新たなる魔鋼 輝騎<こうき> Act5
輝騎に乗り闘う。
女神は嘗ての仲間達と同じ戦場に立つ。
モニターの端にイエローランプが燈った。
戦車と接続してあるケーブルから、充電器を介して供給されている電力では足りなかった。
「どうやら足りないみたいだな、このまま暫くは載せたままで闘うしかないか」
マモルが電話から漏れ聞こえるマコトの声から読み取って呟いた。
「それはそうでしょ、輝騎は30式の6倍もの動力を必要としているんだもの」
ルマが通信を捉えながら、発電機限界一杯までアクセルを空ぶかしするマモルへ言った。
フェアリア武官であるルマは、コハルの件でマモルやマコトとの情報交換を行っていた。
それは決して国外へ情報を漏らさないという条件付きでの話であったが。
輝騎の整備状況が進んだこともあって、今回の事件に出撃させられた。
このまま放置出来ないまでになってしまったフェアリア公使補ミリアと、娘マリアの救出。
そしてコハルを護る為、ルマは全てをマコト達と計ってミリアに退職願を出したのだ。
そうする事に因り相手が焦り、行動に移すだろうと。
「だけど、まさかこんなに邪操機兵を繰り出して来るとは思わなかったわね?」
数か月前に現れた邪操機兵。
とある事件によって発覚した存在。
闇の中から召喚された機械兵は、軍の秘密兵器を奪わんとして見つけられた。
「マモル達日本国防軍を嘗めていたのか、撃破されるなんて思わなかったのか。
とにかく一機撃破出来たのが始りだったんだよねマモル」
「そうさ、そうでなかったらボク達は何も知らなかっただろう。
輝騎も本来の目的に製造されるだけだったろうさ、魔砲力が蘇ったなんて信じられなくて」
闇が自ら墓穴を掘らなければ、輝騎は造られなかったという。
敵に人形兵器があり、脅威に感じた事が始りだったのだと。
「そして、ミリアさんが闇に捕まったのを娘から零れ訊いたんだろ。
きっとボク達のコハルへ何かを企むだろうと思ったから・・・」
「そう、だからミユキお義母さんにも頼んだのよ。
暫くは様子見に徹してって。黒幕を捕まえるからと言ってね」
コハルの両親は事件のあらましを語った。
「はいはい、私が甘かったんですから。
娘を庇うつもりが自分が染められるなんて・・・面目ない」
キューポラからミリアが謝って来る。
「いえいえ、私も知りながら手を出しませんでしたから。同罪ですよ」
チアキも今回の件が全て島田家の謀だと分かっていた。
「チマキ・・・お前はユーリ女王陛下に命じられて来たんだろ?
オズベルトの尻尾を掴んだら逮捕するようにと?」
「ははは・・・バレてましたか」
こうなる事で日本国に迷惑が掛かり、はたまた自国の面目が潰れる事を懼れた女王命が下された。
新規開発の深海調査機械の譲渡を求めるという名目で。
旧世界の勇者である剣聖チアキ少佐を送り込んで来た。
そこで行われようとしている事件を嗅ぎつけたチアキだったが。
「ルマさんに・・・シャルに告げ口するぞって言われなかったら。
とっくの昔にやっつけてましたがね、オズベルト個人を」
はははっと笑うチアキに、ルマも笑って。
「ホント、チアキっていつまで経っても結婚できそうにないわね」
「・・・ほっといてください・・・Orz]
がっくり肩を落とす剣聖娘に言い返してやった。
「それはさておき・・・だ。
3機の小型邪操機兵とデカ物・・・どう闘うかだな」
ミリアが昔の勘を取り戻して戦闘方法を考えるが。
「それは後ろに控える女神姉にでも訊いたら?」
マモルがケーブルにつなげた輝騎に乗っている女神を指す。
「そうねぇ・・・聴こえるミハル先輩?」
キューポラに備えられた電話を掴んで話しかけてみたミリアへ。
「久しぶりに<センパイ>って・・・ミリアね?」
「そうです、どうやって奴等を黙らせるつもりなのですか?」
手短に訊こうとしたミリアに、少し考えてから帰って来た答えは。
「それじゃあ、木馬作戦とでも行きましょうか?」
ミハルが何かを思いついた様だった。
「その・・・作戦名の意味は?」
ミリアよりも聴いていたマモルが眉を顰める。
「え・・・っと。木馬って乗る物だよね?
