蠢く闇 Act7
さぁてぇとぉ・・・そいじゃぁ、いっちょうやりますか!
きばらなくて善い時に思いっきり頑張るのがこの人の善いところでもあり欠点でもあります。
そう、<魔鋼騎戦記熱砂の要塞<闇の逆襲>から。
剣聖チアキ(チマキとも呼ぶ)が登場です。
チアキ「チマキとちゃうから!拳骨ぐりぐりしたろぉーか?」
・・・・・・怖ろしい
近付く人に気が付いた。
コハルの眼を通して見詰めてしまった。
<まさか・・・ここはオスマンでもなければ、フェアリアでもないというのに?>
呟く女神は、魔法石の中で手を指し伸ばしていた。
「ラミ候補生!それにシキ君。
ここは学校の中でしょ、何をしているのかしら?」
剣を手に下げた女性士官が、二人と対峙しているコハルにも言う。
「美晴ちゃん、コスプレ遊びも大概にしなきゃ駄目でしょ?」
まだ他の生徒が居ると踏んでか、女性士官がでまかせを投げかける。
苦笑いを浮かべる顔には、闇を睨む蒼き瞳が輝いていた。
「あっ?!指揮官っ?!」
いち早く反応したのはラミだった。
勿論、悪魔に操られて・・・だが。
「マーブル少佐じゃないですか?
ボク達に何か用でもあるのですか?」
こちらも悪魔に操られたシキが、誤魔化そうとする。
「何かじゃないわよ二人共・・・いや、一匹と言った方が良いかな?」
状況を説明されなくても、元<剣聖>には二人を結ぶ紐が見えているのか。
「ラミとシキに巣食う者よ、この剣がそんなに怖いのか?」
剣聖が手に下げた魔法剣に、視線を向けている二人に対して。
「既に分かっているだろう?私の用事というモノが。
聖なる剣を抜き放って現れたのだから・・・闇の者よ」
顔は笑っているように見える。
しかし、言葉には一欠けらさえも柔らかさが無い。
「美晴ちゃんに何をしようと企んだ?
二人に巣食って学校まで侵入し、何を狙っていたのだ?」
ゆっくりと、静かに剣が上がって行く。
悪魔に向けて、斬り祓わんとするかのように。
「なにを言っておられるのか分かりません指揮官。
私はシキ君の編入作業を手伝う様に命じられたのです。
学校に来なければ手伝う事も出来ませんから・・・」
ラミが、まだ言い逃れようとしたが。
剣聖に対しては無駄の一言。反対に聞き咎められてしまった。
「ほほぅ?その命令を下したのは誰なの?
私は一切知らないけど、直属上官である私以外の命令を訊いたというのね?
それはどこの誰から受けた命令なの?」
至って冷静に反問されたラミが、一瞬口に出しかけてから口籠る。
ラミの口元を観ていた剣聖が、言葉に出されなくてもその名が解ってしまう。
「そう?ラミに命令を下したのは公使補・・・ミリア。
間違いないわね、闇の者?」
「ちぃっ?!」
言い当てられた悪魔が舌打ちする。
これで悪魔が誰の命令を受けて来たのかが分かった。
<ミリア・・・が?!悪魔に命じた?
ミリアが闇の者を?・・・闇に堕ちている?!>
目覚めたばかりの女神には、驚天動地の事実に思えた。
<そんな・・・あのミリアが?どうして闇に染まったというの?
私が目覚めるまでに何がミリアの身に起きたというの?!>
事実をチアキから教えられた女神は、驚きと悲しみに暮れる。
もっと早く目覚めれば・・・もっと世界を見渡せれば・・・と。
<これはどうしてもミリアの元に行かなくてはならない。
あの娘を闇から救い出さねばならない・・・>
コハルの右手に填めたグローブに着いて輝いている魔法石が、焦燥感で点滅した。
「美晴ちゃん、あなたも。
こんな闇の者に関わっちゃ駄目だって前に言ったでしょ?
どうして魔法衣姿になってるの、早く終わらせなきゃ駄目じゃない!」
剣聖チアキの言葉に頷いた。
チアキは魔法衣を脱げとは言わずに、終わらせろと言ったから。
つまり・・・かたをつけてしまえと促したのだ。
「チアキお姉ちゃん、二人を傷付けないようにやらなきゃ駄目なんだよ?
