貴族転生1
「なんじゃ、こりゃー!!」
鏡を見た俺は、思わず叫ばずにはいられなかった。
すっきりとした目覚めだったし、前世の記憶もちゃんとあった。
俺はチャラ男のせいで死んだので、そのお詫びとしてハイスペックな体で転生した覚えがある。
だからこそ今の自分の姿と状況に、驚きを禁じ得ない。
「ゴブリンか? 間違いない……ゴブリンだ」
俺は鏡の前で、自分の顔をペタペタと触って確かめた。
確かに鏡に映る緑色の生物は、俺がアニメや漫画で知っている空想上の生物そのものだ。
コンコン……
不意に部屋の扉がノックされる。
「母さん、あとにしてよ!」
俺は前世の調子で返事をしてしまう。
しまった、と思ったときにはもう遅かった。
ゆっくりと部屋の扉が開く。
「どうした、死んだ母さんの夢でも見ていたのか?」
立派な身なりのゴブリンが、俺の質問に答えながら部屋の中に入ってきた。
「うわぁぁ、近寄るな!」
俺はそのゴブリンを見て驚き、思わず叫んだ。
そして怖くて後ずさりすると、部屋の壁を背にして動けなくなる。
すると、ゴブリンは俺のほうに近づいてきた。
「やはり寝ぼけていたか。気合が足りん!」
ゴブリンはそう言うと、俺の頬を平手打ちする。
「もう昼前だぞ。目が覚めたか、息子よ。いくら貴族とはいえ、だらしないぞ。イチローやジローを見習いなさい。三男だからといって、甘えは許さんからな」
そう言われても、困ってしまう。
現状がいまいち理解できないが、襲われることだけはなさそうだ。
とりあえず俺は無言で頷いた。
「よし、わかったなら支度しろ。どうやら冒険者どもが付近をうろついているらしい。装備を整えしだい、周辺の見張りに行ってもらうぞ」
そう言うと、ゴブリンは部屋を出て行った。
――いったい、どういうことだ?
さっきのゴブリンの言葉が真実なら、俺はあのゴブリンの息子で貴族の三男のようだ。
確かに転生するときに貴族の三男にしてくれと頼んだが、これでは話が違う。
普通は人間での話だろ?
これじゃ、三男じゃなくて災難だよ!
そう嘆きながらも見張りの準備をしようと、無造作に放り投げられてあった鎧を手にとってみた。
「くさっ!」
授業で使い回された剣道防具みたいなニオイが、プーンとした。
でも臭いからといって、着ないわけにもいかない。
俺は鎧を着る準備をしながら、現状について考えてみた。
この体はゴブリンだが、貴族で三男であることは、ほぼ確定だ。
あと、俺がチャラ男に言った望みどおりだとすると、この体はイケメンで16歳のはずである。
俺は改めて自分の顔を鏡で見てみた。
最初に鏡で顔を見たときは自分がゴブリンという事実に困惑したが、改めてじっくり見てみると、ゴブリンにしてはイケメンのような気がする。
だが、問題は年齢のほうだ。
この体で16年間生きた記憶はまったくない。
考えられるのは、他人の体を乗っ取っての転生だ。
もしそうだとすると、前の体の持ち主には悪いことをしたと思う。
しかし、現状ではどうにもできないし、そんなことに意識を向ける余裕はない。
これからどうするか、それが問題なのだから。
――そうだ、レベルやスキルはどうなったんだろうか?
前世のオタク知識から、自分のステータス画面が見られないか試してみる。
「ウィンドウ、オープン! ステータス表示」
周りにまったく変化が現れない。
もしかして、呼び出し方が違うのか?
お約束だと、この方法を使えば目の前に半透明のウィンドウ画面が現れるはずなんだけど。
とりあえず、ほかにも試してみよう。
「ステータス、オープン」
「パラメーター表示」
「能力開示」
「強さ、自分」
「調べる、自分」
「Ctrl+O」
「開けゴマ」
えっ、もしかして自分のステータス画面って見られないのか?
これでどうやってスキルを使えと?
「はい、終わった。俺の人生終わった……」
とんでもないクソゲーを掴まされた気分の俺。
もう、どうでもよくなる。
「だめだこりゃ、次いってみよーって、いけるかボケっ!」
絶望に打ちひしがれて、壁に頭を叩きつける。
すると頭を叩きつけたショックで、目の前が砂嵐に包まれた。
それと同時に、俺の目の前に半透明な四角い枠が表示される。
――やった、ウィンドウ画面だ!
でも、それは俺が思っていたウィンドウ画面とは、少しばかり違っていた。
「ワハハハハ!。゜( ゜^∀^゜)゜。」
なんと、ウィンドウ画面に表示された文字が頭の中に聞こえ、顔文字が話しかけてきたのだ。
「こんにちは、私はウィンドウです。どうか、お見知りおきください。それにしても、あなたって面白い人ですね」
「うわー、ウィンドウ画面がしゃべった!」
理解しがたい状況に俺は絶叫した。
えっ、なんでウィンドウ画面がしゃべっているんだ?
俺がゴブリンになっていることといい、もしかしてこれは夢なのか?
