魔鋼少女(?)と怪盗 第5話
やってきたのは?!
やっとでたまーん・・・・違う
月が影った闇の中でも、その影の輪郭は掴めた。
「待ってよ盗賊。
その宝物は闇に与えちゃいけないって知ってるんだろ?」
女の子にしてはハスキーな声。
男の子にしては甲高い。
「なっ?!貴様がどうしてここに居るのらっ?!」
泥棒猫ノーラの声が凍り付く。
「どうしてだって?!それはこっちのセリフだよ!」
ビルを見下ろす軒先に、その影は現れ出た。
「その宝箱を元に返して。
そしてボクと一緒に家に帰るんだ・・・さもないと」
影は右手をノーラに突き出す。
「さもないと・・・だとぉ?!
お前にこのノーラ様が服従するとでも思ったのか、のらっ!」
立ち竦むノーラは強弁を垂れて抗うが。
突き出された手に、怯えているようにも観えた。
「お前なんかに盗賊の意地が分って堪るもんか!
闇に組みしても見返してやると決めたんだぞローラ!」
ノーラが言い返した時、陰っていた月が雲から現れた。
月の光が軒先に居る影を曝け出す。
「そう?!見返す為だけに泥棒に堕ちたんだね?
だったら、ボクにも原因があると言うんだねノーラ姉さん?!」
突き出した手に蒼き光が現れる。
魔鋼の術を身に着けた者だけが放てる、蒼き光がそこに在った。
「「ほほぉ、聖なる魔力か。あの子も魔鋼の業師って事ね?」」
魔法石から女神が応える。
「「あの光を見せられたら、黙っては措けなくなったわ」」
ミハルにも聞こえるように呟いた女神。
世界の混沌から平和を守る宿命を持つ・・・理の女神として、姪っ子に教えたつもりだったのだが。
「ねぇねぇ!あの子って・・・もしかして転入生ちゃん?」
がくっ
ミハルの間の抜けた問いに、女神がずっこけた。
「「そ、そのようね。見神とか言ったかしら?」」
肯定した女神に、ミハルが再度問う。
「でも・・・楼羅ちゃんじゃないよ。
今居るのは・・・多分男の子・・・にしか、見えないんだけど?!」
見慣れない魔法衣を着た少年が、目の前のモニターに映っていたから。
蒼銀色の髪を靡かせ、紅い瞳で見下ろしている。
月を背にしているので、表情までは分かりようがなかったが。
「もし楼羅ちゃんだったとしたら。
学園ではなぜ女子の真似をしていたんだろう?」
学園で観た時は確かに女の子に観えた。
確かに口数も少なく、声も低いとは思っていたが・・・
「「彼自身に訊いたらどうなの?
きっと訳アリなんじゃないの?」」
知っているのにワザと言わない女神にも気付かず。
「そうだね、楼羅ちゃんにもきっと深い訳が・・・」
女神に答えているミハルが、やっと正気に戻ったのは。
「あっ?!逃げる気だ!」
ノーラが身体を捻って闇の中へ逃げ出そうとしたからだ。
今迄動かなかったミハルが、その時初めて<輝騎>の威力を魅せる。
「逃がしたりなんてしないんだからっ!」
左の人差し指でコンソールのスイッチを押し込むと。
<輝騎>の腰に下げられた<斬鋼剣>が装備位置まで繰り上げられて来た。
「<斬鋼剣>よ、闇の逃げ場を断ち斬れ!」
居合と共に、ミハルの手が腰に伸び、間髪を入れずに抜き放たれた。
鋼をも断ち斬る斬波が、逃げ込もうとしていたノーラの直前を過ぎ去る。
「ぎょわわっ?!なにすんのらあぁあああーっ?!」
ものの見事にノーラは逃げ場を失い、驚きのあまり尻餅をついてへたり込む。
「これぞ、流麗式島田流の極意!闇を断つ剣波よ!」
<輝騎>の中で、ミハルが剣舞を決めて勝ち誇る。
「さぁ!その櫃を返して!
でないと今度はノーラを斬ってみせるからね!」
脅し文句を盗賊に向けて放ったミハルに、
「お前は正義の味方じゃないんかぁーのらっ?!」
腰が抜けて座り込んでしまったノーラが言い返して来るのを。
「正義の味方?!
