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チートスKILL ~中途半端な転生者~  作者: 奥 悠人
4章 冒険しても いいかも?
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冒険者組合 悪辺狼組

 ハロワが席を立ってから五分以上経過したが、俺を笑う冒険者たちの声は依然として続いたままだった。


 指さして笑う者、腹を抱えて笑う者、泣きながら笑う者など千差万別。いま冒険者ギルドにやってくる人がいれば、お笑いライブをやっている劇場だと勘違いしてしまうかもしれない。


 そんな状況に置かれた俺は、ついに限界がくる。


 このまま笑われっぱなしで居続けるメンタルなんて、さすがに持ち合わせていないぞ。


「もう帰ろう……」


 俺はイスから立ち上がる。そして帰ろうとしたときだった。


 突然、バーンという凄まじい音が聞こえてきたのは。


 その音に驚き、何事が起こったのかと思って音がしたほうを見ると、カウンターの奥にあるドアが強風にあおられたかのように全開に開いていた。


 ドアのほうから目が離せない。


 なぜかというと、ドアの奥からマフィアのボスのような格好をした男がゆっくりと姿を現したからである。


 男の年齢は五十代半ばくらいだろうか。強面こわおもてで、見るからにヤバそうなオーラを放っていた。


 町で見かけても、絶対に関わり合いになってはダメ。そんな感じがしたので、あわてて視線をそらす。


 一方で、笑っていた冒険者たちもみんな一斉に黙り込み、目をそらした。


 騒がしさの代わりに、気まずい空気が漂い始める冒険者ギルド。その状況といったら、自習で大騒ぎしているクラスに怒鳴り込んできた先生の場面にそっくりだ。となると、このあと俺を笑っていた冒険者たちは、こっぴどく怒られることになるのだろう。


 重々しい空気の中、男の凄みのある声が響く。


「おう、そこの若いの。帰るのはちょっと待ちな」


 イスから立ち上がっていた俺のほうを見て、あろうことか男はそう告げると、まっすぐこちらに向かって来た。


 えっ!? なんで俺のほうに来るんだよ。意味がわからない。俺は騒いでいないから、無関係のはずでしょ?


 そう思ってあたふたしていたら、いつの間にか男は、ハロワがさっきまで座っていたイスに腰を下ろしていた。


 男は足を組むと口を開く。


「おまえも座りな。窓口対応の続きは俺がするからよ」


 なんだ、俺が怒られるのかと思ってヒヤヒヤしたけど、代わりの窓口担当の人だったのか。


 ――って、信じられるかい!


 今ならまだ間に合う。この場から早々に退散したほうがいい。


「え、えっと、今日はもう帰ろうかと……」


 俺はビビりながら、その申し出をやんわりと断った。


 すると、男はドスの利いた声を出す。


「いいから座れ」


 その声は、まるで人の意思をねじ曲げるかのような力があった。


 俺は男の言葉に逆らえなくなり、マフィアのボスに話しかけられた下っ端のような声が出る。


「はひっ!」


 そう答えると、イスに素早く座って背筋をピンと伸ばした。


 男はそれを見て、満足そうに一度だけうなずく。


「そういや、自己紹介がまだだったな。俺は冒険者組合『悪辺狼組あべろうぐみ』の組長をやっている、コワッソー・バーローだ」


 ――組長だって!?


 ヤクザのような団体名を名乗る組織の組長と聞いて、あわてふためく俺。


 だけど、さっきまでここにいたハロワは、この施設のことを冒険者ギルド「アヴェローズ」だと言っていたはずだ。


 俺は名前が違う理由を考える。


 ……あっ、もしかして、世代によって呼び方が違うんじゃ?


 言葉は生き物だ。時代が変われば言葉の意味や概念、そして呼び方だって変わる。だから組長という言葉も、以前はギルドマスターと同じ意味で使われていたのだろう。


 ただ、ひとつ気になることがある。


 男の格好が俺の想像していたギルドマスターの姿と、あまりにもかけ離れすぎていることだ。マフィアのボスがかぶるような中折れ帽に、濃いサングラス。おまけに黒いスーツを着こなしていて、どう見ても堅気かたぎの人間には思えない。


 だけど、それはあくまで俺の主観によるものだ。ここは素直に聞いてみよう。


「あのー、組長と名乗られましたが、要はここのギルドマスターということですよね?」


 俺は目の前にいるコワッソーに尋ねた。


 すると俺の隣の窓口に並んでいる冒険者たちは、俺の質問を聞いて「あっ!」と驚きの声を漏らす。


 ――なんだ、なんだ?


