虚像の男の娘 第5話
おっ?
おお・・・
おおおおおっ?!か?
えぃっちぜん?!
・・・ふっ・・・
甘味処で二人に奢らされた後。
いつも通りに道場へと向かった。
帰宅前のお稽古。
毎日欠かさず修練に勤しむミハルだったが・・・
「ふんふふふ~ん」
年下の門下生にもあまり見せた事のない鼻歌が口から零れている。
「なんだか知らないけど、今日の師範代って?」
「うんうん。機嫌が良いよね?」
皆の前で舞うミハルを観て、少年達が呟き合っていた。
「はぁ~いっ、今日は此処までだよ!」
朗らかに舞い切って、ミハルが終了を告げる。
居並ぶ門下生がミハルの前に集合して、終いの挨拶を告げても。
「はぁいはい。お疲れ様でしたぁ」
にこやかに笑みを溢し、今日の練習を終えたのだった。
皆がそれぞれに帰り支度を終え、帰って行くと。
「さぁて、後片づけしなきゃね」
鼻歌交じりで道場の整頓を始める。
「あらあら。コハルちゃん、偉くご機嫌ね?」
片付けを観に来たミユキに、掛けられた声にも。
「あ、お祖母ちゃん。そう、今日は特にね!」
自分でもそう思えるから、否定なんてせずに。
「良いことがあったの。とぉーても素敵な事がね!」
「あらあらまぁ。コハルちゃんにとっての素敵な事?
それは良かったわね。じゃあ今日は早めにお帰りなさいな。
マモルやルマちゃんにも教えてあげれば?」
祖母に笑い掛けるミハルへ、ミユキが勧めて来る。
「えっ?!でも・・・うん。そうするね!」
一瞬だけ戸惑ったミハルだったが、祖母の勧めに乗っかる事にした。
「道場を閉めたら、着替えて直ぐに帰るね」
ミハルもマモルに話す事があったから。
ローラについて知った事、話してくれたことを喋りたかったから。
そそくさと片付け終わると、着替え終えたミハルは道場を後にする。
「じゃあ、また明日ねお祖母ちゃん!」
いつもに増して明るく手を振り駆け出す孫に。
「あまり慌てて帰ると危ないわよ、コハルちゃん?!」
「だぁ~いじょぉぶぅ~っ!わっ!たたっ?!」
よそ見して走り出して転びかけたミハルに、ミユキが苦笑いする。
孫の姿が見えなくなるまで見送ったミユキの背後から、誰かの影が近付くと。
「良い子に育ちましたね、美晴ちゃんも」
そっと背後から声を掛けて来た。
「ええ、本当に。真っ直ぐに生きてくれているわ」
振り返らず、影に向けて答えるミユキへ。
「ですが副隊長。闇はいつかはやって来るのですよ?」
陰から出た初老の婦人が、ミユキを副隊長と呼んだ。
「その呼び名は辞めてって言ってるでしょ、大貫・・・元中尉。
いいえ、今は魔鋼管理官と呼んだ方がいいのよね?」
ミユキの真後ろまで来た初老の婦人が、ふふふっと笑い。
「どちらでも。
私はミユキ少佐に心酔しておりますので。
なんども命を救ってくだされた時から、副隊長に尽くそうと決めておりますから」
学園で教諭を務めている姿とは、まるで違い。
長い黒髪は降ろし、眼鏡を外し・・・管理官の制服を着た佐官。
「あの子を目にかけてくれているだけで十分なのよ?
私になんて義理をかけて貰わなくとも、それだけでありがたいと想うのよ?」
「いいえ、私はミユキ副隊長の恩に報いたいだけですから。
先の大戦の折、死にぞこないの私をこの世に留まらせて頂いた。
それに報いたいだけなのですから・・・」
横に進み出た大貫教諭に、ミユキが謝意を込めて頷く。
それから、ここに来た理由を問うのだった
「それで?コハル・・・いいえ。
ミハルちゃんになにか?あの子になにかが迫っていると言うのね?」
「はい、今度は奴等も考えたようです。
力づくでは凋落出来ないと踏んだのか、煩わしい手を指し伸ばして来たようです」
大貫教諭は、上空に掛かる月を見上げて教えて来た。
これまで何度もミハルを狙い、やって来た闇の眷属達。
失敗を繰り返した闇の次なる手が、そこまで迫って来たと。
「そう・・・なるほどね。
今度はコハルちゃんへ直々に手を下すというのね・・・」
「はい。我等も警戒しておりましたが。
まさか私達教育現場へ、闇が侵入していたとは思いませんでした」
大貫教諭の言葉に、ミユキの眉が跳ね上がる。
「どういうことなの。それは?」
「それは・・・此処では話せませんので」
大貫管理官としての立場からか、場所を変えたいと申し出て来た。
「分かったわ、お上がりなさい」
自宅へと誘うミユキに従い、大貫教諭・・・管理官が後に続く。
「ミハルちゃんに闇が仕掛けるのはどんな事かしらね?
