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チートスKILL ~中途半端な転生者~  作者: 奥 悠人
4章 冒険しても いいかも?
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やるっきゃバイト

「そろそろ、こっちに座ったらどうだ」


 オークランドを出発して国境の門が見えなくなった頃、馬車の御者席からヨドネコの声が聞こえた。


 荷台に座り、オークランドのほうをボーッと見つめていた俺は、その声でハッとする。


 どうやらコスモスとの別れの余韻に浸り込んでいたようだ。


 そんなわけで、あわてて頭を左右に振って気持ちを切り替えた。


「わかりました。ですが、積荷が崩れそうなので、少し片づけてからそちらに行きますね」


 門番の目をかいくぐるために、高く積み上げられた荷。そのすべては木箱だ。


 大小さまざまの大きさで、バラバラに積み上げられている。


 そのせいか、いつ荷崩れしてもおかしくないように見えた。


 このままだと危険だ。


 高く積み上げておく必要はなくなったし、崩れないようにきっちりと並び替えたほうがいいだろう。


 前のほうから、ヨドネコの声がする。


「わかった。だが、荒れた道はないから滅多なことでは崩れないはずだ。だから全部やる必要はないぞ。やるなら、ほどほどにやってくれ」


「はい、わかりました」


 とりあえず俺はそう答えた。


 だけど、本当に全部やらなくていいのかな……。


 そう思っていると、ヨドネコが箱の積み方に注文をつける。


「おっと、そうだ。可能なら、箱に塗られているペンキの色ごとに積荷をまとめといてくれ。いつもは面倒でやってないが、そのほうがあとで降ろすとき仕分けせずに済むからな」


 そしてヨドネコは、再び念を押す。


「それと、本当にやれる分だけでいいぞ。あまり無茶をしすぎると、かえって荷崩れするかもしれん。だからいいか、くれぐれも全部やるんじゃないぞ」


 俺は念を押されて、ヨドネコの発言の真意に気づく。


 普通なら、俺を心配して言ってくれていると考えるだろう。


 だが、この場合は違う! その意図を深読みすると、きっと「全部やれ」と言っているに違いない。いろいろと手伝ってやったうえ、タダで馬車に乗せてやっているのだから、恩を返せと遠回しに言っているのだ。


