<輝(ひかり)と邪(やみ)>Act7
マリアが思い出すと、怒りの表情を浮かべて言った。
「ウチの友達が観たんはこいつらの影やったんや。
こいつらを観たさかいに・・・ウチの家に鬼が居るって言ったんに違いないんや!」
その事を後から知ったマリアは。
「そうやと知らなかったから。
ウチはあの子と喧嘩してもうた・・・謝っても済まん事をやってもうたんや」
友達だと信じていた子から、鬼の話をされたマリアはその子と仲違してしまったという。
「それに、こいつらが現れてからや。ミリアママがおかしくなってもうたんは。
きっとこいつらがママを誑かしたんに違いないんや!」
怒りに震えるマリアが指さす。
「マリアちゃん・・・そんな事があったんだね?」
蒼き瞳で邪操機兵を睨みつけたコハルから聞かれた気がした。
「そうや・・・って。また・・・女神様なんですか?」
怒りに我を忘れて、関西弁のままだったマリアが気付いた。
コハルの声が女神になっていると。
「そう・・・女神だよ?」
「やっぱり!」
闇に属し、召喚されてきたという邪操機兵がこの場に現れた事で、女神もコハルに宿れたのだと踏んだが。
実の処、女神は堕神ルシファーに新たな力を授けられていたのだ。
闇の結界が張られなくても、悪魔が近くに居なくても現実世界に干渉出来るようになっていた。
「えっ?!マリア?アタシは何も言ってないけど?」
コハルがマリアに振り向き小首を傾げて来る。
「なに言ってるのよ、女神様に宿られてるんでしょ?」
コハルに答えたマリアの眼に、ネックレスが浮き上がっているのが観えた。
「えっ?!コハル・・・それって力で浮かばせてるの?」
コハルの胸元から蒼き魔法石が浮かんでいる。
女神が宿った魔法石がコハルの力で浮かび上がっているものだと思っていたが。
「うん?えっ?!ど、どう言う事?」
コハルが驚きの声で逆に訊いてきた。
コハルの力で魔法石が浮かんでいる訳ではなさそうだと分った。
「女神様ですね?声を出していたのは?」
マリアが宿る女神に訊ねると。
「うん!そうだよマリアちゃん。こいつ等がミリアに闇を植え付けたんだね?」
魔法石から女神が訊き返して来る。
「多分、そうだと思うのですけど?」
そうとしか考えられなくてマリアが肯定すると。
「そっか・・・召喚獣に、か。
それならミリアに落ち度はないわね、悪魔に操られた機械に一度は立ち向かったというんだね?」
「はい!ウチを・・・いいえ。私を護ろうとしてくれたんだと思います。
魔砲使いの私を闇に連れ込まれるのを身代わりになってくれたのだと思います」
女神の問いに娘マリアが即答する。
「良く解ったわ、あなた達母娘を護れなかったのは痛恨事だと。
この理の女神にして闇を討つ殲滅の希望が、目覚める前に手を出していたのね?」
マリアは魔法石の声に頷く。
半年前に起きた悪魔との遭遇に由り、ミリアは貶められる事になったのだと。
「許せないわね・・・私の戦友を貶めるなんて。
姪っ子ちゃんにも、あなたにも。そしてマモル達にも手を出すなんて。
まるで私を小馬鹿にしたみたいにも思えるわ!」
魔法石からの声が、現れ出た邪操機兵に向けられる。
「それと、フェアリア大使という肩書を利用したオズベルトにも。
神罰を与えなきゃならないわよね・・・それ相応の」
浮かんだ魔法石がコハルに向けて言い放つのは。
「いいこと姪っ子ちゃん。あなたには闇の力があるから。
奴をやっつけたら地獄の門を開いて頂戴。
奴を審判に掛けるから、抗うのなら地獄へ落としちゃって!」
人たる闇の者であるオズベルトを裁き、それでも闇を捨てないとあれば。
「私も人だった頃には地獄へ送ったモノだったわ。
大抵の人間は邪過ぎるから、地獄で粛罪させなきゃいけない事になる。
この世で粛罪を求めるなんて、殆どなかったわ・・・」
<光と闇を抱く者>としてミハルは闘った事があるという。
その結果、闇に属した者達は地獄へと落ちていったとも言うのだ。
「私は女神だから、地獄送りには出来ないの。
殲滅の女神だから、滅ぼすだけなのよ。だから姪っ子ちゃんに任せる他にないの」
女神は既に勝利を確信しているというのか。
闘う前から邪操機兵に勝つと分っているのか。
「でも、ミハルおばさん・・・アタシに出来るの?」
女神と呼ばず叔母と呼んだ。
現実世界で自分の口で初めて呼べたから。
「叔母さんか・・・姪っ子ちゃんにそう呼ばれるのも悪くないわね。
でも、私の姿は昔のままなのよね。マモル達みたいに歳を取らないから。
だから私は永遠の17歳・・・お姉さんよ!」
「はぁ?」
女神の声に、マリアもコハルもため息で応える。
逆に言えば、敵を前にして余裕があるのか。
女神が居る事で勝利を確信しているのか。
「何をぶつくさ呟いているのだ?!さっさと来るのだ!」
何も知らないオズベルトがコハルに命じるが。
「嫌!誰があなたなんかの言う事を聴くもんですか!」
コハルがたちどころに断りを入れる。
「そんな獣を出したって無駄なんだから!アタシの魔砲でコテンパンにしてあげる!」
右手を突き出し魔砲を準備するコハル。
<姪っ子ちゃん、撃ってもいいけど。期待しちゃ駄目よ>
魔法石から注意が促される。
「えっ?期待できないってどう言う事なんですか?」
魔砲の呪文を詠唱し終わったコハルが放つ前に訊くと。
<まぁ、当ててみたら分かるわよ。魔砲といえど倒せるかどうか分からないというだけ>
女神の忠告に戸惑うのだが、完成した魔砲力を解放させる事にした。
「アタシの全力全開魔砲を喰らってみて?!」
右側に現れた邪操機兵目掛けてコハルが撃つ。
金色の魔砲弾が、気合と共に放たれた。
「超爆輝弾・シュートォッ!」
悪魔達に対して威力の合った魔砲弾が吸い込まれるように命中した。
・・・が。
(( シューンッ ))
光の弾は邪操機兵の装甲板に僅かに焦げ目をつけただけで消え去った。
「えっ?!嘘っ!」
自分の魔砲が役に立たなかった事で、コハルはあからさまに驚く。
「どうして?!魔砲が利かない?」
邪操機兵に焦げ目をつけただけで、ダメージを与えられたようには感じられない。
<まぁ、そんな事だと思ったわ。奴等の装甲は伊達じゃないって事ね>
魔法石の女神は納得したように言う。
<嘗ての世界でも、魔力を打ち消す方法があったものね?>
「そ、損なぁ?!じゃあどうやってこの機械を倒せるの?」
コハルが動揺して女神に聴くと。
「あら?言わなかったっけ?
