魔鋼少女(?)と怪盗 第1話
泥棒猫との邂逅が教えるのは?!
学園生活の中、何かが変わろうとしていた・・・
日ノ本に秋の訪れが感じられるようになった朝の事・・・
「すっかり秋めいて来たねぇ」
いつもと変わらぬ登校風景。
「またミハルのお祖母さん臭い一言かいな・・・はぁ」
お婆さん臭いセリフを吐くミハルに、突っ込むマリア。
幼馴染の二人は、通いなれた通学路を駄弁りながら歩いていた。
「日ノ本の秋と言えば!」
気にしないミハルが、晴れ渡った空に指を立てる。
「うん?!それがどないかしたんか?」
不意に振られた問い掛けに、怪訝な顔を向けたマリアへ。
「にゅふふっ!美味しい物がイーッパイなんだよねぇ!」
「がくっ」
食欲魔神かと思える台詞に、マリアはずっこけた。
「あは・・・あははっ。ミハルぅ、毎年の事だけどさぁ。
お前は食べる事だけしか考えていやへんのんか?」
「むぅ?人類普遍の言い習わしだよ?
秋ともなれば、食欲の秋って言うくらいだから!」
ビシッと、マリアへ決めたが。
「そないに食べたら・・・太らへんのんか?」
ジト目で観て来るマリアに、ミハルは顔を引き攣らせて。
「ふっ、太らないもんっ!身長が伸びれば・・・大丈夫・・・と、思う」
・・・ジトーーー
「ふっ、太ったって・・・春には痩せる・・・筈」
・・・ジト―ーーーォ
「ふっ、太ったら・・・パイロット失格だよねぇ・・・しくしく」
・・・はぁ・・・
大きなため息を吐いたマリアが、ミハルの肩を叩いて。
「モノには ほどほど って言う言葉があるんやで?
食べても良いけど、その分身体を動かせばええんのとちゃうか?
まぁ・・・ミハルに宿る女神様にも頼んでみるこっちゃな?!」
言い含める気で教えたのだが。
「そうか!その手があったか!!
伯母ちゃんの代償は食べ物だった筈!
魔鋼力を使い果たしたら代償として食べても食べても良い筈だもんね!」
・・・ジトー・・・
「なによマリアちゃん?
魔鋼力を行使したら、代償を求められるのは魔砲使いとして当然よね?
そしたら食べても食べても太らないし、万事解決だよね?!」
「違うと想うぞ・・・間違ってると想うぞ?!」
ぽんぽんと肩を叩いて、マリアが言い切った。
「多分、女神様もこう言うやろう。勝手に太りなさいって!」
「にゃっ?!ニャンでぇ?秋はにゃんでも美味しすぎるから食べちゃうんだよぉ!」
呆れたマリアが匙を投げて、学校へと向かう。
「ああ~っ?!アタシをサツマイモが呼んでるぅ!栗がっ秋刀魚がっ団子がぁ!」
ミハルは冬眠前の動物か?!
ま・・・宿ってる女神も何も言い返して来ない処を観ると、同罪の様だ。
2学期が半ばを迎えたその朝。
2年生の教室に、とある変化が訪れた。
「この時期に・・・珍しいというか。
開部依頼初めてだけど、転入生を紹介するわ!」
担任の大貫教諭が、眼鏡を光らせて生徒に教える。
「えーっ?転入生ですか?魔鋼科学部に途中編入してくるなんて驚き!」
12人の生徒数しかいない2年生に、一人加わるというのだが。
「どうやら編入試験に合格したらしいの。
だから、みんなとも同じレベルの魔砲使いじゃないのかしらね?」
初老の大貫女史が、12名の女性と達に紹介する。
「入って来なさい、見神さん」
ガラッ
入り口から入って来た少女が黒板の前で振り向いた。
ー うん?!この子・・・どこかで会った事があるような?
黒板の前に居るのは、青味の帯びた銀髪をショートカットに纏めた女の子。
癖っ毛が両サイドで立ち、傍目で観たら獣耳の様にも観える。
伏し目がちな瞳の色は、紅くも見えて瞳孔の黒さを引き立たせていた。
もじもじと視線をあらぬ方に向け続ける少女を観て、ミハルは不思議な感覚に捕らわれる。
ー 確か・・・どこかで。でもどこでだったかな?