 ということは、言葉どおりの意味に捉えて中途半端にやってはダメだ。押すなと言われても押してしまうダ○ョウ倶楽部みたいに、やるなと言われてもやらないとね。


 ふぅー、危ないところだった。


 大事なことを二度言ってくれたからこそ、気づけたようなものだ。


「了解です!」


 俺は元気よく返事した。


 さて、それでは始めるか。


 手始めに目の前にあった、傾いて積まれている木箱を揺らして確かめる。


 すると意外なことに木箱は安定していて、ガタつく様子はない。


 確かにヨドネコの言ったとおりで、簡単に崩れることはなさそうだ。


 でも、やると決めたからには、全部片づけないと格好がつかないぞ。


「よし! とっとと終わらせよう」


 俺は気合を入れた。


 不安定な馬車の上なので木箱を落とさないように気をつけながら、色と大きさを意識してキレイに並び替えていく。


 すると、途中であることに気づいた。


「ヤバい。楽しいぞ、これ。まるでパズルゲームみたいだ」


 木箱を並び替えていたスペースに、色とサイズの合った木箱を探して入れ替える。


 一見すると、それを何度も繰り返すだけの単純な作業。


 しかし、色や形を意識する必要があるので、俺は昔に流行はやった落ちゲーをやったときの感覚を思い出していた。


 だからだろうか、それらパズルゲームの持つ謎の中毒性と同じように周りが気にならなくなっていて、のめり込んでしまう。


 そして気づいたときにはすべての作業が終わっていて、積荷の高さが最初の半分になっていたのだった。


 バッチリとそろった木箱の色。


 無駄なスペースもまったくなくなったので、崩れる心配はゼロだ。


「よし、完成だ」


 ぷよぷよやテトリスで例えるなら、全消しをやったときの気分である。


 でも、これでゲームみたいに積荷が消えてしまったら大変だな。


 俺は苦笑いした。


「――さてと」


 満足した俺は、荷台の後ろから馬車を飛び降りる。そして、ヨドネコの座る御者席のほうへ小走りで駆け寄った。


「お待たせしました。とりあえず終わりましたけれど、隣に座らせてもらっていいですか?」


「ああ、もちろんだ」


 ヨドネコの許しをもらった俺は馬車に飛び乗り、隣のいた席に腰掛ける。


「どっこいしょ」


「ご苦労だったな。どれ、少しは片づいたかな」


 そう言うと手綱を持ったままでヨドネコは立ち上がり、後ろのほうを振り返った。


 荷台を見たヨドネコは首をかしげる。そして何度も服のそでで目をこすっては、パチパチとまばたきをした。


 そのあと、あわてた様子で馬車を止めて飛び降りると、荷台の周りをぐるりと一周する。そして戻ってくるなり、口をあんぐりと開けながら荷台を指差した。


「どうなっているんだ、これは! 全部片づいているじゃないか!」


「あれっ? 全部やるなっていうのは、全部やれという意味だったのでは?」


「いや、いや、いや、どう聞いてもそんな意味なわけないだろ!」


 聞いてないよぉ!


 あっ、聞いていたんだっけ……。


 もしかして俺、勘違いしちゃいました?


「えっ!? だとしたら全部やったらダメだったんですか?」


「そういうわけじゃない。俺としては楽になるから助かるよ……」


「それならよかったです!」


 危なかった。せっかく完璧に終わらせたのに、元に戻せと言われたら「訴えてやる!」と叫んでいたところだったよ。


 正直、やり直すとかの作業が一番きつい。


 ヨドネコが再び席に座る。


「そんなことより、あれだけの時間でここまでキレイに並び替えてしまうなんて、普通じゃないぞ」


「そうですか? こういうパズルみたいなのが得意だからかもしれません」


「なるほど、そういう理由わけか。――それにしてもスゴイな。俺よりもこの仕事に向いているかもしれん」


「たまたまですって。それにこれ以上重い荷物だと、私の力じゃ動かせません。腰を痛めてしまいそうですし」


「平気、平気! まだ若いし、すぐに力はつく。それに腰はまだ無理が利くだろうよ。俺くらいの歳になると、さすがに心配しなきゃならんがね」


 そういえば、俺の見た目が二十歳はたちくらいだったのをすっかり忘れていた。


 四十代のつもりで答えたが、これだけ体を動かしても息切れしないってことは、見た目どおりの体力があるのかもしれない。


 そんなことを考えていると、再び馬車を走らせたヨドネコが口を開く。


「ところで疲れているところ悪いが、町まで暇つぶしに、話し相手になってくれないか?」


「もちろんです。ご好意で馬車に乗せてもらっていますし、それくらいはお安い御用ですよ」


「そいつはありがてぇ。こういう仕事を長くしていると、移動時間は暇を持て余していけねぇからな」


 確かにヨドネコの言うとおりで、俺はそのことに共感を覚えた。


 ラジオでもあれば、道中のいい気晴らしになると思うけど、この世界にはないだろうから、話し相手くらい欲しくなるはずだ。


 でも、ちょうどよかった。


 俺も情報収集が必要だったから、いろいろと聞きたかったところだ。


「そういえば、ヨドネコさんが向かっているところって、なんという町ですか?」


「サビレイタの町だ。ちなみに俺はかれこれ二十年間、サビレイタとオークランドをずっと行き来している。なんせオークたちの国で品物を仕入れて、ほかの町の商人たちに売る、卸業をやっているからな」


「そうでしたか。しかし仕入れって、こんなにも大量の荷を一回に運ぶ必要があるんですね。驚きです」


「まあ、いろいろとあるんだよ。それに気味悪がって、オークの国に行くヤツも少ないからな」


 そうか、ビジネスチャンスというわけか!


「それじゃ、かなり稼げるんでしょうね! 競争相手が少ないわけですから」


 俺がそう言うと、手綱を握ったヨドネコの顔が曇る。


「そうだといいんだけどな」


「えっ!? 違うんですか?」


 俺は不思議に思い、聞き返した。


「正直、もうかっちゃいないよ。オークたちの作ったものを毛嫌いする人間も多くてな。だからこれだけ運んでも、たいした金額になりゃしないのさ」


 あちゃー、薄利多売のほうだったか。


 どうりで、さっき「いろいろとあるんだよ」と言って、お茶を濁したわけだ。


 俺は同情する。


「悲しくなりますね。人間と同じで、いい方も多くいるのに……。人間はみんな、見る目がないんでしょうか?」


「……そうだな。でも、それが人間のオークに対する普通だよ。なぜなら、彼らを取るに足らない存在として見下しているからだ。――何かキッカケがない限り、人間がオークに興味を持つことなんてないだろうよ」


