ファースト!甦る魔砲 Act1
永き時を越え。
永き時の波に身を委ね・・・
空を越え、宇宙から舞い降りる者が居た。
満月が煌々と夜闇を照らす。
足元から地に長く伸びる二つの影を、蒼白く染めている。
月夜に舞うは魔女。
月夜に踊るのは怪異。
煌めくのは蒼白き月光・・・
煌めく何かが、月明かりに染められた。
影が舞い踊り二つの影の間に、何かが煌めきを放つ。
そう。
蒼白き何かが、二つの影を照らしだしているのだ。
一つの影は悍ましく。
輝く光は怪異を討つ。
光と影。
相反する者が月夜に舞う。
互いに打ち消さんと欲して。
白き服を纏う者・・・
黒き澱みを纏う者・・・
交えるのは互いの力。
交えるのは異能の力か・・・
二つの影はやがて互いの力を出し尽くし、同時に掻き消えていった。
まるで夢の様に。
幻を観ていたかのように。
残されたのは満月。
煌々と蒼白き光を放つ、天に沖する月だけだった・・・
世界歴13年・・・
旧世界が正されて、早13年が過ぎた。
暗黒大陸に因って侵略を受けた世界が救われてから、新たに設けられた標準歴。
世界中の有志国が挙って取り入れた新たな暦。
魔の瞬間が終わり、生き残った者達が一応に求めたのは<平和>だった。
戦争に明け暮れた世界は、復興へと向けて歩み始めていた。
多くの人類が亡くなり、多くの物が喪われた。
その中で、一つの島国が再興を目指していた。
旧日の本皇国。
今は日の本国となっている民主国家。
復興を目指し、各国と協調する政治を執る国。
その政治の中心は首都である<京>の都。
内海から程ない場所に立地する都は、古来から皇族が遷都していた所でもある。
旧世界での大戦で被害を受け、都市の半分近くが焼け野原になったが。
復興された都は以前にも況して賑わいを見せている。
それは政府の力だけではなく、民衆の希望の証でもあった。
民の力を頼もしく思うのは、政府の役人達だけではない。
民主国家になる前の皇、現人神であった陛下も同意であろう。
陛下に傅く独り、三輪の宮蒼乃王殿下も。
時は元号<明和>46年、麗らかな春の日・・・
黒髪を手串で纏め、紅いリボンで括る。
制服の皺を伸ばし、スカートの丈を直し。
ランドセルを肩に担いで。
「よっし!準備完了っ!」
少女が気合を込めて部屋を出ると、階段を駆け下りた。
「おはよう!ルマおかあさん!」
ダイニングに居る母親に朝一番の挨拶を贈る。
「おはようコハル。今日も元気一杯だね!」
茶髪の母が手を突き出すのに併せて、パンと手を打つ。
「もっちろん!コハルは元気だけが取り柄だもん!」
ニマッと笑うコハルにルマも笑い返す。
「で・・・マモル君は?まだ寝てるのぉ?」
ランドセルを置いたコハルが姿を見せていない父親の事を呼ぶ。
「コハル・・・頼んだ!」
朝食を用意しているルマが、手を休めずに頼んだのは。
「おっけぇー!起こして来る!」
飛ぶように父親を起こしに向かうコハルの後ろ姿に、ルマが微笑んだ。
((コンコン!))
ノックすれど返事は返って来ない。
「いつもながら・・・マモル君は寝坊助だなぁ」
呆れたような声を漏らし、そっとドアを開けて入り込む。
ベットの上には布団に包まる父の姿が。
「もう・・・朝だよマモル君!おきて!」
呼びかけても返事が無い事は承知の上。
「起きてったら!起きないと、いつものヤツしちゃうよ?」
布団に包まる父親に、コハルは飛び乗ると。
「マモル君!起きてったら、起きてよ!起きないとこうだからね!」
布団の中に居るマモルに跨ると、揺り起こしにかかる。
「マモル君!起きなさい!マモルったらぁ!」
それでも起きないマモル・・・に。
「今日はとことん起きないつもりなんだね?それなら・・・こうだもん!」
布団に顔を寄せると。
「ミハルだよ、起きて・・・マモル」
耳元目掛けて吐息を吐くように話しかけた。
「のわっ?!ミハル姉?!
