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チートスKILL ~中途半端な転生者~  作者: 奥 悠人
4章 冒険しても いいかも?
42/48

依頼、再開、あれ以来

「くそっ! やってくれたな! せっかく大儲おおもうけできるはずだったのに、おまえのせいで全部パーだ」


 組長は悔しそうにぼやくと、頭を抱えた。


 原因は俺の冒険者ランクがMランクという、前代未聞の測定結果になったからだ。

 そのため賭けは無効になり、投票券はすべて払い戻しに。


 もちろん俺が悪いわけじゃない。

 だから、すぐさま釈明する。


「いやいやいや、それを私のせいにされても困ります。そもそも、人をダシにするような賭けをすること自体が間違っているんですよ」


 この答えに組長はムッとしたのか、顔を上げた。


「いいや違う。おまえが、なりそこないだから悪いんだ!」


「えっ? なりそこない?」


 俺は聞きなれない言葉に、思わず聞き返した。


 すると組長はあきれた顔をする。


「わからねーかな? おまえが中途半端な転生者だってことが」


 あー、そういう意味か。

 ひどいなぁ、まったく。


 あれっ? でもよく考えると、そう思われたほうが俺にとってラッキーなのでは?


 もともと冒険者なんてやりたくなかった。

 それがなんやかんやあって、冒険者になることになってしまったわけで……。


 だけど状況は変わった。

 約束を取り消すなら、今しかない!


「それなら組長、俺が冒険者になる件はなかったことにしませんか? こんなしょうもないランクの冒険者なんて、必要ないでしょ?」


 俺は思い切って自分の考えを言ってみた。


 だって冒険者になる約束をしたのはいいけれど、さすがにこんな結果は想定外だ。

 おそらくMランクはFランクよりも七つ下のランクであることを意味している。

 ということは、要するに冒険者には不向きということだ。


 今なら組長もダメとは言わないだろう。


「ダメだ! 賭けは中止になったが、人件費や経費やらがかかっているんだぞ。なのに助成金の二割まで入ってこなかったら、こっちは大損じゃねーか!」


 ダメでした。


 やっぱり、そんなにうまくはいかないか。


 俺は小さくため息をつきながら肩を落とした。

 

「まあ諦めるんだな。さて、一応これで冒険者登録の手続きは終わったわけだが、何か質問はあるか?」


 組長の問いかけに、俺は少し考える。


「そういえば組長、自分の能力値を知るにはどうすればいいんですか?」


「そいつは冒険者手帳を見りゃわかるよ。所有者設定は終わっているから、いま渡そう」


 組長はそう言うと、冒険者手帳と端末を結ぶケーブルを引抜き、冒険者手帳を手に取った。


「コイツは身分証明書にもなるし、能力値も確認できる個人情報の塊だ。なくすんじゃないぞ」


「はい、こういうものの扱いには慣れていますが、気をつけます」


「それでいい。ほらよ、受け取れ」


 冒険者手帳は組長の手を離れ、ゆっくりと宙に放物線を描く。

 俺はそれを難なく片手でキャッチ――とはいかず、つかみ損ねた。

 

「おわっ」


 お手玉をするかのように、手帳が手のひらの上で踊る。

 そしてついには、手のひらからこぼれて地面に落ちそうになったが、その寸前にギリギリでつかんだ。


 ふぅー、危なかった。

 

 ……と思ったけれど、冒険者には危険がつきもの。


 いくらなんでも落としたぐらいで壊れるようには作っていないだろう。

 冒険者手帳として採用されるくらいだから、相当頑丈に作られているはず。

 なぜかって、モンスターと戦闘するような場合でも常に持ち歩くものだからだ。


 おっと、そういえば早くお礼を言わないと。


「組長、ありがたく使わせていただきます」


 冒険者手帳を両手で差し出すように持ち、そのまま深く頭を下げた。


「そんなにかしこまらなくていい。それよりも、さっそく能力値を確認してみたらどうだ? 個人情報の項目の中にある、ステータスってところで確認できるぞ」


「えっ、今ですか?」


「そうだが、何か問題でも?」


 もちろん大有り。

 この場所だと組長の視線が気になって、ゆっくりと見られないって。


 俺は冒険者手帳をカウンターの台の上に置いた。

 そして膝の上に手を置き、申し訳なさそうに言う。


「すみません。せっかくですが落ち着いてから確認したいので、能力値はあとで見ようかと思います」


「おう、わかった。それならほかに質問があれば聞こうか」


「では依頼について聞きたいのですが、冒険者手帳を使って探せるんでしたよね?」


「ああ、そうだ。手帳の中に『依頼掲示板』というアプリがあるから、それを使って探せるぞ。ただし、さっきも言ったとおり組合建物の中にいるときだけだがな」


「わかっています。建物の外まで電波――いえ、魔力の波が飛ばないから、情報の送受信ができないんでしたよね?」


「ほう、ちゃんと理解しているようだな」

 

