約束と希望 Act1
破壊された大使館を修復するのは魔砲少女の務めでもある。
独りの特技が活かされる。
フェアリアから部下として特別に連れて来た少女を見詰めて。
「ラァミィ~っ、明け方までに片付けるのよ?!」
「ひぃぃんっ、損なぁ?!」
涙目の候補生が魔法を使って修復させているのを監視して、チアキ少佐が笑っている。
「無理ですよ、私独りでどうやって修復しろと?」
特技の治癒魔法で修復を行う損な候補生。
「魔法力だって残り少ないんですよ?手伝ってくださいよぉ?」
涙目のラミ候補生が言い募るのだが、チアキは取り合わずに。
「魔鋼騎に載せてやったんだから、これ位でへたばるな!」
<昔、自分もそう言われ続けた。この人達に・・・>
戦車を元の搭乗員達に返して集う人達の姿を観て、チアキ少佐が微笑んだ。
<ミリア小隊長、マモルさん、それにルマ政務官補。
みんなに教えて頂いた事は忘れはしませんから・・・>
3人の戦友であり上官だった人達を観て、もう一人の恩人を想う。
<ミハル分隊長だけが。あの日に最期を迎えられた女神様だけが居ないのは寂しいけど。
あの子の中にいらっしゃるんだもの、美晴ちゃんの中に・・・>
嘗てオスマンで共に戦い、教え導いてくれた掛替えも無い人を想う。
今はもう姿を観ることは叶わないのだと、諦めに似た思いで。
「おーい、チマキ。ちょっと話があるんだ!」
マモルが手招きして呼んでいる。
「あ、はい。マモル2佐なんでしょう?」
ラミを置いてコハル達の輪に入ると、マモルが娘を指して。
「姉さんから伝言したい事があるそうなんだ」
「は?!誰からですって?」
チアキは女神が何を言い残したのだろうとコハルを見詰める。
この少女に女神が宿っているのは知っていたが、
闇の結界の中でもなければ周りに悪魔が存在している訳でもないのだから、
少女に言伝を頼んだのだろうかとコハルの口が開かれるのを待った。
コハルがチアキを見上げ、ネックレスを掴むと。
「あのねぇチアキ。頼まれてくれないかなぁ?
フェアリアに戻ったら御主人様に伝えて欲しいんだよ」
息を呑んだ、声も出せなくて。
チアキは我が耳を疑う。
戦車の中で聴いた声が、話しかけて来たから。
魔法でもかけられたかのように固まり、ネックレスを観る。
「私がこの時代に戻れたって、伝えて欲しいんだよ、御主人様に」
「あ・・・えっと。ミハル分隊長なのですね?」
女神の声に目を見開き訊き返してしまう。
「そっだよ?私もねぇ現実世界に声を出せるように進化したんだよ?!」
「進化って・・・何かの前触れなんですか?」
女神の声が現実世界で聞こえるようになったのには、きっと訳があると思って問いかけるのだが。
「うん、多分ね。ルシちゃんも復活したんだもんね。
これから先に何が起きるのか分からないけど。新たな脅威が出て来た事は間違いないよ」
蒼き魔法石から女神が答える。
今闘い終えた、邪操機兵の仲間が存在する。
闇に属する者達が居る。
嘗ての闘いが再発されるというのか。
敵の本当の姿とは?敵の狙いはケラウノスの再起動なのか?
