闇に染まりし者よ 第5話
姿を現したのは?!
やっと本来の姿を見せたのか?
近寄った気配だったが、突然宙に浮いた・・・
辺りの景色が鈍く澱み始める。
薄汚れたように・・・澱んだ空気を孕み。
「くっくっくっ!感ずいたな?だが、もう遅い」
乾いた声が掛けられる。
「ボクの正体が分っていたんだろ?女神に因って」
彼が来た事を悟らされていたミハルが、ゆっくりと起き上がる。
「今迄ずっと手を出して来なかったのに・・・なぜだ?」
「知ってたよ、君が闇の力を持っていたのは・・・」
空中に昇るのを停めた相手に答えて、ミハルが後ろを振り返る。
そこに居たのは、夕方に分かれた筈のローラが制服のままで見下ろす姿。
「ほほぅ?ボクの力を知っていて、付き合っていたというのか?」
嘲るローラが、目を細めて訊き質す。
「そう。
もしかしたら、アタシみたいな存在なのかなって思ったから。
本当のローラちゃんは、闇になんて負けないと信じたから」
振り返ったミハルの眼が、紅き色に染まる。
「アタシも。
ローラちゃんみたいに闇の力をも持つ者だから。
人でありながら、光と闇を与えられし者なんだよ?!」
女神と魔王の力を授けられたミハル。
聖なる力と闇の力を授けられ、人でありながら双方の力を行使できる少女。
嘗ての巫女と同等の力を持つ宿命の少女。
同じ闇の力を持っているローラを感じ取るのは、宿命だとも言えた。
「ボクを知っていた癖に、手を出さなかっただと?!
お前を狙って編入して来たのと分かっていながらなのか?」
「さっきも言った。
ローラちゃんも人なんだもん、信じたかったからだよ?」
見下ろして来るローラに、ミハルは応える。
「あんなに仲良くしてくれるのに・・・なぜ?
信頼を勝ち取る為だけにしてはおかしいよ?
本当のローラちゃんは、きっと優しいに決まってるんだから」
紅き瞳になっているミハルが、右手の宝珠を指し出して来る。
「アタシ・・・ローラちゃんに捨てて貰いたい。
闇を制御出来ないのなら、捨て去って貰いたいんだ」
「闇を捨てるだって?
愚かなことをいう奴だな?!
ボクから闇を奪える筈が無いんだよ!
ボクは全てを取り戻す為に闇を受け入れたんだからな!」
嘲笑うローラから返って来たのは拒絶。
闇を捨て去るのを拒み、目的を果たそうとする闇の瞳で睨んで来る。
「ボクの望みを果す時まで、闇の力を手放す筈が無いんだよ!」
見下ろし睨みつけるローラの瞳は、紅く闇に澱んで見える。
闇の結界が出来上がる。
澱んだ空の上に、逆五芒星を描く空間が出来ていた。
地上の景色もそれに合わせて一変する。
ごつごつとした岩山が空に浮き、地表は荒涼とした砂漠と化していた。
「もう、ここからは逃れられないよミハル。
お前と女神を虜にしろって命じられているんだ。
お前達二人を連れて行かなきゃ、返してくれないんだよお母様と姉さんを!」
すぅっと後退るローラが、地表上のミハルに告げた。
「ボクの望みは取り返す事にある。
闇に囚われたお母様や、道魔に騙され続けるノーラ姉さんを・・・
この手に取り返すのが、ボクに与えられた宿命なんだよ!」
ローラがうっかり喋ってしまった。
ミハル達が知りたがっていた、暗躍する輩の正体を。
「ドウマ?・・・そいつがお姉さんを誑かしているんだね?」
首元の金色の装置を、左手で押しながら話す。
「伯母ちゃん・・・助力して。
マモル君達に聞こえるように・・・お願い」
呟いたミハルが、ローラを見上げ直して。
「そのドウマとか言う奴が、黒幕なんだね?
少なくとも、盗賊ノーラさんを送り込んで来ている悪い人なんだね?」
ゆっくりと。
聞いている者に、伝わるように話すミハルへ。
「道魔はイシュタルの民とかいう秘密結社に属している。
そいつ等が、道魔を以って姉さんを誑かしているんだ。
だけど、秘密結社は道魔を信じてはいないし、当てになんてしちゃぁいない。
だから、ボクに道魔を出し抜いてしまえって言ってるんだ」
ローラは盗聴されているのを知らないのか、事の真相を話してくれた。
首元のマイクロフォンで、声が拾えたか分からないミハルが念を押す様に。
「それじゃあ、道魔とかいう奴は単なる使い走りって訳?
そいつにお姉さんが誑かされているのは、お母さんを人質に盗られているから?
二人を取り戻そうとするローラちゃんに命じて来たイシュタルの民って?
