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師匠の果たせぬ夢に挑戦

 

 ようやく旅が終わったのだと実感が湧いてくる。


 いきなりの馬車での往復2ヶ月の旅は、慌しい気持ちも次第に薄れていき、だんだんとのんびりした気分となり、次の町に辿り着いた頃には、ああ、旅なんだなと実感が少しずつ湧いていたのを覚えている。

 それに比べると、前世のアレは旅なんてもんじゃないな。


 移動だよ、移動。


 それも急ぎ足でせかせかと、あれを旅と言ってしまうと今回のあれが、まるで違うモノに思えてしまうじゃないか。

 実質的にはこちらのほうが移動なのに、あたかも逆であるかのように思えてしまう。


 最初は不便と思ったものだが、こういう心のゆとりはこういう移動方法を活用してないと得られないものなのかも知れないな。

 つまり生活のテンポを下げないと本当にリラックスが出来ないって事になると、ストレス社会と言われていたあちらの生活の辛さが分かってくるような気がする。


 休んでも生活のテンポがそのままだから疲れが本当に消えなかったのだとしたら、皆はなんて無駄な事をしていたのだろう。

 道理で旅から戻ったら、ああ疲れたとか思うはずだ。


 オレの今回の旅にそんな感想は出ない。


 確かに色々な事がありはしたが、それを辛いと思った事はなく、全てを新鮮な体験として楽しめたと思う。

 あれを何度も繰り返すのはさすがに嫌だけど、たまにするああいう旅は気分転換って意味でも有意義だったと思っている。


 あれで本当に、ようやく、平民になったのだと実感出来たからだ。


 元の記憶もあるが、今までは放逐された元貴族の意識も確かにありはした。

 前世が主体になってしまったのは、もしかしたらこちらの存在の意識が混ざったのではなく、あの攻撃魔法の衝撃で気絶したのかも知れないと今では思うようになってきた。

 だから無意識状態の身体に前世のオレの人格が顕現して、そのまま主体になったのではなかろうか。


 それが本当の意味で混ざったのは、あの旅の日々ではなかったろうか。

 貴族の館で生活しているうちは知らなかった、あちこちの風景や人の営み。


 時には共に笑い、時には共に泣く。


 そういう周囲の人々を見るうちに、自分も同じになったのだと元の意識が感じたのか、次第にオレの感性と波長が合っていって、そうして合わさったのではないか。

 だから今はかつての生活も実感が感じられるし、今の生活も実感がある。


 旅に出るまではどこか夢の中の記憶のようなものであった貴族の館での生活が、今では本当にあった過去の出来事として思い出せるのだ。


 色々無駄だと思っていたけど、旅に出て良かったな。


 ◇


 師匠には成し得ない夢がある。


 それは全属性解明の夢。


 すなわち全ての才覚を1以上に上げて、それで行う新たな属性の開発。

 既にその推測はあれど、実践の叶わぬ師匠に代わり、オレがその夢を継ぐ。


「全属性5にしてほんに良いのじゃな」


 もちろんさ、オレは空間魔法に憧れてんだ。

 その為なら自らの才覚、好きに使うさ。


 師匠は自分の才覚に欠損があるらしく、どうしても取得出来ない属性があるんだとか。


 それは光。


 それさえクリアすれば全属性8まで可能だったらしい。


 才覚は0からの上昇は可能だけど、既にある数値の加算は出来ない。

 そのタブーに挑戦した結果、光の属性を失った。

 これは最初の数値のみが適用されるので、元々0だった才覚を1にしたうえでの追加は構わないみたいだ。

 オレは闇の才覚が0だったので、生活魔法の為に1にしてあり、それの追加は問題無いと師匠に言われている。


 つまり初期値が問題なのだそうだ。


 属性消失の名残りを見せてもらったけど、光の横には(-)が付いていた。

 これは禁忌の烙印と呼ばれるものらしく、禁忌を犯した者に対する神の罰だと言われているとか。


 それが発覚して中央を追われ、辺境に流されてここを終の住処のつもりで独自の研究に明け暮れていたんだとか。

 そんなところにオレが舞い込み、自らの才覚情報を好きなだけ閲覧する方法を見つけ出し、更には己の構想すら実現した存在に、今までの全ての構想の結論を委ねようと思ってくれたらしい。