「それじゃあミハル分隊長はコハルちゃんとこのまま?」
リーンに知らせて欲しいというのなら、女神はこのままコハルを護り続けるのか。
願いを果す為にフェアリアへは来ないというのか。
「そう。姪っ子ちゃんを護らないといけないからね。
この子を護る事は大切な神をも守護するって訳だから・・・ね」
女神はコハルを護る事を辞めないと言った。
「いずれ・・・姪っ子ちゃんが独り立ちできる時が来る。
眠り続ける神が現れる、その時にはきっとフェアリアへ行くからって。
御主人様に伝えて欲しいの、逢いたいのは山々だけどって」
「そうなのですか、折角現実世界で話が出来るようになったのに・・・残念ですね」
チアキも嘗ての二人の仲を知る者として、せめて声位は聴かせてあげたいと思うのだった。
「仕方がないんだよ、日の本とフェアリアじゃぁ距離があり過ぎるんだから」
「そうですよねぇ・・・」
ミハルの声が寂し気に聞こえる。
今迄黙って聴いていたコハルだったが、二人の会話が途切れたから口を出してきた。
「さっきから御主人様って呼んでるけど、リーン王女様のことだよね?」
(( ピクッ ))
ネックレスもチアキも同時に反応する。
「そ、そうだけど?姪っ子ちゃんはもしかしてリーンに逢った事があるの?」
「あるよ!」
(( ビクッ ))
ネックレスが跳ね上がる。
「だって前にも言ったと思うけど?
このネックレスをくれた人でしょ?
今はルナリーンって名前だけど、月の女神が宿ったお姉さんでしょ?」
コハルの声にミハルが引き攣った声を出す。
「そ、そういえば。そんな事を言ってたわよね・・・え?!」
ネックレスに宿る前だった。ちょうど今から一年前の事。
リーンの手に在った時には宿れていなかった。
必ずこの石に戻るからと、リーンに誓った筈なのに。
蒼き魔法石の中へ戻ると約束を交わした筈なのに・・・
けれども目覚めれば、姪っ子の手元に居た。
それは姪っ子の運命を見守る為、呪いを掛けられた少女を邪な者から護る為だと分った。
リーンは必ず戻って来る筈の女神を、コハルに託してでも守ろうと思ったのだろう。
もう二度と同じ繰り返しへと世界を貶めない為にも、理の女神を授けたのだろうと。
「ルナリーンお姉ちゃんと約束したんだよアタシ。
必ずまた逢おうって。アタシがフェアリアに戻った時には、もう一度逢おうってね」
「姪っ子ちゃんに、そんな約束を?」
女神の問いにコハルが頷く。
「なぁ~んだ、女神様を宿した姫君は、分っておられるんじゃないのですか?
ミハル分隊長が戻って来たのを、コハルちゃんにそれとなく言い渡してたんじゃないのですか?」
「そ、そうなのっ?そうだとしたら・・・畏るべし御主人様だね」
チアキがふと感じた想いを告げたら、女神も簡単に納得してしまった。
「ミハル伯母ちゃんって、本当に女神様なの?なんだか頼りないなぁ?」
「うっ・・・そこを突っ込まれると・・・女神の立場ってモノが・・・」
蒼き魔法石の中で女神がしょげてしまった。
「コハルちゃん、そんなにズバッと言ってしまうと。
ミハル分隊長の立つ瀬がなくなるわよ?」
チアキが苦笑いしながら女神を庇うのだが。
「あなたも。言ってる事に棘を感じるから・・・チマキ」
ブスッとした声が魔法石から漏れる。
「あははっ、ミハル伯母ちゃんって普通の人間よりよっぽど人間臭いよね?」
コハルが笑い、ネックレスを掛け直すと。
「アタシも分かったことがあるんだ。
女神様だって聞いていたからどうなんだろうって思ってたけど。
女神伯母さんは本当にマモル君のお姉さんだったんだなぁって思えるよ。
どんな厳しい人なのかなって最初は感じたんだけど。
いろいろと教えて貰って、ちっとも怖く感じなくなったんだ魔砲を使う事が。
伯母さんっていうよりも、頼れるお姉さんみたいに感じれるんだよ?」
女神に向かってお礼の言葉を贈った。
「ほほぉぅ、さっきは頼りがいのない女神とか言ってたのに?」
横からチアキが茶々を挟んで来ると。
「それは・・・まぁ、その。女神としてはってこと」
コハルが困ったように笑う。
「でも、アタシの伯母さんだもん。ミユキお祖母ちゃんの娘なんでしょ?
