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チートスKILL ~中途半端な転生者~  作者: 奥 悠人
3章 今日からブタは!!!
21/48

プロジェクト始動、アイドルとムショクのプータロー

時は流れ、フェスまで残り十日。

オークランドサガ・プロジェクトは順調に進んでいる。

うちは覚悟を決め、恥ずかしい衣装を着て頑張って歌っていたからだ。

その恥ずかしい衣装はプータローが用意したもので、オークランドではお目にかかれないカラフルな光沢がある生地に、レースやリボンなどがあしらわれていた。


「どやんして手に入れたと!? この高そうな服!」


 初めてその衣装を見たときは、そんな声を上げるぐらい、その奇抜なデザインと質感にスゴく驚かされた。

プータローに聞くと、人間のアイドルが着ている衣装らしか。

ただ、どうやって手に入れたかは、笑ってごまかされたとよね。

スゴくキラキラでフリフリしていて、かわいらしか衣装やけど、肌の露出が多くて恥ずかしすぎるったい。

 それは置いといて、プータローからの最初の指示は、羞恥心を無くす訓練だった。

どやん訓練かというと、この恥ずかしい衣装を着て、毎日店先で歌うことやったと。

最初の頃は、スゴく恥ずかしくて委縮し、ちっとも歌えんかった。

だけど、いつも買い物に来てくれるハーフオークのお客さんたちの応援もあって、いつの間にか歌えるようになっとったとよね。

 そして、店先で歌うのにも慣れた頃、


「では、次のステップです。今日からは、街中でゲリラライブをやっていただきます」


 と、プータローからの指示で、いきなり街中で歌うことに!


 そんなの無理たい。

やっと今の状況に慣れ始めてきたのに。

プータローが言うには、どんな場面でも緊張しない精神力獲得と、新しいファン獲得の一挙両得のためらしか。

だったら、覚悟を決めてやるしかなかたいね……

 その甲斐かいあってか、少しずつ地元の人たちにも認知され、新しいファンも増えてきた。

ただ、ハーフオークの多い地域とはいえ、オークのファンがいないのは気になるところ。

やっぱりハーフオークは差別されてるのよね。

 それじゃいけないと気を取り直し、うちは毎日ゲリラライブへと繰り出していた。

しかし、それもマンネリ気味になる。

歌う曲はオークランドでの流行はやりの歌を歌っとったから、目新しさがなかったとよ。

それじゃフェスでは勝てないって分かっとったとやけど、うちには歌なんて作れんし……

 そのことを、プータローに相談したところ、


「では、次のステップです。これはタブレットといいます。まずはこれを参考にして歌う練習をしていてください」


 と、ピカピカと輝く薄い板を貸してくれた。


 ()()レットは本当にスゴか魔道具で、人間のアイドルが歌っている映像が見られるとよ。

そこにはうちと同じような衣装を着たアイドルが、聞きなれない異国の言葉で歌っていた。

その曲は明らかにオークランドの曲調とは異なっていて、初めて聞く美しい音色の楽器がうちの心をわしづかみにする。

 やっぱり人間の文化はスゴかー!

これと同じ歌を歌えれば、絶対に勝てると思ったと。

だけどブータローが言うには、それじゃダメって言うとよ。


「この歌詞をただ翻訳して歌っても、勝てませんよ。この国の人には理解できない感情や、価値観が歌われています。そして最大の理由が、この歌詞にはコスモスさんの気持ちやメッセージが込められてないことです」


 その言葉を聞いて、うちの頭の中は???となった。

歌にそんなものが必要なかろうもん。

美しいメロディと、お客さんを喜ばせる歌詞があれば十分じゃなかとね? と思っていた。

だけど歌詞の意味を聞き、歌い手の感情を知るうちに、次第にプータローが言っていた意味が理解できてくる。

うちたちの国の歌には、相手の心に訴えかける何かが足りてない。

そして、この歌は確かにスゴかけど、うちが歌ってもオークランドの人にはその歌の持つ本質は何も伝わらんとたい。

そのことに気づいたうちは、勝負に勝つには自分で作ったオリジナルの曲が必要だと感じ始めていた。


 ()()レットを使って人間っぽく歌う練習をする頃になると、プータローは部屋にこもって作業することが増えていた。

部屋に食事を持って行ったトンジルの話によると、肉の初値はつねを調整しているらしい。

プータローは確かにうちの補佐役やけど、市場のりや店の仕事は、店長のトンジルに任せとけばかのに。

それを伝えるついでに、自分の曲を作りたいとの相談もあったけんが、うちはプータローの部屋を訪ねることにした。

 部屋に行くと、プータローの目の前には()()レットに似た魔道具が置かれ、何やらカチャカチャカチャと起用に指先を動かしている。

うちはプータローに「これはなんばしよーと?」と肩越しに聞くと、


「これは、DTMをやっているところです」


 と、プータローは作業に集中しているのか、こっちを振り返らず答えた。


 やっぱりプータローって謎が多すぎる。

この際だと思い、いろいろと質問してみたと。

それで分かったことは、どうやらここに来る前のプータローは、趣味で音楽を作っていたらしか。

そして、この魔道具を使ってボカロぴーなるものをやっていて、初値はつねで肉を競っていたそうだ?

