皇都(インペリアルパレス)I魔鋼(マギメタ)M戦闘団(ストライカーズ)S 第5話
アイツが。
あの子が。
やって来る!
魔鋼の存在が復活した事を、まだ大方の人々は知らなかった。
悲惨なる戦いの末、魔法が使えなくなった。
それは、普通の人々には喜んで受け入れられる出来事だったから。
魔砲使いが居なくなった・・・周りにも。
悪魔のような異能を放てる者が居なくなった・・・除け者にならずに済む。
魔砲なんて放てなくても、誰も気にもしない・・・戦争に往かずに済む。
魔法が使えなくても、不便でもなんでもない・・・やっと陽の下で生きていける。
やっと愛する人の子を授けて貰った・・・のに。
幸せは誰が奪った?
どうして魔法が蘇ったの?
なぜ?
何故、私の元に?
なぜあの子達に<魔力検知能力>が、継承されてしまったの?
どうしてそれがアイツ等に知られてしまったの?
暗闇の中、独りの女性が泣き苦しんでいた。
悔やむのは、自分の浅はかさ。
悔やんでも嘆いても、今は唯・・・空しいだけ。
「ノーラも、ローラだってきっと。
私が母であるのを恨んでいるに違いない。
なまじ大戦中に武勲をあげてしまった私を、赦してはくれない。
生きて帰ってしまい、あの子達を産んだのを恨んでいる筈」
闇の中、拘束具に繋がれた女性が呟く。
恨めしそうに誡めを観ては、嘆きの声を上げるだけ。
「魔砲が放てるのなら、ここから逃げ出す事も出来ただろう。
でも今は嘗ての魔力はないから、こんな拘束具さえも外せない。
あの子達には継承されたのに、私には戻ってはこなかった。
だから・・・あの子達を利用され続けている・・・邪な奴等に」
虜にされた我が身を嘆く、長い黒髪の女性。
「あの子達に罪を負わせるのなら、死んでしまったほうが良いのに。
私はそれさえも出来ずに居る。
死を選ぶ事も出来ずにここで審判を待たねばならない」
呟いた女性の前に、灯りが差し込んだ。
「お前にはもう少し利用価値があるのでな、そう簡単に死なれたら困るんだよ」
明かりが射した部屋に、ぶっきらぼうな男の声が響く。
声の主に女性の澱んだ瞳が向けられ、
「理事長・・・まだ、私を利用するのですか?
あの子達を悪の道に連れ込むだけでは、飽き足らないというのですか?」
見下ろして来る道魔理事長に、か細い声で訊ねる。
「飽き足らん?私はビジネスをしているだけだぞ?
二人の姉弟を無償で学校に来れるようにしてやったではないか?
お前の希望だった筈だが?
違うかね法子・・・栗林 法子、元魔鋼中尉殿?」
嘲る道魔理事長を見上げる法子の眼は、澱んだ様に黒く霞んでいた。
「どうやら・・・お出ましのようだな?」
国防軍制服の裾を伸ばした。
「いずれはかたをつけると言っていたが。こうも早くやって来るとはな?」
上空に浮かぶ船を見つけて。
「尻尾を掴んだという事なのか、マモルよ?
それともお前らしい判断でも下したというのか?」
眼鏡の縁を直して。
将官は振り向いた・・・定期演習中だった機甲部隊へ。
「お前が行くのならば、私とて向かわねばならんだろう。
あの子が行くのなら、護らねばならんのは同じなのだからな」
軍隊から身を引いて、彼是もう十数年が経つ。
今は国防軍参与として技術開発に身を捧げる身。
今回定期演習に赴いた理由があった。
国防軍の制服に袖を通したのも、それが為。
「もしも、<九龍の珠>の威力を奴等が持ち合わせたら。
これが必要になるのではないかと思うのだがな。
そうじゃないのか、マモルよ?」
陽の光を反射する鋼の人型。
銀無垢のボディー、強化された武装・・・そして。
「これがあれば、ピンポイントの攻撃が可能となるんだぞ。
かつての魔鋼騎戦のように、相手の弱点を突けるんだ」
見上げた<翔騎>は、新式の装備を誇っている。
新型の<翔騎>のテストに、わざわざ出張って来たというのか。
「島田参与!出発の準備が整いました!」
敬礼を送って来る輸送隊の指揮官が、トレーラーを指して。
「本機も。車載致しますのですか?
まだ、実用試験中ですが?」
目の前に聳えたつ新型機を見上げた。
「中村一佐、こいつはもう戦闘可能だよ。
後は・・・乗り手を選ぶだけだと思うがね?」
指揮官に答えたマコトが、皮肉るように目を細める。
額の古傷を隠す様に、もう一度眼鏡をかけ直して応えたのだった。
「判りました。それでは、島田参与も同行して頂きます」
「よかろう・・・」
陸上部隊を坂東に向けたマコト。
息子であるIMS指揮官マモルには、まだ連絡は取らずに急ぎ出発を命じるのであった。
戦機は熟した。
日ノ本に巣食う闇。
邪なる闇の者が、紅き澱みから観ている。
愚かな人間共の、同士討ちを。
「ふふふっ、これはこれは。
面白そうな玩具達じゃないか?!」
まるで子供のように燥ぐ声が、澱んだ空間から漏れて来る。
「いいねぇ、実に。
これだから人間共って観てて飽きないんだよねぇ!」
ふざける声が、徐々に澱みから近づいて来る。
「傍観するだけじゃ物足らないよ。
ボクにも遊ばせて貰いたいね、殺戮するのなら!」
紅き澱みの中から。
闇の結界を纏ったまま、声の主が現れ出る。
黒髪・・・紅き瞳・・・ケモ耳と尻尾を生やした幼き少女の姿で。
「黙って観ていろだなんて。
主様には言われているけど・・・」
ニヤリと嗤う紅き瞳には、悪魔が持つ邪気が渦巻いて見える。
「下々の奴等にだけ楽しませておくなんて。
魔王三人衆には退屈過ぎるんだよなぁ・・・」
くくくっと笑う少女が、獣耳を掻き下ろし。
「アッチには古代の女神が居ると云うじゃないか。
それならボクにも干渉させて貰おうかな?
女神が手を出すというのなら、この魔王様もちょっかいを入れて貰うからね?」
現れ出でた魔王・・・というには幼過ぎる姿。
ケモ耳を生やし、尻尾をふりふり。
何故だか黒いセーラー服とキュロットを穿いたショートカットの黒髪を靡かせる少女。
足下に紅く光るのは魔法円環。
宙に姿を浮かばせる魔王は、彼の地を観て細く笑む。
「女神がどれ程の物か・・・ちょっと遊んでやろうか?」
闇を纏わせる少女姿の魔王が、介入すると断じた。
それは彼の地での戦いに、人外の異能が干渉するという事でもあった。
「くくくっ!いいねぇ、実に楽しそうだよ・・・」
嘲笑う魔王の実力や、如何に?
遂に敵役として。
魔王3人衆が一人、ランド・セルが現れました。
彼女(?)がどう絡んでくるのか?
他の魔王達は何時現れるのか?
道魔に命じていた者はランドだったのか?
謎は複雑に運命をかき混ぜるのです。
次回 皇都I魔鋼M戦闘団S 第6話
君は仲間の内に入り、救出に赴こうとしていた・・・が。