 組長は感心したように言うと、そのまま話を続ける。


「ちなみに依頼を受注するには、やりたい依頼を見つけたあとに窓口で職員に報告して手続きする必要がある。それをしなかったら、依頼を達成してもタダ働きになる可能性があるから気をつけなよ」


 俺は疑問を覚える。


「あれっ!? 手続きは冒険者手帳を使ってできないんですか?」


 画面をタッチするだけで受注できたほうが、窓口に並ぶ必要もないので便利なはずだ。

 それなのに行っていないようだが、何か理由があるのだろうか。


「残念だが、依頼を受けるにふさわしいかの最終判断は、職員がする決まりがある。だから無理だ」


 そりゃそうか。

 審査なしで依頼を受けてよかったら、いろんな問題が出てきそうだ。


「なるほど、納得です。そういえば自分と違うランクの依頼は受けられますか?」


「そりゃ受けられるが、自分と一つ離れたランクまでだな」


「なんですって!? それじゃ、さっき私の測定結果がもしSランクだったら、Aランクの依頼を受ける必要があったってことじゃないですか!」


 それって理不尽すぎる。

 だって測定結果が高ランクだった場合、ヤバすぎでしょ。

 素人なんだよ、俺。


 そう思って憤慨していると、組長は拝むような格好の右手を左右に振って否定する。

 

「違う違う、測定結果はあくまでそのランクから始めてもよいという意味だ。だから結果がSランクだったとしても、Fランク冒険者から始めたいなら、それでもいいんだよ」


「えっ!? それってアリなんですか?」


「もちろんアリだ。それに依頼をある程度こなすまでは、測定結果内でのランクの変更が認められている。だから物足りなければランクを上げられるし、厳しいと思えば下げることもできるのさ」


 それを聞いて、俺はホッと胸をなでおろす。


「なーんだ、測定結果に関係なく、低いランクから始められたのか」


「まあな。ただし、一応言っておくが、測定結果と同じランクから冒険者を始める場合は、上のランクの依頼を受けようとするなよ。自分の力を過信して死んでいったヤツらを、俺は何人も見てきたからな」


「はい、気をつけます」


 組長は心配しすぎ。

 今回限りで冒険者を辞めるのに、そんな危ない橋は渡りませんって。


 ……ん? でも、ちょっと待てよ。


「そういえば組長、Fランクより下のランクがあるのを初めて知ったんですよね?」


「ああ、それがどうした?」


「単刀直入に聞きます。Mランクの依頼ってあるのでしょうか?」


 組長はバツの悪そうな顔をする。


「さあな。少なくとも、俺は見たことがない」


 そりゃそうだよな……。

 Fランクの依頼が一番下だと思われていたわけだから。


「困りますよ、組長。自分の冒険者ランクと一つ離れたランクの依頼までしか受けられないのに、その依頼自体がないかもしれないなんて……」


 どうするんだよ、まったく。

 このままだと依頼を受けられなくて、冒険者を辞められないじゃないか。


 そう思っていると、組長が重そうに口を開く。


「仕方がない……事情が事情なだけに、今回に限っては特例でFランクの依頼受注を認めよう。だから――」


「ちょっと待ってください、組長! それって私に死ねってことですか!? Fランクの依頼って、私と七つもランクが離れているんですよ!」


 俺は勢いよく席を立って、組長の話をさえぎった。


 俺の強い抗議に、組長は驚いている。

 両手を小さく上げ、手のひらを軽く前後させて俺をなだめようと必死だ。


「まあまあ、落ち着けって。俺は別に死ねって言っているわけじゃない。それに、まだ話は途中だ」


「……何か考えがあるんですか?」


 俺の問いかけに、ゆっくりと組長は首を縦に振る。


「俺だってこの組に持ち込まれた依頼をすべて覚えているわけじゃない。とくに依頼料が前払いされているやつは、達成されるかキャンセルされない限りはずっと残り続けるから、時間が経てば忘れちまう」


