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チートスKILL ~中途半端な転生者~  作者: 奥 悠人
3章 今日からブタは!!!
18/48

作戦名:OLSプロジェクト

「えぇー! 私がアイドル!? そんなの無理ですよ。そもそも、こんな顔じゃ見向きもされませんって」


 護送車で一緒になったハーフオークの少女コスモスに、アイドルになってくれと言われ俺は取り乱していた。

だってアイドルだよ。

こんなダサいおっさんじゃ無理だって。

今の姿に慣れていない俺は、転生前の容姿のつもりで答えてしまっていた。


「なんで謙遜けんそんしとると? めちゃくちゃイケメンじゃなかね」


 コスモスは少し呆れた表情で両手を左右に広げると、ため息をついた。


「そういえば、そうでした……」


 そう答えると、俺は取調室の鏡で見た自分の姿を思い出していた。

俺がイケメンであることは、ここまで運ばれる途中の女性からの熱い視線や、黄色い歓声が物語っている。

オークの女性に興味がなかったので気に留めてなかったが、今にして思えば、おりの中で見せ物になっていた俺への歓声だったのだろう。

だとすると、顔に関しては、町で歩けば芸能事務所にスカウトされるレベルにはあるのかもしれない。

たまたまスカウトされたのが、護送車の中だったということか。


「ブータローってスゴいイケメンやけん、絶対にアイドルで成功するって。だけんが、うちん会社でアイドルとして活動してほしかとよ」


「そんなの無理ですって。歌は下手ですし、それにダンスに関しては絶望的ですから」


 俺は音痴ではないが、歌唱力はカラオケの採点機能で70点が関の山だ。

それはいいとして、問題はダンスである。

踊った経験は盆踊りくらいしかないし、むしろ最近は不運と踊っちまう方が多いくらいだ。

これでアイドルを目指すのは、正直無謀もいいところである。

俺の答えを聞いたコスモスは少し考え込むと、険しい表情でボソッとつぶやいた。


不戦負ふせんぱいだけは絶対に嫌やもん。それに出場すれば、顔がかけん勝つ可能性はあるはずばい……」


 それはおそらく彼女の独り言で、心の中の声が口に出たのだろう。

だからこそ、その言葉が真実であり、何かしらのトラブルを抱えていることを物語っていた。

俺の第六感が、首を突っ込むなと警報を鳴らしている。

だけど、かわいい女の子が困っているのを見捨てるのは、お人よしの俺には無理な話だ。

だって、これが俺のさがだから!

そうだ、ここはサガなのだから仕方ないのだと自分にツッコミを入れると、結局詳しく聞いてしまうのだった。


「ちょっと待ってください。不戦敗とか勝つ可能性とか、どういうことでしょうか?」


「――えぇっと、細かいことは気にせんでよか。心配することなかと! うちがプータローを、一流のアイドルにしちゃるけん」


 コスモスは一瞬口ごもると、答えをはぐらかした。

何かを隠しているのがバレバレである。

もしかして、スカウト詐欺なのか?

アイドルになりませんかと街角でスカウトされて、実はアダルトビデオのスカウトだったのは、よく聞く話である。

俺の場合だと、まさかゲイビデオ!?

それだけは勘弁してもらいたい。

彼女に理由を尋ねようとしたとき、無意識にお尻にキュッっと力が入っていたのは秘密だ。


「理由はお尻――ではなく、教えてもらえないのでしょうか? でなければ論外ですね。お断りします」


 どう考えても、俺はアイドルには向いてないから仕方ないよ。

それに、理由を教えてくれないってことは、だまされている可能性だってあるし。


「えぇ! なして? 人気者になれるんよ!」


 コスモスは、まさか断られるとは思っていなかったらしく、非常に慌てた。


「興味ありませんね。アイドルは見る方が好きですし、ましてや自分自身が目立つのは嫌いです」


 前世ではアイドルオタもやっていたので、素人が簡単にはアイドルになれないことを俺は知っている。

売れるまで長い下積みと、よほどの才能がない限り、普通の歌やダンスでは勝ち上がれない世界だ。

それに作詞、作曲、マーケティングなど、とても簡単にできる仕事ではない。

その多忙さは、俺がニートになった理由の一つでもある。

だから、理由も聞かずに、「はい! やります」とは、答えられるはずもなかった。


「ううっ、やっぱり話す。だから考え直して」

 

