魔鋼少女(?)と怪盗 第4話
月が雲の中に入ると、途端に辺りは闇に閉ざされた。
闇が拡がると、決まったように現れ出でるのは・・・
「懲りんやっちゃなぁ?!ウチ等かて遊びに付き合う程暇やないんやで?!」
マリアが普段より声を荒げて、コックピットに飛び込んだ。
「マリアちゃん?!ちょっとちょっと!その恰好で出撃するの?」
隣の整備台に載っている零号機の操縦席からミハルがその姿を指差す。
「はぁっ?!・・・って、ありゃま!」
寝ぼけていたのだろう、魔鋼搭乗員服を着たつもりのマリアだったが。
「マリアちゃんでも間違える時があるんだぁ?!」
ミハルに笑われてしまったマリアがバツの悪そうな顔で学園制服の上着を脱ぎ棄てる。
「ウチだって偶には間違えるんや!
そういうミハルかて、そんなの被ったまんまで出撃する気なんか?!」
「ほぇっ?!」
慌てて整備員に替えの上着を貰って羽織るマリアに言われたミハルの頭には・・・
「どうしてぇ?!ニャンコハットを被ったままなの?!」
着ぐるみハットを被ったままだったミハルが気が付いたようだ。
「「二人共、深夜だからって寝ぼけちゃ駄目よ・・・ふぁ」」
モニターから注意を促すルマ司令も、眠たそうに欠伸を漏らす。
「・・・ルマお母さん。物凄く説得力が欠けてるような・・・」
モニターを観たミハルが、残念過ぎる姿の母に言ったのは。
「「あぎゃっ?!ネグリジェのままだった?!何故に?!」」
「・・・・・・」
母が母なら、娘も娘で・・・
「こう毎日夜に出撃していたら・・・寝不足になりそう」
それに、学校もあるし。
心の中でミハルの言葉に追加するマリア。
「今日のクラブ・・・休もうかな?」
陸上部のキャプテンを務めるマリアだったが、こうも寝不足が募ると。
「下手に練習して、怪我でもしたら。それこそ骨折り損って奴やな?」
何とか着替えて操縦装置の確認を終えた時には、頭の中はしゃんとなっていた。
「でも、ウチが休んだりしたら・・・クラブのみんなが困っちゃうしな」
練習をサボる事は、みんなに迷惑を掛ける事になる。
そう思ったマリアは、頬を一叩きしてから。
「これ位の事で音を上げていられへんわ!」
気合を込め直すのだった・・・が。
「・・・すぴよ すぴよ・・・」
隣の零号機からは、ミハルの寝息が。
「何やっとんねん!この巨大損!」
マイクに向かって思わず喚いてしまった。
都立の保管庫には、ノーラが欲する魔法の珠が管理されていた。
ビルの地下。
一番最下層に隠された魔龍の珠には、魔鋼の異能を極大化する力が秘められている。
今より二年前、島根の海岸に現れた邪操機兵に因って、古から伝えられて来た神舎が襲われた。
偶々夏休みだったミハル達の手に因り、何とか奪い返した曰く付きの珠。
その珠を再び闇が欲しているのか?
闇の盗賊は執拗に狙って来たのだった。
「しつこい奴等やなぁ!何回来たって同じ結末やで!」
紅い<輝騎>が狙撃砲を放つ。
狙った邪操機兵は忽ち潰え去られる。
「こう毎日1機づつ現れんでもええやんか?
まとめてかかって来いっちゅーの!」
寝不足もあってか、マリアの機嫌は悪い。
それに、気が廻らなくなって報告も杜撰になってしまっていた。
「本部へ、敵機殲滅。只今より帰還するっ!」
報告を入れたマリアはこの時、もう一人の魔鋼少女に連絡するのを忘れていたのだ。
さっさと役目を果たし、帰還して休もうと。
唯その事だけを考えてしまっていたのだ。
もう一人の魔鋼騎乗りへ、闇が来るのを報告していなかったのだ。
「・・・すぴ・・・すぴぃ~っ・・・むにゅ」
待ちぼうけ状態のミハルは、睡魔に勝てなかった。
無線は開いてあったのだが、音声は外界からの物音だけを拾っていた。
秋も深まり、虫の音も僅かにしか聴こえない。
盗賊が現れるのを待ち構えていたのだが、あまりの静かさに居眠りしてしまった。
コクリコクリと舟を漕ぐミハル。
もし、マリアからの報告があれば、目を覚ましていただろう。
陰った暗闇の中、忍び寄る者が。
「気が付いとらんのんか?ラッキィーなのらっ!」
両サイドの髪がぴょんと撥ねる。
「誰も他にはおらんのかいな?
