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チートスKILL ~中途半端な転生者~  作者: 奥 悠人
2章 ゴブリンプレイヤー
9/48

パパは錬金術師

 俺たち兄弟は家にたどり着くと、それぞれ自分たちの部屋に戻った。

 部屋に戻った俺は、まず部屋の隅のほうへと足を運ぶ。その場所にはポツンと木箱が置いてあり、箱の中にはタオルが敷き詰められてあって、スライムたちの寝床になっていた。部屋にいるはずのスライムたちが見当たらないので、おそらくはそこにいるはずだ。

 スライムたちを置いて出かける必要があったから、ちょっと心配だった俺。でも取り越し苦労だったみたいだ。部屋に用意してあった食事はすっかりなくなっており、スライムたちは箱の中でぐっすりと眠っていたからである。


「とりあえず、ひと安心っと」


 俺も疲れていたので、着の身着のまま、ゴロンとベッドの上に寝転んだ。そしてそのままウトウトしていると、慌ただしいウィンドウの声に眠りを妨げられた。


「ねぇ、ちょっと寝るのは待ってよ! ステータス画面を見て!」


 うるさいなぁ……。せっかく人が、いい気持ちで眠ろうとしていたのに。


「ふあぁぁ……、いったいどうしたのさ……」


 俺はあくびをしながら、面倒くさそうに目を開けた。


「いいから、ステータスのカミポのところを見てよ!」


 ウィンドウはそう言うと、ステータス画面を指差した。

 俺は眠いのを我慢して仕方なく上半身を起こすと、座ったままの姿勢で背伸びする。


「んーーっ!」


 すると少しずつ頭が回り始めたので、ウィンドウに尋ねた。


「ところで、カミポってなんのことなの?」


「もちろんカミポイントの略よ。なかなか呼びやすいと思わない?」


「……そ、そうだね」


 そうは言ったものの、響きがどこか生々しく感じるので、なんか嫌だ……。でも気分を害されると困るので、とやかく言うのはやめておこう。

 ところでカミポイントというと、カミゾンとメルカミというサイトで使えるポイントのことだったかな? 確か以前にウィンドウが、そんな説明をしてくれた覚えがある。

 俺は説明を思い出しながら、目の前にあるステータス画面を確認した。


「えっ!?」


 カミポイントのところに3,000の表示。

 眠くて朦朧もうろうとしていた頭が、急にえる。


「なんで!? いつの間にか貯まってる!」


「驚いたでしょ? だから急いで知らせたのよ。でもこれでショッピングサイトを利用できるんじゃないかな?」


 そういえば、この前は0ポイントだったから、買う以前に商品も売ってなかったっけ。

 俺は前にウィンドウから聞いた話を、完全に思い出す。

 カミポイントの入手方法は、今のところまだ不明。ポイントを持っていない状態でサイトを見ると、商品は表示されないが、持っていればそのポイントに応じた、今必要としているものが表示されるとの話だった。


「3,000ポイントもあるなら、何か売ってないかな? 今すぐ確認してみようよ」


「おっけー!」


 ウィンドウのご機嫌な返事で、目の前にあったステータス画面が消える。代わりにカミゾンサイトのトップページが表示された。

 前回は何も商品が並んでいなかったので、否応いやおうなしに期待が膨らむ。


「それじゃ、ログインしたあとに商品のページに移動するね」


「わかった。お願いするよ」


 俺は返事をすると、手を合わせてまぶたを閉じ、役に立つものが売ってあることを願った。でも、すぐに脳裏に疑問が浮かぶ。

 よく考えると、俺は現状で何かを必要としているのだろうか? 一生この姿のままで暮らす必要があるなら、今のところ、どんなものでも邪魔でしかない気がする。兄さんたちは優しいし、料理もうまいから、のんびりと暮らせるならそれも悪くないと思う。でもそれじゃ暇だろうから、ここでの生活や体験を本にするのもいいかもしれない。


 本のタイトルは……そうだ! 『の○のんゴブリン』にしよう!


 ヤバい、こいつはとんでもないヒット作になりそうだ。

 おっと話がそれたが、そんなふうに思っている俺に、いったい何を売ってくれるというんだ?

