約束と希望 Act3
魔法石の中で女神ミハルは思うのです。
ミハル「きっとリーンが呼んでくれる。
私の女神が呼びかけてくれる・・・筈だけど?
なにかしら・・・この身に迫る緊迫感は?」
それは・・・予知ってやつだな・・・・・・・
蒼乃の命で回線が繋がれる。
日本国とフェアリア国との間に繋がった回線が直通電話回線が。
「直接王宮に廻す様に伝えて。蒼乃からだと言えば分かって貰える手筈だから」
電話をかけ始めた通信係にそう言って、蒼乃はクスリと笑う。
「手筈?蒼乃殿下は前もって相手側に話されてたのですか?」
マモルが訊き洩らさず訊ねると。
「ええ、勿論よ。君が言う通り、事前に知らせておいたの」
マモルに答えた蒼乃がコハルを観る。
「この子に宿った女神に、一言申し伝えたい事があるそうなの」
ルマの陰に隠れているコハルがおずおずと碧のを見上げる。
「アタシじゃなくて魔法石に、です・・・」
ネックレスを示して答えるコハルへ、蒼乃は微笑みかける。
その微笑みには全てを知っている者の余裕が見て取れた。
「そうよねミユキの孫娘には宿ってはいない。
あなたに授けられた石にこそ、女神は居る・・・そうね?」
「・・・はい。そうです」
蒼乃の問いかけにネックレスの女神が答えた。
隠していても意味がないと。蒼乃宮には全てがお見通しなのだと女神も思ったから。
「繋がりました殿下。フェアリアのユーリ女王陛下です」
係官が居住まいを正して、受話器を捧げだす。
受け取った蒼乃が、ゆっくりとフェアリア国語で語り掛けた。
「お知らせしていた事件は闇の敗北という結末で終焉しました。
我が国のフェアリア大使館は数日の後修復されるでしょう。
事件の結果、貴国大使オズベルトは消滅。至急代わりの大使を任命して頂きたいのです。
ミリア公使補は救出に成功、娘共々身柄は日本国が確保しております」
一気にそこまで話した蒼乃宮へ、ユーリが何らかの感謝の言葉を返したようだ。
「いいえ、同盟国として当然のことをしたまで。
慰謝すべきはミリア親子なのですよ。
犯行に使われそうになった親子にこそ、労わりの言葉を掛けてあげてください」
ユーリの言葉を聞いた蒼乃が、受話器をミリアに差し出す。
戸惑っていたミリアだったが、蒼乃に促されて受け取ると受話器を耳に当てた。
「「ミリア、あなたにはどんな償いをしてあげればいいのか。
あなたとあなたの家族にどんな労わりの言葉をかけてあげればいいのか。
一国を代表してあなたの家族に陳謝致します・・・赦してミリア」」
聴こえたのはユーリ現女王の労わりの声。
一国の象徴たる女王が、唯の公使補に労わりと謝罪の言葉を贈って来たのだ。
「ユーリ女王陛下、勿体なきお言葉です。私の家族は今の言葉で救われました」
今も尚行方不明の夫、それにフェアリアから連れて来たマリア。
自分よりも二人に今の言葉を贈りたいと思うのだった。
「「ミリア、お願いがあるの。これはフェアリア女王としての頼み。
新な大使が着任するまでの間、あなたに正式な公使として勤めて貰いたいの。
肩書は公使だけど、大使としても働いて貰いたいのよ」」
「えっ?!私が・・・公使に?
ですが私はオズベルトに操られていたとはいえ、罪を犯したのですよ?
そんな自分に務まるでしょうか、公使や大使という大任が?」
ミリアは畏れ多いと恐縮する。
日本国に滞在する他の公認者を差し置いて、公使補でしかなかった自分が務まるのかと。
「「ミリアだからこそよ。闇を知ってしまったあなたこそ。
これからの公使として、日本国との連携に欠かせないのよ?」」
「・・・ユーリ様。判りました、後任の大使閣下が来日されるまで。
不束者ですが、全力で取り組ませていただきます」
闇の存在を知った者としてと言われれば、否応も無いと承諾したミリアへ。
「「そう、善かった。詳しい事は後程暗号電で知らせるわ。
それじゃあ、蒼乃殿下に戻してくれるかしら・・・・あ?」」
「?」
言葉が切られ、ユーリが誰かと話している声がしばらく続くと。
「「ミリア公使、お電話を美晴へと替わって頂けないでしょうか?」」
少女の若々しい声が耳に入る。
誰なのだろうと思ったが、ユーリが代わるくらいだから相応の人物だと知れる。
「は、はい。今直ぐ」
返事を返してふと思った。
<ミハル・・・って、どっちのミハルなのだろう?