 なんだかんだ言っても、彼女はまだ若い。

言葉の駆け引きに弱かった。

俺の拒否に動揺し、あっさり理由を話すことを選んだようだ。


「焦っているように見えますが、何か理由があるんですか? 相談になら乗りますよ」


 俺が子供を諭すように話すと、コスモスは渋々と理由を話し始めた。

拳を握り締め、うつむき加減の表情は悔しそうに見える。


「実はうちんとこにもアイドルがおったとやけど、勝負を約束していた相手の会社に引き抜かれたと」


「確か抗議に行って、相手の社長を殴って捕まったと言ってましたね」


「アイドルが出場せんで負けるとは悔しかけんね。卑怯ひきょうたいって文句を言ってきたと」


「それは許せませんね。それで、代わりのアイドルが必要になった訳ですか」


「そうたい。三カ月後に音楽フェスがあるとやけど、そこで、どちらの所属するアイドルが高い点数を取れるかの、勝負をするはずやったとよ」


「フェスっていうと、複数のアーティストが歌うお祭りですか?」


 コスモスは俺の質問にうなずくと、話を続けた。


「たくさんの会社が参加しとって、各社の代表アイドルを出場させて競うとよ。優勝はできんでも、相手んとこのアイドルにやったら絶対勝てる勝負のはずやったと。うちんアイドルの方が数段人気があったけんね」


 音楽祭というより、のど自慢大会に近い気もするが、ここは異世界だし文化の違いだろう。

ただ、話を聞いてみたところ、約束をキャンセルすればいいだけではないだろうか?

そこまで卑怯ひきょうなことをされたのなら、許されるはずだろうと思い提案してみた。


「いい勉強になったじゃないですか。勝負に絶対はありませんよ。それに、最初から引抜く算段だったのかもしれませんね。約束を取り消したらどうですか?」


「それはもう無理たい……」


 そう言うと、コスモスは両手の親指と人差し指を合わせ、ションボリとした顔で胸の前で指をいじり始めた。


「なぜです? 負けると分かって勝負をするのは、経営者として失格ですよ」


「違うったい。もう約束は、反故ほごにできんとよ。外から来たから知らんと思うとやけど、オークランドでは法律、規律は絶対ったい。勝負の内容とその賞品については、契約書を交わしてしまっとうけん、法的拘束力が生じるとよ」


「もし、破ったらどうなるんですか?」


「無期懲役ったい。最悪、死刑もあるとよ」


 こいつは厳しい法律だ。

確かにこれなら、オークでも規律正しくなるかもしれない。

ただし、あまり厳しすぎると住民の不満がたまりそうではあるが。


まいりましたね。三カ月以内にアイドルを見つけ、勝負に勝てる実力を身に付けさせる。はっきり言いますが、勝てる確率は1%未満ですよ」


「わかっとーけど、うちは目の前の0.9%(オーク)に賭けたかと! もう、それしかなか」


「だから、私では勝てないですって。とりあえずですが、その契約書って今持ってますか? そこまでする相手です。契約書にも細工があるかもしれません」


「うん、持ってきとー。相手と話し合いに行ったけんね」


 そう言うと、コスモスは馬車の隅に置いてあったバッグから契約書を取り出し、俺に手渡した。

手触りや紙の色合いから羊皮紙だと思われるその紙は、およそ地球では見たことがない文字が書き込まれている。

オークの文字は読めるかなと思ったけれど、なぜか問題なく読むことができた。

これもスキルの一種なのだろうか? と、疑問に思ったが、深く考えても答えが出るはずもないので、そういうものだと理解する。

そして、俺がその契約書に目を通していると、コスモスが契約内容についてかい摘まんだ話を始めた。


「別に普通の契約たい。勝負方法は、お互いの会社所属のアイドルを使うこと。勝敗判定は、三カ月後の音楽フェスでの点数で、賞品がうちの方が人間の国のコネ、相手の方がうちんとこの物を一つだけもらうって言っとったよ」