 俺は見極めなければならない。俺のゴブリンとしての生活を、邪魔するようなものでないのかを。


――よし、見るか!


 俺は緊張しながら、ゆっくりとまぶたを開けようとした。

 そのとき、悲劇は起こる。


「やったね! 『人間になる薬』って商品が売ってあるよ!」


 ウィンドウの唐突なネタばれ発言。


「ギャー!! 見る前にばらされたー!」


 当然、俺は憤慨した。

 ネタバレよくない!


「なによ、あなたが目を閉じているのが悪いんじゃない!」


「ぐぬぬぬぬ……」


 ここは怒りを抑えよう。それよりも今は、ほかに考えるべきことがある。


「ひゃっほー! やっぱり人間は最高だぜ!」


 考えるまでもなかった。もしその薬が商品名どおりの効果なら、ゴブリンなんかやめて人間になるに決まっている!

 

 その喜びようを見たウィンドウが、ちくりとひと言。


「ねえ、あなたってお調子者って言われない?」


「だって、仕方ないよ。嬉しいんだから」


「まあ、わからなくはないけどさ。それより、ちゃんと画面を見て商品を確認したら?」


「そういえば、そうだった。嬉しくて忘れてたよ」


 ウィンドウに指摘され、俺は目の前に表示されている画面をじっと眺める。そこには『人間になる薬』が、1本あたり1,000ポイントと表示されていた。


「売っているのはこれだけみたいだね。でも聞いてたとおりだ。ちゃんと持ってるポイントで買えるし、必要としていた商品なわけだから」


「感心するのはいいけど、きちんと商品説明も読んでおいてよ。買ってから間違ってましたじゃ、済まされないんだから」


「はいはい、わかってるって」


 子供じゃあるまいし、そんな間抜けじゃありませんよーだ。


 さて問題の薬の効能はというと、どんな種族でも短時間で人間になれて、効果は一生続くと商品説明に記載されている。目に優しくない小さな注意書きもないし、どうやら商品名に偽りはなさそうだ。


「よっしゃ、よっしゃ、よっしゃー!」


 俺は嬉しさのあまり、ベッドの上でドタバタと飛び跳ねる。

 ギシギシと悲鳴を上げるベッド。

 その音をアレと勘違いして、劣等感を抱いた隣の住人がクレームに来たかのように、突然部屋の扉がノックされた。


 ドンドンドン!


「もう、今いいところなんだから、あとにしてよ!」


 と、ノックに答えたが、激しくデジャヴを感じる。

 はて、いつどこでだったかな?


「サブロー、ベッドの上で何をそんなに、はしゃいでいるんだ。また寝ぼけているのか?」


 いつの間にか部屋の扉が開いていて、俺の父親であるゴブリンが顔をのぞかせていた。

 またしても母さんと勘違いしてしまったみたいだ……。仕方ない、ここは気持ちを切り替えよう。


「ごめんなさい、父さん。ウトウトしていたら冒険者に襲われる夢を見ていたんだ。それで、どうも寝ぼけながら戦っていたみたい……」


 われながらナイスリカバーだ。これ以上の言い訳は、ほかにないだろう。


「先日は大変だったからな。それより話があるので、私の書斎まで一緒に来なさい」


 いったいなんの話だろう? もしかして、今日手に入れたペンダントの件かな?

 まあ、なんにせよ、ここは素直に従おう。


「わかりました」


 俺は父親のあとに続き、書斎へと向かった。


 案内された部屋に入ると、俺はその異様な光景に驚く。部屋には大量の本が所狭ところせましと積まれており、棚にはガラスの器具類や薬品類が並べられていて、まるで実験室のような雰囲気だったからだ。

 さらに奥へ進むと机と椅子があり、俺は父親が椅子に腰かけるのを待って話しかけた。


「それで、話とはなんでしょうか?」


 父親は俺の問いに、腕を組んで難しそうな顔をする。それから少し考えるような素振そぶりを見せたあと、やっと口を開いた。


「最初に言っておく。少し変わった質問をするが、気に障ったら許してくれ」


「わかりました」


 気に障る質問というと、ペンダントの件ではなさそうだ。だとしたら、なんの質問だろう?

