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チートスKILL ~中途半端な転生者~  作者: 奥 悠人
3章 今日からブタは!!!
25/48

報告は、かくかくしかじか手短に!

 コスモスに人間になる薬を飲ませた犯人がポークだと分かり、俺とトンジルはコスモスの待つ控室に戻ることにした。

しかし、犯人が分かっても、すべての問題が解決したわけではない。

控室に向かう俺とトンジルの足取りは重かった。


 コンコンコン。

控室のドアをノックすると、よほど待ちくたびれていたのだろう、ノックの途中に返事があった。


「遅かー! はよー(はやく)入って」


 その声を聞いて俺は、「プータローです。入ります」と、だけ言って控室に入った。

部屋に入るとコスモスはすでに着替えを終わらせており、机から身を乗り出して待ち構えていた。


「スゴい心配したとよ! ずっと、1人で待つしかできんかったし」


 ひとまず良かった。

俺の忠告を聞き入れ、コスモスは大人しく部屋で待っていてくれたみたいだ。

ポークとのやり取りで少し疲れていたが、彼女の姿が親鳥の帰りを待つヒナのように見えて、俺は癒されて思わず笑みをこぼす。

しかし、俺のあとに続いたトンジルは、部屋に入るなりコスモスに深く頭を下げた。


「社長代理、お待たせしました。それと、申し訳ありません。手のいていた社員に家に送らせるべきでした」


うちの愚痴やけん、謝らんでよか。で、結局どやんなったとね?」


 コスモスは怒ってはいなかったらしく、トンジルに報告を催促する。

それを見たトンジルはホッと胸をなでおろし、彼女に事の経緯を話し始めた。


「やはり、ポークが犯人でした」


「うそっ!」


 コスモスは驚いて、フラフラと椅子にもたれかかる。

それを見て、今度はトンジルが机に身を乗り出した。


「間違いありません、本人も認めました。彼はブタック・ジャックという名前で裏の仕事をしていて、依頼人から社長代理を妨害をするように頼まれたそうです」


「要するに、やっぱりトンダ社長の差し金ね?」


「口を割りませんでしたので、依頼主については不明です。ですが、まず間違いないでしょう」


「じゃあ、契約違反でこちらの勝ちにはならんと?」


「はい、残念ながら……」


 トンジルは肩を落とし、身を乗り出した机から離れる。

それを聞いたコスモスは、ハァーと深いため息をつくと、フニャフニャと机に突っ伏し、「そっか、仕方なかね」と、口にした。

しかし、何か思い出したかのように急に机から起き上がる。


「そうだ、元に戻る薬はどがんなったとね?」


「その件については、プータローさんからお願いします。私では理解が及ばないところもありますので」


 自分が知る限りの報告を終えたトンジルは、後ろを振り返って俺の横を通り過ぎる。

その際に俺の耳元で、「あとは任せました」と、言って俺の後ろに控え、バトンを渡すのだった。

仕方ない、残りは俺から説明するか。


「結論から言いますと、治療薬はありません」


「えぇっ!」


 それを聞いたコスモスは、両手をバンザイして驚くと、椅子から転げ落ちそうになった。

ホント、コロコロと表情が変わって面白い子だ。

もっと見ていたかったが、そうもいかないので話を続けた。


「人間になる薬は毒薬ではないので、治療薬は存在しないそうです」


「犯人を見つけても、骨折り損やったってことね……」


 コスモスの表情は暗く、まるで、この世の終わりのような表情だ。


「そうとも言い切れません。それに、今回の一連の騒動における経緯が分かりました」


「経緯ねぇ。今さら、そがんと(そんなの)聞いても意味がなさそうばってん……」


「まぁ、そう言わずに聞いてください。トンダ社長はあなたを愛人にするために、数年前から計画を練っていたと思われます」


「ふーん、そがん(そんな)前からやったとね」


 机に両肘でほおづえをつくと、コスモスは興味なさそうに相槌あいづちを打つ。

しかし、俺は気にせず話を続けた。


「ポークはトンダ社長に依頼され、三年ほど前にドラモリィーで働き始めます。そして、あなたの父親を入院させることに成功すると、コスモスさんが社長代理になるように画策して、トンダ社長と勝負するように仕向けたようですね」


「えっ、どやんことね!」


 コスモスは声を上げ、立ち上がって机から身を乗り出した。

食いつき、はやっ!