 気になって、冒険者たちのほうをチラッと見る。


 しかし彼らは俺から目をそらし、素知らぬ顔をした。


 どうやら、こちらと関わりたくないらしい。


 仕方がないので再び正面に向き直ると、コワッソーがうつむき加減で、肩を小刻みに震わせていた。


「あのー、どうかされましたか?」


 不安になった俺は、おそるおそる声をかけた。


 その途端、コワッソーはこぶしでカウンターを叩いてすごんだ。


「バーロー! 組長をギルドマスターなんてチャラついた肩書と一緒にするんじゃねー! おい、若いの、俺はギルドマスターと呼ばれるのが一番嫌いなんだよ。だから俺のことは組長と呼べ、組長と」


 あまりの迫力に俺は震えあがり、立ち上がるとすぐに頭を深々と下げてお辞儀じぎする。


「すみません組長! 以後気をつけます!」


「おう、今回だけだからな。で、俺のほうは名乗ったぞ。おまえのほうの自己紹介はどうした?」


 おっと、確かにそうだった。


 では、さっそく自己紹介を……と思ったけど、いいことを思いついたぞ。


 相手は組長と呼ばれる存在だし、仁義を切る名乗り方をするのはどうだろうか。きっと喜んでくれると思うんだけど。


 ただ、問題はセリフをどうするかだよな。


 仁義を切る挨拶には決まりごとがあって、自分の生まれた場所や、自分の名前などを、気の利いたセリフと織り交ぜて相手に告げるのが一般的だ。だから生まれと育ちが異世界の俺の場合、形式どおりにやろうとすると、どうしても転生者であることを知られてしまうことになる。なぜならウソをつこうにも、この世界で俺が知っている場所は、ゴブリンたちの住んでいた集落と、オークランドくらいしかないからだ。


 ……でもまあ、俺が転生者なのはハロワから聞いて組長は知っているだろうし、俺の出自しゅつじが地球であることがバレても問題ないか。


 そうと決まれば、仁義は急げだ!


 俺は体を斜めに構えて中腰になると、左手はひざの上に置き、右手は手のひらを上にして斜め下に出す。


「お控えなすって! わたし死ぬまえの、生まれと育ちは異世界地球です。生前は毎日バブ湯につかり、姓は只野ただの、名はプータロー、誰にも呼ばれちゃいませんが、無職はつらいよってな感じで『無職のプーさん』と発します。以後、お見知りおきを」


 俺のいきな口上に、組長は満足気に笑みを浮かべてウンウンとうなずく。


 よしっ! なかなか高評価っぽいぞ。


「それでいいんだよ。おまえ、なかなか見所があるじゃないか。ところで本題だが、経緯いきさつはさっきまでここに座っていた職員くみいんから聞いている。相手は美人だし、やってしまったことは仕方がない。何か弁解することはあるか?」

 

 へっ? なんの話だ?


 まるで痴漢でもしたかのような言われ方にビックリ。


 けど、オレ何かやらかしちゃいましたっけ?


 確かにハロワにビンタされて変態とののしられたけど、その理由にまったく心当たりがないんだよな。


 だから今すぐ「何もやっていない」と否定したい――が、相手が怖いから、まずは探りを入れて理由を把握するのが先だな。


「あのー、ハロワさんは?」


「おまえのせいで、今は奥の部屋でいじけているよ」


 いじけているだって?


 ますます、わけがわからない。理由がわかれば誤解が解けるっていうのに。


 でも俺に心当たりがないんじゃ、遠回しに聞いても時間の無駄か。やっぱり、ここは素直に理由を聞こう。


「本当にその原因って私なんでしょうか? 彼女の気に障ることをした覚えがなくて……」


「ほう、やった記憶がないと」


 組長はそう言うと、サングラスを少しずらして俺の目を見た。


 めちゃくちゃ怖ぇー!


