出会い、料理じゃないよ〇カツは
ガタガタガタ――
軽快なリズムで走る馬車は、刑務所に向かっている。
馬車の荷台は鉄格子で囲われており、護送車であることは一目瞭然だった。
寂しいことに乗客は、囚人服を着た俺一人だけ。
椅子がないので鉄格子を背にして座り、檻の外の世界をぼんやりと眺めていた。
オークランドはその名の通りオークの住む町であり、多くのオークが住んでいる。
だからだろうか、今のところ人間の姿は見当たらない。
しかしながら、町は石積みの店や木造の家などが立ち並び、よくあるファンタジー世界の人間が暮らす町と大差がないように見える。
「オークの国ってことで心配したけど、意外と規律正しいのね」
ウィンドウが物珍しそうに周りをキョロキョロと見渡しつぶやいた。
確かに裸のオークを見かけることはなく、住民の誰もが服を着ている。
通りかかった市場では売り手の威勢のいい声が響き、活気に満ちながらも秩序が保たれていた。
「人間との交流があるらしいから、その文化や教育も入ってきてるんだろうね」
「ふーん、もっと秩序を欠いた町だったら、脱走も簡単だったのに。これだと難しいかもしれないよ」
「今のところ、その気はないよ」
俺には逃亡者としてやっていける自信がないので、ウィンドウの考えを否定した。
「そう? ならいいけど」
ウィンドウもその気がなかったのか、脱走についてはそれ以降話題にしなかった。
その後は会話もなく、無意味に時間だけが過ぎていく。
うーん、暇だ……
太陽の傾きから時間を推測すると、護送車に乗せられて少なくとも二時間は経過しているはずだ。
物珍しかった外の風景を眺めるのも、そろそろ見飽きたんだよなぁ。
こんなことなら、取調官に刑期や刑務内容について詳しく聞いとけばよかった。
悔やんでも仕方ない、どうせ到着するまで暇だから、馬車を操る御者のオークにいろいろ聞いてみるか。
俺はよっこいしょと立ち上がると、馬車を操る御者のオークに近い場所に移動して、鉄格子越しに話しかけた。
「すみません。少しお聞きしたいことがあるのですが、よろしいですか?」
すると、眠そうに馬車を操るオークはあくびを噛み殺し、こちらを見ることもなくムスっとした声で答えた。
「囚人と話すことは禁止されているから何も答えられないよ」
「そう言わずにお願いします。あとどれぐらいで目的地に着くかだけでも、教えてもらえませんか?」
「ふわぁ。一時間かもしれないし、一日かもしれないね」
御者のオークは大あくびをして答えたが、まったく答えになっていない。
宣言したとおり、質問に答える気がないらしい。
まずは簡単な質問からと思ったが、こりゃ聞いても無駄そうだ。
「ふざけたオークね。どうする? 私ならここからでも届くから、一発ぶん殴っとく?」
ウィンドウはブンブンと腕を振り回すと、左ジャブ三連打からの切れのいい右ストレートを放つマネをした。
さすが出会ったときに、俺を悶絶させた右ストレートである。
気がつけば俺の手は無意識に腹をさすり、ボディーブローの恐怖を物語っていた。
「それはやめとこうよ。ひと眠りしている間に着くかもしれないし」
「気楽ね。だけど、あなたがそう言うならやめとくよ」
そう言いながらも、ちょっと残念そうな顔をするウィンドウ。
いや本当、それだけはやめてよね。
人間に戻れるまではこの町で生活する必要があるので、なるべく騒ぎを起こしたくなかった。
「それじゃ俺はひと眠りするから、何かあったら起こしてもらえる?」
「オッケー! 大船に乗ったつもりで寝てていいわよ。まぁ馬車なんだけどね」
ウィドウは俺に頼られるのが嬉しいのか笑顔に戻り、答える声も弾んでいた。
「あははは。じゃ任せるよ」
ウィンドウに後のことを任せた俺は、床の隅に寝転がると、ゆっくりとまぶたを閉じた。
初めての歩き旅で体が疲弊していたのだろうか、寝心地の悪い床の上でも、すぐに睡魔が襲ってきた。
俺は目覚めたときに到着していることを祈りながら、眠りについた。
◇◆◇◆◇
ツンツン
ツンツンツン
まだ眠いのに、誰かが俺の頬をつついている。
思い当たるのはウィンドウぐらいだが、もう到着したのだろうか?
