虚像の男の娘 第6話
ミハル達の住む都も、秋が深まってきていたようで。
彼女達が中学生活を堪能していた時。
忘れかけていた問題が燻り始めていたのだ・・・
関東に新設された魔鋼技術を少年少女に伝える目的の学校。
私設と公設を兼ねた学校には、理事が置かれていた。
学校法人の理事と言えば聞こえは良いが、本来の目的とはかけ離れた人事が為されることもある。
例えば武器メーカーの社長とか会長職を兼任した者が据えられるといった・・・
「善いか?余は気短だと言った筈だが?」
独りの男を前に、何者かが尊大な声を投げる。
「ははっ!存じ上げております」
慇懃に答える男に対して、更に咎め立てる声が。
「ならば何故、未だに盗れぬのだ?」
「はっ、幾度か謀を企てましたが・・・いずれも今少しの処で」
即座に答えた男が言い逃れようとするが。
「聞き飽きた・・・」
尊大な声は感情の無い言葉を返す。
「ははーっ、申し訳もございませぬ」
恐懼した男が平伏せる。
「余はもう待てぬ。
ソチが失敗を来り返すのなら、代役を立てても構わぬのだぞ。
ソチの武器を政府公認から外しても、一向に構わぬのだからな」
「そ、そんな?!どうか今少しの猶予を?!」
慌てた男が縋るように頼むと。
「そう想うのなら急ぐが良い。余は辛抱が一番嫌いなのでのぅ」
「はっ、はい。急ぐように執り図ります」
尊大な声はそれを最期に消え去った。
残された男は苛立ったように闇を観ると。
「聞いての通りだ。
急ぐように命じるのだ、イシュタルの民がお怒りになられていると!」
「はい、道魔理事!」
傍らに控えている者達に訓示するのだった。
締め切られていたカーテンが開かれ光が部屋に入ると、
肥えた身体をどっかりと理事執務椅子に横たえた道魔は。
「小娘共め、早く<九龍の珠>と生贄を持って来ないか。
その為に我が社はいくら支払っていると思っておるのだ!」
苛立ちを隠そうともせず、道魔は傍らの画面に映る人影を見て。
机に供えられてある葉巻へ手を伸ばすと、火をつけて盛大に燻らせた。
道魔の観ている画面に映るのは・・・・
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「秋深しぃ~っ、そこのあなたは何する人ぞぉ~」
煙がもくもく揚がる。
「枯葉って燻すにはちょうど良いのよねぇ~っ」
ミハルが箒を持って、うんうん言ってる。
「お前なぁ、いつまで呑気に吟じてるんだよ?」
枯葉の中をツンツン突くと、中にある芋に突き刺さる。
「うにゅ?!マリアちゃん、もう良いかにゃ?」
瞳を輝かせたミハルに、マリアが突き刺した芋を取り出して。
「まぁええやろ?齧ってみぃや?」
「うわぁあああ~いっ!いっただきぃましゅぅ―!」
ホカホカのお芋さんを受け取ったミハルの眼がハートを描く。
ハフハフと皮をむいて齧ると・・・
「デ、デリィーシャァスゥー!」
美味しさに言葉まで変になった様だ。
「良かったねミハルさん。石川島から送って来た武蔵野芋だから甘くて美味しいでしょ?」
「はふはふ・・・もうれちゅにかんじょー(猛烈に感動)!」
ローラから分けて貰ったお芋を、
クラブ活動の一環として落葉樹の枯葉を集め、野焼きしている中へ入れて焼いて食べている。
「もうこんな季節になっちまったんやなぁ、もう直ぐ冬が来るな」
マリアは焼き芋には目もくれず、枯葉を焼いては空を見上げている。
「マリアってロマンチストなんだね?」
焼き芋をミハルに手渡したローラが、小首を傾げるようにして訊いて来ると。
「いやなにね、また一年が過ぎちまうのかって・・・郷愁に駆られてなぁ」
ピタ
マリアの声にミハルの口が停まる。
「そうだね、早いよね。一年なんて・・・」
ローラが気付かないのはしょうがない。
マリアの父が居ない理由を教えた訳じゃないから。
ー そうだねマリアちゃん。また冬が来ちゃうんだね?
