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チートスKILL ~中途半端な転生者~  作者: 奥 悠人
2章 ゴブリンプレイヤー
13/48

取引、そしてスパーキング!

「よかった! やっと気がついた!」


 俺が目を開けると、ウィンドウが顔をのぞき込むようにして安堵あんどの表情を浮かべていた。

 どうやら俺は先ほどまで意識を失っていたようで、夢を見ていたらしい。俺に妹はいないし、見ず知らずのオッサンに絡まれているしで、どうりで変だと思った。


 でも、本当に全部夢だったんだよな……?


 さっきまで、立ち上がれないくらいにズタボロだった俺の体。それも夢であってくれと願いながら、俺は視線を自分の体へと向けた。

 しかし、深い茂みの中で寝そべっているせいで、体を見ようにも草木が邪魔して、よく見えない。けれども痛むのは頬だけだし、その原因もウィンドウが俺を叩いて起こそうとしたからなので、体は無事のようだ。


 俺はホッとし、うつせになっていた上半身を少しだけ持ち上げて肘をつくと、頭を軽く振った。


『ゴメン、心配をかけたみたいだね。頭が少し朦朧もうろうとするけど、もう大丈夫』


「もー、バカ! 心配させないでよ」


 ウィンドウの目には、うっすらと涙が浮かんでいた。

 相当心配してくれたらしい。


『ゴメン、ゴメン、悪かったって。それで、いったい何が起こったの? 薬を飲んだところまでは記憶があるんだけど……』


「えっ、覚えてないの? 私、物凄くビックリしたんだよ? だってあなたの体、メチャクチャまぶしく光ったんだから」


 俺が光っただって? そういえば、そんなことがあった気が……


『……そうだ、思い出した! そのおかげで、近くまで来ていたゴブリンハンターたちが、いったん離れてくれたんだっけ。でも、なんであんなに体が光ったんだろう。佐藤さんたちが人間に戻るときは、もっと目立たないように光ったのに』


「それそれ、私も不思議に思った。もしかすると薬の副作用が、スライムとゴブリンとでは違うのかもしれないね」


『うーん、確かに。でも、その件を考えるのは後回しにしよう。それよりも聞きたいことがあるから』


「やけに神妙な顔つきね。それで、何が聞きたいの?」


『もちろん決まってる。今の俺が、ちゃんと人間の姿をしているかだよ……』


 不安な気持ちになりながらも俺が尋ねると、ウィンドウは笑顔を見せた。


「なんだ、そのことか。安心しなさい、バッチリ人間よ! しかも、顔が超イケメン!」


『ホントに!?』


「うん、世の中の男たちがムカつくくらいの容姿なんだから」


『やったー! 人間に戻れたうえに、イケメンまでキター!』


 俺は腹ばいのままで両手のこぶしを握り、小さくガッツポーズを作って喜んだ。本当は飛び上がるくらい喜びたかったが、隠れている手前、さすがに自嘲した。


「そんなことより時間がないって。アイツらあなたのこと、とっくに探し始めているんだから」


『了解。とりあえず人間に戻れたし、あとはどうにかなるって』


「へえー、えらく楽観的ね」


『まあね。さて、それじゃ見つけてもらえるように、声を出してみるかな。このまま黙って隠れていたら、アイツらに見つかったときに言い訳が大変そうだからね』


 俺はウィンドウにそう答えると、さっそく行動に移す。


「おや、ここはどこだ? それに盗賊たちは……」


 まずは茂みの中に隠れたまま、わざと周囲に聞こえるように大きめの声でつぶやいた。

 もちろんこれは芝居であり、近くに盗賊なんていない。盗賊に襲われ、この場所で気を失っていたという設定だからだ。


 しかし、アイツらからの反応はない。

 もしかして警戒しているのだろうか? でも、姿を見せれば何らかのアクションはあるだろう。

 そう思った俺は立ち上がると、そのまま茂みの外に一歩出た。


「キャッ」


 なぜかウィンドウが小さな悲鳴を上げて、慌てて両手で顔を覆う。


「きゃぁぁーーーー!!!!」


 今度は眼下から、空気を切り裂くような女性の悲鳴。

 俺は驚いて視線を下に向ける。するとそこにいたのは女性で、地面に尻餅をついてワナワナと震えていた。


 あちゃー、驚かせちゃったかな?


 言うまでもないが、その女性というのはゴブリンハンターのリーダーの女騎士である。

 彼女は俺が気絶している間に、身をかがめて見つからないように、再び近づいてきていたようだ。そこに俺が急に目の前に現れたものだから、ビックリさせてしまったらしい。


 ――って、思うじゃん? 普通は。でも違った。


 気がつけば、俺は知らないうちに素っ裸。おまけに立ち上がったときに前を隠していなかったので、股間を見せつける格好をしているのだ。

 これじゃ不審者というより、どこからどう見ても、ただの変質者。女性が悲鳴を上げるのも当然のことだ。


「なんだ、この変態ブタ野郎は! あねさんから離れやがれ!」


 突如、怒りに狂う男の声。

 その声は女騎士の仲間である魔導士のもので、いつの間にか俺の右方向の草むらの中から姿を見せていた。


 茫然ぼうぜんとしていた俺は男の声を聞いて、はっと我に返る。それから慌てて股間を両手で隠し、女騎士の目の前から、二、三歩うしろへ下がった。


「それより、ゴブリンはどこやねん。お前が隠したんか?」

 