ウチを捉える策略やあらへんのかいなのら?!」
動きを全く見せない白い<輝騎>に、却って戸惑うノーラが迫っていた。
「うん?!故障か何かかいな?
それとも搭乗員が夜食を食べにでも行きよったんかのら?」
動かないが、ビルを護っているのには違いないと思える。
「そっちがその気なら。
ウチは盗み出すんが本職なんや!あんじょう頂いて行きまっせのらっ!」
忍び足で<輝騎>の直ぐ傍を飛び抜ける。
それでも<輝騎>は動かない。
「なんや・・・却っておとろしーやん?
もしかして・・・魔法石を奪ぉた瞬間に現行犯逮捕を狙ってんのかノラッ?!」
盗賊ノーラは、動かない<輝騎>が怖ろしく感じられたようで。
「そ、そんなら!九龍の珠は戴いて行くよってにのらっ!」
思わずかけなくても良い声を掛けてしまった。
「・・・すぴっ?!・・・にゃっ?にゃにぃ~っ?!」
外界の音を拾っていたマイクからの声に、ミハルは跳び起こされた。
眼を開け放つと、そこには盗賊らしき女性の姿が!
「ああっ?!ちょっといつの間に?!
この泥棒猫っ!お待ちなさいっ!!!」
慌てて起動させたのだが、慌てていたから零号機が言う事を訊いてくれずに。
ガッシャァーンッ
脚が縺れてずっこけた。
「あ痛たたたたぁ」
コックピットで頭をぶつけたミハルが、起き上がり様に盗賊を睨んだが。
「あっ?!何処に行ったのよ?」
目の前に居た筈のノーラの姿は掻き消されていた。
「しまった?!ビル内に逃げ込まれたの?」
ミハルがそう言ったのだが、本来はビル内に忍び込むのが目的だったのだから。
逃げ込むとの表現は如何なものか?
「「姪っ子、起きれたかな?」」
蒼き魔法石から伯母たる女神が話しかけて来る。
「起きましたよ!どうしよう、泥棒猫に入られちゃった!」
そんなに悠長に話していないで!って、言いたかったのだが。
「「あれ?!あの盗賊を捕まえる為じゃなかったの?
てっきり余裕の居眠りだと思ってたんだけど?」」
そんな訳ある筈ないでしょ?と。心の中で愚痴ったミハルだったが。
「伯母ちゃんっ、アイツを捕まえるの手伝ってよ!緊急事態なの!」
兎に角<九龍の珠>の保全を優先させた。
「「あらあら。女神使いが手荒になったわねぇ。
それじゃあ、良い事を教えてあげるわ。
あの盗賊には、天敵が居るのよ。もう直ぐ現れるわよ?」」
女神は、知った風な口で姪っ子に教えて来る。
「?天敵?!それは誰の事なの?」
不審な顔になって右手に填めた宝珠に訊いた。
「「だからっ、もう直ぐ現れるって言ったのよ!」」
魔法石に宿る女神からは、このまま待っていろと告げられてしまう。
「「いいことミハル。彼が盗賊と揉めたら、隙を突いて奪い返しちゃいなさい!」」
現れる者が盗賊と揉める?!
女神はそう言ったのだが、ミハルには訳が解らない一言であった。
「伯母ちゃん?もう一回言ってくれないかな?
現れた人と泥棒猫さんとは、どんな関係があるというの?」
戸惑いを隠せないミハルが、女神に再度言い直して貰おうとした時。
「「来たわよ、姪っ子!」」
ビルの中からノーラが宝玉の納められた櫃を手にして出て来た。
そして、女神の言った通りになる・・・
マリアたんも・・・眠さには弱いのか?
一方、巨大損なミハルは?!
・・・・寝てたW
女神は言う。
そいつが来ると。
予言めいた言葉に隠された意味とは?!
次回 魔鋼少女(?)と怪盗 第5話
現れるのは?!ソイツは男?女??どっちなんだ?!




