ほぐれる男
物事が思うように運ばず、
諦めにも似た溜め息を吐きながら
男は、夏空を見上げ
ズボンのポケットに、無造作に手を突っ込んだ。
硬いものが手に触れ
中から、五百円硬貨が出てきた。
ささくれた心が五百円でほぐれる
人間の面白さを感じながら
男は、前方から自転車に乗ってやって来る
若い男性に目をやった。
その男性は、片手にジュースの缶を持っていた。
次の瞬間男性は、ハンドルから両手を離し
缶の蓋を手で開けようとした。
男は、両手を離して自転車に乗る人を見るたび
自分には真似の出来ない凄ワザだと
前々から思っていた。
今回もそれを見せてくれるのかと思った途端
男性は、マッハのスピードで
離した両手をハンドルに戻した。
男は、その戻すスピードの速さが
ある意味凄ワザだと思った。
( 出来ないのなら、初めからするなよ。。。) という
心の声が発せられる事は無かった。