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チートスKILL ~中途半端な転生者~  作者: 奥 悠人
3章 今日からブタは!!!
29/48

歌う順番、クジ引きで

 これから出演順番の抽選が行われるサガフェスの壇上だんじょうには、出演者とその付き添いの人たちでごった返しており、それを観客が見守っていた。

かく言う俺もコスモスのプロデューサーとしてステージの上にいる訳だが、やはり俺の格好は、あまりにも場違いすぎた。

寝起きのような髪形にバンダナを巻いて、瓶底眼鏡で目元を隠し、痛法被いたはっぴを着て萌袋もえぶくろまで持っているこの姿は、どう見てもアイドルのストーカーかコミケ帰りの戦士にしか見えないからだ。

実際、ここに来る途中に何度も警備員に止められたことがそれを証明している。

しかし、俺に黄色い声を上げて群がる女性たちから身を守るには、この格好でやり過ごすしかない。

木を隠すなら森の中、イケメン隠すなら身なりからである。

 

 話は変わるが、今年の出演者は全部で35チームらしく、俺たちの会社以外はすべて2チーム出場させているそうだ。

どこの会社もその力の入れようから、優勝を狙っているは間違いないだろう。

そして、出演順番の決め方については、歌う本人か代理人が抽選箱に手を入れて番号の書かれたボールを取り出すオーソドックスな抽選方法だ。

この方法の場合、ウィンドウに頼めば抽選箱の中から好きな順番を選べるので、こちらとしては願ったりかなったりである。

しかしながら、その当ては外れてしまう。

さっきから、俺はウィンドウに話しかけているが、こちらの呼びかけに応じず姿も現さないのだ。

リスクの高いトンダ社長との賭けに、まだ怒っているのだろうか?


「次はドラモリィー・プロダクションさん、お願いします」


 司会者の呼びかけに、俺はウィンドウへのコンタクトを諦めて隣にいたコスモスに話しかけた。


「どうします? 私がクジを引いてもいいのですが、今の私では悪い番号を引きそうです……」


 ウィンドウに頼めないとなると、抽選結果は全くの運任せだ。

できれば、観客点が高い傾向にある最初か最後に近い番号を引くのがベストだが、ウィンドウの助力のない俺では最悪の結果になりかねない。

なぜなら、今までのツキのない数々の出来事を考えると、そうとしか思えないからだ。

しかし、そんな俺の心配をよそに、最初からコスモスは自身の手でクジを引くつもりでいたらしい。


「うんにゃ、うちがクジを引くからよか(いい)よ。最近思うとやけど、プータローと出会ったうちって、スゴくツイとると思うとよ」


 そう言うと、コスモスは笑みを浮かべながら舞台中央のひらけたスペースに向かってスタスタと歩き出す。

そこには司会者が待っていて、その隣に抽選箱が置いてあるのだが、コスモスが人混みから姿を現すと観客から驚きの声が上がった。


「おお……」

「スゲー!」

なんだ、あの衣装は」


 コスモスの格好は、まずオークランドではお目にかかることのできない衣装だ。

彼女のかわいらしさを最大限に引き出すように作られているので、この驚きの声はそれを見た反応だろう。

司会者も目をパチクリとさせていたが、コホンと咳払せきばらいすると、コスモスにクジを引くようにうながした。


「では、どうぞ!」


 するとコスモスは、やや緊張した面持ちで抽選箱に手を入れてグルグルと中をかき回してボールを一つ手に取った。

そして、そのボールをそっと取り出して誰にも見えないように両手で握り締め、まるで祈るように胸に押し当てから、ゆっくりと手を開く。


「あっ、35だ……」


 コスモスのつぶやきに司会者は近寄ってボールを受け取って確認すると、観客に見えるようにボールを右手で高くかざした。


「なんと、トリです! ドラモリィー・プロが最後に歌う順番を引き当てました!」


 それを聞いて観客が沸き立つ中、俺は両手で小さくガッツポーズを作り、予想以上の結果を喜んだ。


「よっしゃー! これで負けフラグは回避だ」


 完全な運任せなので、喜びもひとしおだ。

これでソフトトングのチームよりあとに歌うことが確定したので、先攻負けフラグというお決まりの展開は回避された。

しかもトリは、観客が一番盛り上がって高得点が期待できる順番でもある。

負ける要素は限りなくゼロに近づいたと言っていい。

そして、騒ぎが一段落したところで、司会者が口を開いた。


「ハーフオークの方がサガフェスに出場するのは5年ぶりですが、私が知る限りハーフオークの方がトリを飾ったことはありません。これは予言にある何かが起こる前触れでしょうか? わたくし年甲斐としがいもなくワクワクしてきましたよー!」