ミハルは別だった。
マリアが何を想い、そう呟いたのかが解っているのだから。
ー マリアちゃんのお父さんが行方不明になってから・・・
もう8年が過ぎようとしているんだもんね?
親善訪問の為に軍艦に乗り込み、そして行方知れずになったマリアの父。
ようとして行方は分からず、フェアリアの捜査本部も解隊されたという。
ー でも、マコトお爺ちゃんだけは諦めちゃいないんだよね。
ミリアママも、それにマモル君達だって・・・絶対に諦めないって言ったもんね?
フェアリアから捜索の進行具合を確かめに来たのが始り。
ミリアとマリア母子が日の本に永住権を所得してまで諦めていないのは、仲間達が同じ心で居てくれるから。
「いつかきっと・・・この空みたいに晴れ渡るといいな」
マリアの声に、うん と、頷くミハルだった。
「えー?なにが?」
ローラには教えていなかったけど。
「きっといつかは。問題を解決できると思うんだよ?!」
マリアの心に添うようにと、ミハルが気を遣う。
「だからっ?何が問題なんだよ?」
「えっとね、人の心に闇が居なくなれますようにってことだよ!」
空を見上げたミハルがそう言うと。
「あ・・・そうなんだ?!」
ビクリと身体を震わせたローラが気まずそうに顔を逸らせた。
今迄遠い目をしていたマリアだったが。
「それはそうとやな。
冬が来る前に問題があるとは思わんかね諸君!」
「んにゃ?にゃにがぁ~、はふはふ」
「ん?マリアが真剣に聞く事って?」
二人の前に立ちあがったマリアが、
「期末だよ期末!そろそろ試験勉強しないといけないんじゃね?」
「ごほっげほっげふんっ!」
「あ、そうだね!」
恐怖の一言をのたまわった。
「そこでだ。吾輩は諸君に問いたい。
試験勉強をどうするのか・・・と!」
「げふん・・・・どうするの?」
「図書館かな?」
ローラが自宅でとは言わなかったのを聞いたマリアが。
「それだ!ローラ君!君は素晴らしい発言をしたようだね!」
「へっ?!」×2
ニマァっと笑ったマリアが二人に命じるのは。
「そこでだよ。吾輩達は友情で熱く結ばれた同志として。
期末試験までの2週間、図書館での勉強会を開くのだ!」
「おお~っ!」×2
パチパチパチ
二人の拍手を片手で押さえ、
「それじゃあ、来週から早速始めようではないか!」
「はいっキャプテン!」×2
立ち上がった二人を加えて、3人が気合を込めてハイタッチを交わす。
秋の深まりと共に、魔鋼科学学部も慌ただしさを深めているようだ。
学生としての生活に、今は身を任せ。
14歳を迎えた少女達は、まだ知らされていなかった。
学園と対峙する者達の存在を。
大人達の薄汚れた世界というモノを・・・
メシテロって言うのかな?
お芋・・・美味しいよ。
美味しいよ・・・焼き芋だけじゃないけど秋の食べ物は。
ああ・・・食べたい・・・・(メシテロしといて、自分が食べたくなってる?!)
ここから本当の後書き。
ミハル達に迫る影。
それは月が陰った晩にやって来る。
そう・・・盗賊が再び現れるのだ!
次回 闇に染まりし者よ 第1話
君は闇の中に留まるのか?!それとも光を手に出来るのか?!
ニャンコダマ「理の女神を名乗るのは伊達や酔狂ではないわよ?!
女神にかかって来る気?無駄よ・・・って?それわぁっ?!にゃんと?!」
・・・・な、展開があるかもね!