「相手の欲しい物とは、具体的に何についてですか?」


「えっと、まだ決めとらんって話やったよ。多分やけど、畜産部門が品種改良した、牛のサガミノタウロスとかじゃなかとかな? 霜降り肉が美味おいしかとよ。それとも、農業部門が作った甘くて美味おいしい、イチゴのゴチソウさんやろうか?」


「えっ! 詳しく決めてないんですか?」


 驚いた俺はひとまず契約書から目を離し、コスモスの方に目を向けた。

流し読みしただけだが、契約書の内容はおおむね把握できし、いくつか問題点も見つかっていたからだ。


うちんとこのアイドルだったら、絶対勝てる勝負やったもん」


「はぁー。慢心を利用されましたね。コスモスさんはまだ若い。契約書の解釈や見方について、詳しく学ぶべきです」


「どういうこと?」


 コスモスは頭を少しかしげると両手を左右に開き、理解できないよって顔をした。


「契約を結び慣れてない場合は、専門家にチェックしてもらった方がいいってことです」


「なして? そがん必要なかろうもん」


「詳しく説明すると、その契約が法的問題ないか、リスクがないか、また書面に自社に不利な条件が書かれていないかを第三者に確認してもらった方がいいということです」


「へぇー」


 コスモスはうんうんとうなずくものの、表情から察するに相変わらずちんぷんかんぷんのようで、物事の重要性を理解してないようだった。


「具体的に説明すると、契約書のここを見てください」


 俺は契約書に書かれた注釈部分の一つを指さした。

そこには、細かな字でびっしりと文字が書かれている。


「出場するアイドルが何らかの理由で出場ができない場合は、棄権扱いとし、不戦敗となると書いてありますよね」


「あっ、ホントだ」


「この部分を棄権扱いとし不戦敗ではなく、勝負の中止としておけば問題なかったんですよ」


「おぉぉ! スゴか! イケメンだけじゃなくて頭もかとね」


「そして、重要なのはここからです。まず一つ目は、賞品についてですね。契約書に気になる注釈を見つけました」


 コスモスはゴクンと生唾を飲み込み、緊張した面持ちで聞き入っていた。


「賞品要求額の上限は、勝利した会社の年間売上高の10%以内とするというところです」


うちんとこは人間の国でのコネやから問題なさそうばってん(だけど)、それがどやんしたと?」


「この契約だと、コスモスさんの会社売上の10%相当の費用分しかコネは使えませんよ。それに問題は相手の方です。コスモスさんが望む賞品と同等価値だったら、問題なかったのですが。ちなみに、相手の会社の規模はどれぐらいなんですか?」