 諦めた顔をするヨドネコ。


 だが、俺はそうは思わない。


「それでしたら大丈夫かもしれません。キッカケに心当たりがあります」


 ヨドネコは俺のほうを見る。


「俺に気を使って言っているんなら、そいつは無用だぞ」


「いいえ、そうではありません。オークたちの歌う歌、これってキッカケになりませんか? 少なくとも、歌に国境や種族の垣根はありませんから」


「歌の力か……」


「はい、オークたちの歌はスゴいんですよ。だから近い将来、必ず人間たちはオークに興味を持ってくれるはずです」


 俺は自信たっぷりに答えた。


 今回フェスに参加して、そう思ったからである。


 それにオークランドにいるときにいろいろと調べてみたが、人間たちのほうの音楽は昔からあまり代わり映えしないらしい。だからコスモスやフアンDEATHの歌を聞きさえすれば、きっと人間たちもオークに興味を持ってくれるはずだ。


「へえー、えらく自信がありそうな物言いだな。俺は歌になんか全然興味はなかったが、なんだかオークたちの歌を聞いてみたくなってきたよ」


 真剣な顔をするヨドネコ。


 おそらくは彼もオークの人柄が好きで、どうにかしたいと思う気持ちがあったはずだ。もうからない仕事と言っていたのに、長く続けていることからも、それは明らかである。


「今度ぜひ聞いてみてください」


「ああ、わかった」


 ヨドネコは大きくうなずいた。


「ところで話は変わりますが、町までどれぐらいで着くのでしょうか?」


「何もなければ山小屋で一泊して、明日の昼には着くぜ」


 えっ!? そんなにも近いの?


 人間とオークが住んでいる場所が、こんなにも近いとは驚きだ。


 だけど、コスモスが言っていたことを思い出す。


 ずっと昔、この辺りに住んでいたオークたちと人間たちとの間に、争いがあったそうだ。しかし戦争では決着がつかず、平和的な勝負方法で勝敗を決めることになったらしい。それが歌の勝負――歌合戦で、それに勝ったオークたちが、この周辺をオークの国として認めさせたって話だった。


 お互いこれだけ近い場所に住んでいれば、そりゃ争いも起こるはずだ。


「了解です。意外と近いですね。ちなみに途中で盗賊やモンスターに襲われることはありませんか?」


「ここいら辺りに、盗賊はいないな。この辺りが田舎ってのもあるが、ヤツらはオークと関わり合いになりたくないらしい。それとモンスターだが、手を出さなきゃ襲ってこない雑魚スライムを、たまに見かけるぐらいだ」


「よかった。それを聞いて安心しました」


 俺はホッと息をつく。


 ウィンドウがいないときに襲われでもしたら、なすすべがなかったところだ。


 急にヨドネコが真顔になる。


「俺も一つ聞きたいことがある。いったい何をやらかしたんだ? 国外追放とは、ただ事じゃないぞ」


 ヨドネコは俺と多少なりとも打ち解けたと思ったのか、こうなった原因をズバッと聞いてきた。


「えっ!? それを知らずに馬車に乗せてくれたんですか?」


「まあな。あの頑固な取調官が頼むぐらいだ。悪いヤツのはずはないからな」


 そのうち、この話題がくるとは思っていたが、なんと取調官は俺の罪状をヨドネコに話していなかったらしい。


 それなのに俺を馬車に乗せてくれていたなんて、お人好ひとよしにもほどがある。


 だからこそ、ありがたいと思うし、ウソをつこうとも思わなかった。


「……サガ音楽フェスタを知っていますか?」


「そりゃ、もちろんだ。オークランドで年に一回開催される祭りだろ? 理由は知らないが、大きなお祭りなのに田舎のほうでやっているそうだな」


「はい、そのとおりです。それで実はその祭り、人間は入場すらできない決まりなんですが、オークのふりをして紛れ込んでいまして、祭りの途中にバレてしまったというわけです」


