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チートスKILL ~中途半端な転生者~  作者: 奥 悠人
3章 今日からブタは!!!
31/48

じんぎある戦い!?

 サガ音楽フェスタも終盤。

辺りは完全に日が沈んだことで暗闇が広がり、空には星が見えていた。

しかし、フェスの会場は魔法による照明によって照らされており、観客の熱い歓声も相まって、ここだけがまるで別世界の様相をていしている。

 残るは、ついにフアンDEATHとコスモスの2チームのみ。

そして、次はライバルであるフアンDEATHが歌う順番だが、今しがたトイレから戻ってきた俺は椅子に座ると、ホッと胸をなでおろした。

それには理由がある。

前の出演者と次の出演者の間には通常5分ほどの準備時間が挟まれる。

この準備時間中にトイレに行こうものなら混雑で戻って来られなくなり、次の出演者の紹介が始まっている可能性が高い。

しかも、これが人気出演者の準備時間中にトイレに行こうものなら、演奏さえも終わって聞けないことさえあるのだ。

だからそれを考えて、先ほど俺はフアンDEATHが登場する前のグループの準備時間中にトイレに行ったのだった。

ところが、トイレは大混雑。

それは明らかに俺と同じ理由でトイレに来た人たちで、俺は改めてフアンDEATHの人気の高さを思い知らされる。

そして俺はトイレを済ませると、なんとかフアンDEATHの登場前に席に戻れて安心したのだった。


「ふぅー。間に合わないかと思ったわい」


 声の方に目を向けると、俺より前に席を離れていたはずのトンダ社長がハンカチで汗を拭きながらトイレから戻ってきたところのようだ。

そして、やれやれといった表情で席にたどり着くと、腰を下ろしながら独り言をつぶやいた。


「さて、いったいどんな歌を聴かせてくれるのやら」


 それを聞いた俺は、驚いて思わず聞き返す。


「えっ!? 自分のところのアイドルなのに、今日彼女たちがどんな歌を歌うか知らないんですか?」


「まあな。勝負が終わるまでは、彼女たちが練習している場所に近づかない約束だったのでな。しかし、問題はないぞ。何せ、二人が寝る間を惜しんで練習していたことは部下から報告を受けておるし、優勝しないことには彼女たちの望みがかなうことも、移籍期間が終わることはないのだからな」


「やはりですか。何やら訳ありとは思っていましたが、どうやら完全な移籍ではなかったみたいですね」


 それを聞いたトンダ社長は一瞬だけ、バツの悪そうな顔をしたが、すぐに何食わぬ顔で答えた。


「おっと、口を滑らせてしまったな。まぁ、今さら隠しても仕方ない。そのとおりだよ。今回のフェスが終了するまで一時的にソフトトング所属となる契約を結び、フェスで優勝してもらう約束だ。立ち上げたばかりの芸能プロダクションを有名にしてもらうという、もっともらしい理由でな」


「コスモスさんを手に入れるためとは言えませんからね。それで彼女たちが負けると、どうなるんですか?」


「優勝できなければソフトトングと100年縛りの専属マネジメント契約を結ぶことになっておる。おぬしらがフアンDEATHに勝つ気があるのなら本移籍ということだ。ワハハハハ!」