 そう思って頭を巡らせようとしたが、する間もなく、すぐにその内容は判明する。だがそれは、父親が息子に聞くような質問とは、到底考えられないものだった。


「それではサブロー、最初の質問だ。私の名前をフルネームで言ってみなさい」


 この質問を聞いて俺はすぐに悟った。俺が本物のサブローでないと疑われていることに。


『ウィンドウ、頼む。目の前にいる人物のステータスを表示してくれ』


「了解!」


―――――――――――――――――――

名前:エガモンド・エロネック

LV:13

種族:ゴブリン(子爵)

職業:錬金術師

称号:ロストサン・アルケミスト

―――――――――――――――――――


「……エガモンド・エロネックです」


 間髪いれずに答えることはできなかった。でも、それは問題にならないはずだ。仮に質問に答えたのが本物のサブローだったとしても、質問の意図を測りかね、答えたのが遅れたはずである。


「ふむ……、正解だ」


「しかし父さん、なぜそんな質問をするのですか?」


「……今は答えられない」


 エガモンドは険しい表情で答えた。


「そうですか、わかりました」


「では次の質問だ。今の私につけられた、二つ名を言ってみなさい」


 確かイチロー兄さんが王様の質問に、『太陽の錬金術師(サン・アルケミスト)』と答えていたな。

 ――あれ? でもステータスに書かれているのとは少し違うぞ。どういうことだ?


 いや、待てよ……そういえば、「太陽のような輝きは失われ、今では不名誉な二つ名をつけられている」とも言っていたな。


――あっ、わかった!


「『ロストサン・アルケミスト』ですね」


 直訳すると「失われた太陽の錬金術師」になる。太陽の輝きが失われた意味とも似かよっているから、エガモンドのステータスに書かれているほうが正しいはずだ。


「……それも正解だ」


 ふぅー、危なかった。

 ただエガモンドの顔が、ますます険しくなる。俺が答えられるとは思っていなかったからだろう。

 でも、これ以上質問されるのは、正直いろいろとまずい。絶対にボロが出てしまう。だから、なんとかして切り抜けないと。


「まだ質問は続きますか? こんな質問ばかりでしたら、部屋に戻ってゆっくり休みたいのですが……」


「もう少しだけ待ちなさい。これから大事なものを見せる。それを見て質問に答えたなら、部屋に戻ってもいいだろう」


「わかりました。約束ですからね」


「ああ」


 エガモンドはうなずくと席を立つ。そして俺との間に隔てるものがないように、わざわざ机の周りを回って俺の正面までやって来た。


――なんて気合の入った顔なんだ……


 覚悟を決めたような顔をするエガモンドを見て、俺はそう思った。

 何を見せてくれるかはわからないが、この表情はただごとじゃない。もしかしたらさっき言ったことはウソで、俺を捕まえてから尋問する気ではないのか?


「それではサブロー、準備はいいか?」


 俺はエガモンドの言葉を聞いて、彼の一挙一動に、一瞬も目を離さないように集中する。もし俺を捕まえるような素振りをみせたなら、それを回避して全力で逃げる必要があるからだ。


――よし、準備万端!


「はい、いつでもどうぞ」


「ではいくぞ、よく見ていなさい」


 エガモンドはそう言うと、自分の腰に手をやってズボンのベルトの部分をつかむ。そして何を思ったのか、下着もろとも自分のズボンを膝まで一気にずり下げた。


「いきなりモロ出し!!!」


 それを見て、俺は固まってしまう。


 いったい何が起こっているんだ……。もしかして、これは夢なのか?


「ほれ、ほれ、ちゃんと下のほうを見んか」


 エガモンドは局部を見せつけるように、ブルンブルンとヘリコプターのように回し始めた。

 さすがの俺も、ここまでされたら正気に戻って視線を逸らす。


「父さん、いったい何をしているんですか!」


 ホント、何がしたいんだよ。いきなりのことだったので、アソコをモロに見てしまったじゃないか、オエー!

