発進! 魔鋼騎(マギカメタル)輝騎(こうき) 第4話
道場からの帰り道。
ミハルは月を見上げて考えてみる。
いつかは・・・その時が来てしまうのかと。
月光が少女の影を作っていた。
満月の明かりが制服姿の少女を照らし出している。
ふと立ち止まったミハルが、物憂い顔で月を見上げた。
「きっと、いつかは・・・最期の日が来るんだよね?」
誰言うともなく喋るミハル。
「アタシに何をさせようとしているの?
あなた達は何を求めているの?」
月に向けて・・・月に向かって問いかける。
「「コハル・・・今はまだ。
姪っ子ミハルちゃんは考えなくても良いのよ?」」
宝珠に宿った女神が答えて来た。
「そう・・・理の女神は、いつも誤魔化すんだね?」
右手の魔法石を上げて、宿る女神に訴えかける。
「今じゃなきゃ、いつ考えるの?
いつになったら最期が来るのかって・・・
今は、その時が来るのかを考えては駄目なの?」
魔法石が輝き、宝珠の中から蒼い毛玉が姿を見せる。
「コハル・・・今を大事にしなさい。
この幸せな時が過ごせる間は、大切な人を護る事だけを考えていなさい」
蒼い猫顏の毛玉が、姪と同じように月を見詰めて諭した。
「大切な人達・・・そうだね。
アタシには一杯大切な人が居るんだもんね」
繰り返し聴かされ続けた女神の助言に、ミハルはか細く笑って応える。
納得なんて出来ない、理解するのはまだ先の事。
「大人になれる迄、皆と一緒に居られるのかな。
アタシが皆を護れるくらい強くなれるまで、審判の日が来なかったら良いのに」
自分に課せられた宿命の時が、いつまでも来なければ良いと。
魔鋼の少女は願うだけだった。
満天の星空の元、月と星明りに照らされた魔鋼少女は祈る。
「ほら・・・コハル。
コールが来るわよ?今日も現れたみたいね?」
ぼんやり夜空を見上げていた美晴に、ニャンコダマが教えて来る。
「あっ?!えっ?!今日も・・・来たんだ?」
驚いたミハルの襟元のボタンが点滅を始めて。
「「緊急事態!非常呼集!!」」
金色のボタンから音声が流れ出した。
「今日も来たんだ?!」
ミハルの表情が硬くなる。
「あいつ等も懲りないわよねぇ。こうひっきりなしに出て来るなんて」
ニャンコダマは呆れたように話すと、魔法石へと戻ってしまった。
路上に残されたミハルは、握り締めた拳を開くと、急に学園目掛けて走り出す。
「闇に組みする人達になんて、絶対負けないんだからっ!」
学生服のまま、母校へと一目散に走る。
瞳は温和な色から、魔砲の力を滾らせて蒼く染まり始めていた。
闇に属する魔法の機械兵が、茶色のボディーを現した。
変電所に属する配電室を狙って来たのは、邪操機兵と呼ばれる人型機械。
頭部に備えられた紅いレンズで辺りを伺い、配電盤の破壊を目論んでいた。
都の電力供給の3分の1を司る変電所を襲った理由は。
「あーっはっはっ!真っ暗闇にしておやり!
人間共を建物から追い出してやれ!
そうすりゃーお宝は人知れずウチ等のもんだのーらっ!」
ぎゃははっ・・・と嘲る黒い影。
「さぁっ!ケラウノスの民よ。
ウチに力を貸すんだよ!機械の兵よ、暴れ回るのよのーらっ!」
暗闇の中、紅い瞳と茶色の瞳が交互に瞬かれる。
どうやら、色違いの瞳を持った女らしい。
「ウチはあの石を手にしてやる!
その為にこの街に来たんだからね!
