到着、逮捕とカツ丼
「なんじゃこりゃー!」
鏡を見た俺は、思わず叫ばずにはいられなかった。
俺は何事もなくオークランドに到着したが、門番のオークに不審者として捕まってしまい、検問所の一室にいる。
なぜ、オークが門番なのかは疑問に思ったが、ここは異世界、いろんな種族が同じ町で暮らしていてもおかしくはないはずだ。
それよりも問題は、鏡に映る自分の姿だ。
俺は人間になる薬を飲んで、イケメンの人間になれたはず。
だからこそ、今の自分の姿に驚きを禁じ得ない。
「オークか? 間違いない、オークだ」
鏡の前で驚いている俺は、自分の顔をペタペタと触って形と感触を確かめた。
確かに鏡に映る生物はめちゃくちゃイケメンでスリムだが、俺がアニメや漫画で見たオークに酷似している。
「なぜなんだ……ウィンドウには人間に見えてるんだよね?」
「えぇ、私からは人間に見えてるわよ。だけど鏡で見た場合や、私以外の人からだと、オークに見えるようね。飲んだ薬の副作用かしら?」
ウィンドウも首をかしげ、理由については知らないようだった。
「そうだ! 俺のステータスを表示してくれない?」
「了解よ」
俺は自身のステータスを確認していなかったことを思い出す。
ここにヒントがあればいいんだけど。
ほどなく、目の前にステータスウィンドウが表示され、現在の自分の状態が表示される。
そこにはやはり人間と表示されておらず、バグっていたがオークと読める文字が表示されていた。
「やはりオークなのか……」
「みたいね、ブータローさん」
いつの間にか、名前もサブローからブータローに変わってるし……
俺が絶望して机に突っ伏していると、部屋がノックされたので、俺はいつも調子で返事をする。
「母さん、後にして……」
しまったと、思う気力もない。
ノックしたのが誰であろうと、別にもういいや。
そんな状況の俺を知ってか知らでか、扉の向こうにいる人物はボケをかました。
「はーい、母さんだよ。って、だれが母さんや!」
取調室の扉が開くと、パリッとしたスーツを着たオークが部屋に入ってきた。
俺が今いる取調室は四畳半くらいの大きさで、部屋には机と椅子があるだけで他には何もない。
壁には面通し用のマジックミラーが備え付けられており、俺はその鏡を見て自分の姿がオークだということに気づいたのだった。
先ほど部屋に入ってきたオークは取調官と思われ、俺の対面にある椅子に座ると、手に持った丼を目の前に差し出してきた。
「腹が減ったろ? まずはこれでも食べて落ち着きな」
取調官のノリツッコミについてはスルーしたが、腹は減っているので食事はありがたく頂戴する。
「ありがとうございます」
お礼を言うと、俺は久しぶりの温かいご飯に食らいついた。
見た目はカツ丼ぽかったが、やはり調味料が違うのか食べたことのない味だ。
こっちの世界には醤油はないだろうし、砂糖も貴重品のようなので仕方ない。
それに、具材の下にあるはずの白米もパサパサしていて、俺の知っている白米とは程遠かった。
だけど、最近食べたのは保存食ばかりだったので、正直ありがたい。
「面白い味ですね。これってなんて料理ですか?」
「え!? 知らないのかい。オークランドじゃメジャーな料理なんだけど……」
取調官は驚きの表情を浮べ、ますます疑いの目を向けてくる。
余計なことを言わなきゃよかった。
だけど、どうせバレることだし、ここは割り切ろう。
「実は、オークランドは初めてなんですよ」
「そうなんだ。この門から出入りするのは行商人ぐらいだけど、君は行商人には見えないね」
「まぁ、無職なんで……。ここには仕事を探しに来ました」
「へぇ、まぁいいや。そうそう、この料理はカツ丼、オークの肉が原料さ」
俺は思わず口に入れいたご飯を吹き出した。
えっ!? オークの肉? オークって共食いするの?
「あれれー、オークギャグも通じないとなると、本当に違うところから来たみたいだね。ちなみに本当はブタの肉ね」
「驚かせないで下さいよ。実はオークの人と話すのも初めてなんですから」
うん、嘘は言ってないな。
まだゴブリンと人間としか話したことないからね。
「あぁ、それで納得した。だから腰布一枚だったのか」
「あのー、それって変なんでしょうか?」
俺の知っているファンタジー漫画では、オークの格好は腰布や全裸が多かった気がする。
たまに鎧を着たタイプもいたと思うが、目の前のオークはそれらとは違って人間が着るような服を身に付けていた。
「この国には、たまに人間が来ることもあるからね。彼らの要望で、お偉いさんが裸や下着だけの外出が禁止にしたんだよ」
なるほど、だったらオークランドは意外と人間の町に近いのかもしれないな。
どういった経緯でそうなったかは不明だけど、この町で人間に戻る方法を探すのも悪くなさそうだ。
「じゃ、詳しい調書を取るよ。まずは名前と年齢を教えてくれる?」
「名前はブータローです。年齢は二十歳になります」
俺はステータスに表示されていた内容を思い出し、刑務官に淡々と答えていく。
「お国はどこの出身かな?」
「わかりません。あっ、でも人間と暮らしてました」
ゴブリンと暮らした記憶はないので、人間と暮らしていたことにする。
人間の暮らしというものは、異世界でもそう大差はないはずだ。
もし、そのことで質問されても答えられるし、それが正解だろう。
「名もない集落で人間に育てられたのか。だとすると、野良オークではないみたいだし、一般常識もありそうだ。受け答えもしっかりしているし、この町に入れても問題ないかな」
おぉ、ありがたい。
意外にすんなりと、この町に入れそうだ。
「ところで君、お金って持ってる?」
「無一文です。この町で稼ぐ予定ですけど」
「あちゃー、それだとブタ箱行きかな……」
刑務官は手で顔を押さえ、非常に残念そうな顔をした。
そして、調書にサラサラと何やら書き込んでいる。
「えっ!? もしかして通行料とか必要でした?」
「いや、オークだと必要ないんだけどね。君が布切れ一枚で町に入ろうとしたのが問題で、罰金が必要なんだ」
「そうなんですか……。で、いくら必要なんです?」
「罰金は金貨100万枚だね」
俺はあまりの桁違いな罰金に驚いた。
え? 100万枚って、いったいどれぐらいの金額なの??
想像がつかない金額を聞いた俺は、椅子にもたれ、ぼうぜんと天井を見上げるしかできない。
「どちらにしろ、文無しならブタ箱に行って働いて稼ぐしかないね」
刑務官は調書にポンっと印を押すと、丼を片付けてさっさと部屋を出て行った。
ドアの閉まる音にふと我に返った俺は、もっと聞きたいことがあったのにと嘆いたが、後の祭りである。
とりあえず、目下の問題である金貨の価値について推測してみる。
日本だと、下着での徘徊は迷惑防止条例違反に該当したはず。
罰金は50万円以下だったかな?
だとしたら、金貨1枚は日本円で0.5円程度の価値しかないのか。
驚かせやがって。
ってアホか! そんなの、ありえないじゃん……
金貨なんだし、どう考えても最低10,000円ぐらいの価値はあるだろ。
ということは、まさかの一生刑務所暮らし!?
そんなアンハッピーライフの予感に、俺は絶望するしかなかった。