 なんという総務省もびっくりのブラックプランだ。

フアンDEATHの二人は優勝しなければ実質的に一生奴隷じゃないか。

――いや、そんな単純な契約のはずがない。

こいつのことだ、隠された契約内容があるはず。


「それだけじゃありませんよね。どうせ、コスモスさんの時と同じで、契約書のどこかに彼女たちが気づいていない注釈があるんでしょ?」


「フフフ、さすがワシが見込んだ男、気づきおったか。芸能活動中はワシは手を出せないことになっておる。しかし、それは昼間の話」


「夜は手をだせるのですね」


「その通り。夜はエロホーダイというわけだ」


 なんと、うらやまけしからん。

夜な夜な、今か今かとエロホタイムを待つことができるなんて……

くそー! アナログモデムの音みたいに、ピー、ゴロゴロゴロと、腹を下させてやりたい気分だ。

 しかし、これはマズい事になった。

コスモスが勝てば彼女たちはトンダ社長の愛人で、フアンDEATHが勝てばコスモスと俺がトンダ社長の愛人になってしまうことを意味する。

しかも、お互いがそのことを知らない。

フアンDEATHが優勝できずにコスモスも負けるという最悪のパターンもあるが、どう転んだとしてもトンダ社長の一人勝ちだ。

もう控室には戻れないのでコスモスにこの内容を伝えられないし、仮にこの内容を伝える手段があったとしても、それを知ってコスモスが手を抜くようなことがあれば、こちらの負けを意味する。


「全ては計算ずくで、あなたに一つも損はないわけか……。結んだ契約はくつがえせないので口をだしませんが、一つ教えてもらえませんか? フアンDEATHが優勝した場合に、見返りとして何を要求したものを」


 俺は怒りを抑え、トンダ社長に質問した。


「そこまで教える義理はない。二人が歌い終わってから直接聞くといいだろう。歌い終われば話していいことになっているのでね」


 そう答えると、トンダ社長は俺に薄気味悪い笑みを見せた。

契約内容を敵対する相手に話さないのは当然だとは思うが、先ほどのトンダ社長が見せた笑みに俺は胸騒ぎを覚え、もう少し探りを入れようとする。

しかし、時間は待ってはくれなかった。

ステージの端から慌ただしく現れた司会者はマイクを手にすると、動揺した様子で観客にアナウンスする。


「観客の皆さまへお知らせがあります。まだ準備時間ですが、フアンDEATHのお二人からアピールタイムも不要なので、すぐにでも曲を始めたいとの要望がありました」


 それを聞いた観客はざわつくが、司会者は無視して言葉を続ける。


「特に規定もございませんし、運営側としては受け入れざるを得ません。まだ席に戻られていない方も多数いらっしゃると思いますが、何とぞご了承ください。曲名はERO IN DEATH。それでは、お願いします!」


 そう言って司会者がステージからけると、準備時間中にもかかわらず、いきなりステージの照明が落とされて会場が暗闇に包まれた。

野外ステージということもあって目に入るのは満天の星だけ。

これにはさすがに観客も驚いたようで、いたるところで驚きの声が上がる。

しかし、その時!

突如、闇を引き裂くような音が会場に響き渡った。


キュィーン

ギュワワワーン


 それは、俺がよく知っている楽器の音で、この国で聞けるはずのない音だった。

その音を聞いた観客は雷に打たれたように一斉に静まり返る。


「本能に従え! それが、エロ IN デス」


 フアンの叫び声(シャウト)が会場を貫くと、ベケベケといった弦を弾く低い音がそれに続く。

そして、ステージ上には二つのスポットライトが照らされると、真っ暗なステージにフアンDEATHの二人の姿が浮かび上がった。

俺はそれを見て驚愕きょうがくする。

演出についてもそうだが、何よりも二人の肩に掛けられた楽器に驚かされた。

どうして彼女たちがエレキギターとベースを持っているんだ……

俺の驚きも冷めやらぬまま、気づけば歌が始まっていた。



おまえらは権力者に従う

だけの、ただのブタなのか?

やがて多くの者は選ぶだろう

ヤツらの家畜になって死ぬことを


だけど、そんなのまっぴらゴメンだろ?

今すぐおりから逃げ出して、ホントの死に場所を探し出そう!

でもね、君は求めるだろう、死中にあってもエロいこと


だってそれは、エロ IN デス! エロ IN デス!


エロいためなら死ぬ気でやれる

それが、生き物のサガだから


そうさみんな、エロ IN デス! エロ IN デス!


ちょっと目を閉じ妄想すれば

死ぬほど力が湧いてくる!


だからいつも、エロ IN デス! エロ IN デス!


後ろ振り返らず駆け出そう

まだ見ぬ明日を探す旅へ!