 俺は詳しい経緯を避けて、手短に話した。


 大まかには間違っていないし、このほうがわかりやすいはずだ。


 すると、それを聞いたヨドネコは腹を抱えて大笑いする。


「あははは! そりゃまあ、スゴイことをやらかしたな。毎年この時期は国境を通るときに、絶対にあの祭りだけは近づくなと釘を刺されるぐらいなのに」


「ですよねー。そんなわけで見つかって、このとおりというわけです」


「なるほどな。でも、国外追放だけで済んでよかったじゃないか」


「はい、それにヨドネコさんのおかげで、先ほど知り合いに別れの挨拶をちゃんと言えましたから、もう心残りはありません」


「そりゃいいことだ」


 ヨドネコはホッとした表情をすると、言葉を続ける。


「……あんたが理由わけを話している途中に泣き出さないかとハラハラしていたが、どうやら取り越し苦労だったみたいだな。泣き出されでもしたら、どうやって慰めようかと思っていたよ」


 心配されていたみたいだ。


 だけど俺も男だし、めそめそ泣くようなことはないと思う。


 それとも他人から見ると、俺はそんな風に見えるのだろうか。


 ふと疑問に思い、尋ねてみる。


「これでも一応男なんですけど、そんなにも女々しい感じに見えましたか?」


 俺の問いに、ヨドネコは笑いながら手を振って否定する。


「違う、違う、そうじゃないんだ」


 急に真面目な顔になるヨドネコ。


 何かを思い出しているのか、少し上を見上げる仕草をして口を開く。


「いやね、十年くらい前の話になるんだが、今と似たような感じでオークランドを追い出される女性を馬車に乗せたことがあるんだよ。そのときに話を聞いたら、泣き出されちまってね」


 俺はそれを聞いて、ドキリとする。


 そして無意識にヨドネコの両肩をつかんでいた。


「待ってください! その人、なんて名前でしたか!?」


「おいおい、いきなりどうした。ちょっと落ち着け」


 ヨドネコにそう言われて我に返ると、俺はあわてて彼の肩から手を離す。


 マズい、冷静さを失っていたようだ。


「すみません、取り乱しました。知っている人かと思ったので……」


「そうだったのか。まあ、気にするな。それでだが、名前は聞いちゃいないよ。なんせ話を聞こうにも、ずっと泣きっぱなしだったからな。それに今となっちゃ、身なりが学者風で美人だったのを、なんとなく覚えているぐらいさ」


「そうですか……」


 俺が知っている人物のように思えるが、確信が持てない。


 ヨドネコは申し訳そうな顔をする。


「悪いな、力になれなくて」


「いいえ、お気になさらずに。では、あと一つだけ聞かせてください。オークランドから国外追放される人なんですが、かなり多くいるんですか?」


「あー、その質問なら簡単だ。俺が知っている限り――いや、間違いなく、ここ十年であんたを含めて二人だけだ。あの国を訪れるヤツは限られているが、そいつらからもそんな話は聞いたことないからな」


「やっぱりだ……」


 俺は確信する。その人物こそがコスモスの母親、ナミ・モリィであると。


 コスモスが五歳の頃に母親が国外追放になったと聞いているから、十年前というのも時期的にも合っている。それにオークランドに定期的に訪れているヨドネコが知らないというのなら、まず間違いないだろう。


 だとすれば、これは手掛かりを得るチャンスだ。


「教えてください! その人は今どこにいるんですか?」


「もう町にはいないと思うぜ。サビレイタの町に着いて別れるとき、乗合馬車のことを聞かれたような記憶があるからな」


「だとすると、町にいる確率は低いですね……」


 十年前の話だ。おそらく、故郷にもう帰ってしまっているだろう。


「そんなに大切な人なのか?」


「いえ、私ではなく、知り合い――コスモスさんと言うのですが、その方の母親です。コスモスさんは国外追放になってしまった母親との連絡が、一切認められていません。だから母親に、コスモスさんと父親の近況を知らせてあげられればと思いまして」


「そういうことか。しかし、探すのは不可能に近いぞ。どこへ向かったのかを聞こうにも、十年前のことで誰も覚えていないだろうし」


 理屈はわかる。


 だけど、知ってしまったからには、あっさりと諦めるなんて絶対に嫌だ。


 俺は両手に力を込めて、こぶしを握る。


「それでも探してみます。ほんのわずかな可能性がある限り諦めてはダメなことを、オークランドで知りましたから。そんなわけで、やれるだけやってみます」


 たとえ探さなくても誰かに責められることはないが、コスモスさんたちには何かとお世話になった。だから、できる限りのことはしてやりたい。それに、何か今後の目的みたいなのが欲しかったので、ちょうどよかった。