経緯に興味なかったんじゃないのかよ。

面倒くさいから、かくかくしかじかで済まそうと思ったのに。

仕方ないと思い、俺は詳しく説明し直した。


「社長に毒を盛る。コスモスさんが社長代理になる。会社の会合でトンダ社長と偶然に出会う。アイドルの引き抜き。そして、今回の人間になる薬。これにすべてポークが関わっていると思われます。一つでも心当たりはありませんか?」


「あるばい……。でもそっか、父さんは病気じゃなかったとね。ばってん卑怯ひきょうか! そこまでするなんて」


 コスモスの表情には、悔しさがにじみ出ていた。

さて、彼女の怒りが爆発するまえに、骨折り損でも薬をもうけってことを知らせておくか。

これで少しは怒りも収まるだろうし、今は冷静でいてもらわないと困る。


「ですが、今回の犯人捜しがすべて骨折り損だったわけではありません。ポークから毒薬の治療薬を手に入れました」


「えっ! それじゃあ、この薬で父さんは治るとね?」


「はい、もちろんです。これを飲ませれば、数日でベットから起き上がれるそうですよ」


「やったぁ。がば、嬉しかよー」


 コスモスは人目を気にせず大粒の涙を流して、子供のように喜んだ。

それはそうだろう。

当初の目的だった入院している父親を元気づけるどころか、退院できるようになるのだから。


「はいはい、涙は勝負に勝ってからですよ」


「でも、ゆるせんたい……」


 コスモスはそでで涙を拭うとこぶしを握り、静かな闘志を燃やした。

それが空回りして悪い方向に行かないようにと、俺はくぎをさす。


「だからといって、次に会ったときに殴ったりしてはいけませんよ。トンダ社長が指示したとの証拠はないのですから」


「ぐぬぬぬぬ。うち、絶対勝ちたか……。でも、このままじゃ負けてしまう。どやんしよ、プータロー…」


「一つだけ打開策に心当たりがあります」


「ホントに?」


「でも、ガッカリさせたくないので、あまり期待はしないでくださいね」


「分かっとーよ。もうそれしか方法はなさそうやしね」


「はい。ですが、これだけは言っておきます。何があっても、私は絶対あなたを見捨てません。ですから、最後まであなたもあきらめないでください」


 俺はコスモスに少しだけカッコつけたが、それは自分へのいましめでもある。

負ければ、自分の身がどうなるか分からないのは彼女も俺も同じだ。

一蓮托生いちれんたくしょう、運命共同体である。

すると、それを聞いた彼女は、満面の笑みで答えてくれた。


「うん、ありがとう」


 俺はそれを心嬉しく思い、笑顔を返した。


「さて、今日は遅くなりました。そろそろ帰宅しましょう。トンジルさんには悪いですが、帰りに薬を病院に届けてもらえますか?」


 すでに、夕暮れ時だ。

家に着く頃には完全に日も落ち、真っ暗だろう。

それでも、一刻も早く心配事は解消しておく必要がある。

コスモスが父親のことが気になって、本番でミスをしないとも限らないからだ。


「分かりました」


 トンジルはうなずくと、俺から薬の瓶を受け取った。

しかし、それを聞いていたコスモスは、「うちも行く」と、自分も行きたいと言い出す。

その気持ちは分かるが、フェスまで実質残り二日しかなく、時間的余裕が全くない。

俺は彼女の要望をやんわりと拒否した。


「薬を飲んだからといって、すぐに治るわけではありません。それに、もうフェスまで時間がないので、今日はゆっくり休んでもらわないと困ります」


 俺の考えにトンジルが同調し、フォローしてくれた。


「そうです。サンドラ社長には、ちゃんと私が届けますから。容体の経過も、医者に逐一報告してもらうように手配しますので」


「ちぇっ」


 コスモスは不満を漏らしたが、反論をせずに素直に従ってくれた。

ワガママなところもあるが、今が重要な時期だと理解してくれているみたいだ。

最後の追い込みの時期、今は我慢してもらうしかない。

なんとしても勝負に勝つために。

 


◇◆◇◆◇

 

