それならあえて買い換えないほうが良いのかと、ある意味開き直ったのさ。


 もうね、毎回の裸族な移動のせいか、すっかり慣れちまってさ、あんまり羞恥を感じないんだ。

 それでも新しい扉になるのは嫌なので、この感覚に慣れながらも羞恥の気持ちは忘れないように努力している。


 でもさ、身体はまだ15才だろ。

 向こうで言えば中3か高1だよな。


 あの頃って二十歳頃より羞恥とか、少なかったように感じるんだ。

 本屋で座り込んで本が読めたり、路上で寝転がってみたり。

 二十歳の頃では到底やれそうにない事を、何も感じずにやれていたような気がするんだ。


 つまり、今がその状態みたいなものでさ、もう少ししたら恥ずかしくてやれないような事をやれているんじゃないかと思えてさ、この時期にしかやれない事と開き直って、変装してまでこの移動方法をやってみたかったんだ。


 確かに精神は違うけど、身体はまだ子供だ。


 ならその特権とも言えるこの感覚のままに、はっちゃけてみたくなったんだ。


 まあ、本音を言うとな、こんな胸になっちまって、念願の娼館に行き辛くなっちまい、仕方が無いから別の方法での発散として、ストレスの発散みたいな勢いで、消えてくんねーかなって思ってんだ。


 ほら、開発中にムラムラしていただろ。


 アイテムボックス成功記念に性交とか、親父っぽい思考のままに、どの町のどの娼館が当たりなんだろうとか、その雑念が今の状況だ。


 毎日押し込んでも少しずつしか無理だけど、もう少し小さくなれば目立たなくなると思ってさ、そうなったら晴れて念願の娼館に行くつもりで、資金を……はい、そういう訳でした。


 さすがに辺境伯の領都で行く訳にはいかないので、その手前のでかい……拡張カバンを買ったあの町にするか。


 ◇


 この移動方法の一番の利点は、直線で移動出来る事だな。


 馬車だとやたらでかい海みたいな湖を大きく迂回するルートを採るしかないけど、それを突っ切って行けるんだ。

 もちろん、絶壁みたいな山にトンネルでも掘れればそれが一番早いルートになるんだろうけど、この世界の技術では到底成し得ないだろうから仕方が無い。

 それに頂上付近にはドラゴンが棲んでいると言われていて、山に穴とか開けようものなら、きっと襲い掛かって来るよね。


 つまり、領都と師匠の家は、山を挟んだ反対側になっていて、その山裾は湖の中に岬のように飛び出している。

 馬車は湖の沿岸にある宿場町のようなのをつらつらと移動しながら往復していて、領都の更に南方には王都がある。

 ドラゴンの住処を突っ切るルートが一番早いんだけど、どうにも水の無いルートは不安があるので、湖を突っ切ろうと思ったんだ。


 ほら、休憩や野宿で困るでしょ、ドラゴンが居るのに。


 その点、水との同化はかなり調子が良いし、精霊の機嫌っていうのかな、水の近くだとこちらの調子も良くなってくるんだ。

 本当はこの湖にも魔物が棲んでいると言われるんだけど、それでかつてあった湖横断の航路が消滅したらしいんだけど、どういう訳だか見当たらないんだ。


 水と同化したまま深く潜ってみる。


 精霊さんの導きを感じながら。


 おんや、あれってまさか。


 やっぱり骨だ、それもやたら長いな。

 こいつが湖に棲んでいるとされていた魔物の骨なのか。

 これは恐らくサーペントと呼ばれる魔物の骨っぽいけど、何かに襲われた? こんなにでかいのが負けるの? まさかドラゴンに食われたんじゃ? そうだな、ちょっと山に近いし。


 おおい、ドラゴンさん、倒したのなら報告してくれないとって無理か。


 でもこの事実を公表したら、湖の航路の復活になって、うちの領地の景気も良くなりそうだな。


 ◇


 今の気分は何と言えば良いのか。


 宿の不要な身体になったと言うべきか、今オレは山の近くの湖の水と同化しているんだけど、この状態って呼吸とか要らないみたいでさ、本当に水そのものになっているみたいなんだ。


