闇に染まりし者よ 第2話
キナ臭い闇の蠢きが・・・
闇の中で蠢く者が命じるのは?!
すき好んで盗賊になった訳じゃない。
何も自分から望んで狙っているんじゃない。
唯、それが必要なだけだから・・・
「あれがどうして欲しいのら?
渡しさえすれば還してくれるのか・・・のら?」
何度も問い掛け、何度も答えられた。
答えなんか判り切っているというのに、またも訊いてしまう。
「勿論・・・そのつもりだ。
一刻も早く、我等に渡すのだ。そうする事でしか母親は返さんぞ」
「お前等が連れ去ったお母はんは、無事なのかのら?
珠を持って来たら返すと、保証しろ!」
ノーラは催促に来た理事長配下の男が、尊大な態度を執るのに苛ついた。
「盗賊に貶められたのは、お前達が珠を盗れなかった所為のら?!
私等家族の異能を知ったお前等に、お母はんを連れ去られてしまったのは痛恨事。
人質に取られたのを知ってるのは私等姉弟だけ・・・のら」
「何が言いたい?」
眼鏡を直した配下の者に、ノーラが言い切ったのは。
「珠を盗って来ても、お母はんを返さん気やないだろうな。
もっと利用する気じゃないのか・・・のら?」
悪意のある男に向けて、内心思っている疑いを吐露する。
「ふん。どう想おうが知った事ではないが。
約束を果さねば、母親は帰っては来ん・・・ただそれだけの事」
男はそう嘯くと、ノーラへ今一度言った。
「お前達家族の異能が、我等には必要なだけ。
躰を壊している母親では、盗賊としては能力不足。
だから娘のお前に白羽の矢が立った・・・だけだ。
もしお前が出来ぬとあらば、弟にやらせても良いのだぞ?」
「待て、それだけは・・・辞めてくれのら。
あの子にだけは罪を犯させたくはないと言った筈だのら!
罪を被るのは、私だけにしなきゃいけないのらっ!」
盗賊に身を貶めたのは、母親を救う為。
そして、弟を庇う為でもあった・・・
「ならば、一刻も早く奪って来い。珠を寄越さねば母も弟の身も、保証などせんぞ!」
「ううっ・・・解ったのら」
男はノーラに背を向けて、部屋から出ていく。
残されたノーラは、自らの異能を呪っていた。
「なぜ・・・どうしてだのら?
お母はん・・・なぜこんな異能を継承させたんだ・・・のら?」
ノーラは暗がりの中、部屋の隅にある魔法道具を観た。
盗賊たる者の秘密道具にして、魔法の靴を。
他人には靴にしか見えない物も、ノーラには光を纏って見えていた。
「魔法の靴・・・魔法使いにしか使いこなせない<空飛ぶ靴>。
その昔、お母はんが軍隊に居た時に履いてた<翔飛>・・・」
ノーラは靴を手に取ると、母親を想う。
想うだけではなく、話しかけるのだった。
「このままだと、いずれはお母はん共々・・・始末されてしまうのら。
取り戻す事も出来ず、本当の自分にも戻れず。
珠を持って来ても、取り戻せない気がするのら?」
靴には母の声が宿っていた。
「「そう・・・本当の自分に帰るには。
あなた自身を取り戻したければ・・・
<九龍の珠>を持って来ることしか、方法が無いのよ」」
靴の魔法石からノーラに返って来るのは、いつも同じ答え。
「お母はんを取り戻すにはこれしかないと言うのか・・・のら?」
「「そう・・・あの珠を奴等の処まで持って来れば。
必ず道が開かれる・・・私達にとっても。
ローラにとっても・・・堕ちた息子にとってもね」」
母の声が教えて来る。
ノーラはじっと靴を見詰めてから。
「弟が闇に堕ちたって言うのは、本当の事なのかのら?
ローラがどうして闇に堕ちたと判る?弟が闇に堕ちる筈が無いのら!
もし本当に闇に堕ちたのなら、どうして邪魔をするのらっ?!」
自分が守るべき弟が、既に悪の仲間となったのかと問う。
「「きっと・・・ノーラも判る。
あの子が何を狙っているのか、判る日が来るわ」」
「狙う?<九龍の珠>以外の目的があるというのら?」
それが意味する事の重大さを、ノーラは知る由も無い。
「「ええ、いつか必ず分かる筈よ。
この世界を闇に戻そうとする者が、あの子を貶めたって」」
「ローラに?!ローラが?!・・・そんな・・・信じられないのら?!」
驚くノーラへ、靴が語るのは。
「「ノーラ、早く珠を持って来て。
あの珠には罠が貼られているの、彼等だって馬鹿じゃないわ。
きっと助けに来てくれる・・・私もノーラも。
そして・・・あの子にも」」
そうか・・・と。
ノーラは母に教えられた。
盗みを犯しても、唯盗むだけではないと。
盗まれた珠を取り戻しに来る筈だからと。
それだけの価値がある珠なのだから。敵にも、味方たる人にも。
「そうか・・・そうなのだのら!
