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チートスKILL ~中途半端な転生者~  作者: 奥 悠人
3章 今日からブタは!!!
27/48

開幕! サガ音楽フェスタ

「今年もサガ音楽フェスタの季節がやってまいりました! この記念すべき第1,000回目に司会ができること、なんたる光栄でありましょうか」


 会場の下見したみをしていた俺の耳に、司会の威勢のいい声がステージの方から聞こえてくる。

ここ、サガ音楽フェスタの会場は野外ステージになっており、ここに二万人もの観客が入るそうだ。

なかなかどうして、田舎にしては大規模なもよおしである。

それもそのはず、この音楽祭はオークの神様への感謝の祭りだ。

その神様が顕現けんげんしてから毎年行われているらしく、降臨されたサガの地に敬意を表して観客の半分はサガの住民から選ばれ、残りはほかの地域から抽選で選ばれることになっている。

ただし、俺の知っている音楽フェスとは違っていて、内容はカラオケ大会みたいなもので、点数を競い合う祭りであった。


「やっと入場できたぜ!」

「まずは、限定グッズ買いに行かなきゃ」

「早く俺にお布施をさせてくれー!!」

「はぁ……、グッズの代行も頼まれているから大変だよ」


 声が聞こえた方を見ると、おそろいの法被はっぴ姿のオークたちがチケットの半券を係員に渡して、足早にグッズ売り場に向かって走っていった。

どうやら同じファンのグループらしい。

そのグループの後ろには、まだ多くの人たちが入場ゲートに列をなして並んでいて、全員が入場するには、まだ時間が掛かりそうだ。


「みんなスゴい格好よね」


 ウィンドウが、そう言うのも無理はない。

普段着の観客は見当たらず、お気に入りのアイドルグッズや団扇うちわを手にしたカラフルな法被はっぴ姿のファンしかいなさそうだ。

どうやら、どこの世界でも、アイドルファンの様相は変わらないみたいである。

そんな中に俺は最初、スーツ姿で飛び込んでしまったものだから周りから注目を浴びてしまい、逃げ帰っていた。

会場を下見したみするために、関係者入口から一般入口の方へ足を運んだのが原因だ。

超絶イケメンだったのを忘れていて変装せずに出向いてしまい、女性のオークたちに無名のアイドルと間違われてみくちゃにされたのだから、たまったものではない。

その時、ウィンドウは大笑いしながら俺をからかった。


「よかったわね。死ぬ前に、たくさんの女の子にみくちゃにされるのが夢だったんでしょ?」


 それはかつて、俺がウィンドウと初めて出会ったときの、スライムとの死闘でのセリフを意味している。

確かにみくちゃにされたオークたちは女性ではあるが、俺は断じて認めない!