独り、ミハルが思い出そうと考えている間に、大貫女史が黒板に少女の名を書き記していた。
「はい。見神 楼羅さんと仰るの。
帝国学園中等部からの編入だったわね、関東から来られたのよ。
それじゃあ・・・一言」
眼鏡を直した大貫教諭が、自己紹介を促した。
黒板の前に立った見神生徒が、おずおずと小声で名乗る。
「見神・・・ろぅーら。宜しく」
ツンケンな話し方だが、恥ずかしいがり屋なのだろうと皆が納得する。
目を誰とも合わそうとしない。
頬を紅く染め、伏し目がちに喋るから・・・そうなのだろうと思った。
パチパチ・・・後ろの席から拍手が沸いた。
それに併せて皆も拍手で迎える。
初めに拍手したマリアが、ミハルの背をつついて。
「どないかしたんか?ミハル?!」
独り拍手を忘れて考え込んでいたミハルに訊いた。
「あ?!えっ?!ううん、なんでもないよ?」
慌てて一番最後に拍手したミハルが、苦笑いを浮かべて見神を観た。
ー 確かに・・・会ったと思うんだけど。
こんなハスキーボイスじゃなかった・・・ような?
今、目の前に居る見神から聞こえた声は、女の子にしては低く擦れているように思えた。
ー そうだ!月夜の晩に出会った泥棒さんだ!
あの髪型には覚えがあるもん。特徴的だから間違いない筈なんだけど?
ミハルが自分の考えで頭の中が一杯だったから。
「ミハル・・・拍手・・・辞めといたらどないや?」
皆が拍手を終えたのに、未だ拍手を贈り続けているミハルへ。
「あらあら、島田さん。いつもの事ながらボケっとした子ねぇ?」
とうとう、大貫教諭に睨まれる羽目になった。
「それとも。見神さんに何か言いたい事でもあるのかしら?」
眼鏡をついっと持ち上げた担任教諭の声に、ビビり上がるミハル。
「いえ~っ?!そんなことないですぅ」
仰け反るミハルに、マリアは頭を抱える。
「どあほ・・・やなぁ、損な娘は・・・」
キンコンカンコーーン
自己紹介が終わった処で、始業チャイムが鳴り響く。
「じゃあ、見神さんは空いている席へ座りなさい。
今日は授業に馴染めないかもしれないから、様子見で良いからね」
「は・・・い」
言葉少なに答えた見神が、ミハルの斜め右後ろに席を執る。
ちょうどマリアの右隣、最後列の席に・・・だ。
歩み来る見神を凝視するミハル。
確かに、あの晩に出会ったシーフに似ていると思ったが。
ー うう~んっ?!なにか・・・何かがひっかかるんだよね?
この子とは違うのかも・・・でも・・・なにか・・・
考えが纏まらないミハル。
特徴ある髪形や肢体のしなやかさを、あの晩に出会ったシーフと重ねて思うのは。
ー 声以外は。あの時の声と今聴いた声が重ならない。
でも・・・そっくりなんだ。声と瞳の色以外は・・・
ミハルはあの晩に会った娘を完全に思い出した。
ー 授業が終わったら・・・マリアちゃんと一緒に話しかけてみよう・・・
今日一日で、何かが動き始めるのだろうか。
・・・<九龍の珠>を狙うシーフが、この子だったら・・・
ミハルは前を向くのも忘れて、見神 楼羅を見詰めて想うのだった・・・
「しくしく・・・」
廊下でミハルが泣いている。
「せやから・・・ウチが言うたんやで?」
マリアが気の毒というより、呆れて声を掛ける。
「だってぇ、考え事してたんだもん!
前を向かなかったのはアタシも悪いと思うけど・・・あんまりだよぅ?!」
休み時間になっても、許して貰えない。
腕は棒の様になって辛い。
バケツを掴んでいる両手が痛い。
「ミハル・・・残念!」
「しくしく・・・」
にひひっと笑うマリアに、授業中から立たされているミハルが泣いていた・・・
突然の転入生に戸惑うミハル。
どこかで出会ったような不思議な感覚。
そして・・・相変わらずの損な娘。
楼羅は何者なのか?
次回 魔鋼少女(?)と怪盗 第2話
君とはどこかで会った事があるきがするんだけど?