どこに居るのか知ってるの?どうやって接触して来たの?」
真相を掴むのはこの時だと言わんばかりに捲し立てると。
「イシュタルの民に命じられたのは、学校の理事室の中でだ。
道魔理事長に呼び出された時、奴等から闇を与えられたんだ」
遂に、ローラの口から真相が零れだした。
「お前達を<九龍の珠>と共に持参すれば。
母様と姉さんを釈放してくれると魔導書に契約文を書いて寄越したから。
そうすればボクも闇から解放されるんだよ!
そうしなきゃー終わりは来ないんだよ!」
怒るように。
ローラが言い放って来た。
首元のボタンから指を放したミハルが、
「そっか・・・闇を信じて、友達を信じてくれないんだ。
闇の者の言う事を聞いて、アタシの言うのを聞いちゃくれないんだね?」
ビクンっとローラが震える。
「邪なる闇を信じて、女神の力を信じられないんだね?」
「そ、そうだよ!もし女神が万能だったら。
お母様や姉様を取り返してくれる筈だろ!」
返された声は、再び怒りに満ちていた。
「・・・だって。どうするの伯母ちゃん?」
宝珠に訊いたミハルに、ローラが指差して。
「女神が万能なら、ボクの大切な人を返してよ!」
女神に現れ出て釈明するように嗾けた。
此処は闇の結界の中。
宿りし女神も、姿をみせられる筈だったから。
「「困った子ちゃんねぇ・・・女神使いが荒過ぎない?」」
「あ・・・伯母ちゃん?」
宝珠から現れ出でたのは・・・
「こっ?!これが・・・聞いてた通りだ・・・けど?!」
顔を引き攣らせたローラが観ているのは。
蒼い毛玉・・・のような女神・・・・
「「うにゅぅ・・・イカンねぇ。
人たる者が闇の結界を張るだなんて?!」」
紅いリボンが着いている、蒼い猫顔の女神がふわふわ浮いていた。
「「私に何か用でもあるのかな?
あなたが欲しいモノは此処には無くてよ?」」
揺蕩う女神がローラに告げる。
「いいや!今目の前に現れたんだよ!
あなたが本当の女神というのなら、捕まえなくっちゃいけないんだ!」
「「私を?!ふふふっ、捕まえられるモノかしらね?
捕まえたとしても、どうやって捕え続けられると思うのよ?」」
人が神を捕まえられるなど、神話やお伽話じゃあるまいし。
女神が多寡を括って言い返すと。
「それも。
聴いていた通りなんだよ!
何も考え無しで捕まえられる筈が無いだろ!
ちゃぁーんと、用意はして来たんだよ!
女神は猫毛玉になっているんだと聞いていたし、準備して来たんだよ!」
闇の結界が、ローラの意志により形を変えた。
地表から岩山がのめり上がり、その中から得体のしれない大きな物が。
「なに?あれって?」
目の当たりにしたミハルが、呆然と様子を視ていると。
地表から湧いて出て来た物の口が、ぽっかりと開いた。
「・・・まるでGポイポイみたい?いいえ、ネズミ捕り??」
「ちっちっちっ!惜しいけど違うんだなこれが。
女神ホイホイだよ、特別あつらえらしいんだけどね」
・・・似た様なものでしょーが?!
ぽっかり口を開けた収容庫。
確かに魔法の類が書かれた入れ物だが・・・
「あのねぇ。
いくら私が物好きだって、あんな物の中に入るとでも?」
ニャンコダマが呆れたようにローラに言った時。
しゅるん・・・
何かが視界の端を過った。
「だから・・・ね。
何も用意無しには来ませんよ・・・って!」
ローラの手には、いつの間にか何かのコントローラーが?!
「ロ、ローラちゃんっ?!それって?」
目に飛び込んで来た物を観て、ミハルが唖然とした声を上げる。
「どんだけ・・・悪趣味なの?
ねぇ・・・伯母ちゃん・・・?!にゃぁっ?」
振り返ったミハルが蒼毛玉で女神のニャンコダマに目を向けた時には。
もう、それに向けて突進して行く処だった。
「あーっはっはっはっ!どうだボクの手に掛かれば女神なんてイチコロだ!」
勝ち誇ったローラが、操っているのは?!
・・・・なに?次回に続くよ?!
闇堕ちローラが企むのは、女神の捕縛。
女神を捕まえ、ミハルをも凋落させんと企んだのは?
「ニャーニャーにゃぁ!」
・・・・
女神が。いいや、ニャンコダマが横切ったようですが?
さて。女神はナニをやってるのでしょうか?
それは・・・次回に!
次回 闇に染まりし者よ 第6話
君ってば。本当にニャンコになっていたのか?!それでもめげないミハルは立派?!