 まるで蛇ににらまれたカエルのような気分だ。その眼力はすべてのウソを見通すかのようで、もし思い当たる節があれば思わず口を割っていただろう。


 しかしながら、いくらメンチを切られても、ひき肉――いや、あいにく俺は何もやっていないので、俺は目をそらさずに組長の質問に答える。


「これは冤罪えんざいです。誓って、やましいことはしていません」


 何に誓ったのかを聞かれると困るが、やっていないのは間違いないし、気にしないでおこう。


「ほう、シラを切るか。まあいい、まずは先に話を聞こう。おまえ、仕事シノギを探しているそうだな?」


「シノギ? あっ、仕事のことですね。はい、短期のアルバイトを探しています。何かお勧めの仕事はありませんか?」


 その答えに組長は顔をしかめると、声を荒らげる。


「バーロー! 普通は、ヤリてーと思っている仕事シノギがあるかを聞くもんだろうが! そんないい加減な気持ちのやつに、紹介できる仕事シノギなんてねーぞ」


 確かに言いたいことはわかるが、俺にだって事情がある。


「それはわかっています。でも、今は違う町に行く旅費が欲しいだけなので、こだわっていないだけです」


「ケッ! おまえも田舎が嫌で、稼げる都会で働きたい口ってわけか」


「そんなんじゃありません」


「そりゃウソだな。どうせ都会はおしゃれでキレイな店もたくさんあって楽しそうだとか、カッコよくて楽な仕事シノギばかりで、おまけに実入りもデカいとか考えているんだろ? でも、そりゃバカの考えだ。そんなふうに考えているヤツが都会に行っても、成功なんてしねーよ」


「重々承知しています」


「それじゃ四の五の言わず、ここにいた職員くみいんが言ったとおりに冒険者をやれよ。ここで手続きさえ終わらせておけば、ほかの場所に行っても問題なく依頼を受けられるし、そんなに冒険者は悪い仕事シノギじゃねーぞ」


「すみません。言い忘れていましたが、自分に合わなそうな仕事は断らせてください」


仕事シノギを選べる立場かよ……そういや転生者らしいが、死ぬまえは最後にどんな仕事シノギをしてたんだ?」


 ウソをつこうか迷ったが、見抜かれそうなので正直に答える。


「む、無職です……」


「名は体を表すか。言っておくが、楽な仕事シノギなんてねーから、冒険者にしておけ」


 そうは言われても、俺には冒険者をやりたくない理由がある。


「だから、冒険者はダメなんですって。転生者といっても私は弱いですから、冒険者になったらすぐに死んじゃいますよ」


「そりゃおめえ、自分の実力に見合わない依頼を受けたときだけだ。まあいい、ここまで言っても拒否するなら、こっちにだって考えがある」


 組長はそう言うと、ハロワが置いていったタブレットみたいな端末を触りだした。


「なぜそこまで冒険者にこだわるんですか? 普通に仕事を紹介してくださいよ」


「こっちにも、いろいろあるんだよ。それより、ここに書かれている内容を見てみな」


 カウンターの上に置かれていた端末が、まるでグラスのように対面の俺のほうに滑べってきた。


 目の前でちょうど止まる端末。


 俺は画面を見る。


 すると、先ほど画面に「※※※」で表示されていた部分が読めるようになっており、信じられない内容が書かれていた。


――――――――――――――――――――――――

■スキル


おっぱい鑑定:使用すれば、対象のおっぱいサイズを知ることができる。その効果は、対象がどんなに隠そうが偽ろうが無意味で、真実のサイズを見抜ける。

――――――――――――――――――――――――


「なんだ、これは……」


 驚きのあまり、俺は声を漏らした。


 そして気づく。ハロワがなぜ俺をビンタして、奥の部屋でいじけているのかを。


 どうやら彼女は、俺がこのスキルを使って彼女の秘密――偽乳にせちちであることを知られたと勘違いしているようだ。


 しかし、それは真実ではない。なぜなら、俺が日頃から使っているおっぱい鑑定はスキルでもなんでもなく、実は国家資格であるかのように、おっぱい鑑定士一級と勝手に名乗っているだけだからだ。なので、どこぞの自称マッドサイエンティストの人と同じで、自分に酔っているだけなのである。