「当然でしょうね」


「おまけに組合本部がすべての依頼を管理するようになって、この組でも世界中の依頼を取り扱えるようになったんだ。把握すること自体が、もう無理だ」


 世界中で依頼が共有されているわけのか。


「……とんでもない数の依頼があるってわけですね」


「そのとおり。だから俺が知らないだけで、もしかしたらFランクより下の依頼はあるかもしれないってわけ」


 俺は少し考える。


「確かに可能性はあるかもしれません。でもそう簡単に見つけ出せるでしょうか? 世界中の依頼の中から探すんですよね?」


「大丈夫、そこで『絞り込み』検索の出番だ。細かく条件を指定して検索すれば、数ある依頼の中から条件に合ったものが残るはずだ」


「それはスゴい! まさに異世界のIT革命やー!」


 俺は感動した。


 某料理番組のグルメリポーターみたいな発言が、その表れだ。


 でもよく考えたら、普通はあるよね、検索機能。

 世界中の依頼の中から探すとなると、検索しないと探せないわけで。

 

 ずっとネットから遠ざかっていて検索することもなかったから、できるというだけで感動してしまったようだ。


 いとあわれ――いや、哀れのほうかも。

 

 おっと、そんなことよりも今は話の続きを聞かないと。

 

「しかし残念なことに、Fランクより下の依頼を検索する方法がないんだよなぁ、これが。まあ当然といえば当然か。だから、Mランクの依頼を狙って探すのは不可能だ」


 なんだ、ガッカリ。


「喜んで損をしました……」


 期待を裏切られ、俺は肩を落とす。


 その様子を見て組長は、カウンターの台を軽くドンっと叩いた。


「話は最後まで聞け。そこで、『おすすめ』を使っての検索だ」


 そのとき、俺に電流走る!

 そして頭上にピコーンと電球が光ったかのようなひらめきが舞い降りた。


「そうか、わかりましたよ、組長! もしかして『おすすめ』で依頼を検索したら、自分と同じか、近いランクの依頼で絞り込まれるんでしょ?」


 組長はニヤリと笑みを浮かべながら口を開く。


「正解だ」


 やっぱり思ったとおりだ。


 これで俺のランクに近い依頼を見つけられる可能性がグーンと高くなった。

 

 でも、それだけじゃダメなんだ。


 俺は気づいてしまう。

 組長が大事なことを見落としていることに。


「……」


「どうした? 浮かない顔をして」


 反応を返さない俺を見て、組長は心配しているようだ。

 

 言い出しにくかったので、俺はゆっくりと口を開く。


「それって、根本的な解決になっていませんよね? 検索して見つからない可能性もあるわけですし」


「なんだ、そんな心配か。でも、別に心配する必要はないだろう? 高ランクの冒険者が付き添ってくれるんだ。Fランクの依頼を受けても危険じゃないさ」


「あっ、確かに! それに薬草採取の依頼を受ければ、もっと安全だ!」


 組長は「そうだ」と言ってうなずく。


「仮にモンスターと出会ったとしてもFランクの依頼だ。高ランクの冒険者さえいれば、おまえがケガをすることもないだろうよ」


 それなら安心だ。

 まあもっとも、Mランクの依頼さえ見つかってくれれば、それに越したことはないけれど。


「まだ聞きたいことはあるか? ただ、そろそろ最後にしてくれると助かる」


 組長の声には疲れが見えた。


 うーん、まだ質問したいことはあるけれど、とりあえずはこれくらいでいいか。

 組長は賭け事の後処理が残っているだろうから、大変だと思うし。

 それに残りの質問については、冒険者に聞いたほうがよさそうだからね。


「あとは大丈夫です。いろいろと、ありがとうございました」


 俺は頭を下げ、礼を言った。


 組長はイスから立ち上がる。


「それじゃ俺は部屋に戻って仕事をするから、あとは勝手にやってくれ。貸し出す武器は準備させとくからよ」


「わかりました。……あっ、そうだ組長」


「ん? どうした?」


 カウンターから離れようとしている組長を呼び止めると、組長はこちらを振り向いた。

 

 俺は右手を頬に当てて、周囲に音が漏れないように小声でささやく。


「美人で胸の大きい冒険者が付き添ってくれる件、忘れないでくださいね」


 一応、念押し。

 だって、これが冒険者になることを決意した最大の理由だから。


 俺は求めている。


 ――いや、男なら誰でも求めているはずだ!