しかし、馬車の床は揺れ動き、パッカパッカと単調な馬のひづめの音が聞こえてくる。
なんだ、まだ到着していないじゃないか。
それなら、もうちょっと惰眠をむさぼりたい。
「んっ……ウィンドウ? あと五分だけ寝かせてよ――」
体が起きることを拒否しており、起こされまいと体を丸めて二度寝することを選ぶ。
そうやすやスヤと……は起こされてたまるか、グー
「誰かと勘違いしとるみたいやね」
声の主は俺の体とユッサユッサを揺らし、今度は強引に起こしにかかってきた。
聞きなれない声と言葉使いに違和感を覚えたが、俺も一歩も引く気はない。
そんな生半可な揺さぶりじゃ、俺の二度寝は止めらないぜ。
社畜時代に三秒あればいつでもどこでも眠れた、のび太君の異名は伊達じゃない。
「やるわね。じゃあこれでどうね」
丸めた体を強引に仰向けにさせられたと思うと、胸の上にドサッっと何かが乗ってきた。
すると、今度はパチパチパチ、パチーンという音とともに頬に痛みが走る。
胸の上に乗る心地よい重みと、頬に感じる痛み、そして女性特有の甘い香りが合わさり、俺を目覚めさせようと誘惑する。
おっと、勘違いしてもらっては困る。
新たな趣向に目覚めるの方ではなく、目が覚める方なんだからね!
俺はMでもないし、Sでもない。
いたってノーマルのはず。
そんな自問自答によって俺は頭が冴え、思考が回り始めた。
そして、一度考え始めると、もう覚醒を止められない。
もうダメだ……
重いまぶたが俺の意思と反して、ゆっくりと開かれていく。
「知らない人間だ……」
目覚めて最初に視界に入ったのは、見たこともない白髪の少女の顔だった。
俺の視界を覆っており、寝ぼけていた俺は状況を把握できずにいた。
「大丈夫? 起きたと?」
声の主は俺の胸元にちょこんと座り、俺の顔を不思議そうに覗き込んでいる。
距離にして約20cm。
吐息が感じられるぐらいに近い。
恋愛ゲームでよくある寝起き馬乗りシチュエーションを、まさか体験できるとは……
その予想外のシチュエーションに気づいた俺は、ドギマギして一気に眠気が吹き飛び、両手で視線を遮った。
「わっ! 近い、近い!」
俺が目を覚ましたのを確認した少女は、馬乗りになっていた胸の上からヨイショと降りると、俺の隣に両足を投げ出して座りむ。
一方、混乱していた俺は驚いて飛び起きると、四畳半程度のスペースしかない護送車の隅に飛び退いて、オロオロと取り乱していた。
恋愛ゲームでは数々の浮名を流した俺も、リアルでは雑魚以下だった。
「ごめん。驚かしたね?」
俺に馬乗りになっていた声の主は、少し申し訳なさそうな声で謝った。
そこにいたのは囚人服を着た小柄な少女で、ちょこんと床に座って俺の様子をうかがっている。
彼女の容姿は一見すると人間の少女のように見えるが、どことなく違和感を覚えた。
肌の色は人間と同じだが、口からは小さな八重歯のような牙が覗く。
そして、特徴的なのが頭の上に淡いピンク色をした耳があることだ。
その耳は途中で中折れしていてケモナーのコスプレと思ったが、ピクピクと動いていることからどうやら本物のようだ。
このまま取り乱していては埒が明かないので、最初に思い浮かんだ疑問を投げかけてみた。
「えっと、どちら様?」
その言葉を待っていましたとばかりに、少女の顔は笑顔になった。
「私の名前は、コスモス・モリィー。で、お兄さんの名前はなんて言うと?」
「私はただのブータローですが……」
「ただのプータロー?」
「あははは。確かに今の私はただの無職です。いや失礼、こちらの話ですので気にしないでくださいね」
「うーん、いまいち何を言っとるかわからんちゃけど、結局プータローさんでよかとよね?」
どうせこの名前も、サブローと同じで仮の名みたいなものである。
だから、プータローでもキタローでもウルト〇マンタローでも、なんと呼ばれて別に気にならなかった。
落ち着きを取り戻した俺は、とりあえず少女とじっくり話そうと少女の正面に場所を移し、腰を下ろしながら問いに答えた。
