魔鋼少女(?)と怪盗 第7話
確かに・・・女子だった。
この手が・・・その柔らかさを感じ取ったから。
「アホか?!ミハルはっ!」
呆れ果てたのか、マリアも同情してくれない。
「ごめんなざいぃ~っ」
頭にたんこぶを造ったミハルが、泣いて謝るが。
「スキンシップにも限度ってモノがあるんですよ!」
相変わらずハスキーな声で、ローラが怒る。
「だぁ~ってぇ!昨日の晩に観たのが本当かを確かめたかったんだからぁ!」
言い訳にしか聴こえない。
「ですからっ!さっきも言いました通り。
私は昨晩にあなたとなんて、会ってはいませんからっ!」
対するローラも、ミハルの主張を無碍も無く断って来る。
「会ったとか会わなかったとか。おたくん等どうかしたんか?」
話を掘り下げるまでも無いとマリアは思う。
「ミハルが勘違いしたんやろ?認めたったらどないやねん?」
「だぁーってぇ、自分でもローラだって言ってたもん!」
飽く迄言い張るミハルに、肩を竦めてローラに振り向くと。
「すまんな編入生。ウチがよぉー言い聞かせとくさかい。
事をこれ以上荒立たせんといてぇーな?」
保護者たるマリアの謝罪に、ローラもなんとも云い様の無い表情で。
「お願いしますマリアさん。私は教室に向かいますので」
一礼を贈ってから、歩き出した。
「マリアちゃーんっ、酷いよぉ。
ホントーに昨日の晩に逢ったんだから、事件現場で!」
ミハルが剥れて、やっと出逢った場所を話したら。
「なんやて?!なんでそれを早う言わへんかったんや?!
それなら事件の関係者やあらへんやんか!」
ぼこっ!
また。拳骨がミハルに落ちた。
「・・・びぃいいい~んっ!マリアちゃんが怒ったぁ!」
・・・泣くな巨大損。
授業中も、横に座る女子に気が行ってしまう。
ー ミハルが観たんわ男の子っちゅー話や。
それにしては立派なモンを持っちょるが・・・偽もんやろか?
自分と比較しても、そん色はない程にも見える。
ー ミハル曰く、確かにムニっとしていたらしいが・・・
ホンマモンやろか?日の本人にしては・・・早熟やな?
自分の胸を棚に上げたマリアが、横目でその揺れ具合を見詰めていると。
流石に目に余ったのか、ローラの方が視線を向けて来る。
ー ふっ!ウチには勝てへんよ?!身長も・・・大きさだって!
いつの間にか、ライバル心が燃えたのか?
女の子として観てしまっていたのか・・・
「負けへんで・・・巨乳願望ミハルはウチのモンやからな!」
とんでもない方向に、マリアの想いは向かってしまったようだ。
ぞくっ?!
背筋を冷たい汗が流れ落ちたような気が。
ー 何呟いてんだろマリアちゃんは?!
ふと、横目で後ろに座るマリアを観ようとして。
ー わっ?!睨んでるの?
紅い瞳で睨んで来るローラが、一瞬視界に映った。
ー 今朝の事をまだ?!あれは確かにアタシが悪かったんだけど。
まだ怒ってるのかなぁ・・・そりゃそうだろうけど・・・
ちょっとしたスキンシップみたいなものとして、流して貰えると思っていたのが間違いで。
ー ローラちゃんはやっぱり女の子に間違いないよね。
だとしたら昨日の子は誰だったんだろう?
声も、顔形も・・・そっくりな双子でも居るのかな・・・
考えれば昨日の今日で、学園にやって来る筈もないのに。
自分の存在を知ったのなら、この場に来る筈もないと思われるのに・・・
ー やっぱり。アタシの勘違いなのかな?
手をにぎにぎしながら想いを巡らせる。
ー ミハル叔母ちゃんも言っていたよね。
会ったら確かめてみろって・・・確かめた結果がこれなんだよね?
誰にも知られないように女神に問いかける。
「「あらあら。もう根を上げちゃったの?
いくら姿形が女の子だとしても、本当の姿だとは限らないわよ?」」
女神が魔法石の中から答えて来る。
微かに笑い声にも聞こえるのだが・・・
ー それって・・・変装しているって事?
どうして女の子の姿にならなきゃいけないの?
「「それを調べるのも姪っ子の役目じゃないの。
ローラという子がなぜここに来たのか、それが問題なんだから」」
言い返されたミハルは、未だに信じることが出来ないでいた。
感触では間違いないと思えたが、
もしかしたら何かの術で変装しているのかもしれないと思い出し始めていた。
ー そうだよね、目的が判るまでは思い込まないようにしなきゃ。
昨日出会ったローラちゃん・・・君が、本当の姿だと思うから!
前を向いて、ミハルは考え直す事にした。
もう一度機会を作り、今度はちゃんと問い質そうと思ったのだった。
ー でも。さっき感じた寒気は何だったんだろう?
