新たなる魔鋼 輝騎<こうき> Act4
コハルの体を使って乗り込んだミハル(女神)。
操縦方法を訊いた人は・・・
国防軍情報班にも、無線は傍受されていた。
動力を取り戻した輝騎<零号機>と、司令部との通信を掴んでいた。
「どうやら、本当だったようだな・・・」
情報官からヘッドフォンを渡された男が呟く。
「やはり・・・ですか?」
情報担当官が男に伺う。
「時は満ちつつあるという事だろう・・・後は上の判断だな」
答えた男がヘッドフォンを情報官に返し、その場から離れる。
「黒野参議官殿、どちらへ?」
離れた男の名を呼んで、情報官が訊ねると。
「うむ、報告を入れておかねばならん。我々は事実だけを上申する義務があるのだからな」
黒野参議官は無線傍受室から出て行く。
誰に上申するというのか・・・それは答えなかった。
モニターが点滅している。
動力が戻った事に因り、通信が回復したのだ。
「ミハル姉、動力が回復したようだね。
先ずは操作手順から教えるから、オフラインになってる通信機をオンにして。
手元の黄色いボタンを押してみて」
戦車との電話回線だけでは教えようがないと思ったマモルが、本部との回線も回復させようとした。
「ええっと・・・これかな?」
電話口から、コハルの声に被さって女神の返事が返って来る。
コハルの身体を借りているミハルが、それらしいボタンを探して押し込むと。
モニター左上に誰かの顔が写り込んだ。
「ほぇ?!顔が?誰?」
本部との通信回線が繋がり、本部の操作官の顔が写された。
「誰って・・・君こそ誰なんだ?ラミ候補生はどこに居る?!」
本部に居る操作官には、事情が判ろう筈も無い。
「こちら島田真盛隊長です、司令官に報告があります」
通信に割って入ったマモルがマコトを呼び出す。
「輝騎に搭乗しているのは島田美晴、そして美春なのです。
そう伝えてくれれば父さん・・・いいや、島田司令官は分かられると思います」
通信担当の操作官に、早口でまくし立てるマモル。
「なんだって?もう一度ゆっくり訳を・・・」
「なんだと?!コハルちゃんが乗っているではないか、どういうことだマモル?」
ミハルの見詰めるモニターに、操作官を押し退けたマコトが写り込んだ。
「お父・・・さん・・・だ」
ミハルは声を呑んで呼んでみた。
「お父さん・・・お父さん、私、ミハルです」
コハルの姿を借りて呼んでも、信じて貰えるか分からないと思ったが、呼ばずにはおられなかった。
モニターに映った、眼鏡をかけた初老の紳士に。
「ミハル?!まさか・・・ミハルなんだな!」
でも、父は孫に宿った娘を瞬時に分かったようだ。
なぜなのかなんて知らない、どうして分かってくれたのなんて気にも留めない。
「お父さん・・・ただいま。戻れたんだよ?」
話しかけられる。
姪っ子に宿っているとは云えど、自分の言葉を伝えられた。
「ミハル・・・善く戻ったな。辛かっただろうに・・・ありがとう」
マコトは慰めとも感謝ともとれる言葉を贈って来た。
「うん・・・お父さんも。みんなを導いてくれていたもの。
女神として感謝します・・・ご苦労様でした」
父と娘の再開は弟の声によって途切られる。
「感動の再開は後回し!