つまり・・・そう言う事・・・・」
バツが悪そうな声が返って来た。
「戦車に乗って撃つだけが作戦なの?!」
ルマも呆れて訊き返す。
「なるほど・・・それならケーブルを繋いだままで闘えますね」
チアキは行動時間の制限が枷である輝騎には、もってこいだと考えたようだ。
「・・・戦車に乗っかって撃つだって?まぁ、ミハル姉だから倒せるだろうけど」
マモルは何か釈然としないものがあったが。
「皆さん、悠長に話してる場合じゃなくなりましたよ。
やつら・・・マジに出てくる気みたいですよ?!」
照準器を観ていたチアキが振り返ってミリアに報じた。
大使館の壁を破り、邪操機兵3機が姿を晒けだして来た。
「この辺りには民家が少ない・・・けど。
このまま放置しておけばいずれは世間に知れ渡るだろう。
早い内に始末しておかないと、大変な事になる」
ミリアがキューポラから観測して戦闘態勢に移行するべきだと言った。
「しょうがない、ミハル姉の言った通りにするか」
マモルがアクセルを緩めて電話口に言った。
「しょうがないとは何よ!人が考えたのにっ、ぷんすか!」
ミハルは・・・自分が返って来れたから、心を許した者達に話した。
ー 人に戻ったんだと言いたかったのかな?
マモルは姉の口調を執る娘を想って、笑い顔になる。
「どのみち奴等を封じ込めなければ始まらないんだからな。
マモル君、ここは女神先輩の言う通りに動こう!
指令方法は昔のままでいいかしら?」
キューポラで車長配置に就いているミリアが、皆に向けて訊いた。
「その方が良いですよ、ミハル姉さんもきっとその方が分かりやすいと思いますから」
クラッチを1速に入れたマモルも、納得顔で返して来る。
「了解です!ミリア小隊長と再び同乗出来るなんて。感極まりますね!」
チアキが嘗ての車長であり、小隊長であったミリアを振り仰ぐ。
「ええ、私もよ。チマキ・・・うふふっ!」
昔の徒名で返してきたミリアに、チアキも微笑む。
「・・・では。往きますよ!」
二人の会話が切れた瞬間を狙う様に、マモルが30式を発進させた。
「よしっ!戦闘っ、対機動戦っ、3機の邪操機兵を殲滅する。
大型の方は敵の出方次第・・・突撃開始!」
ミリアの命令を受けて、チアキも自動装填装置の入力を始める。
「初弾!90ミリ徹甲弾を装填します。次発も同じ・・・用意よろし!」
装填機に弾庫から砲弾が、チアキの入力通りに砲尾にあげられ、
(( ガシャン ))
装填棒で込められたのを確認した。
「装填よしっ、砲撃準備完了!」
数年前までは完全自動装填装置など搭載されている戦車は殆どなかった。
時代が進んだことを如実に表すのが、戦争に使う武器。
時代の先端を行く技術が搭載されるのは、いつの時代も変わらない。
「日本戦車にしては優秀じゃないですか、マモルさん?」
チアキはヨーロッパ戦車にひけを取らない砲性能に、訊いてみたのだが。
「そんな技術をもっと他に廻せば良いモノを。
そう思わないかい、チアキは?」
軍部に務める物とは思えない言葉をチアキに返してきた。
「・・・そうですよね。すみませんでした」
マモルが言いたかったことそれは、戦争など放棄すれば無駄な技術を開発せずに済む。
その時間や労力、そして莫大な資金を平和に貢献する努力に注がなければいけないという事。
「チアキ、今は奴等を倒す事だけに集中するの。昔のようにはいかないわよ!」
ミリアが潜望鏡に映る邪操機兵を睨んで窘める。
「了解!」
チアキが頷く間も、照準装置に距離が表示される。
先程一両の30式を倒した邪操機兵が最も近い。
その距離僅かに200メートル。
「「チアキ!先ずは敵の動きを停めてくれる?避けた処を私が撃つから」」
電話から輝騎に乗っている女神が頼んで来た。
命中させなくとも、避けさせれば良いと。
「そうか・・・そう言う事だったのですね!」
ミリアが<木馬作戦>の本意を悟る。