 この曲は、ヘヴィメタルだ……

今まで聞いたことがない曲調に戸惑っていた観客たちも、次第にヘッドバンキングを知っているかのように自然に頭を振り出していた。

まさに、この歌はオークのためにある歌、それに尽きる。

法律に抑圧された彼らにとって、これ以上の刺激的な歌はないだろう。

それを表すように、曲が終わっても会場のいたるところから雄たけびや歓声が上がり、興奮はさめやらない。


「「「エロ IN デース! エロ IN デース!」」」


 俺も血が騒ぎ、気づいたときには席を立って一緒に歓声を上げていたほどだ。

しかし、それをトンダ社長にニヤニヤと見られているのに気づくと、俺はコホンと咳払せきばらいをして大人しく席に着いた。


「フハハハハ。まさか敵に塩を送るとは思わなかったぞ。それだけ歓声を上げれば、観客点として計測されるだろう。もしかして、わざと負けてワシのモノになる気だったか? であれば、そんな回りくどいことをせずとも降参すればよかろうに」


 そう言ってトンダ社長は、俺の手をそっと握ろうとした。

俺はその手を跳ねのけると、厳しい口調で抗議する。


「馬鹿を言わないでください。いい歌に歓声を上げるのは、歌い手に対する礼儀です」


「フフフ。まあ、良い。おぬしがそれだけ歓声を上げたということは、観客点も期待できるということだしな」


 確かにそのとおりだ。

今までなかったほどの大歓声と拍手が、それを物語っている。

そして、無数の拍手がステージにいる二人に降り注いでいる中、観客と一緒になって歓声を上げていた司会者は思い出したかのようにマイクを手に取ると、口惜しそうに話し始めた。


「素晴らしい演奏でした! まさに新しい時代の幕開けと言っていいでしょう。歓声は収まりませんが、採点にいってみます。まずは観客点をお願いします」


 するといつものように、打楽器の音がドルドルドルと鳴り響き、最後にデンっといった音で、フアンDEATHの後ろにあるスクリーンに観客点の数字が表示された。


「な、な、なんとー、96点だ! 歴代最高得点の89点を上回る96点が出ました! しかも、観客の二割ほどが席に戻れていないことを考えると、本来は100点を優に超えていたと思われます。惜しい、実に惜しい!」


 予想していたよりも高い点数だったが、俺は驚かなかった。

なぜなら、俺も他の観客と一緒になって歓声を上げたぐらいなのだから。

 それよりも、司会者の発言で気づいたことがある。

フアンDEATHが仁義を重んじて、コスモスと正々堂々戦おうとしていることにだ。

彼女たちも気づいたのだろう。

ハーフオークの観客が例年よりも少なく、自分たちが圧倒的に有利な条件であることに。

だから、トイレなどで席を外している観客が戻ってくる前に歌うことで観客点を減らし、コスモスとの観客点の不公平さをなくそうと試みたと考えられる。

そう考えないと不利な条件で歌うことに説明がつかない。

幸いにも、その目論見はトンダ社長には見破られてないらしく、演出と思っているようだ。

もし、これで点数が低かったら契約に反するとして、とがめられるほどの危険な行為だったはずである。

ホント、なんてムチャなことをするんだ。

そして、なんて格好いいやつらなんだ。

本気でホレてしまうじゃないか……


「では、次に審査員点をお願いします」


 フアンDEATHの二人についていろいろと思っていると、いつの間にかに審査員の採点時間となっていて、俺は司会者の声で我に返った。

先ほどまでヤバイ婆ちゃんを除く審査員で何やら話し合っていたようだが、司会の声を聞くと一斉にフリップボードに数字を書いて、机の上にあるスタンドに差し込んだ。

その点数は8点、8点、8点、9点で、なかなかの高得点だ。


「「「ブゥー! ブゥー!」」」


 しかし、観客の予測を下回る結果となったようでブーイングが起こる。

確かに、観客の盛り上がりから考えると若干低い気もするが、俺にはなんとなく理由が分かった。

審査員たちも気づいたはずだ、その足りない音に。

 そして、残るはヤバイ婆ちゃんの点数だった。

しかし、フリップボードは、いまだ空白。

それを気にした様子もなく、ヤバイ婆ちゃんは震える声で、フアンDEATHの二人に問いかけた。


「まさか、その手にしているものは伝説の発掘楽器では? 1,000年前に歌合戦で使われたあとは、しのかみ遺跡のどこかに埋められたという言い伝えじゃったが、全ての発掘調査が終わった今でも見つからず、わしは存在すら疑っていたのじゃが……」