「これでわかったよな。で、何か弁解することはあるか?」


 組長はそう言って、最初と同じセリフを繰り返した。


 しかし、最初とは言葉の重みが違いすぎる。


「なんとなく理由がわかりました。しかし、おそらくこれは何かの間違いです!」


「そうか、まだシラを切るか。それじゃ、うちの職員くみいんを辱めてないと、俺の目を見て誓えるか?」


 組長はサングラスを外して胸ポケットにしまうと、俺の目を真っすぐに見つめてきた。


 その途端、俺はガタガタと体が震えだす。


 もちろん武者震いなんかじゃないし、寒いわけでもない。喉の奥が乾き、さっきと同じように否定しようと思ったが、言葉がうまく出てこなかった。


 俺が何も言えないとみて、組長は口を開く。


「そうだな、最初と同じセリフが言えたら許してやる。だから言ってみろよ。『これは冤罪えんざいです。誓って、やましいことはしていません』ってよ」


 とても言える気がしない。たったあれだけの短いセリフなのに……。


 確かに俺はハロワの胸を見て、偽乳にせちちだと見抜いた。だけど、それはあくまでも勘であって、胸のサイズに関しても俺の予想にすぎない。


 誰だって一度くらいは、女性の胸を見て大きさを想像したことがあるはずだ。それと同じことをしただけである。だから、とてもスキルと呼べる代物ではないのだ。


 なのに、なぜおっぱい鑑定がスキルとして表示されているんだ?


「おい、変態、そろそろスキルを使ったって認めたらどうだ。うちの職員くみいんはみんな美人ぞろいだから、やったんだろ? それに俺にはわかっているんだぜ。口では仕事しのぎを探しに来たと言っちゃいるが、本当は痴漢が目的で、職員くみいんを物色してたってことがな」


 ――さすがにそれは言いすぎだ。


 カチンと頭にくる。そして、言い返したい気持ちが沸々と湧いてきた。


 これは冤罪えんざいですって、絶対に言ってやる!


 誓って、やましいことはしていませんって、ひと思いに言ってやる!


 そう覚悟を決めると、体中からドバドバとアドレナリンが噴き出してきた。


 ――この湧き上がる高揚感、今ならやれる!


 気分はまさに、ヤクザの組長を狙うヒットマン!


 俺は右手でカウンターを払いのけるように叩くと、カウンターに両手をつきながら立ち上がった。そして、組長の目を真っすぐに見てセリフを口にしようとする。


 ――急に開かなくなる口。


 しかし、俺は気力を振り絞る。


「こ、こ――オレは変態です。ちかっ、痴漢で、や、や――やらしいコトしかしていません!」


 やった! 俺はついに言ってやったぞ!


 そう思ったのも束の間、俺は重大なことに気づく。

 