・・・・・・・はぁ?!」
「あ・・・起きた?!」
がばっと跳ね起きたマモル。
自分に跨っているのは・・・
「なんだ・・・コハルじゃないか。おはよう」
寝ぼけた顔で愛娘を観る。
寝ぼけておばさんと間違えられたコハルが目を丸くする。
「なんだじゃないよ!起きたんだね?」
ポワンと自分を観るマモルに毒づいた。
「なんという起こし方をするんだよコハル?」
毒づかれたとも思わないのか、マモルは逆に言い返したのだが。
「マモル君も早く起きないと。遅刻しちゃうからね?」
跨っていたマモルを掴んで、問答無用に母の元へと連行した。
「あらま。形無しねマモルも、コハルには」
結婚してからもずっと幼馴染の呼び方のまま。
「おはようルマ。今日の時間割を出しておいてよ」
まだ頭がすっきりしていないのか、呆っとしたまま訊いて来る夫に。
「もう!今日は諮問会議があるって言ってたじゃないの!
お義父様にも会うって言ってたでしょ?!」
ダメ出しを言って書類を詰めた鞄を突き出す。
「そうだったっけ?・・・・じゃあ遅くなるかもな」
両親の言い合いに耳を貸さず、コハルは朝食をぱくついていた。
「マモル君、ルマお母さん。良いの?遅れちゃうよ?」
ぼそっと言うコハルがさっさと食器を片付け、ランドセルに手をかける。
慌てる両親に、ため息を吐きながら。
学校指定のブーツを履き、勢いよく玄関を出ると。
「それじゃあ行ってきまーすぅ!」
マモルの先に立って走り出す。
「じゃあ、行って来るよ」
軽く手を挙げたマモルも玄関を出る。
「はい!気を付けてね。マモル!コハル!」
エプロンを靡かせ、玄関まで見送りに出たルマがマモルに投げキスを贈る。
「まぁーたく・・・いつもながらこの二人は・・・」
しかめっ面になるコハルにも、
「ほらほら!コハルも気を付けるのよ!」
投げキスを贈って来る。
「・・・だぁああぁ・・・」
恥ずかしがりながらも返し投げキスをしてしまう。
「いってらっしゃーい!」
小学生より元気な母親。
しかも・・・外国人でもあり、茶髪で青目が通行人に目立つ。
「ホント・・・ルマお母さんって。天然だよね」
通学路をぼやきながら歩いていると、
「コハル、今晩は遅くなるからね。ちゃんと帰るんだよ?」
マモルが心配そうに訊いてきた。
「もう!マモル君はいつもそう言ってアタシに注意するんだから!
アタシも4年生になったんだから!いつまでも迷子になんかならないってば!」
マモルに背を向けたまま、コハルが言い返すと。
「しかしなぁ、ついこの前も帰る道が分からなくなったって交番から電話があったじゃないか?」
「うっ?!そ、それはその・・・可愛い猫と遊んで・・・居場所がわかんなくなっただけ」
しっかり・・・迷子になってるじゃないか。
マモルがため息を吐くと。
「だからだよ。ちゃんと寄り道なんかしないように。
まっすぐ帰るんだよ?夜道は危ないからね?」
我が子ながら、方向音痴のコハルに嘆く。
「分かりましたよ!マモル君」
ぷんと明後日に向けて答えるコハルの頭を撫でて、
「心配するからね、特にお婆ちゃんが。ミユキお婆ちゃんを心配させたくないだろ?」
娘にとって、一番好きな人を持ち出す。
「う・・・うん。また泣かれちゃうと困るもん」
これは覿面に効果があったようで。
「分かった!まっすぐ帰るから」
承諾するコハルに、やっと一安心したのか。
マモルは職場の方に足を向けると、
「じゃあね、コハル。お父さんはこっちだから・・・」
駅の方に歩き出すのをコハルが見送り。
「うん!気を付けてマモルくんも!」
手を振って学校へ走り出した。
明るい朝日が春を告げる。
綺麗な空の元、温かい日差しが春を告げる。
そこに在るのは平和。
いつもと変わらない・・・平穏な日々だった・・・その朝までは。
いよいよ本編開始です。
女神と共に消えた魔砲。
平和になった世界には必要も無いと思われていたのですが。
闇が世界に戻った時、新たな魔法が目覚めるのです・・・
次回 ファースト!甦る魔砲 Act2
君の元に迫るのは何?何かが襲って来る時・・・
ミハル「新たな異能新たな運命・・・今運命の少女が現れる」