 その後、荷物をまとめた俺たちは、文化会館をあとにして、それぞれの帰路についた。

文化会館の入口でトンジルと別れた俺は、コスモスと一緒に帰宅する。

そして、彼女を家まで送り届けると、ドラモリィーにある自分の部屋に戻った。

俺は部屋に着くなりベッドに腰掛けて大きく背伸びすると、首の骨を鳴らしてリラックスする。


「さて、ここからがプロデューサーとしての腕の見せ所だな」


「具体的にはどうするつもり? 早く、教えてよ」


 視界の隅にいるウィンドウは、打開策がずっと気になっていたようだが、俺が落ち着くまで聞くのを待っていてくれていたようだ。

そうは言っても、俺にある手段といったらアレしかないわけだが。


「方法としてはシンプルさ。カミゾンやメルカミでハーフオークになる薬を探すんだからね」


 俺は自身たっぷりに言ったが、結局は神頼みだ。


なんだ、期待して損した。でも、そんな薬が売ってあるかが問題よね」


 ウィンドウにとって期待外れな回答だったようだが、他に手立てはない。

確かに、そんなに都合よくハーフオークになる薬が売ってあるとは思えないのも事実だ。

そんなことは承知の上であるが、わずかな可能性にけた。


「まずは、ダメ元で探してみよう。ダメなら他の方法を考えるさ。それじゃ、最初はカミゾンにアクセスしてくれ」


「了解」


 ウィドウがチャチャっとカミゾンがアクセスする。

幸いなことにカミポイントは、タブレットやパソコン、音楽ソフト、本番での衣装、そして必要な準備に大量に使ってはいたが、わずかに残っていた。

カミゾンもメルカミも、俺が必要としている商品以外表示されないので、持っているポイントで購入できるならハーフオークになる薬が表示されるはずだ。

俺は祈る気持ちで画面を注視したが、トップページが表示されるだけで商品の画面に移動しなかった。


「くっ、やっぱり売ってないのか。カミポイントが残り6,000あるから、不足していることはないと思うんだが」


「前にカミゾンで人間になる薬が1,000カミポで買えたからね。じゃあ、メルカミにアクセスしてみるよ」


「うん、頼んだよ」


 するとウィンドウは、今度はメルカミにアクセスし始めた。

今度はトップページから商品ページに移動するものの、やはりそこには目的の商品は売ってない。

それを見たウィンドウは、ガッカリした様子で落胆した。


「あらら、やっぱりハーフオークになる薬なんて売ってないね……」


 俺もウィンドウに釣られて肩を落としたが、よく見ると違う商品が表示されていることに気づいて声を上げた。


「あれっ? 人間になる薬が売ってある! 今まで散々探しても売ってなかったのに」


「ホントだ。最近出品されたのかな? だったら、すぐに人間に戻れるんじゃない?」


「いや、ちょっと待って。多分これはポークの使った薬だ」


 確かに商品名は人間になる薬と記載してあるが続きがあり、試供品と書いてある。

そして、商品の詳細には試供品のため効果持続時間は約5日間ですとの説明があった。


「本当だ。これじゃ人間に戻れたとしても、すぐにオークに逆戻りね」


「それもあるけど、前回薬を飲んだときに、なんで人間に戻れなかったかを解明しないと、人間になる薬を買っても意味がないんだよね……」


「そうだね。買っても効果がなかったらむなしいからね。でも、これで彼女がフェス参加ことも、プータローが人間に戻ることもお手上げよ。どうするの?」


「とりあえず、この薬の出品者に連絡を取ってみよう。もしかしたら、出品はしてなくても、薬の効果を打ち消す薬を持っているかもしれないし」


「そうね。とりあえず出品者を調べてみるわ」


