<輝(ひかり)と邪(やみ)>Act4
倒れている二人を呼び起こそうと声を掛ける。
揺り起こしたマリアの眼が薄っすらと開けられて。
「コハル・・・コハルやないか。ウチはどないしたんやろか?」
まだ思考がはっきりしないのか、呆然と答えて来る。
「うん、私も良くは分からないんだ。
気が付いたらこの部屋で寝てたみたい」
抱き起しながらコハルが部屋の中を見廻し、
「マリアのお母さんも、まだ目が覚めていないみたい」
倒れているミリアを指す。
ぼんやりとお春の指す方を観たマリアが、ミリアを観て眼を見開く。
「アカン!コハルっ、今直ぐ逃げるんや!
ウチのオカンには悪魔が憑りついてるんや、早う逃げてくれ!」
状況を把握できていないマリアが咄嗟にコハルを逃がそうと叫んだのだが。
「ううん、多分もう。
お母さんに宿っていた悪魔は祓われたんだと思うよ。だって・・・ほら」
抱き起したコハルがマリアを母の顔を指差す。
ミリアの顔に逢った影は姿を消していた。
倒れて眠っている顔には、険しさが消えて微笑みさえも見て取れた。
「ミリアママ?!本当のミリアママに戻ったんか?」
マリアはまだ半信半疑だったが、コハルはマリアを母の元に誘う。
「観てよマリア。お母さんの顔には邪な気が残ってないよ?
マリアに似て優しそうな表情を浮かべられてるもの・・・」
コハルは自分が知らない間に起きた女神と悪魔の闘いを想い計る。
きっと・・・女神は二人を救ってくれたのだと思った。
「ミリアママ!ママ!」
コハルから離れて母に抱き着くマリアが呼び起こそうとする。
母と娘が闇から解放されたのを観て、コハルはこれで善かったんだと感謝する。
自分の魔法石に宿った女神に。
気を失っている間に、女神が救ってくれたのだと思って。
部屋の中には、最早闇の気配など感じられなくなっている。
先程まで感じられていた邪な気配は、部屋には感じられていなかった・・・が。
胸のネックレスは未だに輝きを明滅させているみたいに観えた。
<姪っ子ちゃん、油断しちゃ駄目よ>
女神が、そう諭している様に感じられる。
「まだ・・・何かいるのかな?」
二人に取りついていた悪魔は感じられない。
だが、まだ何かが此処に居るようにも感じる。
「マリア、お母さんを外に運び出そう!お父さんもきっと探してくれている筈だから」
マモルが心配して探しているのではないかと考え、
「マモル君ならきっとお母さんを連れ出してくれるし、起こしてくれると思うんだ!」
コハルはここで一番頼りになる人の元へ急ごうと言った。
「えっ?!コハルのお父はんが来てるんか?なんでや?」
マリアに訊かれて思い出したコハルが、慌ててミリアに呼びかけた。
「マリアのお母さん!コハルのお母さんはどこに居るんですか?
