発進! 魔鋼騎(マギカメタル)輝騎(こうき) 第3話
ほのぼの学園生活。
ミハルは剣舞を続けていた・・・そして?!
島田剣舞道場は、都立学園が見下ろせる丘の上に看板を下げていた。
今日も門下生の勇ましい声が、道場から聞こえて来る。
「はぁっ!せいぃやっ!」
一人の少女が手本の舞を、入門して来た少年達に披露している。
手にした木刀を払い、華麗な舞を魅せる。
流麗な舞を続ける少女の黒髪が靡き、青味がかった瞳が鋭い光を放つ。
一部の隙も見せず、一瞬たりとも動きを停めず。
少女は舞い切った。
少女を見詰めて正座していた少年達から感嘆のため息が漏れる。
舞い切った少女が木刀を納め、少年達に向き直ると。
「これが一の舞。当、流麗式島田流剣舞の初歩舞なの」
自分を憧れの眼で観て来る少年少女に微笑みかける。
「わぁ!やはり師範代はすごいや!」
「どうやったら綺麗に舞えるのですかぁ?」
自分達より少々お姉さんの師範代に、気軽に訊いて来る門下生達。
「綺麗に舞うには、刀とお喋りが出来るようにならなくっちゃ。
それにはね、基本からしっかり練習することなんだよ。基本が一番大事なんだからね?」
師範代の稽古着を着た黒髪の少女が笑って応える。
「じゃあ、先生はどれくらいで巧く舞えるようになったの?」
まだ入門して日が浅い少女が、物怖じもせずに訊いて来た。
「う~んっと、5年位懸かったかなぁ」
ちょっと考えるフリをして、師範代が答えると。
「えーっ、そんなにかかるの?」
少女は落胆したみたいに大げさな声を張り上げる。
幼さ故の背伸び感に、師範代は笑い顔を崩さずに宥める。
「地道に頑張れば、もっと早く舞えるようになるよ?
アタシなんて直ぐに追い越しちゃうかも知れないよ、君達なら」
黒髪の師範代を見上げている新入門下生たちの眼に、希望の光が灯された。
「よ~しっ、ミハル先生に負けないように頑張っちゃうんだから!」
落胆していた少女も、やる気を出して大声でのめり出して来る。
「そうそう!その粋だよ」
微笑んだ師範代が、一呼吸入れてから。
「それじゃあ、今日の練習を始めましょうか!」
年少の門下生達に立ち上がるように促した。
月が輝く空の元、縁側が観える座敷。
灯りが漏れる座敷の机の上には、祖母が造ってくれたおはぎが皿に盛られてある。
「今日もコハルちゃん、助かったわ。
新入生の面倒を観てくれて、ありがとうね」
和服の祖母が労ってくれる。
道着を着替えた美晴が制服の上着を羽織って、奥間から現れると。
「ううん、アタシも良い訓練になっているから。
初歩に戻るのって、とっても大事だよねミユキお祖母ちゃん!」
纏わり付いていた髪を手串で掻き揚げ、紅いトレードマークのリボンで括る。
「師範代も板について来たってことかしらね?
コハルちゃんに免許皆伝して良かったわ、いろんな意味で」
着替え終わったミハルに、お茶を煎れているミユキがそう答えて。
「お腹が減ったでしょ、帰る前に摘まんでいきなさい?」
おはぎを薦めてくれた・・・が。
「ねぇ・・・ミユキお祖母ちゃん。
こんなの・・・載ってるけど?どうしようか?」
おはぎの皿をジト目で観て、その状況を指差した。
そこにはおはぎと共に・・・
「あっ?!こらっ!ミハルっ行儀が悪いわよ!」
見つけたミユキが声を荒げる。
蒼いニャンコダマが、おはぎを占領しているのだが・・・
「にゃっ?!見つかったニャァーっ!」
そりゃ・・・見つかるわ。
おはぎの上に同じ大きさの蒼い異常な物体・・・猫毛玉が載っていれば。
「なぜにゃっ?!おはぎと同化していた筈にゃのにぃ?」
・・・
・・・・・・
ついっとミユキがニャンコダマを摘まむと。
「ニャッ?!」
「・・・・・・」
何も言わないミユキが片手にバットを取り出すと。
「・・・悪食滅却・・・」
フリーノック宜しく・・・
--- キンッ!! ---
ニャンコダマをホームラン級に吹っ飛ばした!!
