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チートスKILL ~中途半端な転生者~  作者: 奥 悠人
3章 今日からブタは!!!
32/48

来訪者、来たる

 出番を終えたフアンDEATHの二人は足早にステージを後にすると、一直線にこちらのほうに向かって来た。

こんにゃろめー、俺に点数の自慢する気だな。

だって、あれだけの高得点だ。

勝ち誇った気分にもなるだろう。

てやんでぇバーローちくしょーめ!

こちとら負ける気は、さらさらないからな。

だが、俺が考えていた理由はすぐに間違いだと気づかされることになる。


「これで満足したろ? だったら、すぐに約束の手配をしてくれ」


 トンダ社長の前で足を止め、フアンは仁王立して相手を睨みつけた。

しかし、それを気にすることもなく、トンダ社長は拍手しながら満面の笑みで答える。


「ブラボー! 素晴らしい歌だった。しかしだ、それはフェスで優勝した場合の話。まだ勝敗は決しとらんぞ」


「歴代最高得点だぞ。もう優勝に決まってるじゃないか! だから頼む、これ以上病状が悪化すると本当にマズいんだよ」


「残念だが、それは聞き入れられないな。契約とはそういうものだ。それに、フフフッ。ひょっとすると、もう治療する意味はないかもしれないぞ」


 トンダ社長は薄気味悪い笑みを浮かべ、フアンの頼みを断った。

それを聞いたフアンは激高する。


「それは、もう手のほどこしようがないって意味かよ? このブタ野郎が!!」


 そう言うと、フアンはトンダ社長の胸ぐらをつかみ、右手の拳を大きく振りかぶって殴りかかろうとする。

しかし、すんでの所でシスにその手を押さえられた。


「待つのです、フーちゃん。相手の思惑に乗ってはいけません。今暴力を振るえばフェスで優勝しても契約違反で報酬がもらえない上に、本当にソフトトングに移籍する必要があるのですよ」


「だって、今まで我慢してたのは人間の国に行けば治療できるって聞いたからだよ。あんな身もフタもないことを言われたら、もう無理だよ!」


 シスは今にも暴れそうなフアンの両手を握ると、正面に対峙して真っすぐに目を見る。


「それは分かります。ですが、せっかくここまで耐えたのです。だから、もうちょっとの我慢です」


 二人が見つめ合う最中、俺は彼女たちに声をかける。


「もしかして、どこか体が悪いんですか?」


「「!!」」


 すっかり俺の存在を忘れていたらしく、彼女たちは驚いた表情でこちらを振り向いた。

しかし、シスはそれをマズいと思ったのか、すぐさま表情を変えて、何食わぬ顔で答える。


なんのことですか? 私たちは、どこも悪くはありませんよ……」


 そう答えるも、なぜかその目は宙を泳いでいた。


「そ、そ、そうだよ。あたしらが病気なわけがないじゃん。ほら、このとおりビンビンしてるだろ?」


 そう言うと、フアンは体を動かして大丈夫だとアピールするが、動きがチグハグで、どう見ても怪しい。

それにビンビンじゃなくてピンピンだろ!

いや、問題にすべきはそこじゃない。

おそらく契約に関係する話だったので、慌ててごまかしたのではないだろうか。

だとすると話は簡単だ。


「そういえば、私たちと同じく契約内容については他人に話せないんでしたね。ですが、もう出番を終えたので話しても大丈夫ですよ。ちゃんと契約相手から許しは得ています。ねっ、トンダ社長」