 ドアを開けたら、偶然女性がお風呂に入っているようなラッキーハプニングを!

 そして「キャー」と叫ばれながら、「○○さんのエッチ」と水をかけられるようなお約束を!


 これこそまさに男のロマン。


 そういうわけで、そんな感じのハプニングが起こればいいなと思って冒険者になったのに、その大前提となる約束を反故ほごにでもされたら、契約違反もいいところだ。


 しかし、その心配はいらなかったようだ。


「安心しろ、そっちは今から連絡を入れておく。だから今日中に受ける依頼を決めて、明日の朝八時半ぐらいにここに来てくれ。そのときに俺が依頼の手続きをしよう」


「了解です!」


 俺は元気いっぱいに返事した。


 さて、いったいどんな女性が来てくれるのかな?

 うーん、楽しみ!


 いつの間にか、お昼はとっくに過ぎていた。

 ハズレ券を拾う騒動がようやく収まった冒険者ギルド。その窓口では、投票券の払い戻しで長い行列ができていた。


 組長が奥の部屋に戻るのを見届け、俺は建物の入口のほうにある雑談スペースに移動する。

 

 丸いテーブルが規則正しく並べられているその場所は、俺が建物に入ったときは混雑していたが、今はガラガラだ。

 やはり、みんな窓口に並んでいるせいだろう。


「さてと、誰に聞こう」


 周りを見渡し、話しかけやすそうな冒険者を探す。


 すると、二人で楽しそうに話している冒険者たちのテーブルがあったので、そこに向かうことにした。


「あのー、お話し中に失礼します。少々お時間をよろしいでしょうか?」


「おっ! ウワサをすればMランク。さっきの賭けは最高に笑えたぜ。ところで、どうした?」


 髪をオールバックにした男は、笑いながら答えた。

 

 男の年齢は三十前半ぐらい。

 前衛職らしいカッチリとした鎧を着ている。


 中堅冒険者といってよさそうな雰囲気があったので、いろいろ尋ねるにはちょうどよさそうだ。


「冒険者になるにあたって少し尋ねたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」


 俺がそう尋ねると、男の対面に座る魔導士風の格好をした女が、驚いた表情をした。

 

 女は男よりも若く見え、年齢は二十代半ばから後半といったところ。

 彼女もまた、中堅冒険者だろう。


「えっ!? 本気で冒険者やるつもり? あなたバカなの? 絶対冒険者に向いてないから死んじゃうって! だってあなた、Mランクなんだよ」


 本当にそのとおりだと思う。

 だけど、俺もわざわざ死ぬようなバカではない。


「安心してください。依頼を受けるのは一回限りで、助成金をもらったら冒険者は辞めるつもりです。それに付き添ってくれる冒険者の方もいますから、危険はないと思います」


「なるほどね。それで、何が聞きたいの?」


「はい、冒険者のルールや決まり事など、初心者が知っておかないとダメなことがあれば教えてください。それと能力値の数値について知りたいことがあります」


「へえー、すぐ辞めるにしては、いい心がけね。大事よ、そういうの。だから教えてあげる」


「おい、ルチア。すぐ辞めてしまうようなお試し冒険者に、わざわざ教える必要もないんじゃないのか? どうせ高ランクの冒険者が付き添うんだし」


 男の冒険者が横からチャチャを入れた。


 するとルチアと呼ばれた女は、拳を握って男にグーを見せる。


「オロロは殴られないと思い出せないみたいね。このギルドの決まり事を」


「……わりぃ。そういやすぐ辞めようが、初心者冒険者様はみんなお客様だったな」


 ポリポリと頭をかくオロロと呼ばれた冒険者。


「そのとおりよ。だから初心者のうちは、親身に相談に乗ってあげないとね」


「わかっているって。そうしないと新しい人材が入ってこなくなって、結局困るのは俺たちってこともよ」


「うん、わかっているならよろしい。それじゃ、プータローさんだっけ? ルールや決まり事については冒険者手帳で調べたら全部書いてあるはずよ。だから、かいつまんで必要なことだけ教えるけど、それでいいかな?」