 今度は左のほうの高い位置から別の男の声。

 声がしたほうを見上げると、連中の仲間である武闘家が、高い木の上から俺をにらみつけていた。


「あわわわわ、すみません、すみません! さっきまで私、盗賊に襲われて気絶していたので、なんの事をおっしゃっているのかサッパリわかりません。それと、こんな格好をしているのには理由わけがありまして、盗賊に身ぐるみを全部持っていかれたからなんです」


 とっさに思いついたウソで言い訳をして、俺はごまかした。

 だが、男たちの警戒心が和らぐ様子はない。

 そりゃ、裸の格好をした人物が目の前に飛び出してきたら、普通は変質者だと思うよな……。


 はてさて、どうしたものか。

 そう思っていると、女騎士が口を開く。


「ウソおっしゃい! どこにあんたみたいなブタ野郎の服を奪う、バカな盗賊がいるんだい」


 女騎士は座り込んだまま、厳しい口調で言い放った。しかしながら、その厳しい口調とは裏腹に、体はプルプルと震えていて、ひどくおびえているように見える。

 だが、仮におびえていたとしても、見ず知らずの俺に対してブタ野郎とののしるのは、あんまりじゃないだろうか? はっきり言って、失礼だと思う。そりゃ俺は青春したこともないし、昔はブタ野郎だった自覚はある。だけど今の俺はイケメンなんだから、そんなのはとっくに時効のはずだ。したがって、その侮辱的な呼び方だけは謝ってもらわないと気が済まない。


 ――とはいえ、いくら俺がイケメンでも、不幸な事故で股間を見せてしまった謝罪のほうが、どう考えても先。

 俺は女騎士の暴言には触れず、まずは彼女に対して素直に頭を下げた。


「いきなり裸で目の前に現れてしまったことは謝ります。でもそれは、気絶していて裸だったことを忘れていたからなんです。それに、飛び出した目の前に人がいるとは想像もしていませんでしたし」


「ふんっ、言い訳かい、見苦しいね」


「いや、違いますって!」


「いいや、違わないね。油断させようとしても、私はだまされないよ」


「あー、もー、いいです。そこで提案ですが、イケメンの裸が見られてラッキーだったってことで、すべてなかったことにしませんか? うん、そうしましょう!」




「…………はい?」




「よかった! 話がわかる方で。ではこれにて、一・件・落・着!」


「こらーっ! 勝手に解決するんじゃないよ! どこをどう聞いたら、さっきのが同意したように聞こえるってんだい!」


「あれっ? 違うんですか? おかしいなー。イケメンだったらこれぐらいの罪、普通は無罪のはずなんですが」


「あんたがイケメンなのは認めるよ。そんな顔をしたブタ野郎は、初めて見るからね。でもね、あんた、さっきのゴブリンだろ?」


「えっ!? どういうことでしょうか?」


 女騎士にあっさりと正体を見抜かれた俺は、ドキッとして声が若干上ずった。そしてブタ野郎と呼ばれたことを怒ることも忘れ、彼女の説明に耳を傾ける。


「私はね、ゴブリンのいる場所を見つけ出せるスキルを持っているのさ。ただ、いろいろと制約があるんで、今回は少しばかり使うのが手間取っちまったがね。それでやっとスキルを使えて、見つける寸前ってところまでいったのに、ゴブリンから目くらましの光を食らって、いったん離れて様子見。すると、それ以降はスキルを使っても、なぜかうまく探せなくなっちまった。そこで仲間に周囲を探らせながら、私だけでさっきゴブリンがいたはずの場所に行くことにしたんだよ」


 ――ゴクリ。


 俺は生唾を飲み込んだ。


「もうわかっただろ? あんたが今いる場所は、さっきゴブリンがいたはずの位置と、寸分も違わないのさ。だから姿が違ったとしても、あんたは絶対にさっきのゴブリンに違いないんだよ!」


 まいったな、そりゃ疑われて当然だ。

 だけど、まだまだ詰めが甘い。逃げ道は残されている。


「なるほど、探していたのはゴブリンでしたか。だとすると、まんまとそのゴブリンに、はめられましたね」


「……それってどういう意味だい?」


「簡単な話です。そのゴブリンは、あなた方から逃げている途中に気絶していた私を見つけ、身代わりにして逃げたのではないですか?」


「いや、そんなはずないね。だいたい、こんな場所でゴブリンがあんたを見つける偶然なんて、小数点以下の確立だよ。百歩譲ってそれが真実としても、私はあんたが絶対にさっきのゴブリンだと言い切るね」