 その言葉を聞いたフアンとシスはトンダ社長のほうを振り向き、じっと見つめた。

すると、先ほどから何やら笑いをこらえていたトンダ社長は口元を手で隠し、笑いをかみ殺してから口を開く。


「その件だったら、もう話していいぞ。すでに歌い終えて点数は変わらないのだからな」


 そこまで言い終えると、何がおかしいのか、また笑いをこらえるトンダ社長。

それを横目に、フアンがゆっくりと話し始めた。


「分かった、それなら話す。この男は人間の国の偉いヤツにコネがあるのさ。だから、フェスで優勝したら病気の治療のために人間の国に連れて行ってもらう約束なんだよ」


 その話にシスが続く。


「そうなのです。この国の医療技術では手に負えない病気であっても、人間の国にいる医者であれば治せるらしいのです」


 それを聞いて、俺は事のいきさつを理解した。

なぜ、彼女たちが勝負したのかが疑問だったのだが、まさか病気だったとは。

しかし、気になることがある。

そもそも人間にオークの病気を治療できるのかということと、二人とも病気には見えないことだ。

前者については確かめようがない。

なので、後者について聞いてみる。


「理由は分かりました。ですが、お二人とも病気には見えませんが……」


「そりゃそうだよ。あたしらは元気だって言ったろ」


「フーちゃんの言うとおりです。私たちが言っているのは……。えっ!?」


 シスはいきなり両手で口を押えると、体を硬直させほうけた。

しかし、心まではフリーズしていなかったようで、その瞳には、うっすらと涙が浮かんでいる。

それを見たフアンは心配そうに尋ねた。


「どうしたんだよ? 急に黙り込んで。しかも泣きそうじゃん」


 するとシスは震える手でフアンの後ろをゆっくりと指差した。

それを見てフアンは振り返り、驚きの声を上げる。


「えぇぇ!? なんでここにいるの!」


 俺もシスが指を差したほうを見ると、そこにいたのはトンジルで、ここに向かって来るところだった。

ちなみに、トンジルも関係者席に座れるのだが、兄であるトンダ社長の近くに居たくないとの理由で、一般観客に交じって立ち見をしていたはずである。

しかし、彼女たちが驚いたのはトンジルを見たからではないだろう。

彼の横にいる人物を見たからに違いなかった。

その人物はロマンスグレーの髪色をしたオークで、かなりシブめのオジサマだった。

本来であれば、俺と同じくここに来るまでに異性にみくちゃにされそうな顔立ちだが、それは体調が万全だった場合の話である。

そのオークの体はやせ細ってガリガリな上に顔色が悪く、明らかに体調を崩していそうだ。

にもかかわらず、トンジルの肩を借りることもなくこの場所にたどり着くと、俺の隣にあるイスに座ってからフアンDEATHの二人に話しかけた。


「どうやら上手うまけるようになったみたいだな、エレキギターとベースは」


 それを聞いたシスは手の甲で涙を拭うと、少しだけ怒った感じで答える。


「サンドラ様、なぜここにいるのですか? 絶対安静だったはずですよね」


「シスっちの言うとおりだよ。それに、病気を治療する方法がもう少しで手に入るんだ。だから、大人しく病院のベッドで寝てなよ」


 一方のフアンはシスと違って、心配そうに語りかけた。


「病気のことは、もう気にしなくていい。それよりもおまえらの歌、すごエロカッコよかったぜ!」


 サンドラと呼ばれたオークは、そう言って親指を立てて笑みを見せた。

それを聞いたフアンは照れくさそうにほおをかく。


「ここまでけるようになるのに二年もかかっちまったけどな。だけど、約束どおり1,000回目のフェスに間に合わせたし、楽器のことだって今日まで誰にも言ってないぜ」


 その報告を聞いていたサンドラは満足そうにうなずいていたのだが、シスが足をダンと地面に叩きつけたことで、和やかな雰囲気はさえぎられた。


「今はそれより重要な話がありますよね! 病気はどうしたのですか? 気にするなって言われても無理です」


 鬼のような形相のシスにサンドラは気圧けおされたようで、深く息を吐いてから頭を下げる。


「すまん。先に報告すべきだったな。今は熱も下がって痛みも治まり、意識もはっきりしている。だからそこまで心配する必要はないよ、シス」


「本当に? 少なくとも医者の許しをもらえたようには見えないのですが」


「それは内緒で病院を抜け出してきたからな……。だが、死ぬことはないさ」


「医者もさじを投げたというのに、いきなり治ったとでも言うのですか? そんなの信じられないのです」


「確かに、そう思うのも無理はない。しかし、原因が病気でなかったのさ」


「おっしゃっている意味が分からないのですが……」


「簡単に言うと、死にかけていたのは病気に見えるような毒薬を飲まされたせいだ。だが、幸運にも原因が分かって解毒剤を手に入り、こうしてここに居るってわけさ」


「まさか、毒薬なんてことが……。いや、でも――」


 シスが考え込むのを見て、二人のやり取りを無言で聞いていたフアンが口をはさむ。


「それって治療はもう必要ないってことだよな。だったら、人間の国にわざわざ行く必要はないってことにならねーか?」


「……どうやら私たちは、まんまとはめられたみたいです」


「どういう意味だよ、シスっち。一人で納得しないで、あたしにも教えてくれよ」


「おそらくですが、そこでニヤニヤしている醜いヤツは、サンドラ様が薬を飲んで容体が回復しているのを知っていたのです。知っていたからこそ、さっきから私たちが言動を見て笑いが止まらなかったのでしょうね。ほら、先ほどフーちゃんがアイツに怒ったときの会話を思い出してみるといいのです」