 光栄だね。


 《ステータス・オープン》


 火5・土5・風5・水65・光10・闇5・生活(水5)魔力995


 光がまた下がったけど、これは仕方の無い事だ。

 とりあえず10あればギリギリだけど、中級魔法の可能性はゼロじゃない。


 1     生活魔法の才覚

 2~9   初級魔法の才覚

 10~29 中級魔法の才覚

 30~59 上級魔法の才覚

 60~99 最上級魔法の才覚

 100   ○○属性の申し子


 水も減ったけど、これは生活魔法に貸しているようなものなので、必要で返却される代物だ。

 それでも65あれば最上級の可能性もゼロじゃないが、魔力はまだ1000を越さないのか。

 それじゃあ最上級は発動出来ないな。


「魔力が少し少ないが、試してみるかの」


 特殊も特殊な禁忌に近い魔法か、楽しみだよ。


 師匠の導きのままに魔力を操作して、才覚の属性に応じた魔力に分離して制御する。

 これはあれだ、あたかも虹を操るイメージと言うか、様々な色の光ファイバーを束ねる感覚と言うか、全ての属性から才覚5に相応しい魔力をそれぞれに発生させて縄のように練り上がる。


「おお、そのまま、そのままじゃ」


 虹色の縄は次第にひとつの色に染まっていくかと思われたが、実はそうではない?


 マーブル模様?


 ああ、あくまでも混ざらずにひとつの色として感じるだけなのか。

 いわば光の3元素の如く、空間魔法は6元素、それが合わさって……。


 ミクロの視界をマクロに転化。


 見えた……。


 これが……。


 生命の樹……。


 あれ、どういう意味?


 あれ、周囲がぼやけ……て……。


 ◇


「大丈夫かの」


 魔力切れらしい。


 魔力0で気絶したオレに対し、師匠が魔力回復薬を口に含ませてくれたのか。

 どうやら無意識に飲んだらしく、大抵の人間は魔力の枯渇を空腹と同様に感じるのか、飲ませようとしたら大抵無意識に飲むものなのだそうだ。


 以前にも思ったけど、こちらの存在と前世の存在は、もしかしたら違う存在なんじゃないのかな。

 そうしてあちらの世界から来た人間はこちらの世界の存在に変化、するのかさせられるのかは知らないが、そうして同じになるのだとしたら、どらちが先かって気になってくる。


 どちらが元祖かと言われると、人の族であるほうが人のたぐいより大本に近いような気がしてくる。

 つまり、元々人の族だった者が地球にやって来て、魔力を扱えない人のたぐいになったと。

 だから人のたぐいがこの世界に来ると、原点回帰の如くに元の種族に変化してしまうとか。


 まあ、妄想だけどね。


 よし、魔力も安定してきたし、そろそろ動けるかな。


 《ステータス・オープン》


 火5・土5・風5・水60・光10・闇5・空5・生活(水5)・魔力995


 よしよしよし。


「いけたかの」


「空5」


「おおおお、そうか、そうか」


 あれ、でもアイテムボックスを構成させるには熟練度が全然っぽい。


「なればひたすら修練じゃの」


 はぁぁ、チート主人公みたいにはいかないか。


 それにしても、全ての才覚から借りるような感覚、つまりは生活魔法と同じく、必要な時に全ての属性から力を得るって感じなのか。

 となると、これは、全てを使うと生活魔法に支障が出る、か。


 実質、全属性は4までしか行使出来ないんだな。


 つまり申し子みたいな存在なら、全てに均等に振り分ければ、全属性16までは理論的に可能なのか。


 そうして空間魔法の拡大に使うなら、才覚1を除いた15が実効値になると。


 それぐらいあればアイテムボックスも相当の高性能になりそうだけど、全属性4で何処までの性能が可能なのか、将来は楽しみだけど、チョイとショボそうなのがイマイチだな。


 まあ、無いよりマシだ。

 

世界ミニ知識


人族の身体には魔力臓器があり、人類の身体にはそれが退化した虫垂がある、と言うのがこの世界群の共通意識になっています。

ただ、退化したはずの魔力臓器は、魔力に晒されると元に戻ろうとする為、次第に魔力に身体が慣らされていって元の身体とは異なってしまうようです。

ちなみにDNAは同一なので子孫は残せます。

ただ、獣の遺伝子を多く含む世界の種は、そうじゃないようですが。

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