ファースト!甦る魔砲 Act2
その当時、世界から戦争という文字が消えていた。
故に日の本国に於いても、陸海軍が解体され、一つの省庁に纏められていた。
マモルとマコトの親子は揃って属していたのだったが・・・
中央省庁が集まる首都<京>の中に、一段高い建物がある。
<国防省>・・・大書きされた立て札の前に、当直の守衛が立つ。
此処は嘗て陸海軍が別個に省としてあった時の名残を伺わせていた。
あの大戦が終えられた後、日の本は帝国政策を廃止し、民主国家に変貌した。
各省庁が見直され、戦費の奪い合いにまで発展していた陸海軍省をも廃止した。
換わりに立てられたのが国防省。
国の防衛計画を一手に担う省として、
また、戦争自体を放棄した国策を海外に印象付かせる為に。
立派な建物自体は国の威信を伺わせてはいたのだが・・・
「諸君、今迄の報告に由れば。
間違いなく再考の余地があるように思われるのだが?」
初老のスーツ組幹部が訊ねる。
「如何にも。私も同意見です」
即座にキャリア組の幹部が応じる。
国防省詰問委員会。
参集した者達が意見を述べ合っている席上に、一人の男が座っていた。
皆の意見に耳を傾けて黙って考えているのか。
それとも、話す事を躊躇っているのか。
「では、新開発の部門には<魔鋼>を必要としない事に決して宜しいですな?」
初めに発言した初老の幹部が決を求めた。
「お待ちください!まだ判断を下すべきでは?!」
思わず立ち上がったのは、1佐である制服組幹部。
「彼の現象を看過していれば、間違いなく後に遺恨を残す事になりはしませんか?」
制服組を代表して述べたつもりだった。
過去に起きた事象を裏付ける資料を手に持ち。
「しかしねぇ、いくら君が彼の英雄だと言っても。
現実を見て観たまえ、事件は確たる証拠も無いではないか?」
並みいる幹部達から戸惑いと蔑む目を受けても、言い返すのは。
「島田君、少し冷静になり給え。
君は確かに情報を掴んだのかね?憶測でモノを考えてはならんのだよ?」
初老の幹部が立ち上がった1佐を窘めた。
「中島准将の仰られた通りだぞ島田真盛1佐」
周りに詰める者達からも非難の声を受けるが、
「しかしですね、私の元には怪異が存在している証拠が・・・」
手にした資料を突き出そうとするのを、一人の男が眼で押し留めた。
「父さん・・・・」
首を横に振り、マモルを停めたのは父であるマコトだった。
「島田参議官も認証されているのだよ。これ以上の会議は時間の無駄だ」
会議を取り纏めていた詰問委員が立ち上がり、会議の終了を告げる。
会議場に残ったのはマコトとマモル親子二人だけ。
「どうして・・・分かってくれないのだろう?」
マモルが口惜しさに歯を噛み締める。
「こんなことじゃあ、ミハル姉に逢わせる顔が無いよ」
机に置いた手を震わせ、口惜しさを滲ませるマモル。
そんな息子の姿を見詰めていたマコトが立ちあがると。
「つき合えマモル・・・」
一声かけ、会議場を後にした。
「え?!どこへ行こうと言うんだ父さん?」
会議場から出たマコトは黙ってエレベーターに乗り込み、最下層にボタンを併せる。
共に乗り込んだマモルがエレベーターのボタンの位置が地下に合されたのを知り。
「地下と云えば、開発局じゃないか?」
聴き募ったのだが、マコトは答えもせず。
「黙ってついて来れば分る」
眼鏡を直しながら一言だけ断った。
エレベーターが地下に着いた・・・が。
マコトはもう一度ボタンを押した。
蓋の付いている紅いボタンを。
「え?!それって緊急ボタンじゃないのか?」
マモルが驚きを込めて聞いたが、マコトは何も答えない。
黙ったままの父に、何か不可思議な感覚を覚えてしまう。
やがて目的の階に着いたのか、エレベーターがドアを開いた時。
マモルの目に飛び込んできた光景は・・・
__________
「やっぱり。君は可愛いねぇ!」
コハルが頭を撫でているのは野良。
多分野良猫だろう。
学校からの帰り道。
公園の隅にいつもたむろしている虎猫へ、駆け寄ったコハルが頭を撫でていた。
「いつも君は独りっきりでいるけど、寂しくないの?」
周りを見回しても一匹も仲間の姿は見えない。
コハルに駆け寄られても逃げもしない。
「最初は逃げたんだよね。
でも、アタシの事を友達だと分かってくれたんだよね?」
虎猫はコハルに撫でられるまま見上げて来る。
まるで人の言葉が分かっているみたいに。
「君には友達がいないの?仲良しの子が居ないの?
