新たなる魔鋼 輝騎<こうき> Act8
損な女神はいつの時代も・・・
で?
コハルは<光と闇を抱く者>として、異能を放つ!
邪操機兵目掛けて撃った処までは良かったのだが。
「にゃぁ?!にゃんで停まっちゃうのよぉっ、こんな大事な処でぇっ?!」
思わず、にゃ語が出る。
泡を喰った女神が魔法の力でなんとかしようとしたのだが。
「駄目ぇっ?!動かにゃいぃっ?!」
姪っ子の身体を使い、ここまで来たというのに。
最後まで電源が保てなかった、落下する輝騎で。
「ひゃああっ?!落っこちるぅ地面に叩きつけられちゃう!」
女神ともあろう者が。
泣き声を上げて誰かに助けを求めた・・・が。
「脱出!そうだ脱出すれば・・・って、落ちるのは同じかぁ!」
慌てた者が負けって、いつも女神自身が言ってたのに。
「はっ?!待てよ。よく考えたこの機体の装甲って落ちるくらいで壊れないかも。
それなら中に居た方が安心よね・・・って。落ち着いてる場合じゃない!」
錯乱する女神。自分は魂だけだから痛くも痒くもないが。
「マモルの娘に疵を着けたら・・・死んでも死にきれないわ!
・・・って、生きてないけど。ど、どうすれば善いのよぉ?!」
コハルの身体に宿る女神が騒ぎまくる。
で・・・助けを求めるのは。
「ル、ルシちゃんっ!起きてよぉ。あなたならこんな時どうするの?!」
さっき逢う事が叶った神たる者に、助けを求めた。
「そ、そうだ!現実世界に出れるとルシちゃんが言ってたんだ!
こんな時こそ・・・毛玉かぁ・・・嫌だなぁ・・・でもしょうがないし・・・」
自分で言って、自分で落ち込んで。
間も無く地面に叩きつけられるだろう瞬間を思い。
「もうこうなったら・・・やるしかない!」
女神が決断を下した、その僅かに後で。
(( グワッシャーン ))
輝騎が地面にめり込んだ。
___________
地面にめり込んだ機体の頂部にある緊急脱出用のキューポラ。
ハッチの口径は人がやっと抜けられるくらいに細狭い。
「コハル?!無事なの?!」
「コハル?ミハル姉さん?」
二人がハッチを開き中へ呼びかけた。
「うにゅぅ~っ、ルマおかあさん。マモルくぅ~んっ」
コハルの声が無事なのを教える。
「コハルっ?!」
ルマが喜色を浮かべて内部を見下ろしたら。
「えっ?!」
コハルが何か得体の知れないモノに載りかかっているのが観えた・・・
「なに?!それ?」
初めはエアバックか何かかと思ったのだが。
ルマが覗き込んだ一瞬後には蒼い何かは消えてしまっていた。
「あれ?!私・・・なにかおかしなものでも食べたかしら?」
眼を瞬いてもう一度娘を観たが何も残ってはいなかった・・・
「きゃんっ?!痛ぁ~いっ」
蒼い何かが消えた内部からコハルの悲鳴が返って来る。
「だ、大丈夫なのコハル?!」
コハルがコックピットでひっくり返っているのを、ルマの横から手を指し伸ばして救い出すのはマモルだった。
「コハルかい?それとも女神様?」
まだ魔法衣姿のコハルを掴みだしたマモルが訊くと。
「アタシ。コハルだよ?!」
「そっか・・・じゃあもう安心だな」
マモルがため息を吐くと、コハルを抱きかかえた。
女神が消えたのなら、もう敵は存在していないのだと思えたから。
コハルを抱いたマモルが、魔法衣のリボンの陰に見え隠れするネックレスを観ると。
<お疲れ様、ミハル姉。ゆっくり休んで>
約束通り、娘に傷一つ着けずに帰した姉に感謝した。
「マモル君・・・アタシに何か言いたいの?」
抱き上げられ、見詰められ続けるコハルが訊いて来る。