 ちなみにウィンドウも俺と同じく、モロに見てしまったらしい。真っ白な姿になって放心しているので、SAN(サン)値をガッツリと削られたようだ。


……あれっ、SAN(サン)値だって?


 もしかして、俺は勘違いをしていないか?

 『ロストサン』という二つ名の中にある、サンという文字。俺はてっきり、太陽のSUN(サン)と思っていたけれど、本当は正気度を意味するSAN(サン)値を意味しているのでは?

 もしそうだとすると、LOST(ロスト)を組み合わせて「正気が失われている」って意味になるんじゃ……


――そうか、そういうことだったのか!


 『ロストサン・アルケミスト』の本当の意味は『狂気の錬金術師』。

 エガモンドは狂っているんだ!


「どうした、しっかり父さんのほうを見ないか。なんなら胸を貸すぞ」


 そう言うと、エガモンドは四股を踏み始めた。

 俺は横を向いて、手で視界をさえぎる。


「無理です! その立派なモノをしまってくれないと、見ることはできません!」


 やはりこの男、狂っている。

 そう思ったとき、この悪夢のような時間は唐突に終わりを告げる。


「その言葉を待っていた。勝負あり、決まり手は『モロ出し』だ」


――ナニの――いや、なんの勝負だよ!


 布のスルスルという擦れる音と、ベルトをはめるカチャカチャという音がした。

 どうやらエガモンドがズボンを履いているらしい。


「もう大丈夫だ、こっちを見なさい」


 そう言われて、まんまと信用する俺ではない。さっきの音はズボンを履いたふりかもしれないし。

 俺は念のため、指の隙間からエガモンドの格好をうかがう。


――ズボンよし! チャックよし! なら、すべてヨシ!


 どうやらわなではないようだ。

 安心した俺は手を下ろし、エガモンドの目を正面から見据えた。


「それで父さん、説明してくれるんでしょうね……」


「もちろんだ。しかし、その前に最後の質問だ。先ほど君に答えてもらった、私につけられた不名誉な二つ名『ロストサン・アルケミスト』だが、その『ロストサン』が、どんな意味なのかを答えてくれないか?」


 なんだ、簡単な質問じゃないか。さっきの行動を見ていなかったら、ちょっとヤバかったけど。


「狂気ですね」


「狂気か……。言い得て妙だが、まったく意味が違う。不正解だ」


 ――えっ、違うの!?


 しまった、深読みしすぎたか。マズい、言い直さないと正体がバレてしまう。


「ちょっと待ってくださいよ、違いますって! 『狂気ですね』っていうのは、さっきの父さんの行動に対しての感想ですから。『太陽の輝きが失われた』わけだから、『落ちぶれた』とか、そんな感じの意味でしょ、正解は」


 ギリギリセーフ!


 これでタッチ差アウトの判定なら、ビデオ判定を要求するぞ。ビデオといえば、モザイクなしでアソコを見せたエガモンドのほうが、よっぽどアウトなんだし。


 さて、判定はどうだ?


「残念ながら、それもまったく違う」


「なんだってー!」


 当然俺は驚いた。

 あり得ない、タッチ差以前に三振していたなんて……。でも、どうしてだ?


「君は間違っても言ってはいけなかった。私に立派なモノをしまってくれとはね。そこが勝負の分かれ目だ」


「まさか……」


 俺は気づいてしまった。エガモンドがズボンを脱いだ本当の意味に。


――くそっ、ハメられた……


 むろん、そっちの意味のハメられたじゃなくてわなのほうだ。そんなことよりも、まさか『サン』の意味がまるっきり見当違いだったなんて……

 俺は覚悟を決め、エガモンドの言葉を待った。


「どうやら理解したようだね。察しのとおり、『サン』とは息子を意味するSONサンのことだ。すなわち『ロストサン』とは、息子を失うことを意味する。ちなみにこの場合の息子とは、股間のモノのことだがね」