 あっ、セリフをんだうえに、間違えてしまっている……。


「やっと自分のことを変態で、痴漢目的と認めたか」


 ヤレヤレといった表情をする組長。


 いっぽう俺のほうは、ショックでヘナヘナとイスに腰を下ろした。


 おいおい、やらかしちまったよ。いまさらセリフを間違えたと言い訳しても、組長は絶対に認めてくれないぞ。


 俺は絶望する。


 そして頭にのぼった血が下がると、このスキルの表示はオルタナのいたずらのせいだと気づいた。


 あー、こりゃもう終わりだ……。


「さて、どう落とし前をつける気だ?」


 組長はカウンターに両手をつきながら身を乗り出して、俺をにらみつけた。


 落とし前、きっと指詰めのことだろう。


「……指を一本詰めれば許してもらえるんでしょうか?」


 組長はビックリした表情をする。


「怖いこと言ってんじゃねーよ。俺がおまえに望むのは、最初から一つだけだ」


 そう言うと、組長は俺のほうをじっと見つめた。


「まさか、体が目当てですか!?」


 俺は両手で自分を抱きしめた。


「バーロー! 冒険者だよ、冒険者。さっきから、ずっとそう言ってんだろうが! まったく、この場所をなんだと思っていやがる」


「あっ、そういえば冒険者ギルドでしたね」


「バーロー! 冒険者組合つってんだろうが!」


 面倒くさいことを言うなと思ったが、俺は素直に謝る。


「すみません、言い間違えました。ところで、聞きたいことがあります」


「なんだ、言ってみろ」


「結局のところ、冒険者になれば許してもらえるってことでしょうか?」


「もちろんだ。拒否すれば、わかってんだろうな?」


 いやいやいや、わからないですってば。けれども、素直に従っていたほうが得策のような気がする。


 ――しかし、冒険者か。


 嫌な予感がするし、正直に言うとやりたくない……。


 でもこの状況だと、そうも言っていられないか。


「とりあえず、頭ごなしに拒否するのはやめます。だから冒険者になるかは、詳しい話を聞いたあとに決めさせてください」


「いいだろう。冒険者組合の仕組みは、ある程度は知っているんだよな?」


「ええ、なんとなくなら」


 異世界ファンタジーのお決まりは、この世界でもそう変わらないはずだ。


「だったら、簡単に説明するぞ。冒険者組合にはいろんな依頼が持ち込まれる。その中から好きな依頼を受けて、それをこなして組合に報告すれば報酬がもらえるってわけだ。ちなみに依頼料の二割が組合の取り分な。あと、素材の買い取りなんかも行っている。ここまではいいか?」


「はい、問題ありません」


「なら次に進むぞ。次は冒険者ランクの説明だ。依頼を達成すると、その依頼の難易度に応じたポイントがまるようになっている。それが基準に到達すると冒険者ランクが上がり、はくがつくって寸法だ」


「AとかBとかがあって、アルファベットの順番が後ろになるほどランクが低くなるんですよね?」


「おおむねその認識で合っているが、Sランクだけは別だ。Aランクの上になる。しかも、SSやSSSといった感じでSが増えるごとに、より高いランクだ」


「では、一番下はFランクでしょうか?」


「そのとおりだ。そんなわけで、最初からよほどの力を持ってる者でない限り、普通はFランクからのスタートになる」


「やはりそうですか。でもせません。私がたいしたスキルなんて持っていないのは、承知していますよね。なのに、およそFランクとしか思えない私に対して、なぜこんなにも冒険者になれと誘うんですか?」


「それはだな、さっき言ったことは一般人に当てはまることであって、転生者は別だからだ。クソみたいなスキルしか持ってなかろうが、転生者の場合は、ほとんどが最初からBかCランクの実力を秘めているんだよ。だから転生者を俺んところの組合で勧誘できれば、本部から補助金がガッポリ頂けるってわけなのさ」


 なるほどね、ハロワも言っていたが、それが俺を冒険者にしたい一番の理由だったのか。


 俺はあきれて言う。


「だからハロワさんも組長も、しつこかったんですね」


「まあな。最近は真面目に働いてくれる高ランクの冒険者が少ないのもあって、勧誘できると実入りがデカいんだよ」


 組長はニタッと悪そうな笑顔を浮かべた。


 でも正直、そんなに期待されても困る。俺がゴブリンだったとき、スライム一匹倒すのにも苦労したのだから、秘められた力なんてあるはずがない。


 期待させても悪いから、一応言っておくか。


「言っておきますけど、絶対に私はFランクですからね」


「そんなわけねーって。おまえは自分のことを弱いと言っているが、俺にはわかる。今までいろんなヤツを見てきたが、おまえから規格外の力を感じるんだよ。まあ、それもこれも、ランク測定すれば全部わかることだよ。――おっと、そんなことよりも、新規冒険者の助成金制度の説明をしないとな」