「いや、何も。コハルは戦闘中の事を覚えているかなぁってね」
女神に宿られるって事が、どんな事なのかが判らずに口を吐いて出たのだが。
「うん!覚えてるよ。ミハル叔伯母さんがどう闘ったのか、とか・・・」
「?・・・とか?」
返された言葉に引っ掛かる部分が。
マモルが訊き直したら、コハルはちょっとだけ口籠ると。
「うん、あのね。女神様でも慌てるんだなぁって。
それでね、アタシを無事に護り抜く為に、とんでもない事をしてくれたんだよ?」
ーーー ピク ---
ネックレスが震えた。
「落ちて地面にぶつかる瞬間に・・・」
抱きかかえられたまま、コハルが女神が何をしたかを教える瞬間。
「だぁ!言わなくて良いのよ損な事は!」
「・・・・・・・ミハル姉。何をしたんだよ?」
女神の声が聞こえた事より、コハルに何をしたのかを問うたのだが。
「だって私も一応女神だからさ。
約束は守らなきゃって思った次第で・・・って。
あの・・・マモル、驚かないの?」
ネックレスからの声にも、マモルが普段通りに喋っているのに気が付き。
「あの・・・マモル?ミハルですけど?」
「さっきからそう言ってたじゃないか?驚く必要なんてないよ、もう」
「そうそう!声だけならびっくりする必要ないわよね?!」
マモルとルマが今更・・・と言うが。
「感動ってもんが・・・無いわねぇ。ぶつぶつ・・・」
女神が独り愚痴る。
「でね。伯母さんがアタシを救った方法というのが!」
蚊帳の外だったコハルが今一度言おうとしたら。
(( ベチ ))
「きゃぁ?!」
ネックレスから蒼い何かが現れてコハルを叩いた・・・ように観えた。
「へ?!今の・・・何?」
叩かれた本人であるコハルより、観ていたルマが驚いた。
「観なかった・・・そう。あなた達は何も観なかった。
そして姪っ子ちゃん、あなたは忘れるの・・・これは女神のいいつけよ!」
ネックレスがぶるぶる震えて3人に命令して来る。
「そ、そう?ボクには何だかとても懐かしいような気分がしたんだけど?」
「うんうん、何だか知らないけど。どこかで逢ったような気が・・・」
マモルもルマも、ミハルに従おうとしていなかった・・・ら。
「「「 忘れなさぁ~いっ! 」」」
女神が怒鳴った。
「さて・・・と。それじゃあ・・・やりますね?」
邪操機兵の残骸に向けて審判を下した女神により。
「うん、ここからは<光と闇を抱く者>にしか出来ない事だから」
ネックレスの声に導かれて、コハルが魔法衣姿で機械兵に近寄る。
「シャイニング・ジャッジメント!」
呪文を唱えたコハルの左目が金色に代わる。
聖なる導きと冥府魔導を司る巫女へと。
「邪なる者よ、我が宿りし巫女の前に出でよ。
この娘の力で送られたいのは何処なりか?」
理の女神が邪操機兵に告げた。
「アタシの手で送られたいのは?神の御許?地獄?」
コハルの手に紅い光が灯り始める。
だが。邪操機兵に封じられた魂は応えない。
「そのまま機械と共に滅びようとしても無駄。
魂の行き場を示さねば、あなたは永遠に彷徨うだけになるのよ?
帰る場所も見つからず、再び産まれ出ることも叶わずに・・・」
女神が真実を教える。
魂の行き先が決まらなければ、無になる事も出来ずに彷徨うと。
「宿る事も許されない、ただ彷徨うだけがどれ程の苦痛か。
あなたには判り様も無いでしょうけどね」
それは女神自身が知っている真実。
1000年もの時を越えて来たミハルだから言える言葉。
「私は欲する時に宿れたから良いけど。
それも叶わないのは恐怖を越えた苦痛でもあるのよ?