「ほう、そこまで言うからには、何か証拠がありますか? 見てのとおり私は身ぐるみをはがされているので、何の証拠も持ち合わせていませんよ?」


 現状、すべての証拠は状況証拠にすぎない。なんとか、のらりくらり言い逃れていれば、逃げ切れるはずだった。

 次の話を聞くまでは。


「確かに物的な証拠は何もないよ。でもね、声を変えなかったのはマズかったね。その姿でさっきのゴブリンと同じ声をさせてちゃ、いくらなんでも説得力がないってもんさ」


 それを聞いたとき、俺の心臓は飛び出すくらいに脈打った。まさか、ここまで動かぬ証拠を突きつけられるとは思っていなかったからだ。

 あーあ、名探偵コ○ンの蝶ネクタイ型変声機さえ持っていれば、こんなことには――って、裸に蝶ネクタイだと、今の俺の姿はどう見てもア○ラ100%だよ……。


「あちゃー、姿は変わったのに、声は変わってなかったのか」


 俺は額に手を当てて悔しがり、言い訳するのを100パーセント諦めて、あっさりと自白した。

 どうせ違うと言っても、絶対に信じてもらえないだろうし。


「ほら、やっぱりだよ。どんな方法を使ったかは知らないけど、姿を変えたばかりか私の弱点まで突いてくるんだから、恐れ入るね。で、動けないでいる私をどうする気だい? もしかして、エッチなことをしようってんじゃないだろうね、このブタ野郎め!」


 まだ立ち上がれないでいる女騎士。口では強がっているが、その表情は険しかった。


「見た目で判断しないでください。あなたの弱点のことはよくわかりませんが、私は動けない女性にひどいことをするようなクズ野郎じゃありませんから」


 俺はただ単に、町に行って普通に暮らしたいだけである。でもこの状況では、いくら説明したところで相手は信じてくれないだろう。

 これは頭が痛いぞ。


「気をつけて! 女騎士の仲間たちが気配を消して近づいてきてる」


 男たちの動向を見張っていたウィンドウが、警告を発した。


『くっ、やっぱり動いたか。これはマズいな。女騎士を人質にするにも、素っ裸で武器は持ってないし』


 俺は動き出した状況に動揺するが、気づいていないフリを続ける。そして、その間に切り抜ける方法を考えようと思っていたが、必要なかった。


「そうだ! メルカミでオマケにもらった魔法のロープを使ったらどうかな? 一緒に送られてきた説明書きによると、使用する対象のことを考えながらロープに縛るように声で命令すれば、何でもガッチリ動かないように縛れるらしいよ? 使用できるのは一回だけで、使い切りみたいだけどね」


『ナイスアイディアだ、ウィンドウ!』


 薬が届いたときに、おまけのロープのほうの使い方も見てくれていたのかな? でも、これで助かった。うまくいけばゴブリンハンターたち全員、身動きが取れないようになるはずだ。


 あとはうまくいくことを願うばかり――と、いきたいけれど、俺はなんだか少しだけ気味が悪かった。

 魔法のロープがさっき偶然にオマケでもらえて、しかも縛る相手の人数分が手元にあるのは出来すぎではないだろうか? まるでこの状況になるのが、前もって決まっていたかのような気さえしてくる。

 けれども、これ以上の方法を思いつくなんて、今からでは絶対に無理な話。

 ここはもう、イチかバチかやるしかない。


 俺はロープを四次元窓から素早く取り出して、目の前にかかげながら叫んだ。


「頼む、魔法のロープよ! ゴブリンハンターの三人を動けないように、キッチリと縛り上げてくれ!」


 すると魔法のロープは俺の手元からするりと消え、左右から近づいてきていた男たちの手足を縛りあげた。その結果、いきなり手足を縛られた二人は、その場で勢いよく倒れ込む。


「なんだこりゃー!」「なんやこれはー!」


 まるで陸に打ち上げられた魚の様に、手足をバタつかせる男たち。

 それを見て、ロープが思い描いていたとおりの効果があったことに、俺は安堵あんどした。


「話を邪魔されたくないので、そこでおとなしくしておいてください」


 俺は男たち二人を交互に見ながらそう告げると、続いて女騎士に「では話を続けましょう」と声をかけ、視線を下のほうに向けた。

 視線の先にいるのは、当然ながらロープで縛り上げられた女騎士だ。仲間たちと同じく身動きができないでいる。けれども、仲間たちの状況とは違うことが、一つだけあった。


「ちくしょう、だましやがったな! 私をどうする気だ、このブタ野郎が!」


 顔を紅潮させ、怒り狂う女騎士。

 その反応は当然のことだった。まるで亀の甲羅を連想させるような六角形がロープによって形成され、屈辱的な格好で縛られていたのだ。その縛り方は普通の生活では目にすることはない。しかし、「とある業界」ではもっともポピュラーとされており、その縛り方は、こう呼ばれていた。


 ――亀甲縛り、と。


 なぜだ、どうしてこうなった……。こ、これは俺が悪いのか? ロープの縛り方なんて、なんの意識もしていないのに。

 でもそうだ、きっとウィンドウなら信じてくれるはず!