「もーっ、ガッカリしても知りませんよ」


 俺はそれ以上言っても無駄だと思い、説得を諦めた。


 それをいいことに、組長は淡々と話を続ける。


「それじゃ今からお金の話をするんで、ちゃんと聞いておけよ。まずは冒険者になると五十万ピエンが助成金として支給されるが、三割をギルドの手数料としてもらうから、おまえの手元に残るのは三十五万ピエンだ。しかし、お金は初めての依頼を達成してからでないともらえないぞ。冒険者になったふりをして、持ち逃げするやつがいるんでな」


「えっと、そもそも通貨の価値がわからないのでピンときませんが、そのお金でどれぐらいの日数暮らせますか?」


「そうだなー、依頼を受けているときに無料で使える宿泊施設を活用すれば、三カ月ってところだろうな」


 となると、だいたい日本の貨幣価値と変わらないぐらいか。


 それはいいとして、問題なのは助成金が依頼達成時にしか支給されないことだ。


 どうしよう、お金がないから武器を買えないぞ。無料で貸してくれるといいけど。


「あのー、武器や防具は貸してもらえますか? お金を持っていなくて……」


「わかった。なら、武器だけは貸してやろう。ほかに聞くことは?」


「そうですね……そういえば、依頼内容が壁とかに張ってありませんが、どこに掲示してありますか?」


「おっと、説明していなかったな。去年までは壁に掲示してたんだが――」


 組長はカウンターの隅に飾ってあった見本と書かれた手帳のような物を手に取り、中を開いて俺に見せる。


「今は冒険者に無料で支給されているコイツに、すべての依頼が表示されるようになっているのさ」


 それは俺に見慣れたモノを思い出させた。


「えっ!? これって、スマートフォンじゃ……」


「なんだ、その呼び名は。こいつは冒険者手帳だよ。おまえと同じ、転生者が作った魔導具の一種だ」


「そうか! だからスマホみたいな形なんだ」


 タブレットのような魔導具がある時点でスマートフォンのような魔導具もあるのではと思っていたが、転生者が作っていたのか。


「納得できたか?」


「はい。ところでこれを使って、遠く離れた人と会話はできますか?」


「そんな機能はないぞ。こいつは持ち主の個人情報を表示させることができるから、主な利用方法としては身分証だ。それとさっきも言ったが、依頼を探すのにも使えるな。ただし、依頼を探せるのは冒険者組合の建物の中にいるときだけだから、気をつけろよ」


「了解しました。でも、どうして建物の中でしかダメなんですか?」


 組長は少し困った顔をする。


「俺もあんまり詳しくないが、建物の外まで魔力の波が飛んでいかないらしい。確かアイアイとかいったか」


「そりゃ、お猿さんでしょ!」


 俺は思わずツッコミを入れた。


 でもよく考えると、この世界ではWi-Fi(ワイファイ)じゃなくて、Ai-Ai(アイアイ)なのかも。


 当然、組長は不思議そうな顔をする。


「ん、なんのことだ?」


「いえ、こちらの話です……」


「それならいいが、詳しい操作方法が知りたかったら違うヤツに聞いてくれよ。俺は説明がヘタだからな。まあ、ほかの冒険者たちはあまり説明を受けずに使いこなしているようだし、転生者のおまえなら余裕だと思うが」


「ええ、転生者が作ったものでしたら、私が知っている物と使い方は似ているでしょうからね」


「そうか? じゃ、試してみたらいい」


 組長に見本の冒険者手帳を手渡された。


 俺は触ってみる。


 やはり使い方はスマホと変わりないようで、タップ、フリック、スワイプなど、基本操作は全く同じだった。

 