「――そうか! アイツが言った治療する意味がないってのは、そういう意味だったのか!」


「そのとおりです。そして、もしかしたら毒薬を飲ませたのも……」


 そう言ってシスはトンダ社長をにらんだが、相手はそれを聞いて動じるようなタマではなかった。


「毒薬を飲まされていたとは災難だったな。しかし、聞き捨てならぬ話をしておる。ワシが先ほどから笑っておったのは、プータロー君との勝負に勝てそうだからだ。ワシをおとしめる言動は契約違反になるぞ、発言には注意したまえ! それとも何か証拠があって、ワシが毒を飲ませたと言っているのかね?」


「ありませんです……」


 シスは悔しそうにくぐもった声で返した。

それをあざ笑うような態度でトンダ社長は畳み掛ける。


「そもそも、そちらからワシの所に相談に来たのではないか! 確か、同僚だったドラモリィーの社員から聞いたそうだな。ワシが人間の国にいる凄腕の医者にコネのあると。違うかな?」


「違わないです……」


「だが、治療には多額の費用が必要だった。だから、後腐れがないように勝負を提案したのだよ。君らを手に入れるか、大金を失うかのハイリスクな勝負をね。しかし、さすがに負けたら資産の三割を失うのでは、こちらとしては割が合わぬ。なので、とりあえず君らにはフェスが終わるまではソフトトングで働いてもらい、ワシが負けた場合の損失を少しでも穴埋めしてもらうことで契約成立となったわけだ。ほれ、どうした。反論があれば何か言ってみるといい」


「……」


 シスはトンダ社長の発言に何も言い返せないようだ。

それもそのはず、シスの先ほどの発言はすべて推測である。

だが、その考えは間違っていないはずだ。

なぜならトンダ社長の話に出てきたドラモリィーの社員とはポーク・マキことブタック・ジャックに違いないわけだし、彼がサンドラにこっそりと毒を飲ませたのだから。

それもこれもすべてはトンダ社長がコスモスを手に入れることにつながっているのだが、この場では言えない。

トンダ社長が彼を雇ったとの証拠がない以上、言ったとしても状況は好転しないし、コスモスが賭けの対象であることを彼女たちに話せないからだ。

 しかし、何はともあれ、これで彼女たちが結んだ契約内容が分かったことになる。

まさかコスモスの父親を助けるためだったとは思いもよらなかったが……

だからこそ、俺には二人の落胆は計り知れない。

だが、非常にもそれを見越したかのようにトンダ社長が追い打ちをかける。


「ついでに言うと、人間の国に行く必要がなくなったからといっても契約は破棄できないからな。それはそちらの都合であって、優勝できなかった場合は本当に移籍してもらうぞ。と、言っても君らの優勝は決まりだろうな。まっ、ワシのためにタダ働きしたと思えばいいさ。ワハハハハ!」


 トンダ社長の大笑いを見て、シスはガックリと肩を落とす。


「やられたみたいです。どうやら、私たちのこれまでの行動は無意味だったようですね……」


「だな。せっかくダンナに恩を返せると思ったのに無駄になっちまった」


 フアンはそう言いながら、うなだれたシスの肩に手を回して頭をでた。

それを見かねたサンドラが二人に声をかける。


「すまん。どうやら俺のために、つらい役回りをさせてしまったようだな」


 そう言ってサンドラは立ち上がり、二人を抱きしめた。

それからそのまま俺の方に目を向ける。


「ところで君が娘を手伝い、そして薬を手に入れてくれた……プーさんだったかな?」


「どこのクマさんですか!」


「おや、違ったかな」


「コホン……失礼しました。私はプータローと言います」


 そこまで言ってから思い出したが、俺のステータス画面上の本当の名前はブータローである。

いまさらどうでもいい話だし、みんなにはプータローと名乗っているので、あえて訂正はしなかった。


「おっと、こりゃすまなかったな。俺の名前はサンドラ・モリィー。もう分かっているとは思うが、コスモスの父親だ。まずは薬の礼を言わせてくれ。助かったよ」


「そんな、礼はいりませんから頭を上げてください。しかし、薬を飲めば数日でベッドから起き上がれると聞いていましたが、まさかもう会場にやってくるとは思いませんでしたよ」


