ファースト!甦る魔砲 Act3
現れた闇。
コハルは恐怖に打ち震えた・・・
助けが来てくれるように願って。
毛を逆立てて威嚇する猫・・・
夕日が入り込まない場所で蠢く者・・・
黒い影が誰を狙って現れたと言うのか。
何が目的でそこに立つのか。
走り寄ったコハルが猫を抱き上げる。
「逃げよう猫ちゃん!」
抱きかかえて後ろも振り返らずに逃げ出そうとしたのだが。
((ブワァッ))
「ひっ?!」
黒い霧がコハルと猫を覆い隠そうと伸びて来る。
蠢く影から・・・
ー あ。そうだ・・・あの時と同じ・・・フェアリアの時と同じだ!
月夜の晩に現れた怪異。
宮殿の庭先に現れた影。
記憶が一瞬で蘇った。
「嫌ぁああぁっ?!」
恐怖・・・それは悍ましい過去の記憶と重なる。
猫を抱きしめて恐怖に蹲るコハル。
闇より出でる黒い霧。
霧の中に包まれてしまえばどうなってしまうかも分からない。
蠢く者に捕えられてしまうのか、連れ去られるのか・・・
「だ、誰か・・・た、たすけて・・・」
蠢く者を振り返り、恐怖に助けを叫ぶ。
闇は突然襲って来た。
蠢く影は正体を現す。
夕暮れに照らされる地表を闇で覆いながら・・・
コハルの記憶に残された闇。
フェアリアで出遭ってしまった闇の者と同じ。
ゆるゆると近寄る恐怖の存在は、黒い影から実体となって姿を見せた。
全身を黒いマントで覆い隠し、包帯の様な布で巻き付かせた手を指し伸ばし。
頭から被ったマントの切れ間から、片方だけ覗かせている眼。
妖しく輝く赤黒い眼でコハルを睨みつけている。
「みせろ・・・見せてみろ・・・差し出せ・・・」
蠢く影が手を伸ばす。
「お前に秘められた力を貰おう・・・」
包帯を巻いた手が差し出されてくる。
「力を差し出さぬとあれば、お前を貰おう・・・」
わなわなと震える手が開かれる・・・と。
(( ジャキッ ))
3本の鍵爪が現れる。
鋼の鍵爪が、怯える少女を威嚇した。
「ひっ?!」
猫を抱きしめたコハルの絶句が、闇の者を更に呼び込む事になる。
「渡せ・・・今直ぐ・・・貰い受ける・・・」
ぼそぼそと話す闇の者。
ゆるゆると闇が迫る・・・コハルの元へ。
一歩・・・また一歩・・・
ガタガタと震えるコハルに・・・
「さぁ・・・来るのだ・・・我等が主の元へ。
復活を齎す主の元へ・・・来るのだ・・・」
怯える少女に命じる者・・・闇から出でた者。
恐怖に立ち上がる事も出来なくなったコハルが、恐怖に眼を閉じて・・・
「助けて!マモル君!ルマお母さん!助けてミユキお婆ちゃん!
た す け て・・・・リィーンお姉ちゃん!助けてよぉ!」
必死の声が闇に轟く。
必死の想いが光を呼ぶ。
願いは届く・・・想いは呼ぶ。
闇に相対する者へと。
胸に下げられた碧き魔法石。
月夜の晩に贈られた秘宝石。
闇に立ち向かう者へと贈られた魔砲の力・・・
碧き光が・・・魔砲の力を蘇らせる。
世界から一度は消された魔法の力。
宿命の女神に因り、世界から打ち消された筈の魔砲。
だが、闇が存在するのならば、光もまた現れる。
・・・
・・・・・・・・
コハルの胸に下げられた碧き魔法石から光が現れる。
小さな・・・とても小さな碧き光が。
覆われた闇を打ち破って・・・・
・・・・・・・・
・・・
じっと次に起こる最悪の瞬間を待っていた。
「にゃぁ?」
「えっ?!」
抱きしめていた猫の舌の感触を頬に受けて、やっと目を開けた。
目の前には夕焼けに染められた世界があった。
夕日に染められた猫が鳴いている。
そこにはもう闇など存在してはいなかった。
公園の片隅で猫を抱きしめているコハルだけがぽつんと座り込んでいた。
「なにが・・・あったの?!」
周りには怪異など存在せず、夕日に染まった紅い空があるだけだった。
「化け物は?あの包帯ぐるぐる巻いていたお化けは何処に行ったの?」
周りを見回しても、気配を探っても。
今起きた事が夢であったかのように感じる。
「アタシ・・・助かったんだ。
お化けから助かったんだ・・・ね?猫ちゃん?!」
抱き締めていた猫を離したコハルが、立ち上がって周りを観る。
まるで何もなかったような公園。
影に襲われたのが夢のようにも思える。
公園に植えられた木立の間に、太陽が沈み込んでいく。
夕日が長く影を曳き、たった独りでいる事が怖くなったコハルが。
「猫ちゃん・・・アタシ・・・帰るね」
猫に手を振って走り出した。
急いでこの場を離れたいと。早く両親の居る処に帰りたいと。
「夢だったんだ・・・こんなの悪い夢に違いないんだ。
早くルマお母さんの待ってる家に帰らなくっちゃ!」
寄り道してしまった事を後悔する気持ちで一杯だった。
今朝、登校する時にマモルから言われた事を思い出しながら。
「マモル君ごめんなさい!マモル君の言った通りだったよ」
必死に逃げ帰るコハルは、観えない父に謝る。
公園を出て走り帰るコハル。
どうして助かったのかなんて考える余裕なんてある筈もなかった。
・・・・
少女が無事に帰って行く姿を見送って、太刀を紅い鞘に納める。
靡く黒髪を手串で掻き揚げ、ほっと胸を撫で降ろす。
「私に出来るのは闇を追い払う事位だから。
昔とは違って・・・今はこれが精一杯なのよ・・・ミハル」
袴を風に翻した女性が微笑む。
「あなたならこう言うでしょうね、年寄りの冷や水って・・・ね。
あなたが呼んでくれたのでしょう?
孫を闇から救って・・・と。蘇りつつある闇から救えと。
ねぇ・・・ミハル?」
宮仕えだった神官巫女姿のミユキが、紅鞘の太刀を片手に見詰めていた。
コハルの姿に娘を重ねて・・・
「いつになれば戻ってくれるの?ミハル・・・」
陽が彼方の地平線に沈み、月が空に浮かんでいた。
薄く見え始めた満月を見上げて、ミユキは娘に想いを馳せる・・・
闇は消え去った。
どうやって?
誰が?
呼ばれた声に導かれ、闇を切裂いたのは初代の御子。
剣薙・・・と、呼ばれし巫女だった・・・
コハルは恐怖に眠れなくなった・・・
次回 ファースト!甦る魔砲 Act4
君には妖しげな者の影がみえるだろうか?
ミハル「誰だって怖い思いをすれば聞いて欲しいと想うもの・・・」