ルマお母さんは何処に捕えられているのですか?!」
揺り動かして訊いた時、マリアがコハルの腕をとると。
「コハルのお母さんやったら、一階の奥の部屋に居る筈や。
今から助け出しに行こう・・・直ぐに!」
「えっ?!ホント?」
マリアに教えて貰い、二人はミリアを担いで部屋を出る。
<姪っ子ちゃん、まだ大ボスが居るみたいよ。注意してね?>
魔法石から女神が忠告する。
コハルの元に届いていないと知りつつ、護るべき娘達に近付く闇を見張っていた。
<ここが精神世界なら・・・歯痒いわね・・・>
女神の力を出す事も叶わず、唯指を咥えて状況を見守るしかない。
最悪の場合、ルシファーから新たに授かった力を行使するしかないのかと思う。
女神の存在を知られてしまう虞があったが、ぬかりなく準備に取り掛かるのだった。
部屋から出たコハルが、どこかに居る筈のマモルを呼んだ。
「マモル君!どこ?」
大使館に来た時に、はぐれたままのマモルを呼ぶ。
「ねぇ!ルマお母さんの居場所が判ったの!」
一階のロビーに向かって階段を下りながら、父の姿を探したが。
「何処に行ったんだろう、確か・・・あの部屋に入ったきり出て来なかったんだよね」
コハルは内部を良く知るマリアに指し示して訊いた。
「あん?!あの部屋にか?せやったらコハル。
コハルのオトンとオカンは出会えてるんとちゃうかな?」
「ほぇ?」
緊迫感のない声でコハルが訊き直すと。
「あの部屋に入りはったんやったら。もう出逢ってはるんは間違いないやろ」
「はぁ?!」
だったらなぜ?・・・自分に教えてくれなかったのか。
端から出逢っているのなら、一声かけてくれても。
コハルは滅入ってしまう。
今迄の緊張感が一気に崩れ去りそうに思えた。
「兎に角、あの部屋までいこうや。なぁコハル?」
察したマリアがコハルに勧める。
「うん、本当だったらマモル君をぶっ飛ばすんだもんね!」
ぶつぶつ文句を溢しながらも、ミリアを担いでドアまで辿り着くと。
「マモル君!居るんでしょ、ドアを開けてよ!
マリアのお母さんが気を失ってるの、助け出そうよ!」
ドアの外から声を掛ける。
だが、返事は返って来ない。
「おっかしいなぁ?コハル、ホンマにここに来はったんか?」
マリアの方が小首を傾げて訊ねてくると。
「うん、間違いなく。
マモル君は入って行く前に、アタシをこのロビーで待つようにって言ったんだから」
間違いないと返すと。
「う~んっ、だったらもう外に出はったんやろか?」
そう言いつつも、マリアがドアノブに手をかけた・・・瞬間。
<居る・・・中に>
女神が感じ取った。
<マモルが危ないというの?ルマに危険が差し迫ったというの?
いけない・・・このままでは。悪魔とは違う者に狙われていたんだ!>
女神が手を拱いている間に、マリアはドアノブを廻してしまった。
(( ガチャッ ))
鍵は掛けられてはいなかった。
ドアは内側に開く。
中に居る筈の両親に向かい、コハルが呼んだ。
「マモル君、お母さんは居る?」
マリア親子の悪魔を祓った事で、すっかり気を緩めていた。
ドア越しに呼んだコハルの眼に、部屋の中が写り込んだ。
「な・・・んや、あんたは?!」
マリアが絶句する。
「マモル君?!ルマお母さん?!」
部屋の中に、確かに二人は居た。
「ようこそ、審判の御子。やっぱり来ましたね?」
ニヤリと怪しい声を掛けて来る男の姿と。
「マモル君?!ルマお母さん?!」
コハルは目を疑った。
なにがどうしてこんな事になっているのかと。
「あんたは・・・オカンの上司。
確かフェアリアのオズベルト大使閣下やないんか?」
ニヤリと嗤う男の他にも数名の黒服の男達が、両親を囲んで立っていた。
・・・手に手に得物を持って。
二人を手錠で拘束し、猿轡を噛まして。
「あなたの御両親は我等<イシュタルの民>が捕らえました。
この意味がお分かりかな、御子よ。いや・・・鍵を授かりし者よ?」
フェアリア大使オズベルトが、拳銃を突き出しコハルに嘲た。
フェアリア大使オズベルト!
この男が持つのは闇・・・そして?!
いよいよです!
やっと本当の魔鋼騎大戦の始りが来るのです?!
魔砲少女の活躍や如何に?!
次回 <輝と邪>Act5
君は嘗ての力を甦らせた・・・そう魔法と機械の融合<魔鋼騎>を!
ミハル「私の活躍は、もうお終いなの?カナシイナー(棒)」