孫には女神が憑いているというのに・・・」
呟いたミユキに、大貫管理官が呟いた。
「それだからこそでしょう、今回の件は・・・」
自宅の玄関を開けたミユキの顔が、呟かれた言葉に反応した。
「優しさ故の戸惑いを逆手に取ろうと・・・しているのでしょう」
聴こえなかった振りをして、ミユキは大貫管理官を自宅に招き入れた。
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リビングで寛ぐ両親を前に、
「だぁかぁらぁ~っ!必要経費だったんだからっ!」
机の上に、一枚の領収書が載っている。
「ほほぉぅ、それじゃーコハルは食べなかったんだ?」
「うっ?!そ、それは・・・食べなきゃ勿体ないでしょ?」
母と娘の口論が果てしなく続いている。
ソファーに居るマモルは居た堪れなくて・・・新聞で壁を作り関与を否定していた。
「大体ねぇ、コハルがちゃんとワリカンにしないのが悪いんじゃない!」
「ええ~っ?!あの雰囲気でどうやってワリカンに出来るんですか?!」
母娘の言い合いに終止符は来るのか?
ー うむ。ここは父として・・・判官贔屓なしに・・・出来ないな
マモルはこのままではイカンと、遺憾砲を放つ。
「ちょっと待て。ルマもコハルも、落ち着こう・・・な?」
「なによっ?!」
「どっちの言い分が正しいの?」
ほらね、関与したらとばっちりが飛んでくるんだよ。
「いやそれはだね・・・喧嘩両成敗・・・」
「なによ?!それじゃぁコハルを甘やかすだけじゃない!」
「嫌だよ!ちゃんと領収書まで貰ったんだもん!これは調査費用と認めてよ!」
余計にややこしくなった・・・
拗れた紛争を解決するには?
「つまり。コハルはパパの言ってた調査に手伝うつもりで支払ったと言いたいんだね?」
「うん、そう!」
先ずは娘から。次は・・・これが厄介。
「ルマは小遣いから支払った全額を調査費用と認められないと?」
「そうそう!友達の分は支払えないわ!
いくら訳があろうと、そこを緩めると癖になるでしょ!」
一理も二理もあるが・・・しめた!
「よし、判った・・・それではこうしよう。
領収書の全額は支払えないとママは言った。
コハルはパパの依頼を受けて、手伝う気で支払った。
つまり、ママはミハルの分を出し、パパは全員の分を出す。
それをコハルが二人分、パパが二人分採れば、全員がマイナス一人分になる。
・・・それで3者1両損って訳だ」
「そ、そうなの?」
「ふぇぇ?!どっかで聞いた事のあるような?」
・・・旨く丸め込めたか?
「しょっ、しょうがないわねぇ・・・そうしときましょうか?」
「なんだか化かされた気がするけど・・・納得します」
・・・これで善し。
冷や汗ものの、交渉人としての役目を終えたマモルが。
「それはそうと。
楼羅君はやはり?」
本題についてミハルに質す。
「うん、マモル君が言っていた通りだったよ。
彼は、魔法で姿を替えられるし、透視能力者だった。
さすがは都立学園、本当の魔鋼科学部だよね!」
「ああ、まさか敵が凋落を目指す為にそこまでしてくるとは思わなかったが。
ミハル姉さんを狙うのに学園自体を巻き込もうなんて・・・」
ミハルの答えに頷き、ルマへ目配せするマモル。
「そうよねぇ、あたらコハルを狙うならイザ知らず。
学園規模で諍いを目論んで来るなんて許せないわ!」
「・・・ルマまま。それ・・・フォローになってない」
子供の教育現場にまで闇が干渉して来るのを、母として怒っているルマだったが。
「コハルはミハル姉さんが憑いてるけど。
マリアちゃんや他の子に悪さするのなら、退治してやらなきゃいけないわね!」
「・・・だからぁ、フォローになってないよぉ?!」
現れた闇の存在に、ルマの怒りは向けられる。
「帝国魔鋼学校にも手配しなきゃいけないわね。
どうせ理事長を傀儡にしてるんでしょから、腐った根は断ち切らないと!」
「それもあるが。先ずは<九龍の珠>を狙ってくる子を何とかしないと。
早く助けてあげないと、ますます話はややこしくなるぞ?」
「・・・あの~っ、あたしは?」
ミハルは両親の盛り上がりに着いて行けずに困惑する。
「よしっ、それじゃぁ先ずはノーラとか言う盗賊からだ。
マモルは<輝騎>の準備をぬかりなく!」
「ルマは出来るだけ民間に知られる事なく、事件の収拾を図ってくれ」
「・・・あの。アタシは何をすればいいのぉ?」
島田家は互いの役目を言い交し合っていた。
つまりは・・・
今夜も仲良しさんだったようで・・・この家族に幸あれ。
大岡裁き・・・って?
こんな感じでしたってか?
ま、善く知らないから・・・赦されよ。
どうやら、ローラにも仲間意識が芽生え始めた頃。
3人娘(?)にも試練の時が?
いや・・・学生ならば当然の。あれですよ!
その時・・・歴史は止まった?!停まるかぁーっ!
次回 虚像の男の娘 第6話
君が知らない間に。自体は深刻化するのだろうか?いや、本当の敵が動き出す!




