闇に染まりし者よ 第4話
魔法衣姿に成ったミハル。
白の魔法衣を観たノーラは・・・
白い魔法衣を着たミハルに、ノーラは眼を剥いて驚いていた。
「今の今迄の姿は・・・世を忍ぶ仮の姿だったのかのら?!」
驚きのあまり、攻撃するのも忘れて問いかける。
「あ、いや。そうじゃなくて・・・」
出鼻を挫かれてしまったミハルが、しょげかえって言い澱む。
「これがアタシの魔鋼姿ってだけで。
魔砲戦に対する時は、変身するのが習いって教えられているから・・・」
空を揺蕩うノーラに訊かれて、魔女っ子の謂れを答えるのだった。
「そんな話ってあるか?!
全くの別人じゃないかノラ!今迄の阿保っ子はなんだったのら?!」
「むかっ!阿保っ子ってなによ!」
低次元の言い合いをするノーラとミハル。
折角の緊迫した雰囲気が、崩れてしまったようで。
「蒼髪に蒼い瞳だけでも別人なのに、そんな服にまで着替えて!
この大盗賊ノーラ様を小馬鹿にする気なのらっ?!」
「あ、いやあのね?小馬鹿にする気なんて毛頭ないんだよ?
そっちが<翔飛>なんてものを使うから・・・つい本気でやり合うものとばかり」
困り果ててしまう。
相手の調子に惑わされて。
ー 別に隙を伺っているとも思えないな。
本当に驚いたんだろーなぁ・・・どうしよう?
本気で襲い掛かって来たと思ったから・・・の変身だったのに。
ノーラが驚き過ぎて襲って来なくなっちゃったから、身の置き場に困る魔鋼少女ミハル。
「あ、あの。これからどうする気なの?
勝負を挑んで来たんじゃなかったの・・・かな??」
敢えて闘わなくてもいいのなら、それに越したことは無いのだが。
手持ちぶたさにも、程がある・・・身の置き場にも困るから。
「言われなくても判ってるノラ!
お前が<翔騎>パイロットだから、いつも邪魔する白い機体の操縦者だから!
やっつけておいて、その隙に盗み出そうとしただけなのら!」
「じゃあ、闘う気なんだね?」
その気になったのかと、身構えるミハルに。
「それがこんな魔法衣を着れるレベルだったなんて、聞いちゃいないノラッ!
だから・・・今日は許してやるのら!」
「がくっ」
闘う気なんかとうに失せたと言われて、ミハルはずっこける。
「捲土重来を目指すのら!もう一度出直して来るのら!」
「あ・・・そ」
<翔飛>の出力を上げて逃げ出そうとするノーラに、魔鋼剣を上げて返答をする・・・が。
「だああぁっ!逃げるんじゃないっ!」
逃がして堪るものかと魔砲のスペルを唱えだす。
「ノーラさんにはこのまま捕まえられて貰いますからね!」
「なっ?!それは困るのら!
今日は帰るって言ったじゃないかノラァ!」
慌てふためくノーラ目掛けて、
「駄目っ!泥棒なんて辞めなきゃ駄目なんだよってば!」
唱え終えた呪文を解放させる。
「シャイニングゥー・ブレイカー!」
最強レベルの技の発動。
普通の人間に対して、無慈悲にも思える魔砲の光弾が撃たれた。
魔鋼剣の先端から終息された光が、砲弾と化して放たれたのだ。
「うきゃぁーっ?!そんなの喰らったら死ぬノラァーッ?!」
飛び退るノーラに巨大な光の弾が・・・・
「シューゥトォーッ!」
剣を突き出して、ミハルが叫んだ。
魔砲弾は狙った通り、集束力を上げて一点目掛けて飛んで行く。
「受けてみて!アタシの全力全開っ、魔鋼の力を!」
ノーラに向けて・・・というより。
狙った場所へ叫ぶ。
「逃げられないっノラッ?!」
光の弾は、ノーラに突き当たった。
飛び退る足の下に描かれた<翔飛>から出ている円環を貫いて。
ボシュッ!!