 俺は顔を横にそっと向ける。向けた先には、冷ややかな目で俺を見つめるウィンドウ。

 俺と目が合うと、ウィンドウはゆっくりと口を開いた。


「……変態」


 ぎゃー、信じられていなかったー! だけど、さすがに少しぐらい言い訳させてほしい。


『違うんだ、俺のせいじゃないんだよ。このロープが勝手にやったんだって。頼む、信じてくれー!』


 俺の必死な訴えも、ウィンドウはプイとそっぽを向いたままで目も合わせてくれなかった。

 これは機嫌が直るのに時間がかかりそうだ……。仕方がない。今はウィンドウの機嫌を取るより、ゴブリンハンターたちとの交渉を優先させよう。


「えっと、すみません。魔法のロープが勝手に暴走したみたいで……」


 とりあえず、俺は女騎士に申し訳なさそうにペコリと頭を下げた。


「そんなのウソに決まってる! やっぱり私の体が目的なんだろうが!!」


 女騎士は目に涙をためて、こちらをにらみつける。その姿は、腹ばいになって逃げようとしていたせいでロープが肌にさらに食い込んでいて、痛々しい。だけど涙目になっているのは、その痛みのせいだけではないだろう。今から自分の身に起こることに、不安を覚えているからに違いなかった。

 だがハッキリ言って、俺は彼女の考えているようなことをするつもりはない。だから、とっとと交渉を始めたかったが、あまりにも気の毒すぎて、そういう気分になれなかった。


 そこで俺は申し出る。


「縛り方については、本当に狙ってやったわけじゃないんです。それに、エッチなことをするのが目的でもありません。その証拠に、両手以外はロープをほどいて身動きができるようにしますので、信じてもらえませんか?」


 俺はそう言いながら、腹ばいの女騎士のマントをペロリとめくる。もちろんロープの結び目を探すためだった。


「見るなぁぁーーーー!!」


 いきなり大声を上げる女騎士。

 その鼓膜を破るような勢いの声に気圧けおされた俺は、マントをめくったまま硬直する。


「へっ?」


 女騎士が悲鳴を上げた原因は、めくったマントの下に隠されていた。

 なんと、彼女の背中側には鎧がなく、真っ白な下着が丸見えだったのだ。しかも、かわいいお尻に痛々しくロープが食い込み、めちゃくちゃエロい。


 それを見てドキドキする俺。

しかし、すぐにスカートめくりと同じ行為であることに気づき、慌ててマントを元に戻した。


 あー、ビックリした。

 まさか胴体部分の鎧が、まえ半分だけしかなくて、うしろ半分がないなんて……。だが待てよ、もしかしたら、これがかの有名なハーフプレートアーマーというやつなのでは? 半分のプレートアーマーという意味だし。


 俺は鎧に詳しくはない。ゲームで登場する鎧を、なんとなく覚えている程度だ。しかし、どう考えてもハーフプレートアーマーが、こんな下着が見えるような実用性のない鎧とは思えなかった。

 確かにゲームで女性が装備する鎧って、エッチなのが多いんだけどさ……。


 ――いや、それだ!


 この世界の女性が着る鎧は、大人の防○屋さんで売ってあるようなのが流行りなのかも。実用性じゃなく、ファッション性重視。それも奇抜なやつ。それなら納得がいく。俺とは鎧における、音楽性(?)が違うんだ。


「あのー、私あんまり鎧に詳しくないんですが、その鎧ってハーフプレートアーマーですよね? まさか、背中側を守るものがないとはつゆ知らず、先ほどは失礼しました。でも、お洒落でセクシーですね。私は好きですよ、ちょっと奇抜で最初は面食らいましたけど。鎧のファッションショーがあるかは知りませんが、ランウェイえしそうですね」


 それを聞いた女騎士は、真っ赤な顔をして黙り込んだ。

 見かねた彼女の仲間が、代わりに俺の質問に答える。


「そんなわけあるか! あねさんがこんな鎧を着ているのは、貧乏だからに決まっているだろうが。せめて正面だけでも立派な鎧を着て見栄を張ろうとする、ビンボ姫様の気持ちを考えろ!」


「そうやで。シルクのパンティも買われへんから、綿のパンティをはいているくらい貧乏なんや。それが恥ずかしゅうて、マントで隠している姐御の気持ちを考えなはれ!」


「す、すみません。気づきませんでした……」


 俺の完全な勘違い。この場から、すぐにでもランナウェイしたい気分だ。


 しかし、いくら貧乏だからといって、あんな鎧を普通は着ないと思うんだけど……。

 そう思って女騎士のほうを見ると、彼女は仲間たちの言葉に反論したそうな顔をしていた。まるで貧乏のせいじゃないと言いたげだ。

 そこで遠回しに探りを入れる。


「でもよく考えると、おかしいですね。あなた方は有名なゴブリン狩り専門の冒険者。それなりに稼げているのでは?」


 その質問を聞いて、押し黙っていた女騎士はゆっくりと口を開く。


「確かに私はゴブリンだけ倒してAランク冒険者にのし上がったよ。でもね、ゴブリンだけ倒してもうかると思うかい?」


「そう言われても、冒険者の仕組みや報酬のことは詳しくありませんので、なんとも」


「まっ、そりゃそうだろうね。じゃ、説明してやろうじゃないかい。私がなぜ貧乏でありながら、ゴブリンを専門にしている理由わけってのをさ」


 そう告げると、遠い目で空を見つめる女騎士。もちろんその姿は亀甲縛りされたままなので、なんだかとってもシュールだ。


「ゴブリン討伐の報酬はね、駆け出しのFランク冒険者ならまだしも、冒険者ランクがD、Eと上がっていけば、おのずと割に合わなくなっていくんだよ。なぜなら、ゴブリン討伐の依頼のほとんどは、低ランクの仕事で依頼料が安いからね」


