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チートスKILL ~中途半端な転生者~  作者: 奥 悠人
3章 今日からブタは!!!
34/48

勝敗の行方は神のみぞ知る

「な、なんと、109点です! フェス史上初めて観客点が100点を超えました。これは歴史的な快挙だ!」


 司会者がスクリーンに表示された点数に興奮して叫んだのを見て、俺は両手で小さくガッツポーズをした。

会場全体が盛り上がりを見せたのは二番の曲からだったので、計測された観客点がフアンDEATHの点数に届かない可能性もあった。

しかし、いざふたを開けてみるとライバルの点数を10点以上も上回る最高の結果であり、喜びもひとしおである。

隣にいたサンドラも同じ気持ちだったようで、感極まって流していた涙と鼻水を手でぬぐうと、笑顔で俺に話しかけてきた。


「やったな! これで審査員点が30点を上回れば、コスモスの勝ちだ。五人いる審査員が6点ずつ点数を出せばいいんだぞ。これは勝ったな」


 おい、ちょっと待ってくれ!

そのセリフの言い回しは、まるで負けフラグみたいじゃないか。

慢心は人間の最大の敵なんだぞ。

それは人であろうと、オークであろうと変わらないはずだ。

俺はサンドラの発言にくぎを刺す。


「安心するのはまだ早いですよ。審査員は歌唱力を重視するそうなので、光による演出をどこまで評価してもらえるか分かりません。それに審査員の中にはハーフオークを嫌っていることで知られている、ヤバイ婆ちゃんがいるんですよ」


 しかし、サンドラはよほど嬉しいのか俺の話に耳を貸さず、ニコニコした笑顔で俺の手を引き寄せて、ガッチリと握手した。

それも涙と鼻水でれた手のままで。

勘弁してくれ……

俺のテンションが爆下がりだよ。

そこに、俺たちの会話に聞き耳を立てていたトンダ社長が話に割り込んできた。


「そのとおりだ。あんな演出は茶番にすぎん! それに、ぽっと出の新人に点数をくれてやるほど審査員は甘くはないぞ」


 相変わらず嫌みなヤツだ。

絶賛テンションゲージがゼロの俺は言い返さなかったが、逆にテンションマックスのサンドラは、耳に手を当てるような格好をして受け答える。


「おや? どこからか負け豚の遠吠とおぼえが聞こえるな」


「ブヒー!」


 顔を真っ赤にして、怒りのあまり地団駄じだんだを踏むトンダ社長。

俺はそれを見てチョットだけいい気味だと思い、少しだけテンションが回復したのだった。

だが、そんな会場のいたるところでガヤガヤしていた喧騒けんそうも、司会者の次の一声で静まり返る。


「お待たせしました。次は審査員点にいってみましょう。泣いても笑っても、これで優勝は決まります。それでは審査員の方々、フリップボードに書いた点数をどうぞ!」


 司会者のかけ声で、端に座った審査員から順番に、机に伏せていたフリップボードを目の前に起こしていく。

その様子はステージ上に設置されたスクリーンに映し出され、フリップボードに書かれた点数が明らかになると、それを司会者が読み上げていった。


「まずは8点、そして次も8点、そして9点、さらに9点……」


 なんと、四人目にして勝利に必要な30点を上回り、それを聞いた瞬間にサンドラは、俺に抱きついて嗚咽おえつを上げた。

ハグよりもちょっとだけ強い腕の力に、彼の喜びが伝わってくる。

でも、お願いだから手は拭いてくれ……

そこにフアンDEATHの二人がやってきた。


「おめでとう。あたしらの完敗だよ。いやー、いいもん見せてもらったぜ。こりゃ、先輩としてうかうかしてられないな」


 フアンはそう言うと、俺に握手を求めた。

俺はサンドラに抱き着かれていたので身動きが取りづらかったが、なんとか隙間から手を差し出して、握手に応える。


「ありがとうございます。ですが、私たちが勝ったということは、あなた方は……」


 俺の言葉にフアンの隣にいたシスは首を横に振ると、笑顔を浮かべる。


「気にしないでいいのです。ドラモリィーの会社に戻れないのは残念ですが、今後はライバルとしてやっていけるのです」


 その答えを聞いて、俺は確信した。

やはり彼女たちは知らないんだ。

優勝できなければ単なるソフトトングへの移籍という契約だけでなく、トンダ社長が二人を好きなようにできる契約になっていることに。

だが、待てよ……

そうだ! サンドラの病気は治ったのだから、いっそのこと、トンダ社長に契約変更を持ち掛けてはどうだろうか?