戦車砲で邪操機兵を撃ち、弾を避ける処を後部に乗っている輝騎の魔鋼弾で撃ち抜くのだと。
「「うん、私も初めて操作するから巧くいくかどうか分からないけど。
単騎でばらばらに撃つよりは命中確立が高まるかと思ってね」」
女神と言えど、初めて動かす魔鋼騎<輝騎>がどれ程の物か分からないと言って来る。
「「それに、この距離から機関砲で撃ってダメージを与えられ無かったら。
逆に私が避けさせてチアキに撃って貰うという戦法もありかなって」」
輝騎が装備している20ミリ機関砲の貫通力に疑問を覚える女神ならではの作戦。
「なる程ねミハル姉、勘は未だに健在ってことね?」
ルマが通信機で本部との交信を執りながら、マイクに向けて話しかける。
「「ルマ・・・それともう一つ。
この魔鋼機械の欠点はね、電力消費が激しいという事。
イザとなれば接続を解除して闘わねばならなくなるから。
きっと・・・ボスを倒す時には分離しなければならない。
その時まではこのままの状態を維持したいの」」
女神は、目の前に映るミニターに表示されている残り時間が、
充電しているというのに減って行く状態を鑑み、早期の決着を図ろうとしていた。
「・・・女神姉には分かるんだね?油断出来ないんだってことが」
マモルは操縦しながら確かめた。
「「そう、だから。邪魔な3機の邪操機兵に時間を費やすなんて出来ないの。
ボスキャラを倒す迄は、魔鋼機械が動いてくれてなきゃいけないから」」
尤もな意見だと思った。
30式だけでは荷が重いと考えられたから。
「じゃあ、砲撃しますからねミハル隊長。
奴を右舷側に避けさせます、命中すれば次の1機に振り替えますが」
チアキも元々が砲手である。
オスマンでミハルに因り猛訓練された、生え抜きの砲手であった。
「よし!奴は動きを停めている。マモル君っ、撃って来るかも知れないわよ?!」
ミリアが注意を促した時。
「コッチが先です!停車っ、スラビライザー作動っ、撃ちますっ!」
砲手側で砲撃動作が出来る。
嘗ては操縦手との連携が必要だった砲撃なのだが、こんな所にも技術の進歩がみられる。
「車体停止っ、撃っ!」
30式中戦車が急停止し、砲を擡げた砲塔が瞬時に旋回する。
射撃モニターに捉え続けている邪操機兵目掛けて、高初速の90ミリ徹甲弾が飛ぶ。
狙われた邪操機兵は砲撃があまりに突然だったので回避するのが遅れた。
徹甲弾はチアキの狙った的に喰らい付いた。
((ガボッ))
鈍い貫通音。
(( ガシャッ ))
人形兵器は煙も噴かずに崩れ去った。
「「なぁーんだ。避けれなかったんだ」」
拍子抜けしたような女神の声。
「ざっとこんなもんですよ。次は敵も油断しないと思いますから、頼みますね?」
チアキが倒した1機の後ろに居る2機を睨む。
砲撃を完了したチアキが、操縦をマモルへ戻して。
「マモルさんっ、敵も次は撃って来ると思いますから。回避をお願いしますね」
残った2機の邪操機兵がチアキがマモルへ予告したように、走り始めた30式へ火炎弾を放って来た。
右へ・・・左に。
回避しながらも、マモルは肉薄していく。
「「いいわよマモル。もう少し近付いて!」」
奥に居る2機の邪操機兵は、戦車に押し込められるように後退する。
「チャンスです!ミハル隊長っ連続砲撃開始!」
敵が退いた場面で、チアキは勝負に出た。
「「了解!撃てチマキっ!」」
チアキはミハルの声に微笑んだ。
その声は昔と同じ。
戦車長ミハルの声だったから・・・
相手は邪操機兵!
闇に掴まり闘う事を余儀なくされた半端者。
だが、油断すると手痛い眼に遭わされるのは間違いない。
だって、実弾を使っているのだから・・・
次回 新たなる魔鋼 輝騎<こうき> Act6
君は親玉機兵にどう立ち向かう?いや、その前に雑魚を始末しなければ!
ミハル「うわーっ、こうなれば奥の手を使うしかなイッ!」
・・・奥の手??