「それなら、なんでそんな旨味うまみのないゴブリンの依頼ばかり受けるんです? なにかメリットでもあるんですか?」


「ゴブリンがたまに持っているお宝のおかげさ。それでギリギリ専門にやっていけるから、まったく旨味うまみがないわけじゃないんだよ。まあ、ギャンブル的な要素はあるけどね。でもね、私にとって一番大事なのは、ゴブリンは私が絶対に死ぬことのない安全パイだってことさ。なんせ私は自分の責務を果たすまで、絶対に死ねないからね」


「なるほど、確かに危険な冒険者稼業。安全・安心は重要な要素ですね。でも、それを聞いて安心しました。あなたが妙にプライドの高い、くっころ女騎士でなくて。これなら話し合いで解決できそうです」


「くっころ? その意味はわからないけど、私は王族として、この国を昔のような活気に満ちた国にする責任があるから、死ねないんだよ」


「えっ、王族!? まさか、この国の姫君なのですか?」


「……まあね。私の本名はフローシア・ドビンボー。この辺りを治める王家に連なる者さ」


 そっか、だから仲間がたまにビンボ姫と呼んでいたのか。てっきり、オタクサークルの姫的なポジジョンだからと思っていたけれど、勘違いだったみたいだ。

 俺がそんなことを考えている間にも、女騎士は話を続ける。


「とは言っても、すごい額の借金を抱えていて、いつ財政破綻してもおかしくないような国なんだけどね。だから借金返済のために、私は生きて稼がなきゃならないのさ」


「なるほど、新しい鎧が買えないのは、そういう理由でしたか」


「うーん……、それだけが、すべてじゃないんだけどね。まあ、あんたにはどうでもいいことさ」


 この人、実はいい人なのかもしれない。いくら借金があるからって、普通は一国のお姫様が仕事をやって返そうとはしないだろうし。

 でも、理由を話してくれてよかった。おかげで、すべて丸く収める方法を思いついたぞ。


「やっと納得がいきました。そういう理由なら、私と取引しませんか? おそらく、これがあなた方と私にとってベストな解決法だと思いますが」


「ふんっ。ブタ野郎が私と、どんな取引をしようってのさ」


 相変わらず、ひどい言われようである。だけど交渉をスムーズに進めるために、俺はもう気にしないことにした。


「こちらの要求としては二つあります。まず一つ目は、私と出会った付近のゴブリンには、二度と手出ししないでいただきたい」


 先日は、こいつらを運よく退けられた。しかしゴブリンがいる限り、俺と出会った付近に必ずまたやってくるだろう。だとすると、住んでいた洞窟や、砦が見つかるのは時間の問題。あれだけ自信たっぷりにゴブリンのことを安全パイと言っているからには、そう遠くない未来に、仲間だったゴブリンたちが全滅させられる可能性だってある。それだけは、なんとしても防ぎたかった。


「もっともな要求だね。まあ、ゴブリンはほかの場所にもいるし、あの付近には近づかないであげてもいいよ。で、もう一つは?」


「そうですね、ここから一番近い町の場所を教えてもらえませんか? それと、そこまでの道のりが書いてある地図もお願いします」


 町までの詳しい道順もわからないし、こいつらのせいで佐藤さんたちと、さっき別れた場所さえわからない状況だ。今後のことも考えると、地図をもらって町の場所を教えてもらうのがベストだろう。


「近くの町ってことは、私らの今拠点にしている、人間たちの町のことを言ってるのかい?」


「はい、そこでお願いします」


「でも場所を知ってどうするつもりだい? 話によっちゃ、教えられないね」


「そりゃ、その町へ行くに決まってますよ。だって、そこで仕事をしないといけませんからね」


 悲しいけど俺、就職しないと生きていけないのよね。住所不定、無職でカネがないし。


「仕事だって!? あんた、町でいったい何をするつもりだい! もしかして、町での破壊活動……」


「破壊活動? あー、建物とかの解体屋さんのことですね。やったことはありませんが、お勧めというなら頑張らせていただきます」


「ふざけているのかい、あんた! だいたいその姿で、のこのこ町へ行こうものなら、入口で憲兵に殺されるよ!」


「えっ!?」


 異世界怖い。この姿で殺されるってことは、素っ裸で町に入ると処刑されるってことか。捕まることはあるとは思っていたけれど、殺されてしまうのは、さすがに予想外だ。理由が宗教なのか、町の法律なのかはわからないけれど、最悪すぎる。佐藤さんたちに渡した服のほかに、着る服はもう持ってないけど、どうしよう……。