女神なのか、コハルちゃんを指すのだろうか?>
受話器を離して、一瞬だけ考えた。
どちらにしてもルマの娘に手渡せば良いのだろうと思い直し、
「あのね、お電話をあなたに代わってって言う女の子なの」
受話器をコハルに差し出して、相手が女の子だと告げると。
コハルは戸惑いも無く電話を受け取り、
「ねぇ!リーンお姉ちゃん?!コハルだよ、美晴です!」
電話の先に居るであろう王女に呼びかけるのだった。
「こらっ、コハル!畏れ多くも電話の先に居られるのは・・・」
友達に話しかけるようなコハルを観て、マモルが停めようとすると。
ミユキも蒼乃も、マモルに向けて口元に指を立てて黙っておくように知らせた。
「えっ?!失礼過ぎやしませんか?相手は一国の王家なのですよ?」
「いいから、あなたは黙ってなさい!」
ルマにまで停められたマモルが、訳が解らないとマコトを見ると。
「マモルよ、分からんか?コハルちゃんが呼んだ名に。
ミハルが一番訊きたい人の声を聞かせてやれんのか?」
父であるマコトにまで云われて、やっと理解出来た。
コハルが呼んだ名が、存在しない人の名だった事に。
「ルナリーン王女様か。あの方とコハルは約束を交わしたんだっけ・・・」
嘯いてみた。
本当はマモルにも分った・・・解っていた。
蒼乃宮がフェアリアへどんな報告をしたのかを。
振り向いた蒼乃は、ミユキと共に頷き返してきた。
「本当は王女の声で、目覚めさせて貰う筈だったのだけどね。
女神は既に目覚め、話せるようになっているのなら。
今こそ約束を果す時なのではないかと思ったのよ」
蒼乃は電話であろうと変わりはないという。
世界の果て同志で、声が繋がる今。
せめて声だけででも、想いを果させてあげたいと思っていた。
「蒼乃の力添えが嬉しいわ。いつも私たち家族を想ってくれて」
蒼乃の想いを汲んで、ミユキが感謝を告げるのは同じ思いだから。
「いいえ、これは私個人の想いじゃない筈よ。
此処に居る全ての、いいえ。あの時を知る者全ての想いだと思って、ミユキ」
蒼乃とミユキはコハルの胸に下げられた蒼き魔法石を優しい目で観ていた。
「ねぇ!ルナリーン姫様なのでしょう?
アタシ、美晴ですっ、この石を授けて貰ったミハルです!」
勢い込んで呼んでしまった。
電話先に居るであろう懐かしい人へ。
「「ミハルね。久しぶり・・・元気だった?」」
記憶の中で。思い出の先に。
金髪を靡かせた凛々しい少女が微笑んでいる。
王宮で逢う前に出会った運命の姫の姿。
闇の者を寄せ付けず、自分を護ってくれた騎士たる姫に。
「やっぱり!この声はリーンお姉ちゃんだね!」
コハルが喜びの声を叫ぶ時、胸の魔法石は驚愕していた。
<リーン・・・ですって?こんな幼い声が?