元はと言えば、この勝負を始めたきっかけは、病気のサンドラを元気づけるためにコスモスの母親にお見舞いに来てもらうのが目的だった。

今となってはその必要はなくなり、コスモスの母親が国を出て行った原因も差別とは別のところにあるので、いくらトンダ社長が政治家になったとしても、母親が帰ってくることはない。

しかしながら、このまま契約が履行されれば、人種差別の改革が行われてハーフオークが暮らしやすくなるメリットは残っている。

だが、それにはトンダ社長は難色を示していたので、その契約破棄を条件にすれば、フアンDEATHとの契約を白紙にする提案に乗ってくれるに違いない。

そんな感じで二人を助けるために頭を働かせていると、舞台の方ではちょっとした事件が起きていた。


「では、そろそろ点数をお願いできませんか、審査委員長。……えっと、私の話が聞こえてますか? おーい、ヤバイ婆ちゃーん。ヤバイ婆ちゃん?」


 舞台の上にいる司会者は、審査員席に座るヤバイ婆ちゃんを何度も呼びかけていた。

しかし、彼女は目を開けたままピクリとも反応せず、隣に座る審査員たちも我関せずといった感じで様子を見るだけで、事態は膠着していたのである。

すると、司会者はこのままではらちが明かないと思ったらしく、彼女の方に素早く駆け寄ると体を激しく揺すって呼びかけた。


「しっかりしてください! ……えっ、まさか死んでる!?」


 死という言葉に反応したのか、ヤバイ婆ちゃんは目をパチクリさせると、いきなり司会者を怒鳴りつける。


わしを勝手に殺すな、馬鹿者が!」


「よかった、ビックリさせないでくださいよ。どうやら放心していただけのようですね。反応がなかったので、本当に死んだかと思いましたよ」


 そう言って揺すった手を止めた司会者は、安どの表情を見せる。


「うるさいぞ、小僧。おまえは昔っから、心配性でいかん。おっと、それよりも今はあの小娘の曲じゃった」


「そうですよ。もうコスモスさんの優勝は決まりましたが、みんなが待っていますので、早く最後の点数をお願いします」


「なに、小娘の優勝が決まったじゃと!? いや、ちょっと待て。わしはまだ点数を出しておらんぞ?」


「そう言われましても、観客点とあなた以外の審査員の合計点数が、2位の方を5点も上回っていますので」


「なんじゃと! ……いや、今はその話はいい。それよりも、そこの小娘に質問がある」


 ヤバイ婆ちゃんは目の前にいた司会者からコスモスに視線を移すと、ギロリとにらみつけた。

それを見てコスモスは、思わず自分を指差す。


「え、うちに?」


「そうじゃ。ちょっと気になったのじゃが、もしかして先ほどの曲は、おかしな楽器を使って演奏しておらぬか? あの複雑なメロディーが、どうしても大昔に亡くなった大婆様から聞き及んでおる旋律に似ておってな」


 それを聞いたコスモスは首をかしげて、何かを思い出すような格好を見せる。


「あの四角い箱って楽器なんかな? ボタンを指で押したり、卵みたいな形の道具をカチカチしたりするだけで曲ができとったけど」

 

 その答えに、司会者や観客たちの反応はポカンとしているだけだった。

しかし、たった一人だけヤバイ婆ちゃんの反応だけは、他の人たちと違っていた。


「そんな、まさか……。それをお主が使えたとでも言うのか?」


うちには無理、無理。プロデューサーのプータローたい、あれで曲を作ったとは。でも、それがどやんかしたと?」


「だとしたら、そやつは自分のことをDTMと言っておったろう……」


 コスモスはその言葉に、すぐさま反応する。


うち知っとる! DTMってドーテーマンのことやろ? どやん意味かは知らんちゃけど、プータローは自分のことを童貞って言っとったよ! そして、DTMで曲を作るって言っとった!」


 ぎゃー! こんな大勢の前で、俺が童貞だってばらしてどうする。

それにDTMはデスクトップミュージックの略で、童貞と全然関係ないって説明しただろ。

これじゃ恥ずかしくて、もう外を歩けないじゃないか!

俺はコスモスの突然の暴露に頭を抱えていると、隣にいたフアンとシスの俺を見る目が、信じられないものを見る目をしているのに気づいた。


「プータロー、おまえ本当に童貞だったのか!? う、ウソだろ? 初めて会ったときは冗談でDTMって言って、からかったけど。おまえイケメンだし、ジョークだよな?」


「あり得ないのです。オークの平均脱童貞年齢は8歳です。統計的には14歳ですべての童貞がいなくなると言われているのです。もし本当だとすると、絶対に〇起不〇です」


 何やら失礼なことを言われた気がしたが、〇に入る文字は再と能であることを信じよう。

だが、今はその事について、彼女たちと議論を交わす余裕はない。

それよりも、あの婆さんが言ったことが気になったからだ。


「ドーテーマン、それはDTMが指す真の意味ではない。もともとの意味はドリーム・テクノロジー・ミュージシャン。神秘なる御業みわざで音を作りし者のことじゃ。しかし、その事実はいつしか忘れられ、その者が童貞だったことから童貞の男を表す言葉として使われた方だけが残った。嘆かわしいが、その事実を知る者はもうわししか残っておらぬ」


