しょうげき! トンドルズ
「では、トップバッターはソフトトングプロ所属のトンドルズです。盛大な拍手でお迎えください」
司会者の呼びかけに応じ、7人組のカラフルな衣装のメンバーがステージの上に立った。
ちなみに7人とも男なので、前世も含めて俺の守備範囲外のアイドルだ。
「キャー!」
やはり男性アイドルということもあって女性の歓声が会場からチラホラと聞こえるが、歓声はまばらである。
それもそのはず、彼らはトンダ社長が設立した平社員派遣会社ペーペーからの派遣社員で、コスモスとの勝負に合わせて他の業種から無理やりにアイドルにさせられた、ど素人集団らしい。
そして、まだ派遣アイドルとしての活動実績もないため、どんな曲を歌うのかも不明だった。
「それでは、まずメンバーの自己紹介をお願いします」
そう言って、司会者がトンドルズに話を振ると、メンバーが次々と自己紹介を始めた。
一方で、関係者席の方では、俺は隣の方から聞き覚えのある声で話しかけられていた。
「おやおや、これはプータロー君ではないか」
イヤイヤ隣の方に目を向けると、そこにいたのは案の定、ソフトトング社長のジャスティ・トンダ氏だった。
偶然を装って話しかけている風ではあるが、意図的なのは明らかだ。
「先ほどはどうも……」
俺は、あからさまに不機嫌な声で返事をする。
しかし、トンダ社長はそれを気にせずに答えた。
「ところで、隣の席は空いているかな?」
「いいえ、残念ですが空いてませんよ」
もちろん、俺の言ったことは嘘で、本当は両隣の席とも空いている。
しかし、隣に座っていいかと聞かれれば、答えはノーだ。
だから、俺は嘘をついた訳だが、トンダ社長はそれを無視して隣の席に腰を下ろした。
「どうだ、うちのトンドルズは?」
「いや、えっと……、私がさっき言った意味、理解されてます?」
「もちろんだ。ここが他のヤツの席だとしても、ワシの力でどうとでもなるから気にせんでいい。ワハハハハ!」
だったら、最初から聞くなよ……
だけどそうとは言えず、お人好しの俺は律義に質問に答えることを選んだ。
「はぁ、そうですか。まぁいいですけど……。えっと、彼らのことをお聞きでしたっけ?」
「そうだ、率直に言ってどう思う?」
「そうですね。顔だけ見れば、リーダー以外はそこそこ格好いいと思いますよ」
「あぁ、トレンディか。あいつ以外の六人はビジュアルを優先したからな」
「なるほど。リーダーに歌唱力がある人を据えてバランスを取っているんですね」
「何か勘違いしているようだが、リーダーの決定はクジ引きだぞ。それに、あいつの歌唱力は他のメンバーと大差ないわい」
それを聞いた俺はズッコケた。
「いや、それだったらビジュアル系だけでメンバーを集めればよかったのでは?」
「それは素人の考えだな。一人だけ毛色の違ったヤツがいたほうが、他がより一層際立つというものだ。それに人は常に意外性を求めているのだよ」
「へぇー、そうなんですね……」
俺は半ば呆れ気味に答えた。
ジャ〇ーズのようなメンバーに、一人だけキワモノが混じっているアイドルなんて聞いたことがない。
それって、アイドルとして成立するのだろうか……?