 やはりそうだったか。こんな質問、正解できるわけがない。


「……意味はわかりました。だとしたら、少し前まではアソコを失っていたということでしょうか?」


「そのとおりだ。もちろんサブローには説明してあった」


 これは詰んだな……。

 どうやって失ったモノが帰ってきたかはわからないが、どう考えても逆転満塁ホームランを打つ方法が思い浮かばない。

 俺は死を覚悟した。偽りの息子を演じていたのだから当然だ。

 それなのに、エガモンドは俺に優しく話しかけてきた。


「そんなに思いつめた顔をせずともよい。それに少し、昔話をしたいからな」


「とても聞く気分ではないのですが……」


「まあ、いいから聞きなさい」


「……わかりました」


「今から九年ほど前、私と妻のイナリィがとりでから少し離れた場所まで、錬金術の材料を探すために足を延ばしたときのことだ」


 エガモンドは話し始めると、席に戻ってイスに座り直す。そしてどこか寂しそうな遠い目をして、続きを語り出した。


「二人で別れて材料を探していると、遠くでイナリィの悲鳴が聞こえた。私は急いで彼女の元まで走った。するとそこには、血だらけのゴブリンが倒れていたんだ。その者は私たちの集落の者ではないうえに、十歳にも満たないような子供だった」


「血だらけって、いったい何があったんですか?」


「そこまではわからなかった。見つけた場所は川のほとりだったが、子供の体に川に流されたような形跡はなく、その場所で争った跡すらなかったからね。だが、その子の意識はすでになく、事切れる寸前だったので、助けるのは絶望的なことだけはわかったよ」


「でも、助けたんですよね。話の流れからすると、そんな気がしますから」


「ああ、そのとおりだ。イナリィはジローを産んだあと、もう子供を産めない体になっていてね、その子を三人目の子供として育てたいと懇願されたのさ」


 もしかして、その子供がサブローなのか? 仮にそうだとすると、エガモンドや兄さんたちと血の繋がりはないことになる。


「でも、どうやって助けたんですか? 話を聞く限り、死ぬ寸前だったように思えますが」


「結果を先に言うと、その子供は死んでしまったよ」


「えっ!?」


 サブローの話じゃないのか? いや、そんなはずない。そうでなければ、なぜその話を俺にする。


「どうやら驚いているようだな。その子は確かに死んだよ。肉体を残して魂がね」


「そんなことがあるんですか?」


「ああ、体の傷は完治できたとしても、魂が死ぬことはまれにある。そこで錬金術の出番だ。私がかつて太陽の錬金術師と呼ばれていたのには、わけがある。太陽とは死からの再生を意味し、その技を私だけが使えたからだ」


「もしかして、死んだ魂を呼び戻した……」


「少し違うな。いくら私でも、そんなことはできない。死んだ魂は、すぐに別の世界に旅立つと言われているからだ」


「ではどうやって?」


「新たな魂の創造だ。幸いにも材料は揃っていた。手元には、以前マジカルボックスで手に入れた賢者の石があり、残りは私の体液が一滴あればよかったからだ。それまで二回行なって両方とも成功したので、自信はあった。しかし、私は見誤った。理由は今でもわからないが、その子の体に合った魂を創るには、賢者の石一つでは足りなかったんだ」


「まさか、その足りない部分を埋めたというのは……」


「理解したようだな。そうだ、私の分身ともいえる『大事なモノ』が身代わりとなった。等価でも、物々(ぶつぶつ)でもないことから、私はこれを『一物いちもつ交換』と呼んでいる」


――呼ぶなー!


「こうして私は新たな息子を得るために、自分の息子を支払うことになった。『天は二物を与えず』とは、よく言ったものだ」


――意味が違うだろー!