「そうだ! 余っている服ってありませんか? 下を隠せるものだけでもいいですので」


「見てのとおり私らは貧乏で、一張羅いっちょうらしか持ってないよ。それともなにかい、まさか私のマントを奪い取って辱める気じゃないだろうね?」


 再び顔を真っ赤に染める女騎士。


「そんなことしませんって!」


 いくらなんでも、貧乏な彼らから服をぎ取るのは申し訳なさすぎる。それにそのせいで彼らが死刑になったとしたら、さすがに寝覚めが悪そうだ。


「どうやら交渉は決裂みたいだね」


「まだです! だったらこの格好でも殺されなくて、なるべく近場で、できるだけ多くの住民が住んでいる所はありませんか?」


「何かと注文の多いヤツだね。だけど、それだったら教えてやってもいいよ」


「よかった、この格好でも殺されない所があるんですね」


 どうやら全裸だと殺されるのは、女騎士たちが住む町だけのようだ。

 とりあえず俺はホッとした。


「でも、そんな口約束で私らを信用する気かい? あんたのいた砦には宝がたんまりありそうだから、裏切るかもしれないよ?」


 確かにそのとおりである。口約束なんて、所詮しょせんは言った言わないだで、あってないような約束だ。実際、俺はそれで何度も痛い目を見てきている。だけど、そのことを自ら指摘するってことは、少しくらいは信用していいだろう。


「確かにそうかもしれませんね。でもあなた方の目的って結局のところ、お金なんでしょう?」


「そりゃ……、まあねぇ……」


 図星を突かれ、女騎士はむくれた顔を横に背ける。


「それなら話は簡単です。冒険者をやる必要がなくなれば、裏切りようがありませんからね」


 俺は連中から見えないように後ろ手に四次元窓に手を入れると、素早くペンダントを取り出した。

 

 このペンダントは、俺がゴブリンだったときにゴブリンハンターたちを退けた報酬として、くじ引きみたいな箱の中から手に入れたものである。そのペンダントには、今はキラキラとした宝石が輝きを放ち、高級感が漂っていた。実際、今は滅んでしまったゴブリン帝国の皇帝が所有していたものらしく、その価値は計り知れない。

 俺はそのペンダントを、スッと女騎士の目の前に差し出す。

 

 女騎士は顔を横に向けたまま、チラリとペンダントを一瞥いちべつする。しかし目をパチクリさせると、慌ててペンダントのほうに向き直り、そのまま見入った。


「スゴイ、なんて輝きかただよ……。それによく見ると、宝石の中に幾何学的な模様が浮かんでいるじゃないのさ……。いったいどうしたんだい、この宝石」


「えっと、そのー、頂き物です。確か、ゴブリンスターとかいう名前らしいですよ? 売れば、もしかしたら一生遊んで暮らせるぐらいの価値があるかもしれません」


「いくらなんでも、それはさすがに大げさすぎじゃないのかい? まあ、いいさ。リバーサイド、ちょっとあんたの魔法で鑑定してみな」


「了解しやした!」


 男の返事がすぐ近くで聞こえてきたので、俺はギョッとした。

 慌てて声がしたほうに顔を向ける。するとなんと、女騎士の仲間たちは芋虫のようにって、いつの間にか俺のそばまで近づいてきていた。

 でもラッキー! 近くまで行って見せる手間が省けて、好都合。


 俺はリバーサイドと呼ばれて返事をした男の前に、ペンダントをかざした。


「これで大丈夫です?」


「ああ、その位置でオッケー。では鑑定しますぜ。うんたらかんたら……、ほいっとな!」


 リバーサイドは目を見開き、真剣な顔で宝石を観察し始めた。しかし、その途端に冷や汗を流し始めたかと思うと、ゆっくりと仲間たちの顔を交互に見る。


「ビンボ姫様、それにダンボル……、マジでこれ洒落になりませんですぜ。オレっちの鑑定魔法でも、わかったのは名前しかありません……」


「それなら名前は?」


「名前はゴブリンスターで間違いありません。はっきりとした価値はわかりませんが、オレっちの見立てでは最低でもSクラス。場合によっては、レジェンド級といわれるトリプルSクラス――」


「――本当かい!?」


 女騎士の顔が、一瞬にしてパッと花開く。


「おそらく未発見の宝石で間違いありません。ゆえに、最低でもSクラスは順当かと……」


 そう語ったリバーサイドの表情は、いまだ強張こわばったままだ。想像を絶するお宝を初めて鑑定して、現実感を消失しているように見える。


「わてら大金持ちや! 貧乏とおさらばや! やりましたぜ、フローシアの姐御あねご!」


 もう片方のダンボルと呼ばれた仲間のほうは、縛られたままの格好でトランポリンでもしているかのように飛び跳ねた。

 思うに、これから訪れるであろう、成功が約束された未来に心を躍らせているのだろう。

 そんな誰もが舞い上がりそうな状況にもかかわらず、ゴブリンハンターの中でただ一人、女騎士のフローシアだけは冷静であるように見えた。

 さすが一国の姫君、瞬時に自分を律するすべを身につけているとみえる。


「取引に応じてもいいよ。こっちはそのペンダントさえもらえれば十分だからね。それでそっちの要求は町への地図と、砦を襲わないことで変わりないね?」


「ええ、それで構いません」


「だが、こんなにも価値のある宝石を手放すのは納得がいかないね。何か裏があるんじゃないかと勘ぐっちまうよ」


「そこは信用してもらうしかありませんね。私の願いは平穏無事に暮らすこと。こんな宝を持っていれば、いつか身を滅ぼしかねません」


 このペンダントは、おそらく不幸のペンダント。俺の第六感がそう告げていた。だから実は手っ取り早く処分ができて、こちらとしては願ったりかなったりなのだが、それを知られては、せっかくのありがたみが薄れてしまう。そこでそれを悟られないために、ペンダントを見せてからは、ずっとポーカーフェイスに徹しているのだ。