「はい、プータローで構いません。それで失礼ですが、人間ではないようですが違いますか?」
「ハーフオークを知らんと? 父さんがオークで母さんが人間ばってんが……」
「なるほど、ハーフの方でしたか。その可愛らしい耳はハーフオークだからなんですね」
「そう言ってくれると嬉しか。この町じゃハーフオークって好かれとらんからね」
種族の話はナーバスな話題っぽい。
人間の世界でもそうだからな。
俺は慌てて話題を変える。
「そういえば、馬車に乗っていた囚人は、私一人だったはずですが」
「最初はそうやったろうけど、さっき途中で私が乗ったからね。ところで、ウィンドウって誰なの? プータローさんはイケメンやし、彼女の夢でも見よった?」
遠慮がないのかズケズケと聞いてくる。
悪い子ではなさそうだけど。
「えっと、彼女ではないですよ。複雑な関係ですが」
そう答えて、いつもウィンドウがいる位置に視線を移したが、なぜかウィンドウが見当たらない。
ウィンドウに何かあったのだろうか?
心配した俺は、ウィンドウ枠を小声で呼び出す。
すると目当ての人物はすぐに発見できた。
なんと、よだれを垂らし微かな寝息を立ててお昼寝中だ。
おいおい、おまえが寝ていてどうするんだよ!
ウィンドウに苦情を言いたかったが、今は少女とのやり取りが優先だったので、ウィンドウ枠をそっと閉じておいた。
「ふーん、彼女じゃなかとね。まぁ、深くは追及せんといてあげるたいね」
「あははは……、それはありがとう」
それはそうと、一体俺に何の用だろうか?
その答えを考える暇もなく、矢継ぎ早に話しかけてくる。
「それで起こした理由なんやけど、プータローさんがドラゴン級の大いびきをかいて寝とったから、うるさかったと」
「えっ! 本当ですか? それはご迷惑を……」
「あははは、ウソウソ。プータローさんがスゴいイケメンやったから、話してみとうなったとよ」
困惑している俺を見て、コスモスは大笑いした。
なんだ、暇だから話し相手が欲しかっただけなのか。
一番肝心な疑問が解消されたので、結果オーライである。
そして、これはチャンスだ。
うまくやれば刑務所に到着するまでの間、彼女から無料でいろいろと情報を聞き出せる。
そう考えた俺は、少女から情報を引き出そうと話に乗った。
「私も暇で寝ていたので、話し相手は大歓迎ですよ」
「よかったぁ。嫌われる覚悟でムチャして起こしたんよ。ほっぺた痛とうなかった?」
「大丈夫です。むしろ、ご褒美です」
「ところで、その喋り方やけど、都会から来んさったと?」
「実はオークランドは初めてでして、都会からと言われても困ってしまいます」
「えっ! オークランドは初めてって野良オークなんね? 私、初めて見た」
野良オークの意味はわからないが、一匹狼みたいなものだろうか?
気になったので詳しく聞いてみる。
「野良オークというのは、なんでしょうか?」
「知らんと? オークランドから追放されたオークのことたい。オークランドの外にいるオークは、人間の町に行く行商人と、野良オークぐらいしかおらんと思っとった」
確かに取調官も、そのようなことを言っていた気がする。
俺がなるほどと相槌を打つと、彼女は話を続けた。
「ずっと昔に人間との間に戦争があって、結局勝負はつかんで話し合いが行われたと。その中で平和的な勝負をすることで、解決することになったとね。そして私らは勝負に勝ち、この地をオークランドとして治めることを人間に認めさせたとよ」
「ということは、現在は人間との間に争いはないんですね」
「そうたい。ただ、それを良しとせんかったオークもおったとよ。反対した凶暴なオークはこの国から追放されて、人間を襲ったり外で好き勝手に暴れまわったらしか。それで結構な数の野良オークが人間の冒険者に退治されたって話たい」
そこまで話すと、コスモスは疑いの目で俺の方を見た。
「いや、私は大丈夫ですよ。ずっと人間と暮らしていて、常識はあるはずですから」
なぜだろうか?