蒼き石を奪う為にノーラ様は此処に居るのーら!」
聞こえる声はその影から流れ出て、闇へと消えていった。
「目標確認!配電盤室を狙っています」
蒼い瞳の魔鋼少女が、モニターに映る邪操機兵を監視している。
「「了解!直ちに排除せよマリア!」」
紅髪のマリアに命じたのは、
「邪操機兵を排除、撃滅します!ルマ司令」
モニターに映る基地司令ルマに復唱したマリアが、直ちに戦闘行動に移る。
「敵は邪操機兵1体!安全装置解除、暗視カメラ作動!」
モニターが切り替わり、夜間戦闘モードに替えられた。
「赤外線暗視カメラに切り替えた。
敵はまだこちらには気付いていない模様・・・
これより攻撃開始、射撃準備態勢っ、スナイパーモード起動!」
配電盤室から遠く離れた林の中で、紅い<輝騎>が隠れていた。
戦闘行動に入った<輝騎>が、特殊装備の狙撃砲を手に持った。
近距離戦用とは思えない程、長砲身の狙撃砲を構えて。
「目標が配電盤室に潜り込む前に・・・倒す!」
マリアの魔鋼力が、極限にまで高められていく。
紅髪が銀髪へ変わり、瞳が蒼く燃え立つように輝いた。
照準器に追尾されてるとも知らず、邪操機兵は一瞬動きを停めた。
「撃っ!」
間隙を逃さず、マリアの指がトリガーを引き絞った!
<< ズボムッ >>
サイレンサーにより、射撃音は極限された。
敵に感知されるのに対処した消音機で、射撃音だけは押さえられたが。
飛んでくる弾は、邪操機兵だろうと探知出来た。
自分に向けて飛んでくる弾の到着点を判断した邪操機兵は、逃れられないと判断したのか?
配電盤室諸共自爆しようとしていたのか?
爆薬を飛んで来た弾に向けたのだ。
「・・・甘い。ウチが読めなかったとでも思うたんか?」
ニヤリと嗤うマリア。
「その弾は・・・魔鋼弾や!」
伸び来たたった弾は、邪操機兵諸共に爆薬も真っ二つに引き裂いた。
ーーー ドドドッ ドガァッ! ---
爆薬は内蔵された破壊力を邪操機兵に叩きつけた。
爆発によって、さらなる破壊を受けた敵は、粉微塵に消し飛んだ。
「そんで・・・破壊波は相殺される・・・んやで?!」
邪操機兵が消し飛んで。
辺りは元の静けさに包まれる。
マリアが言った通り、変電所には被害は何もなかった。
「ルマ司令、任務完了。
これより帰還します・・・」
マリアは魔鋼の力を抜き、任務の完了を司令部に申告する。
「了解、帰還しなさいマリア」
狙撃砲を背中のパックに直し、紅い<輝騎>は帰還の途に就いた。
黒い影が猫の様に宙を舞っている。
まるで人ではないみたいに軽業を魅せる姿。
とあるビルに飛び移ると、遠く観える変電所を振り返った。
「うにゅっ?まだなのか?
どれだけ手間取っているのら?」
黒い影から伺い知れる紅い瞳が、訝るように細くなる。
「電気が途切れないと、防御システムが生きているのら。
早くしないか、邪操機兵。でないと・・・」
苛立つ声が影から零れ出た時。
「魔鋼少女が邪魔する・・・のよね?」
影を見下ろす位置から声に割って入って来た者が。
月と乗機、白い<輝騎>零号機をバックに。
「蒼き輝の魔鋼ミハル!
月の女神様に代わって闇を討ち、闇を祓ってやるんだから!
覚悟しちゃいなさいよね!」
影を指差し言い放った!
邪操機兵を使役する者。
空を猫のように飛び跳ねる姿。
ミハルの前に現れた者は、何が目的だというのか?!
次回 発進! 魔鋼騎輝騎 第5話
現れたのらっ!・・・失礼。
闇に潜む影に対峙するミハル。勝負の行方は?!猫娘だ、野良っ!