家族は?お父さんやお母さんは居ないの?」
猫はコハルの問いに耳を立てるだけだった。
「アタシにはお父さんとお母さんがいるよ?
でも、本当のお友達は作れていないんだ。
みんなアタシの事を余所余所しく観てるんだ。
本当の名前・・・ミハルって呼んでもくれない。
叔母さんの名と同じだからって、遠慮して呼んでくれないんだ」
猫に零すのは寂しさからか。
仲良しの友達が作れない辛さからなのか。
「それに外国生まれで、日の本にも馴染め切れてないから。
みんなと話す事もちぐはぐで・・・
赤ちゃんの時には日の本にも住んでた時もあったらしいけど。
おばあちゃんの手の温もりくらいしか覚えてないし・・・」
ははは・・・と、空虚な笑いを浮かべて猫に話すコハル。
「でもね、アタシには大好きな人達が居てくれるんだ。
ミユキお婆ちゃんに、マコトお爺ちゃん。
マモル君にルマお母さん・・・あ、マモル君ってのはお父さんだよ?
大好きな家族が居てくれるんだ、だからね・・・
だから・・・我慢できるの。
君には大好きな人が居るの?一人っきりじゃぁ寂しいでしょ?」
ニコリと笑い掛けるコハルの顔を見上げていた猫が耳を立て、ふぃっと起き上がる。
暫くどこかを睨んでいた猫が、急にコハルを置いて走り始める。
「あ・・・帰っちゃうの?お友達が居たのかな?」
走り去る猫を見送って、今日はこれで帰ろうと立ち上がったコハルの眼に。
「え・・・・あれは・・・何?!」
夕日が入り込まない公園の隅に駆ける猫の行く手に見えたのは。
「あ・・・あれ。あの影はどこかで。
どこかで観た気がする・・・どこかで・・・」
日が差し込まない影に蠢いている者に、猫は走り寄って行く。
「あ、猫ちゃん?!そっちに行ったら危ないよ?」
コハルの口から零れだしたのは、以前に受けたトラウマの所為か。
自分でもどうしてそう言ったのか分からず、更に動転してしまう。
「あれ?!どうして危ないの?
どうして猫ちゃんに危ないって言ったんだろう?」
心臓が早鐘の様に脈打つ。
心の中が危急を告げて、恐怖を生み出す。
ー 危ない危ない危ない!
何かが危険を知らせて来る。
影に走り寄った猫が立ち止まると逆毛を立てて威嚇している。
蠢く影に・・・怪しい影に。
「猫ちゃん!戻って、早く!」
どうしてなのかは分からない。
でも、そう叫ぶのが当たり前に思えた。
「その影に近寄ったら危ないよ!闇に飲み込まれちゃうよ?!」
気が付いた時には、猫の元に走り出していた。
その影が、何を意味しているのかを思い出そうとして。
暗がりの中でも黒く蠢く者がはっきりと観えていた。
猫が威嚇している蠢く姿を。
(( どくん ))
夕日に照らされたコハルの胸元に隠された碧き魔法石に、小さな光が灯った・・・
コハルの前に現れるのは?
まだ幼いコハルには助けを呼ぶことだけが精一杯の抗いだった・・・
次回 ファースト!甦る魔砲 Act3
君の声は誰かに届くのだろうか?助けは現れてくれるのか?
ミハル「闇の者に襲われた幼き子・・・助けねばなりません」