違う・・・私のリーンはもっと凛々しく麗しい声だもの・・・>
想いは遂げられなかった。
女神は落胆の嘆きに涙する。
目の前に懐かしいリーン皇女の笑顔が現れ消える。
帰って来れたのに、リーンの声さえも聴けないのかと。
「「ミハル、聴いたわよ。闇と闘ったんですって?大丈夫だったの?」」
心配そうな声でルナリーンが訊ねると、コハルは勢い良く答える。
「うん、リーンお姉ちゃんが授けてくれた石のおかげで。
魔法の石のおかげで、助けられたんだよ。今日も女神様がやっつけてくれたの!」
電話先で、女神の名を聞いたルナリーン姫が声を呑んだ。
コハルが名乗った女神の名に、<審判の女神>が呼び覚まされる。
「「ミハル、もう一度聴きたいの。あなたを助けたのは誰?なんという名なの?」」
「えっ?うーんと。聞きたい?」
姫の声が若干震えているように聴こえたコハルが、出し惜しみする。
「「ええ、聞きたいわ。<ミハル>の口から聴きたいの」」
受話器の調子が狂ったのかと思った。
コハルの耳に聞こえた声は、全くの別人に思えたから。
<嘘・・・嘘・・・嘘・・・本当?!ホントに?>
石が蒼く輝く。
コハルに告げられた声は、間違いなく・・・
<リーン?!御主人様なの?>
忘れようもない声だと思うのだが1000年も聴けなかったから、自信が無かった。
「「ねぇ・・・聴かせて?お願いだから、<ミハルだよ>って・・・教えて?」」
「え?!リーンお姉ちゃん、声が別人みたいに聴こえるよ?」
コハルが受話器を耳から離して、機械の不調じゃないのかと調べようとした。
「私だよ・・・帰って来れたの。リーン・・・私、ミハルだよ!」
魔法石から女神が呼んだ。
愛する人の名を。自分なのだと知らせる為に。
「「・・・・嘘よ、あの子は人に成った私の元へ帰るって約束したモノ。
私だって人に戻っていないのに、帰って来る筈がないもの・・・」」
受話器から返って来たのは、ルナリーンに宿った者の声。
そう。
女神はリーンとの約束を果すのは、人に戻った後でと誓ったのを思い出した。
1000年の時を越えたから、リーンも人に成っているだろうと思い込んでいた。
<そうだ、初めからおかしいと思った。
リーンが私が戻る魔法石を手放す筈が無い事に、どうして思い至らなかったんだろう。
それはまだリーンが人に成り切っていないから。
リーンが戻ったのなら私の宿る石を持って、待っていてくれている筈だったのに。
私はどうしてそれに思い至らなかったのだろう・・・・>
衝撃だった。
救った筈のリーンも、未だに人へとなり切っていないと分ったから。
「「でも、あなたが本当のミハルだと知る方法が残されているわ。
人に成れていない女神ならではの方法が・・・」」
(( ぴくっ ))
リーンの言葉に身体が勝手に反応してしまう。
「方法って・・・どんな?」
これは聞いていたコハルが訊ねる声。
「ま・・・さ・・・か・・・?!」
怯えたような声で女神が訊いた。
「「その方法って言うのは。
ミハル・・・ペットになれ!!」」
((ビクンッ))
「リーンお姉ちゃん。それって初めて逢った時にも言ったよね?」
コハルは魔法石を授けられる前に訊いたルナリーンの言葉を思い出していた。
「それでミハル伯母ちゃんはどうなるの?ペットになるの?」
((ピョン))
「あり得ないよ、女神様がペットになるなんて」
((ヒョコ もふんモフモフ))
「・・・なっちゃった・・・」
魔法石の中で・・・女神の姿は獣耳娘に替えられている。
「なっちゃいましたぁ!獣耳尻尾モフモフなペットにぃ!」
魔法石だから変化は見られないが。
「リーン!私っ、ミハルはあなたの呪文でペットなミハルに成れたの!」
「「えっ・・・嘘?本当に帰って来たのミハルが?!」」
女神同士で喜んでいいのか、悩ましいと思うのか。
誓いを交わし合った者同士、今再び声だけは再会出来た。
「うわぁっ?!魔法石が勝手に飛んでる?!」
コハルの身体からはなれた魔法石がゆらゆらと浮き上がっている。
喜んだミハルだったが、ペットにされた事を忘れて魔砲力を使っていた・・・
なってしまった・・・
獣耳尻尾アリな女神へと。
こうなったのなら、最早条件は調えられたのだということだ!
次回! 遂に損な女神は・・・?!
次回 約束と希望 Act4 女神はニャンコダマ?!
君の本当の姿はこれだった?!損な・・・・
ミハル「嫌ぁだぁっ!なんで私が損な姿にならなきゃならないのよぉ?!」覚悟完了・・・・