「あっ!」


 コスモスはこの時に初めて事の重要性を理解し、契約書に書かれていた注釈部分を読んでいなかったことを後悔したようだった。


「オークランドの三大財閥ったい……。相手の会社はソフトトングというとやけど、おそらくオークランドでベストテンに入る企業ばい」


「ということは、コスモスさんの会社の経営権を持っていかれても不思議じゃありませんよね」


「あわわわ、ヤバか。どやんしよ、どやんしよー」


 コスモスは慌てふためき、その場で頭を抱え右往左往しはじめた。


「それと、もう一つあります」


「えぇっ! まだあると!?」


「コスモスさんの会社に所属するアイドルは、何人いるんでしょうか?」


「引き抜かれたけん誰もおらんよ。だけんが、プータローに声を掛けとるやん」


「あぁ、やっぱり。契約書の注釈の10を見てください。勝敗の決定は、出場するアイドルの合計得点の高い方とするってありますよね」


 コスモスは俺から渡された契約書を手にとると、目を凝らしてじっと見つめた。


「うん。そがん書いてあるね。どこに問題があると? 点数の高い方が勝ちって書いてあるやん」


「では確認ですが、各会社に割り当てられたフェスに参加できるアイドルの上限は何組ですか?」


「二組やけどそれがどやんしたと?」


 コスモスはまた首をかしげており、またしても重要性を理解してないようだった。


「合計得点って書いてありますよね。だから、アイドルを2チーム出場させれば、単純計算で得点が倍になるんですよ」


「……」


 コスモスのポカンとした表情から理解していないことは、明白だった。

これは具体例をあげないと無理か。


「例をあげると、コスモスさんのところのアイドルが、フェスで100点満点を取ったとします」


「やった! 満点だから勝利確定たい」


「まだ話は続きますよ。その時、相手がフェスに2チーム出場させて60点と50点を取りました」


「ふんっ、いい気味たい。安心してよか! うちたちなら100点取れるけん、この通りになるもん」 


「いいのですか? この通りになって。相手チームは合計して110点ですので、コスモスさんの負けになるのですが」


「あれ? ということは、最初から出来レースやったってこと?」


「大正解です。これは引抜きが失敗したときの保険でしょうね。さて、これで勝てる確率は0%になったわけですが、どうしましょうか。あれ、コスモスさん?」


 無慈悲な現実にコスモスは完全にたたきのめされ、心ここにあらずのようである。

いくら声を掛けても返事がない。

どやんしよ、どやんしよーと、言葉を繰り返すばかりである。


「まーた、厄介事に首を突っ込んでいるみたいね」


『あっ、ウィンドウ。やっと起きたの? 何かあったら起こしてって言ったのに』


 ウィンドウはいつもの位置で胡坐あぐらをかいて大きく背伸びをし、まだ眠いのか目をパチクリとさせていた。


「仕方ないじゃない。隣でグースカ気持ちよさそうに寝ているのを見せられる、こっちの身にもなってよ」


『確かに車の助手席で寝られると、眠くなるからね』


「そういうこと。ところで、アイドルやるって本当?」


『えっ! なんでウィンドウが知ってるの? 寝ていたんじゃなかったの?』


「寝ていたわよ。会話ログを見直している最中だから、知ってるだけよ」


 ウィンドウはそう言いながら、いつの間にか開いていたウィンドウ枠に目を通していた。


『そんな機能、聞いてないんだけど……』


「だって言ってないもん。乙女にはいろんな秘密があるものよ」


『はいはい、分かりました。ちなみに、俺はアイドルやる予定はないよ』


「あら、珍しい。それじゃあ、彼女を見捨てるんだ」


『いや、助けはするよ。そこで、ウィンドウにも助ける方法を探すのを手伝ってほしいんだけど、ダメ?』


「それは構わないわよ。だけど、かなり無理ゲーじゃない?」


『普通ならね。だとしても、ウィンドウがいれば0%の可能性を1%にすることができる気がするんだ』


 この言葉を聞いたウィンドウは、ちょっと照れたようだが、手に握りこぶしを作ると自分の胸を叩いた。


「ドーンと、任せなさい!」


『よろしくお願いするよ』


 俺がウィンドウにお礼を言っていると、馬車を操る御者のオークが口を開き、そろそろ到着することを告げた。

辺りはすっかり夕暮れ時である。

相変わらずコスモスは頭を抱え、「どやんしよー、どやんしよー」と言葉を繰り返すばかりだ。


「コスモスさん、そろそろ刑務所に到着しますよ」


 俺はコスモスの肩を揺すり、言葉を投げかけた。

すると、どうやら一時的に正気に戻ったようだ。


「どやんしよープータローさん。うちもうダメたい。あばばばば」


「しっかりしてください。刑務所の中で勝てる方法を考えてみますので、気を確かに持ってください!」


「えっ! 本当に?」


 俺の言葉を聞いたコスモスは、先ほどまでの言動が演技ではないかと思えてくるくらいの、急激な回復ぶりを見せた。


「だから、私が刑務所から出るまで正気でいてもらえませんか?」


 コスモスの刑期は三日のはず。

もしも、刑務所の中で問題行動を起こし刑期が伸びた場合、待っているのは確実な敗北だ。

それだけは絶対に避ける必要がある。


「分かった。プータローば信じて待っとく」


 コスモスはそう言うとギュッと目をつぶり、刑務所に着くまで両手を組み神に祈った。



◇◆◇◆◇


うちは神に祈りながら、目の前にいる不思議なオークのことを考えていた。

なぜか、プータローの言葉はスゴく安心できると。

イケメンやけんかな?