「そうだろうな。だが、娘の晴れ舞台なら、いつくばってでも来るのが親ってもんさ。それに、トンジルから娘が結んだ契約について報告があったからな」


 そっか、トンジルは今回のあらましを報告していたか。

サンドラはドラモリィーの社長なので契約上、今回の勝負について知る権利を有している。

だから話しても契約違反になることはないが、余計な心労をかけさせまいと報告しないと思っていたのだが。

しかし、そのおかげで説明の手間は省けたので、正直ありがたくもあった。

とりあえず、俺は頭を下げてサンドラに謝る。


「すみません。コスモスさんが未成年で契約が無効になったときに、私が強く勝負をやめるように言っていれば……」


「仕方ないさ。これはアイツが望んだことで、勝負に負けた時の覚悟はできているはず。それに俺は何かが起こって、きっと勝つと思うぜ。なぜなら今日が予言の日であると、俺は確信しているからな」


 その話を聞いていたトンダ社長はプッと吹き出し、一人つぶやいた。


「何が予言だ。笑わせてくれるな」


 それを聞き捨てならぬとサンドラが言葉を返した。


「トンダさんよ、あんた記憶力は良いほうかい?」


「ふんっ! 当たり前だ。でなければ、企業のトップは務まらんわ」


「だったら、予言の内容くらいは覚えているんだろ?」


「記念すべき日、雷鳴が轟く約束の地にて、何かが起こるだったか。全くもって下らないな。予言にありがちな如何様いかようにも解釈できる言葉の羅列ではないか」


「そっか、そう思っていたなら気づかなかったよな。今さっき、雷鳴が轟いたことに」


「はぁ? 空には星が見えて雲一つないのに、いつ雷が鳴ったというのだ。馬鹿も休み休み言え」


「だったら教えてやるよ。雷鳴が轟くってのは、ものの例え。千年前の人たちにはそう思えたんだろうな。そして、千年の時を経て今夜、この会場には雷鳴が鳴り響いた。察しがいいアンタなら、この意味を理解できるだろ?」


 それを聞いたトンダ社長はゴクリとツバを飲んだ。


「まさか……、雷鳴とは電気の鳴る音。つまり、神器の奏でる音……」


 その答えに、サンドラはニヤリと笑みを見せる。


「正解だ」


「そんなものはこじつけだ!」


「そう思うならそれでもいい。だが、俺の家に代々伝わる言い伝えに、こうある」


「言い伝えだと? そんな話、ワシは興味ない」


「そう言わずに聞きな。俺の祖先は千年前に人間からこの地を守備していた兵士で、思わぬことから神様を手伝うことになったそうだ。その結果、神様に信頼されて神器の封印場所と封印が解ける日を教えられ、頼み事をされたんだとよ。歌合戦は名を変えて、この先もずっと続いていくから、その記念すべき千回目に再び神器を使ってほしいってね。そして、それがすべてのオークを救うことに繋がるカギだとよ」


「一つ聞く。なぜ、もう一つの神器を使わなかった? おまえの手元にあったはずだ」


「あぁ、それも神様からの注文だ。神器の存在は今日披露するまで、最初に手にした三人だけの秘密にしなきゃならなかったのさ」


「どうりで三種の神器のうち二つしか披露されないわけだ。おまえが三つ目の神器を手にしてしまったんだろ?」


「ご明察。さすがだな」


「そうなると、神器の三つがそろわない中途半端な演奏だったわけだ。神からの依頼は失敗ではないか」


 そう言うと、トンダ社長はニヤニヤと笑みを浮かべて嬉しそうな顔をした。


「違うな。もし制約がなければ、俺は神器を誰かに託していただろう。そして、あんたの下に三種の神器が揃い、うちの娘じゃ勝負にならなかったはずだ。だから結果的には良かったんだよ。これも神様がうちの娘を勝たせるための、おぼしだったのさ」


「妄想も大概にせい。それこそ、こじつけだ。だいたいオークを救うだと? 人間との争いもなくなり平和になった今、何を救う必要がある」


「何についてかは俺にも分からない。だが、神様が天に帰られるときに言った、最後の言葉がカギだろう。その言葉は神の世界の言葉らしく意味は分からないがな。なぁ、知りたいかい?」