 ああ、このまま朝まで……。


 ちなみに今のこの状態ってさ、水60(+40)になっているんだよ。


 つまり、今なら水の申し子の魔法すら扱えそうな気分になっていて、伝説の慈雨の魔法と言うのかな、あれで湖に降らせてみたんだ。


 あの詠唱は有名だからな、使えないまでも皆の知る魔法なんだ。

 けどあれは自らの意識を高める為の儀式だから、あんな女の文言は言いたくないので心の中で唱えるのみだけどね。

 だって言葉に出したらおかまさんみたいだし、大体水と同化中は言葉も出ないしね。


 《 * * * * * * * * * * * * * * * * * * 》


 ああ、水を打つ刺激が心地良い。


 ◆


 大陸中に降り注いだ雨は、にわか雨のようにすぐに止んでしまったけど、乾きの強い土地の存在には、恵みの雨になったようだった。

 乾季の真っ盛りに降った事から、かつての伝説を思い起こした者もいたという。


 ◆


 確かにありがたいよ。


 だけどさ、水しか入らない構造になっちゃって、その容量が増えても今のところは用途が思い付かないんだ。

 本当にありがたい援助なのは確かなんだけどね。


 目覚めて移動をしようと思ったら、湖の水位がやたらと下がっていたんだ。

 なのでもしやタンクの容量が広がったのかなと思い、その思念を送ってみたら肯定の気配。


 恐らく水の精霊との親密度が、才覚以上になったのが原因だろうけど、もうね、普通の状態でも体内に精霊を感じるんだよ。

 だから水化もスムーズにやれるし、その状態の時なら水の申し子の魔法も扱えたんだけど、好意からだろうけど、水のタンク容量が何倍にもなった感覚がするんだ。

 だからこんなでかい……琵琶湖の半分ぐらいの湖の水位が

 思いっきり下がったんだろう。


 うわ、ヤバいな。


 折角、消えかけていた湖の魔物の噂がまた広がってしまうぞ。

 湖の一番深い場所にあった、蛇の化け物のような骨を見つけて、そいつが噂の魔物ならもう死んだと告げてやろうと思ったのに、こんな現象の説明で一番簡単なのが、湖の魔物が呑んだという荒唐無稽な話だ。

 元々迷信深い連中だからこんな嘘臭い噂も信じそうなんだけど、信じたら航路が復活にならないよ。

 本当は真実を公表したいけど、それこそが荒唐無稽な才覚改造の話だ。

 ある意味禁忌ともされる才覚の改造とか、表に出せる話じゃない。


 到底誤魔化せないとなれば、黙っているしかないよね。


 うちの領地と湖を隔てて反対側の街との交流が出来れば、悪い噂のある領地も少しはましになるかも知れないのに。

 さすがに縁の切れた実家だとしても、消えて無くなるのは寂しいものなのさ。


確かにうちの家の騒ぎは寄り親の知るところとなってしまって前途真っ暗だけど、そこに住んでいる人達にはある意味、何の関係も無い訳だし、繁栄して欲しいと思うのは、貴族であった頃の名残りなのかな。


 それはそうと、川から水が崖を滑り落ちるようにザーザーと流れ込んでいるな。

 それと共に湿地帯になっていた場所からも水が流れ込んでいく。


 今がチャンスだぞ。


 あの湿地帯の水が引いた今ならば、干拓の苦労もしなくて済むので、土さえ埋めていって堤防を作れば、農地にするのもそう難しくもないだろうけど、そんな智恵この異世界で出て来るかな。

 口頭じゃ恐らく無理だから、水化の状態で近隣の領主の執務室にお邪魔して、メモの状態で残しておいてやるか。

 そうすれば自分で書いて忘れていたと思ってくれれば、素直に活用してくれるかも知れないし。

 そのぐらいの事でもしないと、やっちまった感が半端無いんでな。


 そうか、水の精霊だからか。


 確かに精霊からすれば別空間とは言うものの、大量の水があれば嬉しいのかも知れない。

 それに、大量に貯めておけば必要な時に在庫から使えるからと、少々使い過ぎても無くならないと思っての事なら何も言えないか。

 それでも内容量の把握の無いままに、より大量の水の在庫となると、万が一にでもオレが死んだら大惨事になるだろうな。


 死ぬなら砂漠でとか、言われそうな気がするぞ。

 

世界のミニ知識


慈雨の魔法とは、世界の水系精霊の全てに対する、お願いのような精霊魔法に属する。

これが発動されれば全ての水系精霊にお願いの内容が伝播されていき、世界中に雨が降ると言われている。

水の才覚が高い者のみしか行使出来ないとされていて、現在では水100の才覚の者しか行使出来ないとされているが、そこに精霊の協力があればそれ以下の発動も可能なのだが、それは知られていない。

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