虚像の男の娘 第2話
ローラは?
もしや・・・損な男の娘なのかっ?!
良い響きだ・・・
蒼い猫毛玉が饅頭を頬張っている。
「ミハル・・・行儀が悪いわよ?」
孫の手前、娘を叱るのはどうかと思えたが。
「「お母さんの造ってくれたお饅頭が美味し過ぎるから。
本当なら人の身体で食べれたら・・・もっと美味しく感じられたのかもね」」
ニャンコダマにされたままの自分に嘆くでもなく、女神としてこの場に居られるのを感謝するでもなく。
「ミハルが帰って来てくれただけで、お母さんは嬉しいのよ?」
あの闘いの結末が齎した悲劇。
娘が自らの躰を以って平和を勝ち取った。
だから、ミユキは今を感謝している。
「「そんな大袈裟な。
私はずっとお母さんの傍に居たじゃない・・・覚えていないだけのことだよ」」
饅頭の載せられた白い無地のお皿。
神仏に供える時に使われるお皿だからこそ、女神は食べることが出来る。
そう・・・女神になってしまったから。
そこには人ではない女神の魂だけがあったのだから。
「いつの日にか・・・私もミハルの居る処に召されるのでしょうね」
神の居る国・・・つまりは天国。
女神と同じ場所へ行く事が叶うのなら・・・そう想っている。
「「まだまだ。お母さんには永生きして貰わないと。
私だってこの世界にもう一度帰って来たいんだから。
お母さんともう一度ちゃんと抱き合いたいじゃない・・・ねぇ?」
蒼毛玉にされたままじゃぁ、本当の復活とは言えないから。
「ええ、でもねミハル。
その為に無理を続ける姿を観たくはないのよ?
いつもコハルちゃんを護り続け、マモル達の事まで見守り続けるなんて。
私の知っているミハルじゃないみたい・・・そう思えるのよ」
ミユキの記憶に居る美春は、弟想いの優しくか弱い少女の面影でしかなかった。
それが今は女神となり、人を見守り続けている。
「「私だって歳をとるの。
何も知らなかった少女のままではいられないって・・・お母さんもそうだったでしょ?」」
「そうね、蒼乃に導かれてマコトと出逢い。
あなたの力でみんなを護れた・・・本当に感謝してるのよ?」
美雪は自分の娘に引き継がせてしまった運命を思い起こす。
月からの使者が生み出した自分という娘が、一端の幸せを享受できたのもミハルのおかげ。
千年の時を遡らせられた娘が、ずっと守り続けてくれた。
自らを殺し、母である自分を見守り続けてくれたから。
「「ほらほら。お母さんに感謝されるなんて筋違い。
お母さんが私を産んでくれたからなんだからね、今があるのは」」
そして・・・と、ニャンコダマは横で寝ている姪っ子を観た。
「「今度こそ。姪っ子には幸せを掴んで貰いたい。
私と違い、生きる喜びだけを感じていて欲しいから・・・」」
二度と繰り返されないように。
「「あんな悲劇になんて、この子だけは遭わせてはいけないんだよ。お母さん」」
理の女神ミハルが、そっと姪っ子に微笑んだ。
「そうね・・・そうよねミハル」
毛玉になってもミハルは変わらないと・・・ミユキは喜んでいた。
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突撃を喰らったローラが眼を廻す。
「にゃははっじゃないっ!不意打ちを喰らわすにも限度があるだろっ!」
本当に、にゃははっと悪びれないミハルに。
「下手をしたら捻挫しちゃうじゃないかっ!」
ローラが腰を押さえて怒っているが?
「すまんっローラ!ウチが余計な勝負を挑んだばっかりに」
横から飛び出して来たマリアが平謝りして詫びると。
「マリアさんが謝る必要なんてないよ。
ボクはこの無神経っ娘に言ってるんだからっ!」
苦笑いし続けるミハルに言い募った。
「すまんのぅ・・・友よ」
全然悪びれないミハル・・・
「友達だからってやっていい事とやっちゃいけない事の分別位あるだろっ?!」
びしっと突き付けられた指先を観ても。
「え~っ、わっかんなぁーい(棒)」
棒読み返事でローラを逆上させる。
「きぃいいいいっ?!このオタンコナース!」
真っ赤になって怒るローラを観て。
「それよりローラ?身体の方は大丈夫なんか?
今日のかけっこ・・・出来るんやろ?」
気に懸けたようにマリアが訊ねると。
「それくらい大丈夫だよ!