 トンダ社長は迷った顔をしたが、小さな声でつぶやく。


「……教えろ。なんと言ったんだ?」


 どうやら、知的好奇心を刺激されたようで、聞かずにはいられなかったらしい。

俺だってその一人である。

場に緊張が走り、皆の視線がサンドラに集まった。


「アイル・ビー・ピッグ。ただ、それだけ言い残したそうだ」


 それを聞いた俺は思わず噴き出した。


「それだと、私はブタになりますって意味ですよ! 絶対にアイル・ビー・バックの聞き間違いですって」


 こんな有名なセリフを聞き間違えるなんて。

そんなことを考えながらサンドラとトンダ社長の顔色をうかがうと、俺のセリフを聞いた二人の表情は凍り付いた。


「プーさん……。あんた、この言葉の意味が分かるのか?」


 サンドラは震える手で俺の肩をつかむと、言い寄ってきた。


「だから、プータローですって。それに単なる中学レベルの英語……」


 そこまで言ってハッとする。

今まで普通に会話していて忘れていたけど、この世界の言葉は統一言語ではない。

それに、ここは異世界でオークが住む国。

そんな国の言葉が英語であるはずもなく、俺が話しているはずの日本語も相手が知る言葉に変換されている可能性が高い。

だとしたら、なぜアイル・ビー・バックは変換されなかったのか?

それは親指を立てて去り際に言ってこそ意味があるセリフであり、変換されては台無しだ。

おそらくだが、条件次第で変換されずに音声だけ伝わるのだろう。

でなければ、俺の名乗っているプータローは違う意味に変換されているからだ。

だが、そうなるとオークの神様は転生者なのか?


「おい、何を黙っている。さっさと教えんか!」


 トンダ社長が俺に詰め寄り、サンドラに代わって肩を揺さぶってきた。

たまらず、俺は巡らしていた思考を一度止める。


「分かりましたよ! 教えますから、ちょっと揺するのやめてください」


 するとトンダ社長は大人しく肩から手を離した。


「私が知っている国の言葉であればですからね」


 俺は念を押し、落ち着きを取り戻したところで一つ思いつく。

よし、試してみる価値はあるな。

そう思い、皆が注目する中、俺はその意味を告げる。

ただし、英語のままで。


I’ll (私は)be back.(戻ってくる) そういう意味です」


「まさか、再び神は降臨するとでもいうのか……」


 トンダ社長はヘナヘナと椅子に腰を下ろし、力なくつぶやいた。

やはり通じた!

思ったとおり意味を考えた発言は変換されることで間違いない。

他にも条件があるかもしれないが、まずは良しとしよう。

俺は満足して頬を緩ませていると、サンドラが鋭い目つきで俺を見ているのに気づく。


「こいつはたまげたぜ。まさか、この言葉の意味を知る者がいるとはな。プーさん、あんたいったい何者だい?」


 いったい何者か……

どう答えるのが正解なのか。

なんやかんやでコスモスを手伝うことになり、今は音楽プロデューサーみたいなことをやっている。

それだけを考えると、会社を辞めて家で引きこもり、趣味のボカロP活動やってた時とあんまり変わらないな。

趣味でヒーロー活動をやっている漫画の主人公と同じだ。

だとしたら、俺はみんなに呼ばれているこの名前のとおり、ただのプータローなのだろう。

なぜなら、今は仕事の苦痛で心が死んで真っ黒に染まっていたあのときとは違う。

俺は二度と黒く染まらない、心の色のままでいたいのだから。


「そうですね、私はかつてただのプータロー(無職)でした。そして、今も心はムショクで……」


 そう言いかけたところで会場にアナウンスが流れ、俺の言葉はかき消された。


「先ほどの休憩時間が短くてクレームが入りましたので、ただいまはその分を含めた長めの休憩時間となっております。まもなく始まりますので、今しばらくお待ちください」


 司会者からのアナウンスが会場に流れると、ハーフオークの集団が陣取っている場所から大歓声が沸き起こった。

その大歓声で我に返ったトンダ社長はサンドラに顔を向け、高らかに宣言する。


「もう神のことなんぞ、どうでもいいわ! 神が現れようと現れまいと勝つのはワシだ」


「違うね。きっと、うちの娘が勝つさ。そして先に謝っておく。フアンとシス、娘を応援するが恨むなよ。俺も親だし、娘が勝たないとマズいことになる」


「気にするなよ、ダンナ。どんな賭けかは知らないけれど、トンダとの勝負だ。相当ヤバいもんに違いないからな」


「フアンの言うとおりです。私たちが負けて移籍になったとしても自業自得なのです。だから私たちもコスモスちゃんを応援するのです!」


 そう言うとシスは拳を上に突き上げた。

その頃、ステージの上では司会者が舞台の中央へと進んでいるところで、開始を待っていた観客たちの歓声がスッと静まる。


「長らくお待たせしました。最後の出演者はドラモリィー所属のコスモスさんです。拍手でお迎えください。では、どうぞー!」


 ハーフオーク以外からは、まばらな拍手。

そんな嫌な雰囲気に負けまいと、ここにいるコスモスを応援する仲間は精一杯歓声を上げるのだった。


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