敵の居場所を教えられたら・・・救出して貰えるように。
半端な事なんか出来ないって事なのら!」
魔法陣に闇の結界が貼られる。
自分にも召喚が許されているから。
闇の機械を一度に一体だけ。
闇の中から現れる邪操機兵を、使役出来る契約を交わさせられたのだから。
「今度こそ・・・果たさなきゃいけないのら」
オッドアイに輝く瞳を闇夜に向けて、ノーラは跳んだ・・・・
______________
夕方、下校時間が過ぎて。
「ぶつぶつぶつ・・・・」
3人は帰り道を歩いていた・・・のだが?
「ぶつぶつぶつ・・・・」
「あ~っ!うっとおしいっ!」
マリアの逆鱗に触れたミハルが涙目で、
「だぁってぇ~っ、マリアちゃんもローラちゃんも!
勉強する必要ないジャン?どうしてそんなに頭良いの?」
自分独りだけ、除者にされかけたと拗ねる。
「あ?!あのねぇ、逆にミハルさんは2学期の間、何を学んできたのさ?」
「うっ?!そ、それは・・・」
ローラのツッコミに、たじたじのミハル。
「おおかたミハルは、宿題におわれるだけやったんやろ?」
「そ、そだねー」
肩を竦めるマリアに頷く。
「はぁ。それじゃー、復習や予習なんて出来てないんじゃないの?」
「そ、そっだねぇー」
ため息を吐かれるミハルである。
期末テストの勉強会一日目。
その一日目にしてこれだ。
「なんや、試験勉強っちゅーより」
「ミハルさんの勉強会になっちゃうね?」
「そ、そっだねぇ~っ・・・って?!助けてください!」
二人にジト目で観られて焦る、損な子。
「まぁ、許したってぇーやローラ。
毎度のことやし・・・ホンマ」
「よくそれで魔鋼科学部に就学できてますよねぇ(棒)」
「見捨てちゃ、嫌っ!」
ブンブン首を振ってお願いするミハルへ。
「まぁな~っ、ウチ等も全教科復習にもなるし、ええけど?」
「ひっ?!マリアちゃんの眼が・・・怖い?!」
ジト目で観て来るマリアにびくつくミハル。
「そうですねぇ、こう・・・最後にはパァっといきたいですよねぇ?!」
「うひゃぁっ?!ローラちゃん?!何か期待してません?」
ニマァっと哂うローラに退くミハル。
「よしよし、そこの処はよぅ解っとるみたいやな!」
「そうですねぇ、冬場だから・・・お汁粉なんてのはどうでしょう?」
「いぃやぁ~っ?!助けてぷりぃ~ずぅ!」
ばたばた手足を振りまくって助けを求めるミハルへ、二人は笑って応えるのみだった。
(まさか・・・マジで?!見返りを求めているのか?)
「ほならな!明日からびしっと頑張ろうや!」
片手を挙げたマリアがウィンクする。
「じゃ、また明日!」
何も知らず気に、ローラが答える。
「うん!ローラちゃん、また明日ね!」
ミハルが帰って行くローラの背に向けて、手を振ってから。
「マリアちゃん・・・学校に戻ろうか?」
急に声のトーンを落としたミハルが言って来た。
「来よったみたいやな。
ウチもさっき気が付いたんや、ミハルにも分ってたみたいやったから」
マリアが癖っ毛を、一回掻き揚げる。
胸元に仕舞い込んでいた魔法石が首元に結わえ直されている。
蒼き瞳からは、魔法力を示す様に輝きが放たれ、紅き髪が風も無いのに靡いている。
「そう。
いつもの場所へやって来る。
アタシ達魔鋼少女が護らないといけない相手。
護らねばならない<九龍の珠>なんだもんね!」
右手を伸ばしたミハルの黒い髪に、蒼さが加わる。
それと同時に瞳も蒼さが増していき、宝珠が蒼く光った。
「イクでミハル!」
「うん!」
走り出したマリアを追い、魔法の学舎へと向かう二人。
科学部校舎・・・体育館には秘密の扉があった。
普段観えないその扉に、マリアが駆け寄ると。
「チェンジ!魔鋼騎士!」
背中を壁に寄り添わせた。
ガクンッ
一瞬でマリアの姿が消えてなくなる。
壁はマリアを飲み込むと、何事も無かったように元へと戻る。
続いて走って来たミハルが同じ場所へ背を着けた・・・時だ。
「お前・・・魔法を持ってるな?
お前はいつも邪魔をする奴等の仲間だろ・・・のら?」
闇から湧いて出た様な声がミハルを停めたのだった。
日も暮れて夜になった。
闇夜に現れた声が、ゆっくりと姿を晒す。
紅いジャージを着た女の子が、ミハルを睨む。
「今日は端からお前等に会いに来てやったのら!
いつも邪魔する奴に、初めからぶちかましに来てやったのら!」
シュウウ・・・
闇の中から歪な力が湧きかえって来る。
魔法陣とは違う闇の結界から、何かが実体化しようともがいている。
「もうちょっと・・・もうすぐ・・・だ、のら?!」
薄青い銀髪を揺らせて近寄って来たのはノーラ。
オッドアイを細めて獲物を睨む、
盗賊ノーラが闇と共にミハルに迫って来た・・・
現れたノーラ!
闇を纏い出てきたからには・・・
いよいよ決戦が始るのか?!
盗賊ノーラVS魔鋼少女ミハル
イザ!
次回 闇に染まりし者よ 第3話
闘え!我等の魔鋼少女ミハル。蒸着せよ!魔法衣を!・・・つまり変身しろって!




