ファースト!甦る魔砲 Act4
月が山陰に沈もうとしていた。
もう夜も更け、日にちも変わった頃・・・
遅い帰宅になったマモルがベットに潜り込もうとして気が付いた。
「・・・コハルか。どうしたんだ、自分の部屋で寝ないのかい?」
3人家族は、フェアリアでの生活と同じようにベットルームを各々が持っていたのだが。
「・・・なんだ。寝てるのか・・・しょうがないなぁ」
自分のベットに潜り込んでいるコハルを起こさないように静かに部屋を出ようとしたが。
「寝られないの、マモル君。お願いだから傍に居て」
コハルが呼び止める。
「どうしたんだい?怖い夢でも観たのかい?」
もう深夜。
時計の針は2時を過ぎ、真夜中を指し示している。
「こんな時間まで起きていたのかい?ママの処には行かなかったの?」
ベットに腰をかけ、コハルに寄り添う。
「ルマお母さんに話したけど・・・やっぱりマモル君にも聴いて貰いたかったの」
何かに怯えた様な声。
何かを観た・・・怯える声。
「パパに聞いて欲しい事?」
「うん・・・怖いお話」
布団から顔を出したコハルが、じっとマモルを見詰める。
話しても信用してくれないかもと、心配気な顔で。
「話してごらんコハル。パパは疑ったりしないよ?」
娘の緊張を解こうと、頭を撫出てやりながら答えると。
「うん、それじゃあ・・・」
ぽつりぽつりと、今日起きた出来事を話し始める。
闇の中から現れた化け物に襲われた事。
マモルの言いつけを守れなかった事。
そしてなにより、怖くて怖くてどうしようもない事。
「ごめんなさいマモル君。アタシ・・・悪い夢を観てたの。
ルマお母さんにも言われたけど、そんな事が現実に起きる訳がないって。
本当に化け物が襲ったのなら助かる訳がないんだって。
気が付いたら何もなかったんだから・・・そうなんだろうって・・・」
それでも怖い事には変わりが無いから・・・
コハルは怯えてマモルのパジャマを掴んで来る。
「それで・・・コハルはどうして助かったと思うんだい?」
マモルの声にコハルが驚く。
「えっ?!どうしてって・・・分からないよ」
パジャマを掴んだ手にマモルの手が重なる。
優しく包み込まれた手の感触に、少しだけ落ち着きを取り戻して思い出す。
「でも。目を閉じていた時に聞こえた気がするの。
胸のネックレスから、声が聞こえた気がする・・・」
闇に覆われそうになった瞬間、助けを叫んだあの時。
コハルの耳に聞こえたのは?
「あの瞬間・・・聞こえたの。
呼びなさい・・・って。力を呼び覚ましなさいって・・・」
コハルが教えた時、掴まれていた手がぎゅっと握られた。
マモルの手がコハルの手を強く握った。
「?!どうしたのマモル君、痛いよ?」
「あ、ご、ごめんよミハル・・・」
コハルの手を離した時、マモルが言った名はミハル。
「?どうかしたのマモル君?アタシの言った事って変・・・だよね?」
やっぱり信じて貰えないのかとしょげるコハルに。
「いいや、変じゃないさ。コハルにはちゃんと聞こえたんだろ?」
一度放してしまった手を掴み直して、もう一度訊き直した。
「うん・・・信じて貰えないかもしれないけど。
アタシには聞こえて来たんだよ?女の人の声が。
多分・・・この石から」
ネックレスを取り出して、マモルに見せる。
碧き魔法石・・・今は普通の色をした蒼い石。
だが、マモルには見えていた。
嘗て偉大なる魔女が持っていたとされる、魔法の石と変わらない色なのだと。
そう。
自分も持っていたのだから、最期の瞬間まで。
審判が下された、あの瞬間まで。
目の前で一人の女神が消え去る瞬間までは・・・
「マモル君には聞いて欲しかったの。
寄り道しちゃったアタシの事を怒って欲しくて。
約束を破っちゃったから、罰が当たったんだって・・・」
どんどんコハルの声が小さくなる。
話せたことに安心したのか。
聴いて貰った事が嬉しかったのか。
やがてコハルは寝息をたてる。
マモルの手を掴んだまま、安心したように微笑みを浮かべ。
自分が小さいころ観た、姉の顔そっくりな微笑みを浮かべて。
「ミハル・・・ミハル姉・・・」
娘に姉を重ねてしまう自分の弱さを打ち消す為、マモルはコハルの寝顔をじっと見つめて考えた。
夜の帳が開け放たれるまで・・・
「で・・・揃ってお寝坊したのね、コハルちゃん?」
今日は両親がお仕事で遅くなるからと、お婆ちゃんの処に来ていた。
「うにゅぅ・・・そうなの」
コハルとミユキお婆ちゃんが夕空を見上げて縁側に座っている。
「それにしてもマモルは、コハルちゃんを大事にしてる気なのかしら。
いくらお仕事だからって、もっと家庭の事を観ていないと・・・」
心配気にコハルを観るミユキが、ふぅっとため息を吐くと。
「お婆ちゃん!マモル君は一生懸命に仕事してくれてるんだよ?