 そう言って、司会者は興奮した口調でさらに会場を盛り上げる。

観客もそれに合わせて歓声を上げるが、オークの観客が大部分を占めることもあってか、次第に不穏な空気が会場を占めだす。


「ちぇ、ハーフオークがトリかよ。来て損した」

「ハーフオークは出場を辞退しろ-!」

「そうだそうだ。だいたい予言なんてインチキみたいなもんだろ」


 その言葉を聞いた司会者は、どうやら自分の思惑とは違った会場の雰囲気におかんむりのようで、観客の目に余る差別的言動に注意を喚起した。


「はい! 皆さんお静かに。歌に種族は関係ありませんよ。それに、サガフェスは神への感謝祭です。今後あまりにもひどい言動の方は、退場処分といたしますから、そのつもりで」


 グッドジョブだよ! 司会者さん。

一時的かもしれないが、その言葉を聞いた観客たちから一斉に差別的な言葉は鳴りをひそめる。

ハーフオークを差別する観客の多い中、こういった考え方の司会者であったことは、俺たちにとって幸運だった。


「では、次はソフトトング・プロダクションの方、前にどうぞ」


 司会者の言葉に、フアンDEATHの二人とトンドルズと思われる七人組が他の出演者をかき分けて前にでる。

それを見た俺はフアンDEATHの格好に驚いた。

カッコよさを追求したと思われるその衣装は黒を基調としていて、コスモスのかわいい衣装とは真逆である。

他の出演者とは一線を画した格好に、俺は思わず見とれてしまい、ライバルに心を奪われそうになってしまっていた。

 一方のトンドルズの方はというと、これまた無視できない格好だ。

ヒーローショーかよ! と、ツッコミたくなるようなその衣装はメンバーごとに色が違っていて、俺に子供の頃に憧れた五人組のヒーローを思い起こさせた。

まさに、七人(そろ)ってナナレンジャーとの口上が似合いそうなメンバーたちである。

そんなことよりも、トンダ社長の姿が見当たらない。

クジ引きは出演者に任せているのだろうか?