 俺がそんなことを考えていると、ヨドネコがあきれた顔で俺に告げる


「決意を固めているところ悪いんだが、身一つで追い出されたんじゃないのか? カネがなくちゃ人を探すにも話にならないぞ」


「そうでした……すっかり忘れていました。すみません、町に着いたら何か手っ取り早く稼ぐ方法って、ありませんか?」


「そうだなー。すぐにカネがいるとなると、やっぱり冒険者だろうな」


 オーマイガー!


 異世界転生のお約束だから、そうくるんじゃないかと思った。


 でも俺には絶対に無理!


 めぼしいスキルは持っていないし、ゴブリンだったときにスライムを倒すのもやっとだったことを考えると、俺には荷が重すぎる。


「冒険者になるのはちょっと……。あのー、それ以外で、もう少し気軽にできる仕事ってありませんか? それもなるべく短期のバイトが希望なんですが」


 転生する前の俺は、いろんな仕事をやったことがあった。体力よりも、どちらかというと頭脳――パソコンを使った仕事が多かったけど。


 それも無理がたたって仕事を辞め無職になったので、なるべくストレスのない仕事をしたい。


 俺がそう思っていると、ヨドネコは申し訳なさそうに言う。


「そう言われても、俺はこの道一本だから、ほかの仕事を紹介できるほど詳しくないぞ……」


「そうでしたか、すみません」


 それなら、まずは自分で考えてみるか。


 探すにしても、短期で頭脳系労働の仕事を探すのは難しいだろう。パソコンないだろうし。


 それとオークランドでやったアイドルのプロデューサーなんていう、俺の趣味と実益を兼ねたような仕事も絶対にないはずだ。


 そうなると、やはり肉体労働か。


 土木作業員のような仕事なら、大抵どこにでもあるだろうし。


 多少きついのはネックだが、給料の日払いはしてくれそうだし、案外悪くないかも。


 なんにせよ、職業安定所みたいなところがないことには話にならないな。


 とりあえず、そういう場所があるかヨドネコに聞いてみよう。


「それなら、町で仕事を紹介してくれるところはないのですか?」

 

「おー、そういえば冒険者ギルドで探せるらしいぞ。あそこは一般の仕事の紹介もしていると聞いたことがある。ただメインは冒険者を相手にしているそうで、そんなに力は入れてないらしいけどな」


「よかった! 選択肢が冒険者しかなかったら、どうしようかと思いましたよ」


 ヨドネコが怪訝けげんそうな顔をする。


「しかしだな、冒険者以外の仕事で短期間だけ働くってのは難しくないか? どう考えても、好きなときに辞められる冒険者のほうがいいと思うんだが……。薬草を集めたりする、簡単な仕事もあるそうだし」


「でも、そういうのって、いきなりドラゴンと出会って戦う羽目になるんでしょ?」


 俺が大まじめに言うと、それを聞いたヨドネコが腹を抱えて笑い出す。


「あははは! そいつは傑作だ。だいたい初心者にそんな危険な場所に行かせる冒険者ギルドがあるかよ。仮にそうだったとしたら、今頃世の中の冒険者はみんな死んでいるか、ドラゴンスレイヤーだらけのどっちかだろうよ」


 ――そりゃそうだ!


 俺が知っている「異世界転生もの」の話では、いきなり序盤にドラゴンや悪魔、魔王といった強敵に遭遇して戦うことになるが、あれはあくまで空想された物語であって、話を面白くするための演出だ。


 実際だと、そんなことが頻繁に起こるはずがない。


 だとすると、めちゃくちゃ恥ずかしいことを言ってしまったのかも……。


 俺は頭をかく。


「あははは……確かにそうですね。だけど、なるべく自分に合いそうな仕事がいいので、とりあえずは普通の仕事を探してみます」


 それでも、やっぱり冒険者は嫌だ。


「まあ、それもいいだろう。ただ、サビレイタの町――というか、この国はずっと景気が悪くてな、その中でもとくにサビレイタは最悪だ。だから、とっとと旅費をめて、ほかの国に行くことを勧めるよ。そうすりゃ、やりたい仕事も稼げる仕事も、どっちも見つかるだろうからな」