なにか・・・身体を良からぬ気が走り抜けたんだけど?
伯母ちゃんは何か感じなかったの?
「「敢えて・・・ノーコメントです」」
女神は笑いを押さえて答えてくれた。
そこには邪な気が存在したのでは無いと、言葉に含ませていた。
都立魔鋼科学部学舎に昼休みが訪れた。
公立の魔鋼中学では、各自昼食は任意で採る決まりになっていた。
つまり、お弁当持参ってこと。
お弁当を持って来れない生徒は、普通科にある購買部にて買い求めるのだが・・・
「げっ?!ミハル・・・また造って来たのかよ自分で?」
「うん、そうだよ?何か問題でも?」
キャラ弁持参のミハルに、マリアがドン引きする。
しかも、めったやたらとデカい。
「これ位食べないと・・・大きくなれないって。
伯母ちゃん・・・モトイ。女神様が言うんだよ?」
ドカベンさながらの巨大キャラ弁に、さしもの関西弁娘でさえ退いてしまう。
「どんだけーーっ。
良くもまぁ・・・入るもんやな?」
B5サイズのお弁当箱が存在するのも驚きだが、それに詰め込まれたキャラ弁の壮大さよ。
「大キューなりたいって言ってもやな。
詰めこみゃーいいっちゅぅ訳でもないんやで?
・・・そんだけ喰っても太らへんのんは、大したもんやけどな?!」
毎度のことながら、ミハルの底なし胃袋には恐怖さえも覚えるマリアだった。
「マリアちゃんのはお母様が作ってくれてるんでしょ?良いなぁ可愛くて」
手提げ袋もおしゃれで可愛らしい。
おまけにフェアリア独特の柄が刻まれたお弁当箱に納められているのは。
「きゃぱぁーっ?!今日はフィンデルも入っているのニャーッ?!」
フィンデルと呼ばれるフェアリア名産の菓子までも入っている。
目を輝かせ・・・狙って来るミハルに。
「え、ええよ。食べたいんなら・・・」
最早・・・食欲魔神と化したミハルに、怯えるマリアが差し出すと。
「きゅいぃ~んっ?!」
人間語を介さなくなったミハルの眼が光るのだった。
「一人で喰うても美味しゅうないやろ?
どないや?ウチ等と一緒に食べへんか?」
横のローラへ誘ったのはマリアだった。
横で巨大弁当に手を出しているミハルも、
「そうだよ、一緒に食べようよ?・・・もぐもぐ」
行儀悪い・・・マリアにジト目で制せられても、
「独りで食べるより美味しく感じられるよ?!」
にこっと笑い掛けて、ローラを誘う。
「ボクは・・・独りが良いんだ。いつもそうだったから」
断って来たローラが、自分で造ったのだろうサンドイッチをひと切れ掴み上げると。
「じゃぁ、サンドイッチとこれ。
交換しない・・・かにゃ?」
ツイっと箸で掴み上げた唐揚げを、ローラに差し出す。
「あ・・・一つじゃないよ?ローラちゃんが欲しいなら何個でも」
「え?!本気で言ってるのかよミハル?」
食欲魔神なミハルが交換条件に出すなんてと、マリアが驚きの声を上げると。
「ぷっ・・・おかしな人達だね」
初めてローラが笑みを溢した。
「じゃあじゃあ!交換成立だねっ!」
お弁当箱を手に下げたミハルが、ローラの手に持たれたサンドイッチに狙いを定めて。
「いっただきぃー!」
手より先に口が出た。
「うみゅ!これはっ?!卵サンドぉーっ、おいひいぃー!」
一瞬何が起きたか理解不能だったローラが。
「あっ?!やったな!それじゃーこっちも!」
ひょいっとミハルのから揚げ君を摘まみ上げて・・・
「ひょいっ!・・・もぐもぐ・・・意外とジューシーだね?!」
一口食べて評価する。
「意外はないでしょー?!意外は!」
目と目が合うと・・・
「あっはっはははー!」
「面白い子だね君って!」
笑い合う声が教室に拡がる。
クラスメイト達が振り向くのも気にせず、ミハルとローラは笑った。
「なんやーっ!ウチも混ぜてぇーなぁ!」
笑う二人にそう言ったマリアは、ミハルの魅力に惚れ直していた。
ー ウチもこの笑顔に心を開かせて貰ぅたんや。
この笑顔には誰だって勝てへんのやさかい!
誰にも分け隔てなく接し、誰とでも仲良くなれる・・・ミハルに。
中学ライフを満喫してる?
切迫感が無いけど、コレでも一応魔鋼少女なんです・・・
なんですっ!
お願い、戦闘して?(作者の願望)
ミハル「(きっぱり)ヤダ!」
・・・・損な・・・
次回 魔鋼少女(?)怪盗 第8話
少女姿だからって、本当の女の子とは限らない?!どういうこと?