「はい!」


「よろしい。だけどね、ルールや決まり事よりも、もっと重要なことをあなたには伝えておかないといけない。まずはそれから話すわね」


「わかりました」


 ルチアが急に真剣な表情になったのを見て、俺はゴクリと唾を飲み込んだ。


「それはね、心構え。あなたにとって冒険者は一時的な腰掛けかもしれないけれど、やるからには本気でやらなきゃダメってことよ」


 このあと二人からいろいろと説明を聞くことができた。

 話しかける前は初心者という理由でウザがられるかもしれないと思っていたが、どうやらそれは取り越し苦労だったみたいだ。


 それにしても心構えか……。


 二人は教えてくれた。


 冒険者という職業は、油断がすべて死につながる危険な職業。

 たとえ冒険者をすぐ辞めるとしても真剣に取り組む気持ちが必要で、簡単だと思える依頼でも、侮ることなかれと。

 

 俺はひととおり話を聞き終えると、感謝を込めて礼を言う。


「お二人とも、本当にいろいろとありがとうございました」


「えへへ、いいってことよ。また、わからないことがあったら遠慮なく聞きな」


「そうそう、初心者のうちは遠慮しなくていいんだからね」


 オロロとルチアは嬉しそうな顔で言った。


「はい! それではこれで失礼します」


「おう、頑張れよ!」


「冒険者は死ななければ勝ちなんだからね!」


 オロロは軽く手を上げ、ルチアは小さなガッツボーズを作った。


 そんな二人に頭を下げてから、俺は席を離れた。






 建物の隅のほうにある席に俺は腰を下ろす。


 周囲の席には誰も座っていない。


 邪魔されずに冒険者手帳を見るには、ちょうどよさそうだ。


「さて、まずは自分のステータスを確認しておくか」


 もちろん自分の能力値に期待はしていない。

 ランクの測定結果はMランクだったし、能力値もオルタナが偽装したと言っていたので、これから手帳に表示される数値は、なんの参考にもならないだろう。


 でも、その数値がいくらになっているかに興味がないと言ったらウソになる。


 俺が最後にステータスを確認したときは、バグったかのような意味不明の文字の羅列だった。

 それが本当に他人に見られても大丈夫であるのかという、単純な理由ではあるが。


 テーブルの上に置いた冒険者手帳のカバーを開き、少し膨らんだ部分に指を置く。

 すると、すぐに登録された指紋との照合が終わって、スマホでいうところのホーム画面が現れた。


「さっき二人から聞いた話だと、普通はレベル5以上ないとおかしいはずだよな……」


 その理由は、何もしなくても体の成長に伴って力がつくことにより、成人する頃にはレベル5に到達しているからだそうだ。

 ちなみにレベル5であれば、HP100、MP50というのが平均的な数値。そして、力や俊敏といった能力値については、6つの能力値を合計して60くらいになるのが平均らしい。

 

 ということは、偽装された能力値のせいで俺がMランクになったのだとすると、冒険者手帳に表示される数値はレベルが5未満で、各能力値もそれに伴ってかなり低い数値だと考えられる。


「いろいろ考えても仕方がない。思い切って見てしまうか……」


 冒険者手帳を手に持つと、個人情報の項目の中にあったステータスというところを指で触れる。


 と同時に、俺は目を閉じた。


 やっぱりこういうのは、ちょっとずつ見ないとダメだね。

 そのほうが、ドキドキして楽しめる。


 少しだけ目を開ける。


 まず見えたのは、見慣れた感じのステータス画面。

 ウィンドウに表示してもらっていたものと、表示形式はあまり変わらなさそう。

 

 さらにゆっくりと目を開けていく。


 記号じゃない、ちゃんとした文字が見えた。

 

「よしっ、バグっていないぞ! ちゃんと読めそう」



 ……あれっ? でも、なんで数字じゃなくて文字なんだ?



 俺は完全に目を開けて、画面を凝視する。


「おいおい、ウソだろ……」

 

 あまりにも予想外すぎる自分の能力値に、頭がクラクラした。



--------------------------------

名前:タダノ・プータロー

種族:人間

年齢:25

職業:冒険者(Mランク)

状態:普通

--------------------------------

LV:なし

HP:少なめ

MP:もっと少なめ

力 :もっとらん

体力:なっとらん

器用:ちゃらんぽらん

俊敏:おちめ

知力:やばめ

運 :でたらめ

--------------------------------

魔法

なし

--------------------------------

スキル

おっぱい鑑定

--------------------------------



 完全に遊ばれているよ、コレ!