 その問いかけに会場はシーンと静まり返り、観客も二人の返事を待った。

すると、ドヤ顔したフアンが口を開く。


「さすが、ヤバイ婆ちゃん。だてに歳は取ってないみたいね。そのとおり。あたしが使っている楽器は、神様から授けられし伝説の神器の一つ、エロスギター。妄想をかきたてる刺激的な音だっただろ?」


「いや、それエレキギターだから!」


 気づくと俺は席から立ち上がり、思わずツッコミを入れてしまっていた。

その声がシーンとした会場に響き渡る。

ヤベー、俺のバカ! 何ツッコミを入れてるんだよ。


「あれっ? そうだっけ」


 フアンは首をかしげて、俺に聞き返した。


「すみません……。やっぱり、さっきの発言はナシでお願いします」


 そう言うと、俺は隠れるように席に座り直す。

これで一安心と思っていたが、ヤバイ婆ちゃんは俺の発言をナシにはしてくれなかった。


「そのとおり。その神器の名前はエレキギターじゃ。雷の力で音を鳴らす楽器と伝えられておる。まさか、おまえのようなアホの格好した若造が知っておるとは思わなんだ」


 うわぁ! めっちゃ、みんなこっち見てるよ。

もう、大人しくしておかないと。


「だとすると、そっちは……」


 ヤバイ婆ちゃんは俺のほうからシスのほうへ目を向けると、その手にした楽器を見て質問した。

それにシスが答える。


「私のはデースと呼ばれる神器です。名前のとおり、死を奏でるのでーす!」


「そっちはベースだから!」


 またしても、俺は響く声でツッコミを入れてしまう。

あまりもの中二病的な勘違い具合に、俺はツッコミを入れざるを得なかった。

ホント、穴があったら入りたい。


「また、おまえか……。じゃが確かに、そやつが言うとおりベースと言う名前じゃ。そして、死を奏でることはない」


 ヤバイ婆ちゃん発言を受け、シスは落胆した表情を見せた。


「うぅー。残念です」


「じゃが、惜しい」


 そう言うとヤバイ婆ちゃんはフリップボードにサラサラと数字を書き込み、机の上のスタンドに差し込んだ。


「9点じゃ! ヤバい歌詞も、そして伝説の楽器の音も刺激的で最高じゃった。しかし、神器は三つそろって真価を発揮する。だから満点はやれぬな」


 やはり、神器と呼ばれるだけあって三つ目があったか。

だとすると、三種の神器のもう一つはドラムだろう。

そのせいで、音に迫力が不足していてアマチュアバンドの域を出ていないのだ。

審査員の点数が観客の期待値に届かないのも、そのせいである。

だが、それでも十分な高得点であり、司会者の声がそれを物語っていた。


「スゴイ! サガ一番の偏屈と言われるヤバイ婆ちゃんから、初の9点をもぎ取りました。これで合計得点は138点となり、単独トップです。しかも、歴代最高得点だ! これは優勝が決まってしまったかもしれませんよ」


 司会者の驚く声が会場に響き渡ると、会場から一斉にフアンDEATHのコールが巻き起こる。


「「「フアンDEATH、フアンDEATH」」」


 会場の空気はフアンDEATH一色だ。

だが、俺はまだ諦めてはいなかった。

彼女たちが危険をかえりみずに正々堂々と勝負を挑んでくれたのだから、それに報いなければ失礼にあたる。

だから、どちらが勝っても恨みっこなしだ。

フアンDEATHの二人も同じ考えのはず。

だとすれば、俺は手を抜かず出来ることを精一杯やるだけだ。

そう肝に銘じていると、出演を終えた二人がステージから、こちらの席に向かって来るのだった。


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