「こっちが先に引かせてもらうけど、いいかい?」


 俺がキョロキョロとトンダ社長の姿を探していると、トンドルズのメンバーの中で全身黄色ずくめの格好をした人物が、隣にいたフアンDEATHに向かって話しかけていた。


あたしは別にいいよ」


「先にいいですよー、トンドルズのリーダーさん」


 そう言うと、フアンDEATHの二人は舞台中央から少し離れた位置に移動した。

そのやり取りを見ていた司会者は、黄色い服装の男に話しかける。


「では、リーダーのトレンディ・サガノさんお願いします」


 なんだと! あの黄色いのがトンドルズのリーダーなのかと、俺は驚く。

黄色がリーダーとかあり得ないと思うのは、昭和生まれの悲しいサガだが、どう見ても三枚目で他のメンバーの顔の方がカッコいいのだ。

それに、どう見てもあの顔はトレンディ向きではなく、バラエティ向きと言っていい。

戦隊モノでは不遇な黄色であることだし、何か変な死亡フラグでも踏まないかと心配してしまう。


「それじゃ、トレンディがいくよ」


 俺の心配をよそにトンドルズの代表は抽選箱の前に立つと、箱にゆっくりと手を入れて、おもむろに一つ取り出した。

そして、ボールの番号を確認すると声を上げた。


「はい! キタコレ」


 と同時に、仲間に向けて両手をピースサインのような形にして前に突き出す。


「開幕ゲッツ!」


 それを見たトンドルズの残りのメンバーは一斉に駆け寄り、手荒い祝福(?)をする。


「やりやがったなトレンディ!」

「俺らが開幕とか無理ですよ……」

「どうすんだよ。責任重大じゃん」


 その様子を見ていた司会者は、メンバーが落ち着いたのを見計らって番号を確認する。


なんと! トップバッターです。またしても新人が重要な役割を引き当てました」


 よりによって、トンドルズは1番を引き当てたみたいだ。

しかし、それをメンバーたちが喜んでいないように見えたのだが、気のせいだろう。

何せ、観客点だけを考えると、残りのクジからいって最高の結果を引き当てたんだから。

 次はフアンDEATHの順番だが、俺の首を絞め上げた方のシスが手を挙げた。


「では、次は私が引くのです」


 司会者の案内を待たずにダッシュで抽選箱に駆け寄ったシスは問答無用で箱に手を入れたが、あとを追ってきたフアンは背中からそれを止めにかかる。


「おいおい、ちょっと待てよ。これはリーダーのあたしの役目だろ? それにシスがクジを引くと、4のついた番号以外に引いたためしがないじゃんか」


「えぇー! でも、4のつく番号は14番と34番の二つしか残っていないのですよ?」


「だから、昼休憩前の14番を引いたら最悪だって言ってるんだよ。みんなグーグーと腹の虫を鳴らして、音楽どころじゃねーじゃんか」


「そんなの関係ないです。むしろ二分の一なら、いい確率です」


 シスはそう言って、箱から強引にボールを取り出そうとする。


「うわぁー! てめー、本当にぶっ殺すぞ」


 フアンはシスの腕を両手で押さえてをなんとか止めようとしていたが、残念ながら格闘技が趣味と言っていたシスの自力が上回ったようだ。


「取ったでーす!」


 そう言って掲げられたシスの右手には、腕にぶら下がったフアンの他に、34と書かれたボールが握り締められている。

それを見た司会者は驚きの声を上げた。


「フアンDEATHも好順番だー! トリの一つ前である34番を引き当てました。この結果、ソフトトング・プロはトップバッターと最後から2番目の最高の順番を引き当てました」


「おい、こらシス! いったいどういう了見だ」


 フアンはシスの腕から離れると、ものすごい剣幕けんまくでシスに詰め寄っていた。


「フーちゃんにやらせると、いつも迷って時間がかかるじゃないですか。それに、その結果で良かったためしがあったですか?」


「ぐぬぬぬぬ」


 シスの指摘は的を射ていたらしく、フアンはうなるしかできないようだ。

だが、そんな内輪揉うちわもめを悠長に見ている場合ではない。

最悪のクジの結果に、俺は頭を悩ませる。

なぜならこの結果、俺たちとソフトトングの間で観客点の優劣はほとんど無くなってしまったからだ。

トリが一番いいのには間違いないが、この結果を受けて俺は手放しで喜べないでいた。


 その後も順調に抽選が行われ、無事に全員の出演順番が決定する。

これから先は不正防止のために出演者以外は控室への入室が禁止され、関係者席に移動する決まりになっていた。

また、歌い終わった者も同様で、ステージ脇に設置された関係者席で結果を見守ることになる。

 おっと、そろそろ司会から移動する案内があるはずだな。

その前にと思い、ステージ上で出演者順に並んでいたコスモスの肩をそっとたたいた。


「コスモスさん、ちょっといいですか?」


 すると、不思議そうな顔をしてコスモスは振り向いた。


「ん? どやんしたと」


「これから歌い終わるまで話すこともできませんので、最後にこれだけは言っておきます」


 それを聞いたコスモスは無言でうなずいた。

すでに覚悟が決まっているのか、コスモスの緊張を感じさせない堂々としたたたずまいに、俺は立派になったものだと感心し、俺の無茶むちゃなアイドル育成プロジェクトに付き合ってくれたことに感謝する。


「もはや、誰から見ても立派なアイドルであるあなたには、私から技術的なことや、励ましの言葉は必要ないはずです」


「うん、ありがとう」


「しかし、私の経験上、勝負というものは往々にして理不尽なことが起こります。その結果、何があっても絶望だけはしないでください。それに、何かあったとしても、あなただけは必ず私が守ります。だから、気楽にいきましょう!」