ちっちっちっ!アタシは正義の味方なんかじゃないわ。
気に喰わない事をする奴をぶっ飛ばすだけの、魔鋼少女だもん!」
<輝騎>の指を振って、空威張りする魔鋼少女。
「・・・・あ。そうなんや・・・のら」
呆れたような顔で、白い<輝騎>を見上げて来るノーラ。
「ノーラ姉さん。さぁ、返してその珠を、ボクに・・・」
今迄黙っていたローラが、手を指し出して櫃を求める。
<輝騎>とローラに挟まれたノーラには、選択の余地は残っていない。
「わぁーったわ。返しゃーいいんやろ返しゃー・・・のらっ!」
ノーラは手にしていた櫃を<輝騎>に投げて寄越す。
「そうそう!素直に返せば文句はないから」
ミハルは投げられた櫃をキャッチする為にノーラから眼を放してしまった。
「「姪っ子!その箱には・・・」」
女神がいち早く魔鋼力を検知して注意を促した。
ザッ!
零号機が櫃を受け取る前に、ローラが飛んで来た。
「えっ?!」
モニターに映ったローラに気が削がれ、櫃から眼が逸れる。
「待ちなっ!ノーラ姉さんっその懐の中身を出すんだよ!」
ローラは横合いから<輝騎>を飛び越えてノーラの元へと飛び掛かった。
「にゃっ?!」
訳が判らず、櫃を取り溢さないように掴み取った時。
「ひっにゃぁ~っ?!」
ボムッ
閃光と共に櫃が炸裂した。
掴み取った筈の櫃が爆発し、零号機の右手が黒焦げになる。
「痛たたたたぁーっ?!」
衝撃はミハルの右手にも伝わり、痛みを伴って損傷を受けたと教えた。
「ぎゃははっ!ばぁーかっアーホ!
誰がお宝を返すんだよのーらっ!
盗賊が一度手にしたお宝を容易く返すもんか!」
さすがシーフだけに、櫃の中身をあらかじめ抜き取っていたようだ。
おまけに爆発物までも仕込んで。
「きぃーっ?!馬鹿にしてぇ~っ!赦さないんだからっ」
怒ったミハルがノーラを睨みつけようとした・・・ら。
「ありゃ?!」
モニターに映っていたのは?
「にゃんと?!いつの間に?ローラが?!」
驚くノーラの襟首を猫掴みしているローラの姿が映っている。
「ノーラ姉さん、ボクにも同じ魔法が使えるって。忘れていたんじゃないの?」
ジト目で観て来るローラが、姉だという盗賊を猫掴みして言い放った。
「しまった!すっかり忘れていたのらっ!」
だらんと両手を垂らせたまま、あっけなく御用になるノーラ。
「ボクにだって魔法石の在処や、魔力に纏わるものを探る能力があるんだからね。
姉さんと同じ力を継承したんだから!」
「ううっ?!そうでした・・・のら」
首根っこを掴まれたノーラには、抵抗する事も出来ないようだ。
「ノーラ姉さん、盗んだ宝物っていつもの場所に隠してるんだろ?」
片手でノーラの迷彩スーツの胸の谷間を弄ると。
「ひゃぁっ?!御無体な!いくら弟でも損な事をーのらっ!」
涙目で抗議するノーラを無視したローラが。
「あった!」
<九龍の珠>を取り出した。
「・・・・しくしく・・・のら」
奪ったお宝をあっさり取り戻された盗賊が涙する。
「ノーラ姉さん、この珠は危険過ぎるんだよ。
闇の輩に渡しちゃったら、その場で姉さんも闇に連れ込まれちゃうよ?
そんなことにでもなったら、ボクは姉さんを倒さなきゃならなくなっちゃうんだよ。
どうして軽々しく盗賊に何て堕ちたんだよ?
ボク達の願いは母様の救出にあった筈じゃないか?!」
掴み出した珠を姉から取り上げ、姉の真意を問い質すローラに。
「ローラには関係がないだろ!
闇の輩と交渉したんだ、これを渡せば母様を返すって。
だからどうしてもそのお宝が必要だったんだノラッ!」
姉弟が咎め合っている間。
会話を聞いていただけのミハルだったが。
「ねぇ伯母ちゃん。なんだかややこしい話だねぇ?」
<輝騎>の中で両手を汲んで考え込む振りをする姪っ子へ。
「「・・・黙ってなさい、ミハルは」」
女神は姉弟の姿に想う処があるようだった。
「「この二人。お母さんを闇に連れ去られたというのかしら?
まるで・・・私とマモルのように・・・」」
ニャンコダマになっている女神には、思い当たる節があるようだった。
「「益々、ほっては措けなくなったじゃないの」」
お節介な理の女神が、ノーラとローラを見詰めて想ったのは?
姉弟なのか?!
こやつらも姉弟なのか?!
ということは・・・女神よ、ほっとけまい?
オリジナルミハル「もっちろーーーん!」
・・・・だそうです。
次回 魔鋼少女(?)と怪盗 第6話
君は・・・なんちゅーことを?!それはセクハラ・・・では?!