「そのこともあって私は自分に自信を持てなくなってしまい、簡単な錬金術でさえ失敗するようになってしまった。すると周りから、前の二つ名になぞらえた新たな二つ名をつけられてしまう。それが『竿なしの錬金術師ロストサン・アルケミスト』というわけだ。そのことに責任を感じたイナリィは、私の支払った代償に変わる何かを見つける旅に出てしまった。それが、もう五年前のことだ。その後、なんの連絡もないので、おそらくはもうこの世には……」


「……」


「そして昨日だ。君が偵察に出てからしばらくあとに、私はトイレで股間の違和感に気づいた。なんと、ないはずのモノがあるではないか! 私は最初、サブローが何かの理由で死んでしまったと考え、嘆いたよ。魂を作ったときの代償が私の元に戻ってきたということは、そういうことだと思ったからだ。ところがだ、君は生きて偵察から帰ってきたではないか。そこで君の中身は、かつてのサブローとは別人でないかと疑い始めたんだ」


「……いつの時点で、その確証を得たんですか?」


「君が宴会でグロゲロスの料理を食べたときだ。あれはサブローの嫌いな料理だったのさ」


「ハハハ……、あのときか」


 そういえば料理を勧めといて、いざ俺が料理を口にすると、隣で茫然ぼうぜんとした顔で眺めていたからな……。

 

 さて、もう言い逃れするのは無理だな。こうなったら腹をくくろう。


「降参です、すべてあなたの言ったとおりです」


「やはりな」


「父さん――いや、エガモンド子爵ししゃくでしたね」


「堅苦しいのは嫌いだ。エガモンドと呼んでくれていい。それで、君はいったい何者なんだ?」


「まずは、あなたの息子と偽っていたことをおびします」


「ほほう、正体がバレてしまっても紳士的な態度でいられるとはね。ひとまず安心したよ」


「それはよかったです。さて、私の正体の話でしたね――」


 と、自分の正体を明かそうとしたところで、ポケットがうっすらと熱を帯びた。その途端、ポケットが爆光LEDライトのような明るさで光り出す。


「いったいどうした、何が起こっている!?」


 目を細めたエガモンドは俺のほうを見る。

 俺はポケットに手を入れて中身を取り出すと、机の上に置いた。


「この宝石が原因みたいです。これ、さっきマジカルボックスで引き当てて、黒かったはずなんですが……」


「光を放つ宝石なんて聞いたことがないぞ。とりあえず、その辺りに置いてある箱を被せてくれ。このままでは目がつぶれてしまう」


 俺は手近な箱を手に取ると、宝石に覆い被せる。すると、箱の隙間から光は漏れ出るが、なんとか耐えられる明るさになった。

 それを見て俺たち二人はホッとため息をつく。


 それからしばらくの間、ひと言も話すことなく箱を二人で観察していたが、不意にエガモンドが口を開いた。


「それで王は、この宝石について何か言っていたか?」


「見たことのない宝石だと。それとエガモンドさんに見てもらえば、やる気を取り戻すのではないかと言っていました」


「またお節介なことを。まあよい。それよりも、だんだんと光が落ち着いてきたな。箱を開けてみてくれ」


「わかりました」


 俺は返事をし、ゆっくりと箱を持ち上げる。

 そこには黒い宝石の姿はなく、代わりに透き通るような透明な宝石が残されていた。光も完全に消え、どこからどう見ても普通のおしゃれなペンダントにしか見えない。


「黒い宝石と言っていなかったか?」


「確かに黒かったはずですが……、あっ!」


 突如、宝石の中心からレーザーのような光が空中に放たれる。そして、そこに文字が表示された。



―――――――――――――――――――――――

エネルギー量が完全に回復しましたので、当システムは再起動しました。


起動直後につき、映像投影モードを使用します。

初期設定を開始。


貯蔵エネルギー枯渇後に規定日数が経過しましたので、前マスターの資格を失効します。


新たなマスターの設定を行います。

エネルギー補充者をマスターとして認定。


マスター登録……完了


EROS―Gとの通信接続……失敗


現在位置、ロスト中。

位置計算後に再接続します。

―――――――――――――――――――――――



 なんだ、この内容は……。まったく意味がわからないぞ。

 そこで俺は何か知っていないかと思い、隣のエガモンドを見る。

 エガモンドは最初、目を見開いたまま微動だにしなかった。しかし、やがてゆっくりと口を開いて、つぶやきだした。


「これはまさか……、ゴブリン皇帝がいつも身に付けていたと伝えられている宝石では? 名前は確か……そう、『ゴブリンスター』」


 その話を聞いた俺は、また厄介事に巻き込まれる予感がしたのだった。

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