「まぁ、見ているがいい。豚肝を抜かれるぞ」
いや、度肝だろ! と、ツッコミを入れたかったが、なんとか堪える。
そして、再び舞台の方に再び目をやると、どうやらトンドルズたちのステージが始まりを迎えそうであった。
「では、トンドルズさん。どうぞ!」
司会者は、そう声をかけて舞台袖に下がると、トンドルズの赤い服装のメンバーがマイクを手に取った。
「皆さんこんにちは! これからメンバーでいといろとお題を出していきますので、リーダーに答えてもらおうと思っています」
それを聞いた観客はざわめき立つ。
俺も曲が始まるものばかり思い込んでいたものだから、頭が混乱する。
「今日はめでたい日ですので、最初のお題はそれにしましょう。まず、リーダーは『今日は、めでたい日だなー』と、言ってください。私が『一体どうしたんですか?』と、聞き返しますので続けてください」
トレンディはそれに頷くと、言われたとおりに従った。
「今日は、めでたい日だなー」
「一体どうしたんですか?」
「今日だけスケージュールが入ってる。ゲップ!」
「そこはゲッツでしょ! 何をゲップして満足してるんですか! それに明日からの予定、真っ白なんですよ」
クスクスと観客席から失笑が漏れる。
次に、緑色の服装をしたメンバーがマイクを持った。
「それにしても、私たちのこの服装ってダサいと思いませんか? 私は観客になって『その服装、恥ずかしくないですか?』と、聞きますので、リーダーはそれに返してください。いいですか?」
「うん。分かった」
「では、いきます。トレンディさんの服装ってダサいですね。恥ずかしくないですか?」
「この服装がサガのトレンディ! たはぁー!」
ありのまま、今起こったことを話すぜ。
俺は歌のライブを聞きに来たと思ったら、いつの間にかに大喜利が始まっていた。
な、何を言っているのか分からねーと思うが、俺も何を聞いているのか分からなかった。
歌のライブでお笑いライブやるだとか、そんなのトンチなんてもんじゃ断じてねぇ。
トンダ社長の言ったとおり、確かに豚肝を抜かれる感覚を味わったぜ……
しかし、戸惑っていた観客たちの半数は、俺の感想と裏腹にそれを見てドッカンドッカンと笑いだす。
えっ? これってアリなの!?
その後も次々と出題者が入れ替わり、この笑点もどきのようなコントは続いていった。
「では最後です。俺が司会者になってリーダーに『トンドルズの演技、どうでしたか?』と、聞きますので、審査員になったつもりで答えてください」
そう言って紫色の服のメンバーがリーダーに話しかけると、リーダーは今までと違って素の表情を見せ、腕の時計を見た。
「あっ! ライブの時間だ。歌わなきゃ」
それを聞いたトンドルズのメンバーがズッコケると、観客は大いに盛り上がった。
「前置きが長くなりましたが、一曲歌います。曲名は、俺たちの生き残る道」
リーダーの声に合わせて、スピーカーから軽快なリズムの音楽が鳴り出した。
俺たち売れないアイドル一発屋
明日から予定は空白だ!
チャンスもらったサガフェスで
優勝GETしようと思ったら
歌う前から併殺打だ!
逃げ帰るように舞台袖
なぜかと言うとブタいそーで
こんな俺たち歌った舞台後
ぺんぺん草も生えないな!
だけど、芸人だったらやっていけそう
笑いの草なら生やしてみせる!
「「「わはははは」」」
一部激怒する観客もいたが、大多数は笑いが占めた。
後にトンドルズは、この炎上をきっかけにアイドル路線を辞めてコントをメインにするようになり、ザ・ヤキブターズと名を変えて一世を風靡する。
俺がそれを知るのは、もっと先の話である。
俺は驚いていた。
まさかオークが住んでいる国でコミックバンドを見ることになるなんて。
確かに近年、オークランドでの音楽は変わりつつあった。
例えば、楽器についてもそうだ。
昔の曲は笛や太鼓、そして三味線のような音がする和楽器のような音が中心だったが、ここ数年のヒット曲を聞くと、洋楽器風の音を聞くことができるようになってきた。
歌詞についてもダサいと思っていた古臭い歌詞は鳴りを潜め、昭和を感じるレベルに到達しつつある。
フェスも1,000回目を迎え、今までの長き音楽の歴史を考えると、この国では急速に音楽革命が起ころうとしているのかもしれなかった。
「ありがとうございました」
見終わって放心していた俺は、司会者の声で我に返る。
確かに音楽フェスと銘打ってあるが、コントをやってはいけないとの規定はない。
まさかの意表を突かれる作戦に、俺は驚きを隠せずにいた。