 しかも逆に意味がわかる分、たちが悪すぎる。


 確かに以前見たときと違って、ちゃんと文字は読めるよ。

 だけど、読めたからって他人に見られたときに不審に思われたら、まえと変わりないって!


「ちくしょう、オルタナのヤツめ! 今度会ったら覚えておけよ……」


 怒りは収まらないが、この話はいったん置いておこう。

 冒険者手帳を使って依頼を探すのが先決だった。


「えっと、『依頼掲示板』だったよな」


 俺はステータス画面からホーム画面に戻り、「依頼掲示板」のアプリをタッチした。


 すると、画面に大量の依頼が一気に表示されて、画面が高速にスクロールする。


「うひゃっ! こんなにも」


 どうやら世界中の依頼が全部表示されてしまったようだ。

 おそらく「依頼掲示板」のアプリを初めて起動したからで、初期設定のままの場合はこうなるのだろう。


 でもまあ、全部の依頼の中から検索して探すわけだから、問題ないけどね。


「さてと……」


 検索条件を「おすすめ」に変更する。


 組長の言ったとおりであれば、これで俺のランクに近い依頼が残るはずだ。


「神様、お願いします。どうかMランクの依頼がありますように……」


 手帳を持ったまま、天に祈った。


 画面の「検索」と書かれたところに指で触れる。


 その途端、画面の中で砂時計みたいなアイコンが、クルクルと回り始めた。


 バクバクする俺の心臓。


 食い入るように画面を見続けると、20秒ほど経過したあとに、画面には小さなウィンドウが現れた。



 『1件見つかりました』


 

 画面には、そう表示されていた。


「おぉっ!? やった、やったぞ! 1件依頼が残ったー!」


 ――いや、まだだ! まだ喜ぶには早すぎる!


 Fランクより下のランクの依頼と確定したわけじゃない。


「頼む、Mランクであってくれ」


 画面に「OK」と書かれた部分を指で触れると、さっきまで大量に表示されていた依頼が全部消えて、依頼の一覧画面にポツンと一つだけ依頼が残った。


 それを震える指でタッチする。


 すると画面全体に、詳細な依頼内容が表示された。


 何はともあれ、まずは依頼のランクの確認が先決。


 そう思って画面の右上を見た瞬間、俺は両手を上げてイスから立ち上がった。


「いやっほー! あった、あった! Mランクがあったぞ! わーい!」


 待望していたMランクの依頼!


 あまりの嬉しさに、俺は机の周りをスキップして喜びを爆発させた。


 しかしその途中、冒険者たちが遠巻きに俺を見て笑っていることに気づく。


「これじゃ、ただのバカだ……」


 急に恥ずかしくなり、コホンと咳払いしてからイスに座り直すと、再び画面を食い入るように見つめた。


「えっと、なになに、ここから百キロぐらい離れた場所に行く必要があるのか」


 歩いて行くとなると少しキツイが、行けない距離ではない。


「それじゃ次。依頼内容は………………薬草採取!? はい、キター!」


 Mランクなうえに薬草採取だなんて、これって絶対にノーリスクの依頼だ!

 子供のお使いくらいに思っていいはず!


 喜びに打ち震える俺。

 思わず小躍りしそうになったが、さすがに今度は自重した。


 ニヤニヤしながら、もう一度依頼内容をよく読む。

 

 すると、奇妙な点に気づく。


「あれっ? なんだ、この報酬。時価って書いてある……」


 試しにFランクの依頼を検索して報酬を見てみたが、どれも真っ当と思えるような金額が記されていた。


 もしやこれって銀座のすし屋と同じで、ぼったくる気満々じゃないのか!?