もう一度ミハルがおかしな事さえしなかったら!」
・・・にちゃり
ミハルがこっそり細く笑む。
・・・してやったり
マリアもローラに気付かれないようにサインを返す。
「そーっかぁ、それじゃあ今日のクラブ活動時間が楽しみやな!」
昨日言っていたミハルのアタックが、こうも巧くいくとは。
マリアはミハルの行為に驚嘆した。
「あ・・・ああ。分かったよ」
腰を抱えて教室へと向かうローラが、応えて来たので更に。
「待ってるさかいにな!」
念を入れる為に呼びかける。
片手を挙げたローラを見送る二人が、ウィンクを交わしたのは言わずもがな。
「良かったぁ、巧くいったね!」
「やるやんミハル!」
こっそりタッチを交わす・・・魔女っ子二人。
ニマァーっと笑うのは悪だくみからか。
「後はマリアちゃん次第だよ。巧くいくと良いね?!」
「任せておきぃーなはれ!あんじょうしたるさかいに!」
くくくっと笑い合う二人の耳に。
キンコンカーンコーン始業チャイムの音が入る。
「ぎゃぁっ?!遅刻するぅ?!」
「アホなことしとらんで。走るでみはる!」
ローラの後を追っかけて、損な二人が走り出した・・・とさ。
昼食も3人で摂り、話が弾んだ。
話題はマリアの走りについて。
クラスでも一番早く、クラブでも一番なのだと教えられたローラが。
「そんなぁ・・・それじゃあボクなんかが勝てる訳がないじゃないか?!」
出来レースだと慄くのだが。
「走る前からそんなんじゃあ、プリンはウチのもんやな?!」
「えっ?!マリアちゃん・・・それは酷いよ、アタシも欲しかった」
そっちかいっ?!と、マリアがミハルをジト目で観るが。
「でも、全力で走ったら。もしかするかもしれない」
ローラが負けん気を出して来ると。
「そうだよね。
マリアちゃんが早いのは知ってるけど、ローラちゃんの速さは知らないもんね」
どれほどの速さなのか、走らないと分からないと言うミハルに。
「そりゃそうや。ウチかてローラはんの速さを知らんのやし。
やってみたら意外な結末になったりして?」
自信があるからなのか、マリアが茶化して来る。
「よぉ~し、頑張ってみるよ」
ローラがやる気を出して、気合を込めた。
ー ローラちゃん。明るくなってくれたね・・・
ミハルはローラの心が解き放たれてくるのを感じ取り、嬉しくなっていた。
「ほならウチも。頑張るでぇー、プリンがかかってるんや!」
「あのねマリアちゃん。
そこはローラちゃんにプレッシャーをかけないようにするのが普通」
友達として、本当に信じあえれるような気がしていたから。
クラブ員が遠巻きにして二人を観ている。
剣舞クラブから立会人として来ているミハルも、ゴール付近に陣取っていた。
「それじゃあ二人共頑張ってねぇ!」
ストップウォッチを手にした陸上部員の脇で、ミハルが手を振っている。
レースは100メートル走になった。
短距離になったのはローラの体力を慮ったからでもあるが。
ー この距離なら、魔力を使っても速さに違いが出にくい・・・やろ?
ミハルを観ているマリアが、ウィンクで知らせて来る。
ー ローラが魔法を使う気なんかは分からんけど。
使ったとしてもずるには観えへんやろーしな!
脚力に自信があるマリアには、ローラが引き離れずついてこれるとは思えなかった。
「ローラはん、無茶だけはやめてや?
勝負やからって魔法全開にはせんといてや?」
それとはなしに、魔法を使っても構わないと含ませたのだが。
「勝負は勝負だから。
やってみるだけだよマリアさん!」
何かを秘めたような声で、マリアへ答えて来る。
「それじゃあ二人共、よぉ~い・・・」
スタート係がホイッスルを口に咥えた。
ー いよいよだねっ!ガンバっローラちゃん、マリアちゃん!
スタートライン上の二人に応援するミハルが心で呼びかける。
<ピイィッ!>
ホイッスルの音と共に、二人の足がグラウンドを蹴った!
かけっこ・・・だとぉ?
なんじゃそれはって・・・思ったが。
意図しているのは、真実の追究?
そしてマリアとの競走に応じたローラだったが?!
次回 虚像の男の娘 第3話
君って・・・本気なのかい?そいつは・・・抱きついちゃ駄目じゃん?