「ありがとうございます。参考にさせてもらいます」


 こうして俺の情報収集は終わった。


 そのあとはヨドネコとくだらない話で盛り上がる。そしていつの間にか意気投合して、友人のような関係になっていたのだった。


 あれこれ話し込んでいるうちに日が落ち始めるが、その前になんとか山小屋に到着。


 すぐに食事の準備をすることになった。


 ヨドネコが調理を行い、俺は皿の準備などを手伝って、程なく料理は完成。それをいただく際、ヨドネコがオークランドで仕入れた酒を振る舞ってくれた。


 夜遅くまで飲んで、いろいろと語り合う。


 とても楽しい時間になったのだが、酒にそんなに強くない俺が二日酔いで大変になったことは、言うまでもない。






 次の日、山小屋を朝早くに出発して半日が過ぎた頃、ついに目的地のサビレイタの町に到着した。


 町の第一印象は、ずばりゴールドラッシュが過ぎ去った町だ。


 それもそのはずで、ヨドネコの話によれば、大昔はオークやゴブリンと戦うための最前線として栄えた町だったそうだが、オークとの和平が結ばれたあと、しばらくしてゴブリン帝国が滅び、冒険者がもうかるような仕事がほとんどなくなってしまったとのことだ。


 それからというもの、町は衰退の一途いっとをたどっているそうである。


 だから、なんとかして町ににぎわいを取り戻すのが夢だとヨドネコは語っていたが、この状況を見る限り生半可なことでは難しいだろう。


 活気のない町の中を馬車は進み続ける。


 しばらくして、町でもひときわ大きく古い建物の前でヨドネコは馬車を止めた。


 建物のほうから、ガヤガヤと騒がしい声が聞こえてくる。


 どうやらここだけは、ほかと違ってにぎわっているようだ。


「さて、ここが冒険者ギルドだ。――お別れだな」


 ヨドネコは俺に少しだけ寂しい笑顔を見せると、降りるように促した。


「わざわざ、ありがとうございました。ところで荷物を降ろす手伝いは、いりませんでした?」


「ああ、これだけキレイに積み替えてくれたから大丈夫だ」


 そっか、もう少しお礼を返したかったんだけど……。


「うーん……だったら、そうだ! 働いて給料が出たら、そのときは食事をおごらせてください」


「おっ、そいつは嬉しいね。また飲みまくるとしよう!」


「はい! でも二日酔いになるのは、もう勘弁です……」


「あはははは! 今度は手加減してやるよ。それじゃあ、元気でな」


 ヨドネコはそう言うと、手綱を上下させて馬に合図を送り、馬車を動かした。


 俺はその馬車に向かって手を振り、精一杯の感謝を込めて叫ぶ。


「さよなら! また絶対に会いましょう!」


 すると、馬車の横からヨドネコの手が見え、それが上下する。

 

 それは馬車が見えなくなるまで続いたのだった。





 しばらくして完全に馬車が見えなくなると、俺は左右に振っていた手を下ろす。そして、ゆっくりと冒険者ギルドの建物へ近づいて扉の前で足を止めた。


 すると急に、会社の面接を初めて受けるときのような期待と不安が襲ってくる。


 そしてそれらの感情がごっちゃになり、緊張で足がすくんで一歩も動けなくなってしまう。


「何を緊張しているんだ、俺……。ちょっとハローワークみたいなところに、仕事を探しにきただけじゃないか」


 俺は独り言を言うと、両手で頬をパシパシと何度か叩いて気合を入れた。


 オークランドではあれだけやれたわけだし、もう働くことから逃げているわけじゃない。どんな仕事であったとしても無理をしなければ、きっと大丈夫なはずだ。


 そう思うと、スーッと気分が楽になる。


 多少緊張は残っているが、これくらいのほうがちょうどいいだろう。


「――よし、行くか」


 俺はそうつぶやくと、扉を開けて冒険者ギルドの建物に足を踏み入れたのだった。

この話を書き直している途中、まさか上島竜兵さんが亡くなるとは思いませんでした。

ショックです。

私が大好きだった芸人の一人で、いつも体を張った芸に笑わせてもらいました。

心からご冥福をお祈り申し上げます。




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