そして、それらから命からがらのがれた俺はトイレに逃げ込むと、変装をしてから下見したみに戻って来たのだった。

頭をボサボサにして牛乳瓶みたいな眼鏡をかけ、チェック柄のシャツにジーパンと片手には紙袋を装備。

さらに、バンダナと、羽織るピンクの法被はっぴにはコスモスの名前入りと完璧な変装である。

これなら絶対にバレはしないだろう。

しかも俺の法被はっぴには、俺が考えたコスモスをデフォルメしたアニメ風の萌えキャラが書かれていて、この世界にはないオーダーメイドの一品となっている。

これでもはや、誰も俺とは目を合わせることはないはずだ。

ちなみに、これらは以前カミゾンで購入していたものである。

どうやら準備しておいて正解だったようだ。


 さて、会場を一回りしたが、ステージや機材に問題はなさそうだ。

歌っている最中にステージが崩壊したり、機材トラブルが起こったりする心配はないだろう。

天気も今日は晴天との予報で、魔法を使わない限り雷が落ちる可能性はなく、仮に魔法なんて使う馬鹿がいればすぐに警備員に捕まるはずだ。

それより問題があるとすれば、観客の構成比である。

客席や入場ゲートの客の並びを見た感じでは、ハーフオークの観客は三割にも満たない。

おそらくだが、25%といったところだろう。

例年通りなら神のお告げによって、観客の半分はハーフオークと決まっていたんだが……


「やってくれたわね。この観客の抽選って、絶対にあの変態オークの手が回っているわよ」


 ウィンドウも観客にハーフオークが少ないことに気づいたようだ。

俺はそれにうなずくと、見通しの甘さをなげいた。


「ウィンドウが馬車で盗み聞きしたとおりだけど、ここまで露骨にやってくるなんて。これじゃ、神への冒涜ぼうとくだね」


 オークの神様は人間との和平の立役者らしく、種族の差別を嫌っていたらしい。

それは人間であろうと、オーク、そしてハーフオークであろうと変わらなかったそうだ。

しかし実際には、差別は今の時代まで続けている。

だからこそ、この祭りがどれだけ特別扱いされてきたかを意味していた。


「ホント、罰当たりね。でも、考えてみるとコスモスへの応援が減るだけだし、問題ないんじゃ?」


 俺はそれに対して首を横に振る。


「フェスの点数は、審査員点と観客点の二つがあって、観客点の方に影響するんだ」


「ふーん、具体的には?」


「観客の感情の高ぶりが会場に設置してある魔道具で計測されて、それに応じた点数が観客点になるからね」


「そっか! だから、ハーフオークの観客が少ないのは、コスモスにとって痛手になるんだ」


 どうやら、ウィンドウは納得してくれたようだ。

ちなみに観客点は30点も出ればいい方だが、過去には89点なんてスゴい点数が出たことがあったらしい。

だからこそ、観客点は非常に重要である。


「だとしたら審査員点ってのは、どんな感じなの?」


 ウィンドウはこちらが圧倒的に不利だと察したのか、不安そうに聞いてくる。


「審査員は5人いて、それぞれ持点もちてんが10点ずつ。それに観客点が加わって、80点も取れれば優勝の目がでてくるよ」


「でも、優勝を目指してるわけではないんでしょ? 相手チームに勝てばいいわけだし」


「うん。だから、60点が相手チームに勝てる最低ラインの点数だと思う」


 曲の目新しさ、そしてコスモスの最近の成長ぶりからすると、審査員一人当たり8点は取れる算段だ。

そして、観客の半分がハーフオークであれば、観客点は最低でも20点は取れる腹積もりだった。

しかし、半数以上の観客がオークになることによって、観客点がどうなるかは予測がつかない。

なぜなら、純粋に曲だけで判断する審査員と違って、オークの観客が彼女の歌にどんな反応を示すかは未知数だからだ。


「そっか……、なんだか危ない橋を渡ることになりそうね。でも、何か手があるんでしょ?」


 どうやら、ウィンドウは俺に隠し玉があると思っているようで、目をキラキラと輝かせて聞いてくる。


「そうだな……。はい、オークの手」


 そう言うと、俺は犬のお手のようにウィンドウに向かって手を差し出した。

今の俺には、親父ギャグぐらいしか思いつかない。


「馬鹿なの? また、ボディーブローを食らいたいの? そもそも、私にはプータローが人間に見えてるんだから、そのギャグって私には意味をなさないわよ」


「ゴメン、悪ふざけが過ぎたみたいだ。実は、もう手は打ち尽くしてね。だから、後はどんな結果になったとしても悔いがないように、コスモスを応援するだけかな」


「それって、ハイリスクなギャンブルじゃない! 負けたらどうするのよ」


 俺を心配しているのか、ウィンドウは言葉を強めた。


「勝負に絶対って言葉はないんだから、リスクは仕方ないよ。それに、俺はコスモスを信じているから、負ける気はしないよ」


「何よ、もう、一人で背負しょい込んじゃって。せめて、何か保険は掛けておこうよ」


「そうは言っても、掛ける保険がなくてね。ウィンドウにいい保険があったら紹介してもらいたいぐらいだよ――なんてね。さて、いい時間だから控室に戻ろうか」


「うん……」


 よほどリスキーな勝負がお気に召さなかったのか、この後しばらくは、ウィンドウと話すことはなかった。



◇◆◇◆◇


「ただいま戻りました」


 俺がコスモスの控室をノックすると、「入ってよか(いい)よー」との返事があったので、俺は挨拶あいさつしてから遠慮せずに部屋に入った。

しかし、俺を見たコスモスは変質者を見るような目で、声を上げて驚く。


「うわぁぁぁ! あんた誰ね!」


「ん? どうしたんですか?」


 あまりのコスモスのおびえ具合に心配になった俺は、慌ててコスモスに駆け寄ろうとした。


「キャァー! 近寄らんで!!」


 しかし、それは逆効果だったようで、恐怖におびえたコスモスは悲鳴を上げると、部屋の隅でワナワナと震えて首を横にイヤイヤと振り始めた。

あれっ? これって彼女と初めて会ったときに俺を凶悪犯だと言って、からかった反応なのでは?