 気分は、まるで悪徳営業マン。でも、俺は別に悪いことをしているわけではない。なぜなら、彼らに無価値な物を高値で売りつけているわけではなく、価値ある物を、タダで押しつけているだけなのだから。


「ふーん。若干納得できない部分はあるけど、まあいいさ。取引に応じるよ」


 フローシアの答えを聞いて、俺はやっと笑顔を見せる。


「交渉成立ですね。それでは最初にお姫様の拘束を解きます。ですが、仲間のロープをほどくのは取引が終わったあと、私がここから立ち去ってからにしてください」


「わかったよ。まあそれはいいとして、お姫様って呼び名はやめな。好きな呼ばれ方じゃないんでね。あんたみたいなヤツに名を呼ばれたくないけれど、まだフローシアって呼ばれるほうが、幾分マシだよ」


「わかりました。では、フローシアさんのロープをほどきますね」


 俺はそう告げると、フローシアを縛っているロープに軽く手を触れた。


「魔法のロープよ、彼女からほどけてくれ!」


 鳥たちがさえずる森の中に俺の声が響き、辺りはシーンと静まり返った。

 この場にいる一同は息をのむ。






 ……おかしい。ロープがほどけないぞ。

 そう思ったのと同時に、フローシアの表情が青ざめる。


「何も起こらないじゃないのさ! まさか、今までのことがすべて茶番だなんて言わないだろうね。期待させておいてどん底に陥れるつもりだったら、一生恨むよ!」


 もしそれが本当だったとしたら、天国から地獄へとはこのことだろう。だけど、そんなつもりはまったくなく、このロープの特性を忘れていただけだった。


「いやいや、違いますって! 一回使うと魔法の効果がなくなって、普通のロープに戻るのを忘れていたんですよ。待っていてください、すぐにロープをほどきます。だから結び目を探すために、マントをめくらせてもらえませんか?」


「……わかった。でも、あんまりジックリ見るんじゃないよ」


「はい、ではちょっと失礼して……」


 俺はフローシアの下着をなるべく見ないようにして、マントを少しずつめくる。すると結び目はお尻に近いところにあった。


「見つけました。少し我慢してくださいね」


 ちょっとドキドキしながら、俺は両手を使ってほどきにかかる。

 しかし結び目が非常に固い。とてもじゃないが、ちょっとやそっとのことでは、ほどけそうになかった。


「すみません、すぐにロープをほどくと言いましたが、かなりしっかり結んであるみたいで、ちょっと手間取るかもしれません」


「そうかい……わかった、多少のことは大目に見る。だから、手早くやりな」


「わかりました。では本気でいきます」


 フローシアにそう告げると、俺は本気モードに入る。大きく呼吸を吸ってから肺の中の空気をすべて吐き出し、呼吸を止めた。


『一点集中』


 必要なイメージはロープをほどく、ただそれだけだ。感覚を研ぎ澄まし、すべての神経を指先に集約する。すると周りから音が消え去った。

 俺が息を止めて、驚異的に集中力を高められる時間は短く、何度もできるわけではない。


 必ず、一回で終わらせてみせる!


 ――と意気込んでいたが、本気モードは長くは続かなかった。

 正体不明の何かが、俺の集中力を乱すのだ。あらがいがたいその何かに、つい息を吸ってしまう。


 すると、世界に音が戻った。


「くっ……あっ、いや……」


 まず聞こえた音は、なんとも艶めかしい声。気がつけば、俺が引っ張っているロープがフローシアのパンツに荒々しく食い込んでいた。

 顔を真っ赤に紅潮させるフローシア。口から出る声を必死に押し殺そうと耐えている。

 それを見て、なぜ俺の集中力が途切れたのかに気づく。男なら、抑えることのできない生理現象。

 

 俺の股間は研ぎ澄まされていた。


――って、このままじゃ本当に変態だ!


「あっ、ごめんなさい!」

 

 俺はロープから慌てて手を放し、両手を勢いよく上にかかげる。

 だが、その行動が裏目に出た。いつの間にかロープの一部がほどけていて、輪になった部分に手を突っ込んでしまっていたのだ。当然ロープは上に引っ張られる。そして最悪なことに、そのロープはフローシアの股の間を通っていたものだった。


「あっ、だめぇえええーーーーーー!」


 大きく目を見開くフローシア。普段の声とは違った、かわいい声が森の中に響いた。


「うわぁー! ごめんなさい、ごめんなさい! 悪気はなかったんです!」


「謝るのはいいから、早く手の力を緩めなっ!!」


「はい、今すぐに!」


 フローシアの指示どおり、俺は上にかかげげていた右手の力を緩める。すると不思議なことにロープがゴムのように縮んで、手がすごい勢いで引っ張られた。

 なんてことだ、よりにもよって魔法のロープは形状記憶の素材だったのだ。結果、俺の手のひらは勢いよくフローシアのお尻にめがけて放たれた。


 パアァーーーーンッ!