夢なら、早く目覚めてくれ!
「挨拶もなしですか? 失礼しちゃうなぁ」
痺れを切らせたのか、相手から注意されてしまった。
信じられないが、やはりこれは現実のようだ。
それなら無視するわけにもいかない。
このままでは相手の機嫌を損ねてしまい、取り返しがつかなくなってしまいそうだ。
「これは失礼しました。どうもはじめまして、ウィンドウさん。少々お聞きしたいことがあるのですが、よろしいですか?」
「はい、大丈夫ですよ」
相手はウィンドウ画面なので、顔色はわからない。
でも、どうやら機嫌は損ねていないようだ。
俺は安心して話を続ける。
「それでは、まずどうしてウィンドウ画面が話せるのですか?」
「さあ、なんでだろう。普通じゃないのかな?」
「いや、普通は話せないと思いますが……。そういえば先ほど、ウィンドウ画面を開こうと試していましたが、なぜ出てきてくれなかったのですか?」
「人前に出るのが苦手なので、躊躇しちゃって。でも、あなたが一人でノリツッコミしているのを見て、笑いのツボに入ってしまい、出てきてしまいました。(。・ ω<)ゞてへぺろ」
――おいおい、それでいいのか?
ウィンドウ画面が人前に出るのが苦手とか、職務怠慢もいいところだ。
人に見られてナンボの仕事だろ?
「だって初対面の人に声をかけるのって、勇気がいると思いませんか?」
「確かにそうです……えっ?」
――あれっ、俺さっき口に出して言ったっけ?
俺は腕を組み、先ほどのウィンドウの返答に違和感を覚えて、首を傾げた。
すると、またしても質問していないのに、ウィンドウが答える。
「口に出していませんよ。あなたと意識がリンクしているので、あなたの考えていることが私に伝わっているだけですから」
「本当ですか!? それって私の思ったことが、筒抜けじゃないですか……」
俺は思わず両手で頭を抱える。
これじゃあまるで、妖怪の覚と一緒じゃないか。
余計なことを考えてはいけないと思うほど、いろいろ考えてしまうし。
そう思って俺が心の中で嘆いていると、ウィンドウが申し訳なさそうな顔をした。
「ごめんなさい、初期設定のままでした。伝えたいと思ったときだけ、意識がリンクするように設定を変更しておきますね」
「最初から、そうしておいてください!」
よかった、これで俺の恥ずかしい秘密が赤裸々にならずに済む。
でも、安心するのはまだ早い。
意識が伝わっていないか、ちゃんとチェックが必要だ。
『(ウィンドウのバーカ、アホ、間抜け)』
「もしかして、私の悪口を考えていませんか? (;¬_¬) 」
「いやいや、そんなことないですよ」
ヤバいヤバい、思わず顔に出てしまったようだ。
引き続き、今度は考えていることが伝わるか試してみる。
俺はウィンドウへの質問を、頭の中で考えてみた。
『では質問ですが、いつからウィンドウさんは私の意識とつながっていたのですか?』
「最初に『ウィンドウ、オープン』と言ったときですよ。それ以前は眠ったような状態でしたので、あなたのことは何も知りません。なので、名前くらい教えてもらえませんか?」
よし、うまく伝わったぞ。
でも、やっぱり声を出して話すほうが性に合っているな。
だから今度は言葉を口にして、ウィンドウに話しかけた。
「すみません、名乗っていませんでしたね。私の本当の名前は、中途隙流と言います。ですがいろいろありまして、今は名前が違っているはずです。しかし、それを知りようがなくて困っています」
「なるほど、いろいろと複雑な事情がありそうですね。では、あなたのステータス画面を表示してみましょうか? 名前がそこに表示されているはずですから」
「よかった、やはりステータス画面は見られるのですね。それなら、ぜひお願いします」
せめて、スキルや魔法がいろいろと揃っていれば、この絶望的な状況を打開できるはず。
俺は目をつぶり、手を合わせて祈りながら待った。
「ではいきますよ。ステータス、オープン!」
ウィンドウの威勢のいい声。
それを聞き、俺はゆっくりと目を開く。
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名前:サブロー(チ@-a・sp*)
種族:ゴぶりン
年齢:16
職業:貴ぞく
状態:鈍い
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LV:@%+
HP:!"0&9\/!=)991
MP:000QF#/@;;*??
力 :3885E782
体力:1CC87680
器用:1CA47B00
俊敏:B374E78
知力:16B5CFC8
運 :0435E7A6
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魔法
チー%*
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スキル
¥部@#?
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装備
くさイかわ@鎧
ゴぶりンの首かzあり
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「なにこれ……」
目の前に表示されていたステータス画面には、一部は読み取れたが、壊れたゲーム機に表示されるような数値が並んでいた。
「表示がバグっているみたいですね。あっ、でも名前は大丈夫みたいです。えっと、サブローさんでいいのかな?」
ウィンドウの問いかけに、俺は答えない。
もう答える気力は残っていなかったからだ。
しかしそんなときに限って、またしても部屋の扉がノックされる。
俺はすべてが嫌になると部屋の隅に座り込み、現実から目を背けた。