その答えを聞くと、少女の表情が少し曇った。
やはり人間は嫌われているのだろうか?
転生前は人間だったので、人間として暮らしていたが正しいのだけれども、それを説明するにはまだ早すぎる。
「それじゃあ、なんでプータローさんは捕まったと?」
「恥ずかしい話ですが、裸に近い格好をして町に入ろうとしたんですよ。腰布一枚の格好がダメとは思わなかったので」
「それって常識なかやん……」
「あっ、ほんとだ」
言われてみて気づく。
確かに常識のない格好だったことに。
「いや、これにはちゃんとした理由があるんですよ。無職で無一文で着替えもなかったし、いろいろと大変だったんですから!」
このままでは変態扱いされると思った俺は、慌てて釈明した。
「よかよか。私はプータローさんのこと信じとーよ」
慌てる俺を見て、コスモスは口を押さえクスクスと笑っていた。
ふぅ、助かった。
今までのやり取りから、危険なオークとは思われてないようだ。
「ところで、その話し方って、この辺りの方言なんですか?」
「うん。この辺はサガっていうとよ。がばい田舎やろ?」
そう言われて改めて周りに注意を向けると、寝ている間に風景が様変わりし、のどかな畑が広がっていた。
ということは、目的地の刑務所は田舎の方にあるのだろう。
それはさておき、こちらの罪状を話したからには、彼女の捕まった理由も知りたくなる。
こんな可愛らしい少女が凶悪犯ではないとは思うが。
「ところでコスモスさんは、どうして捕まったんですが?」
「私ん会社の従業員を、他の会社に引き抜かれたとよ。だけん、抗議に行ったとやけど、ムカついて相手の社長を一発殴ってしまったと。てへっ」
コスモスは全然悪びれない声で答える。
むしろ、一発殴ってスッキリした感じさえするくらいだ。
「それは災難でしたね。ちなみにどんな刑罰だったんですか?」
さて、ここからが本題だ。
コスモスの罪は軽微な傷害事件と思われる。
おそらくだが、俺の迷惑防止条例違反と同等クラスの罪だろう。
そこで言い渡された懲役刑なり罰金刑が、俺の刑期の目安となるはずだ。
俺はコスモスの答えに注目した。
「初犯やったし刑務所で三日間の労働たいね。これくらいの罪やと普通は罰金のはずばってん、なぜか懲役刑やったとよ。正直、この三日のロスは痛か……。普通、あれくらいで通報する? ほんとセコか男たい」
まぁ、軽度な傷害事件としては妥当な刑期だろう。
問題はその場合の罰金額だ。
「ちなみに罰金だった場合、いくらぐらいになるんですか?」
「詳しくなかけど、罰金だと金貨1枚ぐらいじゃなかとかな?」
「へ? 金貨1枚ですか? つかぬことを聞きますが、金貨1枚ってどれぐらいの価値ですか?」
「そんなことも知らんと! ばってんそっか、オークランドは初めて来たとやったね。えっとね、普通に働いて一日分の給料かな? 刑務作業やと単価安かけん二、三日分と思うとやけど」
その言葉を聞いて、俺は青ざめ急激にめまいがした。
確か俺の罰金は金貨100万枚だったはず。
「それって本当ですか? 俺の罰金は金貨100万枚なんですが」
「え!? 本当はプータローさんって凶悪犯じゃなかとね! それって普通の罰金額じゃなかよ」
そう言うと、コスモスは急に立ち上がって俺から一番離れた場所に移り、檻を背にしてワナワナと震えて首を横にイヤイヤと振りだした。
なんかめちゃくちゃ恐れられているよ、俺。
えっと、金貨100万枚だと結局何日間の刑務作業が必要なんだ?