「「ニャアアアアァッ?!ニャンでぇええええぇっ?!」」
ーーー キランっ ---
月の中迄飛んで、消えたニャンコダマ。
「あははっ、伯母ちゃんも大概だけど。ミユキお祖母ちゃんも・・・凄い」
ミハルが冷や汗を掻いて、実の母子に言い募った。
「じゃぁね!また明日来るから。お祖母ちゃんも無理はしないでよ?」
「はいはい、そんなに年寄扱いしないでよコハルちゃん」
すっかり夜も更けた頃、祖母の道場から帰宅するミハルを見送るミユキが笑う。
「アタシはお祖母ちゃんの身体を気遣ってるの。
この前の事件の時みたいに無茶な事を仕出かさないかって。
・・・お爺ちゃんに見張ってくれって頼まれてるんだから!」
ツンと怒ったフリをみせて、ミハルが注意すると。
「あら・・・マコトったら。まだ龍騎兵事件を根に持ってるの?」
首を傾げて困った顔をしてみせる祖母に、
「あれは!アタシを心配したお祖母ちゃんがやり過ぎたんだから!
いくら剣薙だったからって、無茶し過ぎなんだからっ!
感謝はしてるけど、あんなのはもう駄目なんだからね!」
心配顔になったミハルがお願いして来る。
「はいはい、もう辞めにするわ。
コハルちゃんもすっかり一人前の魔鋼少女になったものね」
「うん・・・お祖母ちゃん達が導いてくれたから。
本当にあの時は危ない処だったし・・・ありがとうお祖母ちゃん」
感謝の言葉を告げたミハルだったが。
「でもっ!だからってもう二度とやらないで欲しいの!
あんな危ない術を放つのは!」」
きりっと祖母ミユキに向けて言い切った。
「ええ。勿論よコハルちゃん。約束したからねあの子とも」
微笑む祖母に、ミハルはそれ以上言葉を返せなくなる。
その事件は今から2年ほど前。
まだ中学生になる前の話だった。
闇の破壊兵器に襲われた村を救った事があった。
窮地に陥ったミハル(当時はコハルと呼ばれていた)を救ったのは。
「女神ミハルの力に因って、あの子と約束したから。
もう二度と魔鋼の力を放たないと・・・ね」
女神ミハルとその母である宿命の巫女ミユキに因って、窮地を脱したのだった。
「そう。
伯母ちゃんにも言っておきたいの。お祖母ちゃんを危ない目に遭わせないでって」
右手に填めた宝珠に宿るニャンコダマになった伯母へ、約束を果す様に頼んだ。
声が宝珠に届いたのか、蒼き珠が一段と輝きを放った。
「あの時とは違って、アタシも今は正規の魔鋼騎乗りになったんだもん。
これからは自分の身は自分で守れるようになるから・・・ね?」
女神とその母に向けて、ミハルが笑い掛ける。
月を背にしたミハルの顔には、どことなく陰が差して観えたのは気のせいだろうか?
「じゃぁ、お祖母ちゃん。おやすみなさい」
笑い顔のまま、ミハルが道を下り始める。
「ええ、コハルちゃんも。おやすみなさい」
ミユキが手を振り送り出す。
その眼には、月明かりに影を伸ばして歩く孫娘の姿が映っていた。
「コハルちゃん・・・気付き始めているのね?」
中学生になった孫娘は、自らの宿命に気が付き始めたと感じていた。
自分も辿った、闇の道を。自分も背負った世界の運命というモノを。
「コハル・・・いいえ、ミハルちゃん。
あなたにはこれからどんな運命が待ち受けているのかしら?」
祖母ミユキは、孫娘を案じて呟いた。
「ミハル・・・女神ミハル。あの子を護って・・・必ず」
孫娘の影はいつの間にか、闇に飲まれたように見えなくなっていた・・・
相変わらず・・・損なミハルが健在で。
これが女神だなんて・・・世もお終いだな?
ニャンコダマこそが無敵ング!
夜道を帰るミハル。
女神と話し合う・・・その時?!
次回 魔鋼騎輝騎 第4話
君は月夜に現れる・・・月夜に舞うは盗族?!
次回 ノラ・・・って、のらっ! 登場!