それでもあなたはそうなりたいと思うのかしらね。死をも超える苦痛なのよ?」
コンコンと説くミハル。
邪なる者に、改心させたくて。
それが1000年間続けられてきた女神の偽らざる思いだったから。
「うおおおぉっ、俺は何て馬鹿だったのか!」
漸く邪操機兵に宿らされた魂が答えた。
「反省は地獄でする?それとも神に御縋りする?」
金色の瞳で邪なる魂へ問うコハルへ。
「姪っ子ちゃん・・・いいかしら?」
ネックレスから女神が審判を下した。
コハルは一瞬だけ口をへの字に曲げたが、
「うん・・・そうなのなら。本当にそうだとしたら・・・」
コハルが右手に出していた紅い光を邪操機兵に向ける。
紅い光はやがて闇へと導く炎と化す。
紅く燃え上がった炎に導かれるように、地獄への門が開かれた。
「人はいつの時代でも欲を抱く。人は死しても尚、闇を捨てきれない」
女神の悲し気な呟きがコハルの耳を打つ。
「ぐひひひっ!俺は馬鹿だった。こんな小娘にやられるとはなぁ!」
オズベルトの魂は欲望を捨てられず、己が罪を認めようとはしなかった。
地獄への門が開かれて堕ちる者を求める手が無数に伸び来る。
「地獄も闇なら、お前と一緒に行くだけだ!
闇の王が俺を救い、お前を<無>にしてくれよう!」
「愚か者、地獄は闇なんかではない。
冥界は亡者が再生を果せる場所ではないのよ。
永遠に苦しみ悶え、己が罪を償う場所・・・それが地獄」
女神の声と同時にコハルが炎を放った。
「な・・・んだと?!」
驚愕するオズベルトの魂を紅い炎が取り巻き、地獄の門へと導く。
無数に伸びた手が炎ごとオズベルトを掴み、門の中へと引き摺り込んだ。
「ぎゃああああああぁぅ」
断末魔の悲鳴がオズベルトの最期を表す。
(( ガラガラガシャッ ))
宿る者を喪った邪操機兵が崩れると、闇の中へ静かに戻って行った。
「姪っ子ちゃん、残りの人達はどうかしらね?」
オズベルトに強制的に邪操機兵にされた黒服達を想い、女神が地獄へ送り込まずに済みそうだと言ったのだが。
「悲しい・・・悲し過ぎるよ。どうして心まで堕ちてしまうの?」
コハルはたった一度だけでも地獄送りにした魂を想っていた。
「そう。そう思うのが人たる心の顕れ。
あなたはこれからずっと背負わなければならない。
罪の重さと人の業を知ったのなら、立ち向かわねばいけないのよ」
女神が諭す。
姪っ子である魔砲少女へ。
「うん。アタシ・・・想うの。
人は強くなれれば、闇の中から抜け出せると・・・想うの」
コハルの言葉にミハルも思う。
<そう・・・私みたいになっては駄目よ、美晴ちゃんは>
運命に翻弄され続け、未だに約束さえも果たしていないから・・・
姪っ子の言葉に、女神は願うのだった。
「私も。強くならなくっちゃ・・・
そうだよねリーン・・・そうだよねルシファー」
新たな魔砲少女の時代の幕が開かれた。
女神の力を必要としない、強き魔砲少女を世界は求めていた。
闇と闘う為に。
新たなる敵に打ち勝つ為にも。
どうやら戦いも無事終ったようですが。
なにやらルマが垣間見たようですが?
次回から第1章ラスト話に突入。
と、言う事は?!アレですね、アレになるのですね?!
次回 約束と希望 Act1
女神は新たなる時代を教える、新たなる備えを急ぐべきだと知らしめる
ミハル「・・・まさか?私ともあろう者が?!損なっ?」