刑務所で金貨1枚稼ぐのに二、三日だから二日半として、それを金貨100万枚だから――
久々に脳内電卓を起動し暗算してみる。
金貨100万枚÷2.5日=40万日
40万日÷365日=約1100年
はぁ? こ、これってコスモスが言っていた凶悪な野良オークに適用される刑期になるのでは!?
俺が慌ているのを見たコスモスは、左手を口に当てクスクスと笑うと、真相を明かした。
「なーてんてね。それオークランドで流行っとるジョークたい。実際より桁数を多く言うのが流行とるとよ。多分やけど、金貨1枚が本当の罰金じゃなかとかな?」
「あー、びっくりした。小心者だから脅かさないでくださいよ。すぐに本気にしてしまうんですから」
ジョークと聞いて安心したが、俺の心臓はしばらく速く脈打ち続けた。
「ゴメン。こがんジョークも知らんて、本当にプータローって外から来たオークやとね」
そんな大阪のおばちゃんの使うような豚でもないジョーク、オークが使うと思うかい! と心の中で反論した。
「ばってん、今回ばかりは懲役刑でよかったぁ。神様は私を見捨てとらんかったとよ」
コスモスは上を見上げると、両手を組んで神に感謝した。
「さっきは三日も惜しいとか言ってませんでしたか?」
「うん。ばってん、それ以上の収穫があったけんね。ところで相談なんやけど、プータローさんは私の会社で働いてみる気なか? 刑期を終えても働くところがなかとでしょ?」
「え!? コスモスさんの会社で?」
「私の会社といっても、病気で入院している父さんの代理やけどね。ばってん、私はもう十五歳やけん一人前たい」
えへんと胸を張り、自信満々な顔でコスモスは答えた。
確かに、その言葉からは自信が満ち溢れている。
しかし、若いとは思っていたが十五歳だったのか。
人間だと中学生ぐらいなのに、代理とはいえ会社経営とは恐れ入る。
俺は素直に感心した。
「いやいやいや、代理としても、その若さでやるなんてスゴいですよ」
「えへへ。ドラゴンストア・モリィー、愛称はドラモリィーって言うんやけど聞いたことなか? って外から来たオークやったら知らんたいね」
「ド、ドラゴンストア!? ドラゴンを売ってるんですか!」
「違う、違う。会社名は父さんが名付けたとやけど、ドラゴンのように大きか店にするって意味らしか」
「なるほど、そっちの意味でしたか。となると、結局は何を売っているんでしょうか?」
「メインはポーションとか薬品を作って売っとるとよ」
それだと、ドラッグストアに近いのかな?
だとしても、薬の知識のない俺に、店員が務まるか不安が残る。
「でも、それだと薬品の知識のない私では、足手まといになりませんか?」
「いや、薬品の方は人がおるけん大丈夫たい。他には料理や畜産なんかもあるとよ」
その二択の場合、料理だったらなんとか手伝えそうだ。
畜産には興味があったが、この世界の家畜がどんな生物かわからない以上、断ったほうが無難だろう。
ドラゴンストアって名前だけに、ドラゴンって可能性もあることだし。
「でしたら、畜産は難しそうですので、料理の手伝いでお願いします」
「あっ! 違う違う。プータローにはトンカツや串カツ作りをしてほしいわけじゃなかとよ。すばり言うとアイカツたいね!」
「アイカツ? 初めて聞く料理ですけど、どんな料理なんですか?」
先に出てきたトンカツや串カツなら、転生前の世界で馴染みはあるんだが。
もっとも同じ料理とは限らないか。
取調室で食べたカツ丼も、見た目は同じだったけど味が違ったことだし。
「違う違う、料理じゃなかと。アイドル活動! 略してアイカツたい」
「え!? アイドルって歌ったり踊ったりするあのアイドルですか?」
「その通りたい。さすが人間と暮らしとっただけあって、知っとったね」
俺はまたしても混乱した。
彼女と会ってからというもの、驚かされてばかりだ。
まさか、この世界にアイドルという概念が存在するとは。
またしても厄介事に巻き込まれる予感がする。
この世界に来てからというもの、どうやら俺は不運と踊っちまう運命にあるらしかった。