「どうだ、驚いただろ?」
隣にいるトンダ社長は、俺に自信たっぷりに問いかけた。
いや、あんな事をされれば誰だって普通は驚くって。
「確かに驚かされましたが、あれってアリなんですか?」
俺はフェスの規定に違反していないか、トンダ社長に確認する。
「もちろん、規定には書いてないから問題ない。それに歌は歌っているからな」
トンダ社長とそんなやり取りをしていると、司会者から採点発表のアナウンスがあった。
「では、まずは観客点からいってみましょう」
ドラムのような打楽器の音が会場を包み、出演者を映し出していたステージの後ろにある投影スクリーンに点数が表示される。
その点数は何と予想外の62点。
観客点の歴代最高得点が89点で、平均が30点だったことを考えるとスゴい点数だ。
審査員の点数を捨てることになるが、不得意な歌はコントのオマケ扱いにして、得意分野のコントで観客点を取ることを狙ったのだろう。
確かに、笑いには国境も人種も、そして性別も関係ないので、これならどんな観客からも満遍なく点数を取れる。
しかも、激怒した観客の感情も心が揺さぶられたことにカウントされているようで、点数が上積みされたみたいだ。
そこまで狙ってやったとすれば、末恐ろしい存在である。
「どうやら発想の転換が成功したみたいだな。芸人だったあいつらをアイドルとして売り出したものの、まったく仕事が入らなかったことが功を奏したわい」
いや、ビジュアル重視の6人だったら、少しは仕事が入ったと思うが……
それよりも今みたいにコントと歌の融合を目指せば、引く手あまただろうに。
「それにしても、スゴい点数がでましたね。では、次に審査員点をいってみましょう」
司会者の声で次々と審査員がボードに書いた点数を出していく。
その点数は2点、4点、3点、3点と、ヤバイ婆ちゃん以外の審査員が点数を出していった。
確かにコスモスが言っていたとおり、去年の審査員は音楽に対してひいき目なしに審査してくれる人たちのようだ。
そして、最後にヤバイ婆ちゃんが残った。
ヤバイ婆ちゃんは満足そうな表情を浮かべ、点数が書かれたボードを机の前に晒した。
その点数は8点。
老人がお笑いに目がないのは知っていたが、まさか異世界でもそうだとは……
「これで審査点は出そろいましたが合計で20点となります。これに審査点を加えると、なんと82点! いきなりトップバッターから優勝を狙えるような高得点がでました。では、審査員長のヤバイ婆ちゃんから、一言感想をお願いします」
「歌の舞台でコントをやるとは、センスがヤバイ! だが、気に入ったわい。これで雷鳴が轟けば、黄色い衣装を着たお主が希望の光の可能性――いや、もう期待するのはやめよう。過去何度も裏切られたのを忘れておったわい」
その何やら意味ありげな発言に、司会者は首を傾げる。
「審査員長、それはどういった意味ですか?」
「何、こっちの話じゃ」
そう言って、ヤバイ婆ちゃんは口を閉ざした。
それにしても、この合計点数の高さには驚かされた。
もし、フアンDEATHが引き抜かれずにトンドルズと対決していたら、負けていたかもしれないような点数である。
しかし、今のコスモスなら問題なく上回ってくれるはずだ。
俺はそれを信じて疑わなかった。
その後も次々と各会社のアイドルたちが歌っていく。
やはりオークたち曲は、フェス1,000回目という節目に格段にレベルアップしていて、日本でいうところの70年代レベルまで達しているようだ。
俺でも聞いていて十分に楽しめ、フェスを堪能できているのがそれを証明している。
そして、ついに目下のライバルと思われるフアンDEATHの順番となっていた。
ちなみに現在までのトップ3は次のとおりだ。
1位
オークレディ UMA
104点
2位
チーギュウフットワーク Get Idol
95点
3位
トンドルズ 俺たちの生き残る道
82点
1,000回目のフェスということで観客の盛り上がりが大きく、予想していたよりも全体的に観客点が高い傾向にある。
当初はフアンDEATHに勝つには最低60点と見積もっていたが、それではトンドルズにも勝てないことから、大きく軌道修正が必要となった。
最低でも90点――いや、この際目指すは優勝しかない!
彼女たちに勝つには、それぐらいの目標がちょうどいい。
ハーフオークの観客が少ないからといって、俺はもう悲観していない。
だって、コスモスの歌には、人を引き寄せるスゴい魅力があるのだから。