 まるで手から火花が散ったかのような衝撃、そして激しい音。それを言葉で言い表すとすれば、まさしくスパーキング。

 フローシアは体を大きく弓なりにらせ、へにゃへにゃと力が抜けて崩れ落ちた。


 あっ、マズい。これは非常にマズい!

 予想外の出来事にアタフタしていると、いきなり後頭部から強い衝撃を受ける。すると俺は頭を吹っ飛ばされ、思わずフローシアのお尻に顔をうずめてしまう。


「バカ、何が言い表すとスパーキングよ。どう見たってスパンキングじゃない! だいたいロープをほどかなくても、彼女の剣を使って切ればいいだけでしょうが!」


 確かにウィンドウの言うとおりだ。でも問題はそこじゃない。なぜスパンキングなんてエロい単語を、ウィンドウが知っているかだ。

 いや、問題はそこでもなかった。


『ちょっとまって、ウィンドウ! やっぱりまだ俺の考えが読めてるじゃないか!』


 俺は勢いよく飛び起きて抗議した。


「読んだわけじゃないよ! そもそも、あなたが彼女に変なことをしたのが原因なんだから!」


『それじゃ説明になってないよ。だいたい、なんでそれが原因になるのさ』


「……漏れたのよ。あなたが驚きすぎて、考えていることが。だけど、少しだけなんだから!」


『まさか、そんなことで? でもそっか、驚いて漏れたのなら仕方がないよね……』


 俺はウィンドウにそう答えて、先ほどまでうずまっていたフローシアのパンツのほうに顔を向けそうになったが、慌てて顔をそらした。

 ちなみに、顔をそらした先にいたのはリバーサイドとダンボルだ。だらしない顔をして、なぜかモジモジと身をよじっている。

 なんだかスゴく気持ち悪いので、それを無視してフローシアのほうに話しかけた。


「あのー、大丈夫ですか? すみません、さっきのは事故でして……」


「こ、これくらいへっちゃらさ。でもね、ほんと約束守る気はあるんだろうね?」


 フローシアは鬼のような形相で俺をにらむ。


「もちろんです。ところで、ロープを切ったほうが早そうなので、剣を借りますね」


「なんだって! 最初から、そうすればよかったじゃないのさ!」


「ですよねぇーー。私もさっき気がつきました。それで何か食べ物でも差し上げますから、それで許してください。ほら、おなかもいっぱいになれば、怒りもおさまるといいますし」


 俺はそう言いながら、フローシアの近くに落ちている剣を拾い上げる。

 すると、不思議なくらい軽いことに驚いた。いくら剣身が半分に折れているとはいえ、まったく重さを感じないのだ。あまりの軽さに手元が狂いそうだが、とりあえずロープを切ることに集中した。

 ロープを少し引っ張り、剣の刃を当ててやるとロープはあっさりと切れる。それを数カ所繰り返してフローシアを動けるようにし、残った部分のロープについては彼女に任せた。


 念のため、俺は剣を片手に身構える。先ほどの交渉はウソであり、襲ってくることも考えてのことだ。

 しかし、それは杞憂きゆうだった。自由になったフローシアは素早く立ち上がると、マントを手で押さえながらダッシュして、少し離れた茂みに入る。そして真っ赤になった顔だけ出して、こちらをにらんだ。


「しばらくこっちに来るんじゃないよ! 絶対、ぜえっーたいだからね! もし来たら、絶対に殺す!」


「わ、わかりました。では私はその間に、お詫びの食べ物をなんにするか考えています」


 さて、何かおいしい食べ物はあっただろうか?

 俺はゴブリンハンターたちから見えないように後ろを向くと、四次元窓に手を突っ込んだ。

 エドモンドが管理する倉庫で、俺の門出の祝いとしてもらった食料品の数々。おいしそうなものを選んで持ってきたつもりだけど、相手が喜んでくれるかが問題だ。おびなんだから、本当は菓子折りでもあればよかったんだけどなー……。

 そんなことを思いながら四次元窓を探っていると、フワフワとした妙に懐かしい触り心地の物をつかんでいた。


 なんだこれ?


 不思議に思いながら俺は中から取り出すと、そこに現れたのは「例のモノ」だった。俺がこの世界に来ることになった原因。まさか、まさかの【チート○】である。


 スライムたちにあげたはずなのに、まさかまだ残っていたなんて……。

 でも、そうだ! もう見たくもないと思っていたけれど、いい使い道を思いついたぞ。一応これも菓子なんだから、菓子折りの代わりにすればいいじゃないか!

 なんたる妙案だ!


 俺はフローシアへのお詫びとして、【チート○】を渡すことに決めたのだった。

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