 いや、この場合は逆か。

 支払われる報酬が、限りなくショボい可能性があるってことだ。


 でも、そこはMランクの依頼なのだから仕方がない。

 その分、Fランクよりは安全だろうからね。

 それに依頼を達成すれば助成金が手に入るから、タダ働きってことはないし。


 俺はそう思って、Mランクの依頼を受けることに決めたのだった。




◇◆◇◆◇


 次の日、俺は朝早くに冒険者ギルドにやってきていた。


 そりゃ社会人だし、三十分前行動は基本だろう。

 しかも俺は新人。

 まえに中途採用で入った会社では、新人は一時間前行動が常識だと教えられた。


 そんな理由で組長との待ち合わせの一時間前にやってきたのだが、誤算だったようだ。


「暇だなぁ……」


 そんな早い時間から、ギルドは開いていなかった。


 そんなわけで、俺はギルドの扉が開くまで時間を潰すことになる。




 四十分後、やっと誰かやってきたと思ったら、それは組長だった。


「おまえ、いつから待ってた? ギルドの営業時間は八時半からだぞ」


 出社してきた組長は、暇そうに扉の前に座っていた俺を見つけると、あきれた顔をして聞いてきた。


 俺は正直に答える。


 が、ますますあきれられた。


 それもそのはず、どうやらこの世界では俺が教えられた常識が通用しないらしい。

 時刻はまもなく八時ニ十分になるが、やっとほかの職員たちもやってくるぐらいなのだから。


 スゴイな、異世界。


 俺はあまりのホワイト企業っぷりに感心した。




 それからしばらくの間、ギルドの開店準備が終わるのを待つことになった。


 そしてようやく、昨日組長と話していたカウンター席に案内される。


「待たせたな。とは言っても、おまえが悪いんだがな」


 目の前に座る組長はそう言うと、ため息をついた。


「わかっています。どうやら私のいた世界の常識がおかしかったみたいですね。でもそれに気がつけたので、むしろラッキーでした」


「ふんっ、まあいい。ところで聞いたぞ。Mランクの依頼を見つけたそうだな?」


 組長はニヤリと笑って見せた。


 どうやら自分の考えた作戦が見事にはまり、喜んでいるようだ。


「おかげ様で。しかも薬草採取の依頼なので、ノーリスクのはずです」


「よかったじゃないか。ところで、場所はどこだ? いくら依頼内容に危険がなくても、その道中が危険だったら意味がないぞ」


 確かにそのとおりだ。

 そこまでは俺も考えていなかった。


「G遺跡というところです。職員くみいんさんに場所を尋ねたら、ここからオークランドとは逆方向にあるそうで、馬車を使えば一日半くらいで着くと聞きました」


「あそこか……それなら安心だな。あの場所にはモンスターはいないはずだ」


 そうは言われても安心はできない。

 モンスターはいなくても、アイツがいるだろうから……。


 俺はその遺跡の名前からアイツを思い出すと、自然に顔が曇った。


「でも、ゴキブリがいるんでしょ? なんたって、G遺跡って言うぐらいですから」


 組長はキョトンとした顔をしたあとに、急に笑い出す。


「あははは! そっか、おまえのいた世界ではゴキブリをGと呼ぶのか!」


「ええ……」


「だったら安心しろ。こっちの世界でGっていうのは、ゴブリンのことを意味するからな」


 それを聞いて俺はホッとする。


「なんだ、ゴキブリだらけの遺跡じゃなかったのか……」


「ああ。G遺跡ってのはゴブリンの遺跡――大昔にゴブリンたちの大きな住処があったといわれている場所のことだ」


「それなら安心です。ところで、私の依頼を手伝ってくれる方は?」


「もちろん頼んである。しかし、あの場所なら連れて行く意味はないだろうな」


 組長はそう言うと、急にギルドの入口のほうに目を向ける。


「おっと、ウワサをすれば、なんとやらだ」

 

 思わず後ろを振り向く。


 すると建物の入口には、昨日組長が言ったとおりの女性――胸が大きくて、美人の冒険者が立っていた。


 年齢は若く見えるが、おそらく二十代。

 燃えるような赤い髪に、透き通るような白い肌。

 そして、誰が見ても騎士だとわかるような白い鎧を着ていた。


 でも、俺は知っている。


 実はあの鎧、まえ半分だけしかなくて、背中側に身を守るようなものは何もない。

 あるのは下着だけで、後ろから見るとほとんど裸も同然のエロい鎧なのだ。

 でも、それを隠すために彼女はマントを羽織っているので、普段は誰にもわからないと思うけど。

 それと余談だが、鞘に収められている剣も変だったりする。

 剣の刃がポッキリと半分に折れている、残念な一振りなのだ。


「そんな、まさか……」


 俺は見知った人物であることに気づき、驚きを口にした。


 彼女の名前はフローシア。


 Aランク冒険者でありながらゴブリン討伐を生業なりわいとしていて、俺がゴブリンだったときに、ひと悶着もんちゃくあった人物だった。

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