人間だったんだから、それくらいの方が馴染みやすいよ」
「・・・コハルちゃんの方がお姉さんに思えるのは私だけ?!」
チアキが大人びたコハルの言葉に感銘したようだが。
「チマキ・・・覚えてらっしゃい・・・」
地の底から湧きだすような声で女神が言い渡した。
「マーブル教導官!日本の司令官から電話が繋がってますよ?」
戦車兵に手伝って貰っているルマが手招きしている横で、ラミ候補生が電源を繋げた<輝騎>から呼んでいる。
「うん?島田司令官が?何の用だろ」
戦車兵に電力を別けて貰い、起動させようと手配していたマモルも。
「本部に帰って来いと言われたんだけどさ、コハルも含めて全員で」
部外者であるコハル達まで呼び出した父に、マモルが首を捻って教えたのだが。
「はぁ?全員で・・・ですか?」
取り敢えず、輝騎のモニターに写る通信担当者に訊ねてみた。
「司令官は何と仰られているのですか?
全員で本部に出頭するように伺ったのですが?」
自分達フェアリア国に所属する者として呼び出されるのか。
戦った者としての仲間として呼ばれるのか。
前者と後者では意味合いが違うし、下手をすれば問題が拡がるかもと考えた。
「「全員で本日あった出来事を報告して貰いたい。
司令官はそう仰られておりますので、全員の参集を求められております。
それから、破壊された建造物はそのままにしておくようにとも命じられました」」
モニターに映る通信士がマモルの言ったのが間違いではないと告げた。
「判りました、輝騎の回収を終え次第に向かいますと、お伝えください」
チアキは通信を切り、輝騎の中から出ると。
「みんなで来るようにと命じられましたので。
本日あった事を聴取するらしいので、ミリア親子ミユキさんも。
それにコハルちゃん、あなたもだって」
振り向き様に声を掛けた。
「あらあら、私もなの?」
ミリア親子と整備が進む輝騎を観ていたミユキが困ったように袖を直して訊いた。
「はい、そう仰られたみたいです。同道して頂きますのでよろしく」
フェアリア大使館を修復しているラミに向かっても、
「どうやら修復はほったらかしにしてもいいようだぞ、ラミ。
邪操機兵は闇に還ったんだから、消す手間は無いし。
崩れた建物は、何かの拍子に壊れた事にして貰えそうだからな」
「本当ですか?!ラッキィー!」
修復魔法を停めたラミの喜ぶ姿を観たチアキが。
「どうですか?充電の方は?」
ルマやマモルに訊ねると。
「うん、故障部分は僅かだけど、動かすのは問題がありそうだな。
地面から起こして戦車に載せよう。で、そのまま運ぶのが良いだろうな」
「了解です」
輝騎は極秘兵器であるから、このまま放置してはおけない。
運搬方法として思いついたのは先程行った戦闘と同じ手だった。
「それじゃあみんな。本部迄乗り合いになるけど便乗しようか」
マモルの掛け声に皆が頷く。
砲塔周りに腰かけたコハルにマリアが寄ると。
「お疲れさんやったなコハル。長い夜やったなぁ」
慰労を兼ねて話しかけて来る。
「そうだよね、こんな長い一日は初めてだよ」
振り向き答えたコハルの顔を観たマリアが。
「女神様もお疲れじゃないんか?」
何の気なしに言った一言に。
「そうよ!こんなに酷使された私の身にもなってよね!」
魔法石からミハルの声が。
「お腹減っちゃったわよ!昔みたいに・・・まるで人に戻ったみたいに、ね!」
女神に食欲があるとは思えないけど・・・と。
マリアは、魔法石をジト目でみるのだった。
女神の働きにより闇を打ち破った仲間達。
集う者は報告の為にマコト達の元へ向ったのだが。
ソコに現れた蒼乃宮により、彼の国へ連絡が取られることになる。
電話口に現れる者によって、告げられたのは?
次回 約束と希望 Act2
ああ、果されぬ想い。ああ、話される願い・・・
ミハル「・・・・ものすっごく。嫌な予感が・・・近付いてる?」