なんやろ? ボカロぴーって。

でも、DTMは聞いたことある。


「ボカロぴーは、よく分らんっちゃけど、DTMはドーテーマンの略やろ?」


 そう言って、うちは素っ気ない態度のプータローの耳元にささやいた。



◇◆◇◆◇


「ブゥーッ!」


 コスモスの何気ない一言に、俺は思わずブタみたいに吹き出していた。

DTMはデスクトップミュージックの略称で、パソコンで音楽を作成することである。

これを使えば楽器が弾けない俺でも作曲ができる優れものだ。

決してドーテーマンの略ではない。

パソコン画面に飛んだツバをタオルで拭きながら、DTMについてどう説明しようか考えていると、コスモスの方が先に口を開いた。


「でも、ドーテーマンの意味は知らんとよね。聞いても誰も教えてくれんし、プータローが教えてよ」


 コスモスは目をキラキラと輝かせ、俺の答えを期待している。


「ち、違いますって。そもそも、私が言っているDTMは童貞男どうていおとこって意味じゃありませんから」


 コスモスにDTMの意味を説明しても、理解するのは難しいだろう。

好奇心を持つことは大切なことではあるが……


「なんだ、違うとね。でも、そっかー。ドーテーマンは、童貞男って意味やったとかー。だったら、男のプータローは童貞なん?」


 し、しまったー!

うっかりドーテーマンの意味を教えてしまっている。

否定しようしたが、動揺していた俺は言葉に詰まりながらも正直に答えてしまう。


「ど、ど、ど、ど、童貞です」


 前言撤回。

俺は死んだ。

好奇心はブタを殺すだ。


「そうやったとね。けど、どやん意味?」


 た、助かった。

童貞の意味は知らないみたいだ。

もし知られていたらと思うと、恥ずかしすぎる。

だが、なんと答えるか。

俺は苦し紛れの言い訳をする。


「あのー、えっと、禁欲――いや、そうだ、禁則事項です。禁則事項なので教えられません」


 だって恥ずかしくて答えられる訳がない。


「えっー! プータローも教えてくれんとね。んー、なんでみんな教えてくれんとかな?」


 コスモスはスゴくガッカリした表情を見せ、そしてプーっと頬を膨らませて抗議する。


「そもそも、どういった用事で私の部屋に来たんですか?」


 俺は、はぐらかそうと話題を変えた。

コスモスは「あっ!」と不意に出た声を手で押さえ、


「忘れとった。自分の曲を作りたくて来たとやった」


 と、俺の部屋に来た理由を思い出した。


「それはちょうどよかった。コスモスさんのための曲を作っていましたが、ちょっと行き詰ってまして。よければ、お手伝い願えませんか?」


「えっ! 本当によかと?」


 先ほどの抗議も、どこ吹く風といった様子でコスモスに笑顔が戻る。


「もちろんですよ。以前話しましたが、歌詞には歌い手の気持ちや伝えたいメッセージが必要です。私にはこの国での感性が不足していますので、二人三脚で作っていきましょう」


 その言葉を聞いたコスモスは、「うん!」と満面の笑みでうなずいた。

俺はその顔を見て、はっと気づかされる。

いつの間にか焦って、独りよがりの作業になっていたことに。

コスモスは初音ミクのようなボーカロイドではない。

だからコスモスと活動するときは、かつてボカロ作者として名をはせたムショクPではダメなのだ。

プランBとして、コスモスに口パクをさせて、ボーカロイドの音声を使おうとしていたことが恥ずかしい。

そうだ、俺はコスモスのサポートさえすれば良かったんだ。

そして、ゲームではない本物のアイドルプロデューサーになる必要がある。

生身の彼女を立派なアイドルにするために。



◇◆◇◆◇


 そんなこんなで残り十日にして、ついにうちが作詞した曲がプータローの手伝いもあって完成した。


「ナリアガレ」


 この曲には、うちからオークランドに住むみんなへのメッセージが込められている。

こんな歌詞でいいのだろうかと何度も悩んだが、そうでありたい、そうなりたい、そうしたい自分を素直に表現することが重要だと、プータローにアドバイスしてもらったおかげだ。

そして、プータローの作った楽曲の演奏も完成し、歌詞とメロディを組み合わせると、その曲の持つ熱気にうちは身震いした。

歌ってなんて素晴らしかとやろう!

うちの中にアイドルとしての矜持きょうじが芽生えた瞬間だった。

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