そんな事を言っちゃぁ駄目なんだよ?」
反対にコハルがマモルの方を持つ。
「あらまぁ、コハルちゃんはお父さんが好きなのね?それは大変失礼しました」
ほほほっと笑ってコハルに詫びると。
「でもねコハルちゃん。本当に心配なのよ、お婆ちゃんはあなたの事が」
「う、うん。分かってるから・・・ありがとうミユキおバアちゃん」
夕日が沈む。
春の日は夜が訪れるのも早い。
月夜が来るのも早い。
そう・・・闇が訪れるのも・・・
「コハルちゃん、お迎えが来るまでゆっくりしていくのよ?」
ミユキが片付けを手伝うコハルを呼ぶと。
「うん、この後、宿題しながら待つよ」
「あらあら。それは大変ね、片付けは良いから先に終わらせちゃいなさい。
それを終えたら御菓子を出しましょうね」
少し高台になっている家の軒先に、月の明かりが差し込んで来る。
何も変わらない、いつも通りの日常。
父親の実家に来ているだけ・・・そんな普段と変わらない一日だった。
両親が迎えに来るまでの間、コハルは外が観える窓際で宿題に執りかかっていた。
蛍火のような灯りがチラついた。
揺らめく灯りが行き交った。
「・・・なんだろ?」
紅い灯りと蒼白い灯りが飛び交っている様に観えた。
「蛍?・・・違うなぁ・・・まだそんな時期じゃないし・・・」
よく目を凝らせば、光が蛍では無い事が解る。
蛍なら点滅する筈なのに、その光はずっと燈ったままだから。
「なんだろう・・・あれ?」
紅い光は蒼白い光に寸断される。
やがて紅い光は消えてしまい、蒼白い光だけが残った。
「?・・・蒼い光だけ残っちゃった・・・」
じっと光を見詰めていたコハルに、
「宿題は終わったのかしらコハルちゃん?」
ミユキの声が訊ねて来る。
「あっと、ミユキお婆ちゃん。あのね、そこで碧い光と紅い光が飛び交ってたんだけど?」
光が何を表しているのか訊いたコハルに、一瞬固まったミユキだったが。
「ああ、それはね。お祭りの練習をされているのよ。
この辺りに古くから伝わる神社に奉納する練習じゃないのかしらね?」
思い出したかのように答えた。
「でもミユキお婆ちゃん、この辺りの奉納祭って秋だよね?」
小首を傾げるコハルが訊ね返すと。
「ほほほっ、気の早い人達ねぇ・・・」
ワザとらしい笑いを返される。
「なんだろう・・・さっき見えたのは?」
ミユキの答えがあてにならないと、コハルがもう一度闇の中を見詰めたが。
「観えなくなっちゃった・・・」
もう紅い光も蒼白い光も観えなくなっていた。
「それよりコハルちゃん、もうじきマモル達も来るわよ?
宿題は終わったのかしら、御菓子も用意出来たんだけど、食べないのかしら?」
「わぁっ?!食べる食べる!今直ぐ終わらせるから!」
ミユキに急かされたコハルは、もう光の事など忘れてしまった。
「ホントーに、げんきんな子ねぇコハルちゃんは」
笑うミユキの眼は、微笑みを浮かべてはいなかった。
辺りの気を探る・・・神官巫女の眼に替わっていた。
周りに潜んでいるかもしれない闇の気配を探る為に。
林の中・・・
月明かりに佇む一人の影があった。
手にしているのは小刀にも見える鋭利な物。
しかし近寄れば刀では無い事が容易に判る。
月明かりを反射する鋭利な物は、細長い半透明な石・・・水晶にも観えた。
「逃がしちゃったか・・・また」
影から聞こえるのは女の子の声。
手にした水晶を一振りして歩き出すと、影の形が変わった。
少女の姿・・・その服装は。
「この地に居る筈なんだ・・・最初の者が。
絶対に見つけ出してやる・・・絶対・・・」
憎しみを含んだ声が流れ出す。
癖のある赤毛を靡き、月を見上げる瞳は碧い。
月夜を歩く少女の影は、コハルの通う小学校の制服を纏っていた・・・
魔砲・・・魔法の力に因って弾を撃つ魔力を意味するもの。
嘗ての世界には存在していた魔砲の力が失われて久しい。
だが、新たな力が目覚めようとしている。
現れた少女が求めるのは?!
次回 蒼き光の子 Act1
君は現れた子にイジられる?どうしてこうなった?
ミハル「それが運命だと気がつくには、まだ幼過ぎたのでしょうね?」