「えっと、そのドリームなんちゃらって、三種の神器のことじゃなかと?」


「勘違いするでない。三種の神器は、あくまでオークでも使えるように神様がお与えになった楽器にすぎぬ。何しろ、神自身が使われていた楽器は、ポチポチ、カチャカチャ、ターンで作るらしく、わしらオークでは使いこなせる代物ではないのじゃからな」


「そうそう! プータローも曲を作るとき、そやん感じやった!」


「やはりか……。だとしたら、その曲にふさわしい点数は決まったぞ。すぐに書くから、ちょっと待っておれ」


 ヤバイ婆ちゃんはそう言うと、手元のフリップに点数をサラサラと書き出した。

ハーフオークのことを嫌っていると聞いていたから0点でも仕方ないと思っていたが、先ほどの反応からすると、なんだかんだで結構いい点数のような気もする。

優勝は決まってはいるので点数は0点でも問題ないけど、もらえる点数は高いに越したことはないし、そちらのほうが断然気分がいいからね。

ほどなくして、ヤバイ婆ちゃんは手元にペンを置くと、フリップボードをゆっくりと目の前に起こした。

そこには、控えめにではあるが10の文字が書かれている。


「でました! ヤバイ婆ちゃんは10点です。ハーフオークには厳しい点数を出すと知られていましたが、なんと満点の評価です」


 司会者は自分のことのように嬉しそうに語った。

しかし、ヤバイ婆ちゃんは、そんな司会者にフリップボードを投げつける。


「いてっ! 何するんですか!」


 司会者はフリップボードの直撃した後頭部をさすりながら、肩越しにヤバイ婆ちゃんのほうを振り向いた。


「馬鹿者! 何を見ておる。よーく目を凝らして、その数字を見るのじゃ!」


「どう見ても、さっきの点数は10点だったじゃないですか」


 司会者はそう言いながらも、足元に落ちている裏返しになったフリップボードを拾い上げる。


「ほら、やっぱり10点ですよ」


 あきれた表情をする司会者。

しかし、フリップボードに付いたホコリを手でサッサッと払う仕草をすると、怪訝けげんな表情を浮べた。


「あれ? おかしいな……。この黒い汚れが取れないぞ」


 その言葉を聞いて、俺は嫌な予感で凍り付く。

なぜなら、その直後にヤバイ婆ちゃんが口から語られた内容は、俺の予想した通りものだったからだ。


「当たり前じゃ。それは汚れではなく、マイナスの棒なのじゃからな」


 まさか……、そんなのありかよ。

普通は0から10の範囲で点数をつけるだろ?

その考えは司会者も同じだったようで、ヤバイ婆ちゃんに食って掛かる。


「ヤバイ婆ちゃん、それはルール違反ではありませんか? マイナスの点数なんて前代未聞ですよ」


「そりゃそうじゃ。フェスが始まってから初めての出来事だからのう。じゃが、規則に反しているわけではないぞ」


「ですが、ルールによると審査員は10点以内の点数をつけることになっているはずです」


「規則を読み返せ。それは審査員の規則であって審査委員長のものではないわ」


「分かりました。ルールは後で確認するとして、審査委員長のルールはどのようになっているのですか?」


「審査委員長も10点以内の点数をつけることは同じじゃ。しかし、それは加点だけに限られておらぬ。10点以内であれば減点も可能ということじゃ」


 それを聞くとコスモスは、ヤバイ婆ちゃんに向かって声を張り上げた。


「なんでよ! あんなに観客は盛り上がったのに-10点って、あり得ないじゃなかとね? 納得いかん。理由ば説明して!」


「よかろう。まずわしはハーフオークが好かん。その理由は、わしの旦那だった男がハーフオークの女に寝取られたからじゃ! よって、これでお主の点数は0点になった」


「寝取られ? 意味は分からんとやけど、ハーフオークが嫌いやから0点なのは分かった。でも、なんでそこから10点も減点されるとよ」


「それはお主の曲を作った者が、DTMをかたる不届き者だからじゃ」


「ドーテーマンの何がいかんとよ」


「ドリーム・テクノロジー・ミュージシャンのほうじゃ! あの楽器は神だけが使える神聖な物。なのに、神以外の者が使うとは神を冒涜ぼうとくしたと同義。よって-10点じゃ」


「そ、そんな……」


 コスモスは理不尽な理由に、その場に崩れ落ちた。

そんな暗い雰囲気の中、トンダ社長だけがもろ手を挙げて喜びだす。


「ぎゃはは! ワシの逆転勝ちじゃ」


 ま、まさか、あそこから負けるなんて。

勝利を確信していただけに、俺は絶望して肩を落とした。

サンドラに至っては真っ白の灰になったように固まま動かない。

他に手を考えていなかっただけに正直言って、これは詰んだかも……

だが、何もかも諦めかけそうになったその時、俺の後ろから救いの手が差し伸べられた。


「まだ諦めたらダメですよ、プータローさん。一つだけ手があります」


 声がした後ろを振り向くと、そこにはドラモリィー店長のトンジルが立っていたのだった。


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