集束された魔鋼の力は、魔力を飛ぶ力に変換させている<翔飛>に命中した。
「うきゃぁ~~~っ?!」
右足の円環が瞬時に喪われ、左足とのバランスが崩れ去ると・・・
「落っこちるぅ~っ?!」
ぐるぐる回転されてノーラは眼が廻り・・・
「あのねぇ?そんな高さから真っ直ぐ堕ちたら。痛いだけじゃ済まないよ?」
自分が撃っておきながら、ミハルはこうなるなんて思わなかったのか?
「片足だけでも十分跳べるでしょ?
・・・って、聞いちゃいないか。しょうがないなぁ」
再び呪文を唱える。
今度は最弱レベルの魔法で十分と読んだか。
「ホレ・・・バウンドしなさいよね!」
堕ちて来たノーラの下に打ち込んだ。
ぼむっ!
地面に砂煙が舞い上がる。そこにノーラが堕ちて来た。
「むひゃぁっ?!ぐえ・・・」
落下スピードと上昇する砂煙の力が相殺し合い、ノーラは地面に叩きつけられずに済んだ。
地上1メートルの処で一瞬停まり、その後両手を拡げた状態で地面まで降りた。
いや、降りたじゃなく・・・落とされた?!
「どう?これでもう逃げる気が無くなったでしょ?」
「・・・・」
魔鋼剣を突きつけたミハルに、ノーラは返す言葉も無いのか。
「あ。もしかして・・・気絶しちゃってる??」
「・・・・」
どうやら、そうみたいだ。
「あちゃぁーっ、やりすぎたかな?」
ノーラに駆け寄ったミハルが、舌を出して苦笑いする。
「ま、まぁ。これで泥棒さんを捕まえられたんだから・・・いいよね?」
善いか悪いかは別として、ノーラの逮捕に至ったのだと。
苦笑いしたまま、ミハルが魔法戦の終了を宣言する。
「後は。みんなに取り押さえたって教えれば良いんだよね?」
ここは学園の敷地内だから。
それに目の前には秘密の基地が控えていたから。
「誰も観ていないのなら、このままノーラさんを基地内部まで連れて行こうかな?」
目の前にある魔鋼科学舎の壁に話しかけて、魔法衣の解除を宝珠に告げた。
ミハルの姿が瞬間にして元の学生服に戻った。
魔鋼の力を解除したミハルは、ソレ(・・)が近寄って来るのも知らず気にノーラへ屈込む。
「ノーラさんをこのままにはしておけないからね・・・」
背後から何者かが来ている事を、ミハルは気付かされていた。
今度の方が、本当の敵なのだと。
「ねぇ・・・誰なの?」
ポツリと溢したミハルに、近寄る者の足音が聞こえて来る。
「返事位してくれてもいいんじゃないのかな?」
その足音に聞き覚えがあると感じた。
「どうして?此処に居るのか、聞きたいのかな?
それとも・・・ノーラさんに用があるのかな?」
屈み込んだミハルが、振り返ろうともせずに訊ねた。
やって来た影は、立ち止まる。
ミハルからそう離れていない所に。
「くっ・・・くくくっ!」
嘲笑うのか。
陰は笑い声を忍ばせる事も無く嗤うのだった。
「「姪っ子ちゃん、今夜は本当にお腹が空くわよ?!」」
女神の声が、ミハルに覚悟を促した。
陰っていた月が、漸く月光を辺りに振り撒いて来たのはこの時の事だった・・・
またもや?!
今度は一体誰なのか?!
魔法衣を脱いだミハルを狙ってきたのか?
月に姿を晒した者の正体は?!
次回 闇に染まりし者よ 第5話
やっぱり、君か。想像していた通りに現れたんだね?!