 するとコスモスは胸をたたき、自信たっぷりに答える。


「分かった。それに心配せんでよかよ(いいよ)。ドーンと、まかせとって!」


 そう答えたコスモスの言葉に安心し、司会者から移動の案内があったので、俺は心置きなく関係者席に足を運ほうとした。

しかし、その途中にフアンDEATHの小柄な方に呼び止められる。


「おい、ちょっと待てよ」


「えっと……確か、フアンさんでしたでしょうか。どうされましたか?」


「さっきのコスモスに掛けた言葉、なかなか響いたぜ。おまえだったら安心してあいつを任せられるよ。それにしても、心もイケメンとか反則かよ」


 それを聞いた俺は苦笑くしょうして答えた。


「あはは……、これはお恥ずかしいところを見られましたね。ですが、絶対に負けませんので覚悟しておいてくださいね」


あたしたちも手は抜かないよ。それと、これはさっきのびだ。受け取ってくれ」


 そう言うと、彼女は俺に何やら四角い台紙を手渡してきた。

それは色紙のようで、何やらミミズがったような文字と思われるものが書かれている。


「シスっちとあたしのサインだよ。さっきは、あのクソ野郎がいたんで謝罪が有耶無耶うやむやになったからな」


「そんな事、気にする必要ありませんのに……。ですが、せっかくの好意を無下むげにもできませんし、ありがたくいただいておきます」


「えへへ。本当、食べたくなるぐらい、いい男だよ。あんたは」


 フアンは照れくさそう色紙を手渡すと俺の両肩をバシバシとたたき、シスのもとに駆け戻っていった。

俺はそれを見送ると、他の関係者のあとに続いて所定の場所に向かい、関係者席の中で比較的に周りが空いている席に座った。

すると間もなく、司会者の声が会場全体に響き渡る。


「ついに始まります、第1,000回目のサガ音楽フェスタ。司会はわたくし、あなたにハッピーがモットーのウレシカ・トンマが務めさせてもらいます。決して頭がハッピーセットのウマシカ・トンマではありませんから、名前を間違わないでくださいね!」


 司会者の持ちネタなのか、観客たちからドッと笑いが起きる。


「次に、審査員の紹介です。順番に名前を読み上げますので、起立をお願いします」


 次々と司会者に読み上げられる審査員の名前。

審査員は全員で五人いて、司会者に名前を読み上げられると審査員らは観客席に向かって礼をする。

そして最後に明らかに他の審査員とは雰囲気の違った年老いた老婆が残った。


「そして最後の五人目が審査員長ですが、五年ぶりの参加となります。サガ一番の偏屈者、ヤバイ婆ちゃんです。実は、私の遠縁にあたりますが、年齢はおろか本名さえもいまだに教えてくれません」


 その言葉を聞いた老婆は、座ったままペッと地面に唾を吐くと、司会者をギロリとにらんだ。


「ふんっ! 青臭いガキに、なんで話さなきゃならないんだい。だが、一つだけ教えてやるよ。この祭りでハーフオークがトリと務めるのは、二回目だよ。もっとも、千年前の出来事だから、知らないのは無理ないがね」


「いきなりの衝撃発言です。さすが、現代の生き字引と言われるだけあります。皆さんもご存じのように、このもよおしの起源だとされる第1回目のサガフェスこと歌合戦は口伝のみで伝えられていて、文献には残っていません。よもや詳しい事を知る方が、こんなに身近にいようとは思いませんでした」


 司会者は場慣れしているのか、驚きつつも落ち着いた様子で解説する。

それにしても、誰も知らない千年前のことを知っているとか、あの婆さんはいったい何歳だよ……

その疑問に答える者は誰もおらず、その後も司会者の解説は続いた。


「次に審査方法ですが、審査員の方々には10点ずつが与えられます。出演者が歌い終えましたら、お手元のボードに審査点数をお書きください。その点数に魔道具で計測された観客点を加えた合計が出演者の評点となります。それと、ご存じでしょうが、観客の歓声や気持ちの高揚が観客点として計測されます。観客の皆さんは、お気に入りの出演者を張り切って応援しましょう!」


 司会者のその言葉に次々と観客席から歓声が上がる。


「よっしゃー! 死ぬ気で応援するぞ」

「優勝よ、ピッグアラサー!」

「頑張れー、オークテール。おまえたちなら絶対に勝てるぞー」


「では、最後になりますが、現在のサガ音楽フェスは千年前に、この地に降臨されたオークの神様への感謝の祭りです。人間との戦争を平和的に解決する目的で開催された歌合戦が起源と言われており、神様はその歌合戦に勝利されました。そしてオークランドを設立するのを人間に認めさせると、予言の言葉を残して旅立たれたと言われております」


 観客は司会者の言葉を無言で聞き入る。


「しかし、当時の詳しい内容は長い年月で失われ、もう知ることはできません。ところが三百年前、しのかみ遺跡の壁面に『記念すべき日、雷鳴が轟く約束の地にて、何かが起こる』と書かれているのが見つかったのです。それは大予言者と呼ばれた長老の予言で千年前に書かれていたのが分かりました。ですが、そんな内容です。いまだに何も分かっておりません。だから、信じていない人も多くいるでしょう。それに、天気予報によると今日は晴天。雷が鳴るのは期待できません。しかしながら、私はきっと今日、この地で伝説になる何かが起きると信じ、ここに第1,000回、サガ音楽フェスタの開幕を宣言します!」


「「「おおぉぉぉぉー!」」」


 観衆の大地が割れんばかりの大歓声と拍手が沸き起こる。

それはオークランドで、一年で最も熱い一日が始まることを意味していた。

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