司令官、今より輝騎はミハル姉が搭乗するんだ。
乗った事のない女神姉に、サポートを宜しく!」
輝騎隊の隊長を兼ねるマモルの声で、マコトは即座に指令を下し始める。
「そうだったな、今は現れた敵邪操機兵を倒さねばならん。
ミハルは直ちに操典を読め、モニターに初めから操縦方法を流す。
いいか、魔鋼騎と同じように思うな、嘗ての機械とは訳が違うぞ!」
ミハルの前にある正面モニターへ、輝騎の操縦マニュアルが映し出される。
人形兵器の輝騎。
操縦するには、普通の人間では並大抵のことではない。
だが魔法力のある者が力を使えば、思い通りの機動を執れる。
そうするには、魔法力を伝達させる必要があった。
「ミハル、まず最初に。ヘッドモニタリングチューブを頭の両側に着けろ」
マコトがモニター越しに操典を示しながら教えて来る。
座席のヘッドレスト両側から延びるチューブ先に着いた端子を髪に着ける。
「こう?」
「そうだ、それで良い」
確認する操作官を顧みてマコトが頷き、
「次は肩付近から延びた円環を両手首に装着するんだ」
同じくチューブの先に取り付けられてある円環を手首に填める。
「こう?」
「円環に着いた緑のボタンを押すんだミハル」
手首に填めた円環には、緑のボタンと赤色のボタンが付いていた。
緑のボタンを押し込むと円環が縮まり、手首にフィットする。
「そう、それで輝騎の腕はミハルと同化した。次は足だ。
足元にある円筒に靴を履いたままで良いから突っ込んでみろ」
コハルの身体では足元にある円筒には届かない。
入っても足首までがやっとの状態だった。
「お父さん、入ったけどこれでいいの?」
ミハルの声に、操作官へ質すと首を振る。
「うむ、底部にまでは届かんか。
それでは座席を動かすからな、そのままの態勢を執っているんだ」
目配せしたマコトにより、操作官が座席の配置を動かした。
座席の角度が変わり、中腰態勢になる。
座っていた角度が変えられて円筒部分に足が沈み込んだ。
操作官が感度を掴めた合図を送ると、
「どうだミハル?辛くはないか?」
コハルの身長が足らない為に窮余の策を執った事に。
「ううん、大丈夫。ちょっと足が開き過ぎかなって・・・」
通常なら脹脛部分で収まる円筒が膝頭近くにまで登っていた。
まだ動かしていない状態では、足を無理やり開かれた様にも感じたのだが。
「ふむ、円筒の配置を考え直さねばならないな。
ミハルには悪いが、今回は調節不能だと認識してくれ」
「うん、いいよ。耐えられない程じゃないから」
ミハルはそう答えるのだが、中腰で股開きだとバランスが悪く感じる。
立っているのが辛いとは思わないが、ちょっと姿勢を変えると倒れそうになる。
「コハルちゃんの身体が柔らかいから良いけど。
なまじ運動していない人が乗ったら・・・筋肉痛になっちゃうね」
宿った少女の身体に、ミハルは感謝する。
姪っ子は剣術を習い始めて、身体が柔軟になっていたようだ・・・と。
「さぁ、此処からだぞミハル。作動させるからな、ショックに備えるんだ。
コハルちゃんの魔法力を消耗する事になるのか?・・・大丈夫なのか?」
搭乗した者の魔砲力を、魔鋼機械は消耗する。
それは過去の機械と同じ・・・だと思っていたのだが。
「現在の機械は過去の魔鋼機械とは雲泥の違いがある。
試験結果では過去の魔鋼騎の8倍もの魔力が必要なのだ・・・耐えられるか?」
「はっ?!八倍っ?」
流石の女神も、それ程までに消耗するとは思いもしなかった。
「そんなに?じゃあラミちゃんはそれに耐えて闘っていたの?!」
モニターに映ったマコトが静かに頷いた。
「あ・・・あははっ、馬鹿に出来ないわねあの子。
そんなに優秀な魔砲使いさんだったなんて・・・知らぬが仏」
泡を喰う女神に、マコトが促す。
「ミハルは現在、コハルちゃんの身体を使っているのだ。
無理して姪っ子の身体を壊すんじゃないぞ、いいな?」
「わ、分かってますって、それくらいのことは!」
マコトに言われるまでもないが、少女の魔砲力に頼る事は出来ないと思う。
そんなに魔力を消耗するとは考えてなかったが、女神の自分になら不可能ではないとも思えた。
「操典は左下モニターに、常時映しておく。
咄嗟に見ることは出来ないと思うが、お前なら感覚で分かるだろう。
魔鋼騎士だった頃を思い出せば良い、後は格闘戦さえ行わねば何とかなるだろう」
マコトは操縦マニュアルを読むミハルへエールを贈る。
「簡単に言ってくれちゃって・・・ふふっ」
褒められたのか貶されたのか。
ミハルはマコトの言葉に笑う。
「良いかミハル、これだけは覚えておくんだぞ。
一番肝心なのは、残電力ゲージに注意を払う事だ。
それと言うまでもないが、火力にもだぞ!」
「はい!お父さん」
コハルの顔でだが、<お父さん>と呼んで来たミハルに。
「闘いが終わったら。ミユキと一緒に想い出話をしようじゃないかミハル」
父である司令官がそう話を結んだ。
現れた闇の眷属との闘いの果てに、親子が逢いまみえられると。
「うん、マモルも・・・一緒に、ね。お父さん!」
答えて来た娘に頬を緩めたマコトだったが。
「輝騎<零号機>は、これより現れ出た邪操機兵との決戦に入る。
各員各自の任を全うせよ!制限時間は僅かに5分、それ以上は電力が持たないと心せよ。
作戦・・・開始!」
操作官達に命じ、自らの手で零号機の発動ボタンを押し込んだ。
押されたボタンは初めから黄色信号を放っていた・・・