ばってん(だけど)、不思議かー。

なんやろ? このモヤモヤとした気持ち。

好きか嫌いで言えば、プータローのことは好きとよね。

うちがハーフオークじゃなかったら、奪い去りたいと思ってしまうとかな?

だけど、それとは違う感情のような気がする。

あっ! これが昔、母さんが言っていた()()って言うとやろうか。

ありゃ? ばってん(だけど)、なんか違う気がする。

 

 その後、刑務所に到着したうちたちは、性別で違う収容棟に分けられ出所するまで再開することはなかった。

不安だったが、なんとかプータローの言葉がうちの意識をつなぎとめていた。



◇◆◇◆◇


 四日後、俺は刑務所での労役を終え出所した。

まさか、刑務所の中にブタ小屋があり、刑務内容がブタのお世話だとは思わなかったが。

だが、収穫もあった。

刑務所の中には図書館があり、受刑者の更生や社会復帰のために、さまざまな本が用意してあったのだ。

そこにはもちろんオークランドの法律やビジネスの本、政治から歴史まで、幅広いジャンルの本が用意してある。

そしてラッキーなことに、娯楽室ではオークランドで流行はやっている曲から昔の曲までがそろっていて、貸出のサービスが行われていたのだ。

これ幸いと、俺は毎日大量の本を借りて部屋に戻り、いろんなジャンルの音楽を聴きながら寝ずに本を読み漁る。

助ける方法を考えてみると言ったからには、彼女を無下むげにはできない。

これも、昔から困っている人を見捨てられない性分のせいだろうか?

まったく損な性格である。

 

 それから三日間、徹夜で本を読み漁ることで、オークランドについていろいろ知ることができた。

やはり法律や規律は絶対であり、また契約を交わした場合は必ず順守する義務がある。

しかし、法律を勉強する中で今回の契約に限っては、その契約自体を無効にする方法を見つけ出した。

だが、勝てる方法を探すと言ったからにはこの方法は保険と思い、勝負に勝つ方法を俺は模索した。

 