 さらにいろいろと触ってみる。


 すると誰にでも簡単に使えるようにしてあるのか、カスタマイズや、設定の変更はできなかった。


 シニア向けのスマホよりもアプリや機能が少なく、いたってシンプル――というか、子供のおもちゃみたいで、はっきりいって物足りない。


 でもまあ、それは仕方ないだろう。無料みたいだからね。


 ――さて操作もわかったし、これくらいで冒険者手帳のことはいいか。


 俺は冒険者手帳を元あった場所に戻そうした。


 すると、それを見て組長が尋ねる。


「もういいのか?」


「ええ、十分です。最後にもう一つ聞きますが、高ランク冒険者が私の受けた依頼に、ついてきてくれるんですよね?」


 これが一番重要なことだ。


 高ランク冒険者が、ヒヨッコ冒険者の初めて受けた依頼に付き添ってくれる制度。この制度の有用性によって、俺の生き死にが決まるといっていい。


 なぜなら俺が弱かったとしても、手伝いの冒険者が強ければ問題ないからだ。


「ああ、もちろんついてきてくれるぞ。それよりもおまえ、そんなスキルしか持っていないんだから、おっぱいが好きなんだよな?」


 組長は、いやらしい笑みをこぼした。


「いきなり、どうしたんですか!?」


 急に変な話になって、俺は驚いた。


 そりゃ好きだけど……男だったら、普通は誰だって好きだろ?


「冒険者になるのを、まだためらっているみたいだったから、最後の一押しってやつだ。どうせなら、ちゃんと自分の意思で冒険者になってほしいからな」


 おっしゃるとおり、俺は冒険者をやりたくないし、この状況から逃げ出せるなら逃げ出したい。


 しかし、落とし前をつける必要があるので、俺の意思とは関係なく冒険者にさせられる運命――


 そう思っていたのに、どういうことだ?


「確かにおっぱいは好きですが……それと冒険者になんの関係が?」


「なに、おまえが最初に受けた依頼に、胸が大きい冒険者を同行させてやろうってことだよ。どうだ、冒険者になりたくなっただろ?」


 その手は食わない。相手はヤクザのような男だし、何か裏があるはずだ。


「どうせ大胸筋の大きい男の人でしょ?」


「疑り深いヤツだな。ちゃんとした女だよ」


「じゃ、美人局つつもたせとか?」


「アホか。無職で無一文のおまえをだまして、俺になんの得がある」


「だったら、バケモノみたいな容姿――いいえ、バケモノそのものだとか!?」


「バーロー! ちゃんと人間で、おっぱいがデカくて美人の高ランク冒険者だ。どうだ、これで満足か!」


 さすがにそこまでキッチリ断言されると、少し信じたくなる。


「……本当ですか?」


 俺は小さな声で尋ねた。


「全部本当のことしか言ってないぞ。それでどうだ、冒険してみたくならねーか?」


 組長は、まっすぐに俺の目を見つめた。


「ウソだったらすぐに逃げ出しますよ?」


「ああ、いいぞ。俺が言ったことがウソだったらな」


「確認ですが、一回だけ依頼を達成すれば、そのあとは依頼を受けなくてもいいんですよね?」


「問題ない。こっちの目的は本部からもらえる助成金と補助金だ。それとちょっとした、おまえの冒険者ランクを当てるゲームをやって、みんなで楽しむことだからな」


 それを聞いて、冒険者になりたくないと思っていた意思が、だんだんと揺らぎ始める。


 よく考えたら、いいこと尽くめな条件じゃないのか?


 最低でも三十五万ピエンがゲットできるし、おまけに高ランク冒険者が付き添ってくれるなら安全だ。そのうえ付き添いは美人で胸の大きい冒険者だし、一回だけ依頼をこなせば冒険者を辞められるという短期性もある。


「で、どうするよ? 断るなら今が最後だぞ。まあ、その場合はもっと大変な落とし前が待っているんだがな」


 俺は腹を決める。


 ここに来たときは、なんでもいいからバイトをやるっきゃないと思っていたけど、やっぱり冒険してもいいかも。


 ――いや、むしろやりたい!


「わかりました! 冒険者でも、鉄砲玉でもなんでもやらせてもらいます」


 組長は嬉しそうな顔でこぶしを握る。そして、そのまま両手を上に突き上げると、立ち上がって叫ぶ。


「よし! 言質げんちを取ったぞ。周りのヤツらが証人だ」


「「「オー!」」」


 建物中の冒険者たちが一斉に声を張り上げる。それは建物が揺れるほどだった。


 これでもう俺は逃げられない。


 でも、美人でおっぱいの大きい冒険者が付き添ってくれるなら、ちょっとエッチなハプニングが期待できるかもしれないし、本望だ。


 結局のところ、安易な気持ち――いや、よこしまな気持ちで冒険者になることを決めたのだった。

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