姪っ子ちゃん達の救援に来てくれる人に任せておけば良いのよ。
・・・ほら、来てくれたわよ?!」
魔法石がコハルに教えて来た時。
(( バリバリバリ ))
邪操機兵が現れた壁とは正反対の壁がぶち破られ・・・
(( ガガガッ ))
イキナリ曳光弾が邪操機兵目掛けて飛んで来た。
<あらあら。これはご挨拶ね?とんでもない子が来たわねぇ?>
惚けるように魔法石が笑う。
「ひゃあああっ?!マモル君ルマお母さん!」
傍に居る筈の両親を心配したコハルが弾の飛んで行った方に叫ぶ。
「ぎゃああっ?!危ないっ!」
そう叫んで逃げたのはオズベルト達。
(( ぶちぶち ))
曳光弾は黒服の男達を両親から引き剥がし、拘束していた綱を斬った。
「な・・・何が?」
弾の飛んで来た方を観る。
壊された壁から、銃口が硝煙を吐きながら現れていた。
<なによ・・・これは?>
女神も助けに来たモノに興味を持った。
「邪操機兵?いいえ・・・違う?」
人ならばこの口径の機関砲を素手で持てる訳がなかった。
硝煙を吐く銃口は、歩兵が持てる機銃口とは思えない位に太い。
突き出でていた銃口がオズベルト達に向けられる。
「こいつはね、輝騎っていうのさ。
闇の機械に立ち向かえる人の技術で造られた、新たなる魔鋼騎ってやつなんだ」
今の銃撃で、マモル達の拘束具を破壊したようだ。
狙って撃ったのかは分からないが。
「そうよ、コハル!マモルとマコトお爺ちゃんが用意していたの。
敵が邪な機械を持っていると知っていたから整備されたの。
遂にアジトへ踏み込めた、このチャンスをものにする為にね!」
マモルに抱きかかえられたルマが教えて来る。
「マモル君!ルマお母さん!」
ハッとなったコハルが二人に駆け寄ると。
「ごめんねコハル。それに義理姉・・・こんな事に付き合わせてしまって」
ルマが頭を深く下げて謝る。
「コハル、それに姉さん。訳はこいつら全員を逮捕してから話すから。
いまはここから脱出しよう!」
マモルの言う事が尤もだと分かる全員に。
「マモルの言う通り。
いくら女神だって、あいつらから護り切れるか分からないからね。
今はこの大使館から脱出しましょう」
ミハルの声で脱出を促した魔法石に。
「ミハル姉!喋れるようになったんだね?!」
ルマが驚喜しコハルに抱き着く。
「違う違う!ルマお母さんこっちこっち!」
胸に下げたネックレスを指して、声の主を教えた。
ハッとなったルマがマモルを振り返って。
「そんな・・・ミハル姉が・・・独自に?」
ルマは宿らなくても喋れるようになっているミハルに驚く。
つまり・・・ルマの記憶にある紅い毛玉を思い出したのだ。
毛玉は神を顕し、宿らなくても現世に姿を見せれた。
「ルマ、今は公使補を連れて脱出するんだ、急ごう!」
マモルはルマの考えを知ってか知らずか、急き立てて来る。
「あ、うん。分かったわ・・・」
マモルとルマがミリアを担ぎ、二人の娘を伴って邪操機兵から逃げ出す。
「まっ、待たんか!くそぉっ、こうなれば娘以外は皆殺しにしてやる!」
オズベルトは撃ってきた者にも目もくれずに追跡を命じようとするのだったが。
「島田隊長には一指も触れさせないぞ!」
(( ガガンッ ))
スピーカーからの声が流れ出て、壁が再び崩れ去る。
銃口を突き出した機械が現れて。
「日本まで来た甲斐があったな。
こんな凄い性能だとは思わなかった!」
マモルが輝騎と言った鋼の機械が機関砲を突き付けた。
敵たる邪操機兵にむけて・・・・
女神に混乱させられる小学生・・・・
しかしもって、相手が悪いような気が。
そして来る!遂に!!
ロボット大戦の始まりか?
次回 <輝と邪>Act8
君は機械の闘いに巻き込まれるのか?始った新たなる闘いに?!
ミハル「キターッ!私も乗りたいな(棒)!載せてくれるんでしょ?」