 その結果、人間とオークでの音楽性の違いを突破口にする他なさそうだ。

オークランドの曲は、正直言って古臭い。

日本で流行はやっていた曲にくらべたら、ダサいといってもいい。

まず、使われている楽器が打楽器と笛ぐらいなので、俺には音色ねいろが物足りなかった。

そして、歌詞に関しても、情熱パッションとロックが不足している。

この辺を攻めればなんとかなりそうだが、方法は分かっても問題は勝つ手段である。

それについては、カミポイントとコスモスの手伝いがあれば、なんとかなるかもしれないだろう。

なぜなら、いつの間にか200万もカミポイントを保有していたからだ。

ゴブリンハンターとのいざこざのときに、ポイントを使い切ったはずだったのだが……

誰かを助けた覚えもないけど、これで必要な品を手に入れることができるのは大きかった。



 刑務所から一歩外に出ると、その出入り口には看守が見張っていた。

その看守のオークは小指を立て、


「ふん、おまえのコレが待ってるぞ。もう二度とこんな場所に来るなよイケメン野郎!」


 と、そっちの方向に行けといわんばかりにあごをしゃくりうながす。


「ご迷惑をお掛けしました」


 俺は看守のオークに一礼をすると、看守が行けとうながした方に目を向ける。

そこには、コスモスがソワソワと待ち受けており、俺の姿を見つけると笑顔で手を振り出迎えた。


「待っとったよ。出所おめでとう!」


「ありがとうございます。コスモスさんの方が一日早かったですね」


「そいけんが、昨日は近くのホテルに泊まったとよ。それで、勝てる方法は見つかったと?」


 コスモスの声は非常にソワソワとしており、声がうわずっていた。

やはりかなり不安だったのだろう、目の下にクマも見受けられる。

だが、俺の次の言葉を聞くと安心して力が抜けたようだった。


「分の悪い勝負になりますが、それでよければ見つかりました。現状、勝てる確率は20%前後ですが、フェスまでには努力次第で50%ぐらいにはできると思います」


「えっ、本当に?」


「嘘は言いませんって。それと契約を無効にする方法もありましたよ。どちらを選ぶかは、あなた次第ですが」


「すごかー! プータローって天才たい」


「褒め過ぎです。それで、どちらの方法を選びますか?」


 コスモスは両腕を組むと、「うーん」と、うなってしばらく考え込んでいた。

そして右手に拳を握り、空に突き上げると、


「決めた! 鼻を明かしてやりたかけん勝負したか!」


 と、勝負することを宣言した。


「やはりそっちですか。わかりました、力をお貸ししましょう。ですが、確率は五分五分ですし、負けても知りませんよ」


「やったー! プータローがアイドルになってくれるなら百人力たい」


 コスモスは万歳をし、あたかも俺がアイドルになることを疑っていないようだった。


「勘違いをされているようですが、私はアイドルをやりませんよ」


「へっ?」


 コスモスは驚いた声を上げると、万歳したままその場で固まっていた。


「なして? そうせんと勝てんたい。じゃあ、どうやって勝つとよ?」


「私の方はプロデューサーをしますので、コスモスさんにアイドルをやってもらいます」


「え!? うちがアイドルって、歌ったり踊ったりするあのアイドルのことね?」


「もちろん、そのアイドルです。他に何があるんですか。それと、今後は本プロジェクトは、作戦名コードネームで呼称していただきます」


作戦名コードネーム? いや、必要なかろうもん……」


「いいえ! 作戦名コードネームは重要なファクターです。これがないと、私のやる気がおきません! 以後本件は、オークランドサガ・プロジェクトと呼んでください」


 困惑していたコスモスは、深い呼吸をして一息つくと、


「――プータローはいったいなんば考えとっとね?」


 と、もっともな疑問をぶつけてきた。


「私はただのプータロー。私はあなたをアイドルにする男です!」


 と、答えた俺は、今はまだ疑問に答える気はなかった。



◇◆◇◆◇


 コスモスは混乱していた。

プータローと会ってからというもの、彼女は驚かされてばかりである。

まさかハーフオークの彼女がアイドルをやるなんて、思いもしなかっただろう。

 コスモスの父親が謎の病気で倒れ、病院に入院して二年が過ぎていた。

そこで、彼女は父親を元気づけるために、父親が今でも愛し続けている母親に、お見舞いに来てもらおうと決意する。

しかし、彼女の母親は人間であり、オークランドでの差別に耐え切れずに十年前に離婚していて、人間の国に帰ってしまっていたのだ。

 どうするか悩んでいたところ、会社の会合で偶然出会ったソフトトング社長から嬉しい申し出を受ける。

なんと、ソフトトング社長は人間の国に太いパイプを持っているので、そのコネで母親を探す手伝いをしてくれるというのだ。

しかし、それには条件があった。

無料ただだと面白くないので、アイドルフェスでコスモスが勝てば母親を探すのを手伝い、負ければ彼女の会社のモノを一つ頂くと。

しかし、この勝負はコスモスにとって、かなり有利な条件だった。

ソフトトングは芸能部門を立ち上げたばかりで新人アイドルしか所属しておらず、デビューしたばかりの新人を出場させるとのことだったからだ。

まさに、コスモスに勝ってくれと言わんばかりのお膳立てである。

しかし、結果的にそれはわなで自社のアイドルを引抜かれ、さらには八百長じみた条件を知ることになる。

絶望に打ちひしがれて彼女だったが、唯一の幸運はプータローに会えたことだった。


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