 そして、ウィンドウがあれこれ画面を操作すると、出品者のプロフィールページに移動した。

薄々予感はしていたが、そこには以前、人間になる薬を購入したビエル・カレンセンの名前がある。


「あちゃー。この人、前に怒らせて値切った相手だよ」


 俺は頭を抱え込んで、嘆いた。

恨んでなければいいけど……


「本当だ。でも、どうするの? とりあえず、連絡を入れてみる?」


「ちょっと待って、少し考えさせて」


 絶対に、ひと悶着もんちゃくありそうだと思った俺は、万全を期することにした。

あれだけ怒らせた相手だ。

無策では返り討ちにいかねない。

それに、今回は欲しい商品そのものが出品されているわけではない。

いろいろと交渉する必要もあるからだ。


「そういえば、俺のメルカミでのアカウント名ってどうなっているの? 前はサブローだったけど」


「えっとね、おっ! ブータローに変わってる。これだったらバレないと思うよ」


「でも、俺がオークになった理由についても心当たりがないか聞きたいから、結局はバレるだろうね。正体をバラす前はそれでいいけど、正体が知られたあとにも協力的でなくては困るんだよ」


「そっか、人間に戻るためには、薬を作れる人の力が必要だからね。だったら、どこかに脅せるネタでも見つかればいいんだけど」


 ウィンドウにそう言われ、俺は出品者のページにヒントがないか目を通す。

すると、そこには怪しいサイトのサクラみたいな自己紹介が書かれていた。


――――――――――――――――――――――――

わらわの名前はビエル。

村では、わらわの名前になぞらえて、のエルフと呼ばれる美人さんなのじゃ。

趣味は読書で、おしとやかとよく言われておるぞ。

得意なのは魔法と錬金術じゃ。

取り扱っている商品は薬が多いが、注文があればなんでも受け付けるぞい。

――――――――――――――――――――――――


 しかし、この文章から相手を協力的にさせるのに有効な手立てはなさそうだ。

あるとすれば、美人と言っておだてるくらいしか思いつかない。

仕方ない、他の場所を探してみよう。

他に見られるとしたら、評価と購入履歴ぐらいだろうか。


「相手の購入履歴とか見れないの?」


「えっと、評価のコメントは見れるけど、購入した商品については非公開みたいだね」


「とりあえず、購入した評価のコメントを見えてもらえる?」


「オッケー」


 素早くページが切り替わり、そこには定型文と思われる「ありがとうございます。よい取引――」の文字が並ぶ。

しかし、一つだけ定形でないコメントを見つけた。


――――――――――――――――――――――――

同じ趣味で嬉しいです。

やっぱり、薄いのは最高ですよね。

ただし、イケメン限る!

――――――――――――――――――――――――


 同じ趣味ということは、プロフィールに書かれている読書のことだろうか?

しかし、並んでいる文字に違和感を覚える。

もしかして、アレなのだろうか?

もちろん、確かめるすべはない。

これ以上は、らちが明かない。

仕方ない、とりあえずは別人と思わせておいて、出品者に連絡を入れてみるしかないか。

駄目だったら、おだてて持ち上げてご機嫌を取ろう。


「じゃ、ウィンドウ。相手への連絡を頼む」


「了解。知ってると思うけど、チャット画面への入力は思考入力タイプだから、余計な事を考えないように注意してね」


こうして、メルカミでの取引が静かに幕を開けた。


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