でもそっか、部屋に戻ってくるのが遅かったから、ビックリさせようと反応を楽しんでいるんだな。


なんでまた護送車のときみたいに、俺をからかっているんですか……」


 俺のセリフを聞いてコスモスは、キョトンとした表情を見せる。

そして、恐る恐る俺に尋ねた。


「それを知っとるってことは、もしかしてプータローなん(なの)?」


「当たり前じゃないですか。ほかに誰がいるっていうんです?」


「ビックリさせんといてよ。その格好は、どう見ても控室に押し掛けた過激なファンにしか見えんたい」


 コスモスに指摘されて改めて自分の格好を見たが、言われてみてみれば確かにそうだ。

控室から出て行くときはスーツ姿で、そしてトイレで着替えた後の格好を彼女は知らないわけだし。


「おっと、確かに。下見したみに行ったときに、アイドルと勘違いされて女性にみくちゃにされたので、変装したのを忘れていました」


「もう、そうならそうと最初に言うか、着替えてきてよ」


「すみません。それと、着替えたいのはやまやまですが、関係者エリアでもこの格好じゃないと声をかけられそうなので、しばらくはこの格好でいさせてください」


「はいはい。そういえば、さっき、フェスの審査員の人たちが来たとよ」


「やはりですか。人間かどうかのチェックでしょ?」


「そうそう。うちが人間じゃないかって、匿名の通報があったらしか」


 予想通りである。

だとすると、トンダ社長はコスモスが人間に戻ったことを知らないわけだ。


「で、結果は?」


「もちろんバッチリたいね。平謝りして帰っていったよ!」


「やりましたね。だとしたら、審査員は負い目を感じて、審査で採点が甘くなるかもしれませんね」


 トンダ社長の悔しがる顔が目に浮かぶ。

しかも上手うまくいけば、審査員点アップのオマケつきだ。

しかし、またしも、そうは豚屋とんやが卸さなかった。


「うんにゃ、そうもいかん(いかない)と。ひとつ問題と言うか一人ひとり、問題のある審査員がおった(いた)けんね」


「どういうことですか?」


「サガのヤバイ婆ちゃんって知っとる? ハーフオークを目の敵にしとるオーク至上主義者たい。そいつが審査員やったとよ」


「ぐは。そこにも介入かいにゅうしてきましたか」


 神の意志に背いてまでも人種差別主義者の審査員がいるってことは、トンダ社長が裏で手を回しているのだろう。


「そこにも? ほかにも何かあったと?」


「――いえ、なんでもありません。それよりも、ほかの四人の審査員は問題ないのですか?」


 俺はこれ以上コスモスに心配をかけまいと、うそをついた。

さすがに、これ以上の不安材料があるのが露見すると、本番での歌に影響を及ぼしてしまう。

だが、その配慮もほかの審査員までもがハーフオークを嫌っていたら意味をなさない。


ほかの審査員は大丈夫。去年と同じメンバーやけんが(だから)、ちゃんと歌を聴いて点数をつけてくれる人たちたい」


「助かりました。さすがにほかの審査員までもがハーフオークを嫌っていたら、詰んでいるところでした」


「心配せんでもよか。一人ぐらい邪魔するヤツがおった(いた)けんて、逆に燃えるぐらいたい」


 そう言ったコスモスの考えに俺は嬉しくなった。

このまま順調であれば、本番まで高いモチベーションを維持できるはずだからだ。

そう思った俺は、彼女の考えに同意した。


「その意気です。 絶対勝ちましょう!」


 そんな盛り上がりの最中さなか、不意にドアがノックされる。

すると、先ほどのこともあってか、コスモスはノックの主を怪しんだ。


「トンジルかな……?」


 確かにトンジルの可能性もあるが、今はグッズ販売で忙しいはずなので、その可能性は低い。 

だとしたら、先ほどコスモスが言ったように控室まで押し掛けた迷惑なファンか、審査員が戻ってきたかのどちらかだろう。

俺は念のために、扉の向こうの人物に質問した。


「どちら様でしょうか?」


 すると、すぐに女性の声で返答があった。 


「フアンDEATHのフアンとシスだよ。中に入ってもいい?」


 なんと! 扉の外にいたのはファンではなく、まさかのフアンDEATHだった。

彼女たちは、かつてドラモリィーに所属していたが引き抜かれ、今ではソフトトングに所属している二人組のアイドルである。


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