力尽くで押し通したら、シキ君にも怪我させちゃうかもしれないから」
コハルの注文に、剣聖がやっと頬を緩ませる。
「美晴ちゃんって、お姉ちゃんの慕った人と同じなのね?
名前ばかりじゃなく、此処の根までも同じなのね・・・
そうか、だったら今放てるか判らないけどやってみるわね?」
構えた剣先に輝が灯った。
「チアキお姉ちゃん?!何をする気なのっ?」
攻撃を掛けないでと言ったのに、剣聖たるチアキが何をしようとしているのか問い質す。
「大丈夫、二人には疵一つ着けたりしないから。
二人に巣食った闇の紐だけ・・・斬るわ!」
悪魔に聞こえたのは、剣聖が繋げた魔法糸を斬ると言った声と。
(( ヒュン ))
空間を切り裂いた聖剣の音。
「?! そんな馬鹿なっ?!」
眼を見開いて驚愕するのはシキ。
いや、シキに宿った悪魔本体。
闇の魔法糸を斬られたラミに宿った分身が、効力を失って潰え去った。
「さてと・・・どうするのかしらね?」
剣聖が崩れ去るラミには目もくれず、コハルに言った。
・・・どうするのかと。お手並み拝見とでも言いたげに。
チアキにはコハルの魔法石に宿る女神の存在が分かるというのか。
「私はこれ以上手出ししませんからって、言っちゃえば分かるかな?」
完全に元<剣聖>は力を取り戻したのか。
「だって、私に魔力があるなんて思わないでくださいね?
あるのは古から引き継いだ魔法石だけなんですから・・・」
チアキは後退りながら促して来る。
まるで、本当のミハルを誘うかのように。
「判った!シキ君はアタシが助けてみせます!」
剣聖の思惑は外れたのか・・・コハルが撃ち祓うと言い出したのだが。
「良いぞ!美晴ちゃんっ、やっておしまい!」
半ば面白半分の声を掛けるチアキ少佐。
笑い掛けている顔に光るのは真剣な瞳の色。
普段では有り得ない蒼き瞳で、コハルを見詰めていた。
<チマキめぇ~っ、姪っ子に託けて私を誘き出す気だな?
そうは問屋が卸しニンニクよ!>
チアキの狙いを勘ぐった女神が、魔法力をコハルに託して。
「「コハルちゃん!シキ君を救いたいのなら右手で捕まえるの。
捕まえたのなら、悪魔を引っ張り出してしまいなさい!」」
コハルの右手・・・グローブには。
「「私が直接神罰を下してあげるからね?
コハルちゃんは摘まみだすだけで良いのよ?」」
女神が宿る魔法石が付けられていた。
「うん!やってみせるから、シキ君を傷付けないでね?」
友達想いな姪っ子に、女神は微笑む。
「「さぁって!叔母と姪の連携作戦開始!眼に物言わせてやりなさい!」」
「眼でモノが言えるんだ?」
コハルが意味を取り違えたが、女神は不問に伏した。
シキの中で明らかに動揺しまくった悪魔の隙を視て。
「シキ君から出てこいっ!こんのぉーっ!」
シキに掴みかかったコハルが、まるで皮を剥ぐように両手を同時に引っ張る。
「「いいわよ姪っ子ちゃん!後は私にお任せ!」」
ずるりと現れ出た悪魔を掴んだ女神が。
「「この世界にお前が居る事を許さない!
古から引き継ぐもう一つの呼び名を言ってみろ!ガーゴルムよ!!」」
女神に捕まった悪魔が反抗する事も出来ずに恐れ戦く。
「「言えないのか?!
ならば私自身が名乗ってやろう。
我がもう一つの名は・・・<殲滅の女神・デサイア>!
闇を討ち滅ぼす闘いの女神、希望だっ!」」
女神の神力が放たれた、圧倒的な聖なる力を。
輝さえも感じられなかった。
闇さえも喰らったのか、女神の力は悪魔を消滅させた。
力を喰らった悪魔はひとたまりも無く潰え去る。
一言の悲鳴も上げる事さえも許されずに。
無に帰る場所さえも与えられずに・・・殲滅されたのだ。
「「最早二度と蘇る事も出来まい。
私の前に現れ出る事は叶わない・・・消え去るが良い」」
蒼く光る魔法石の中で、1000年間続けられた殲滅の言葉を吐く。
女神はこの瞬間だけ、殲滅を司る者となる。
人々に宿り、魔と闘い続けてきた戦女神に戻るのだった。
「これでシキ君は助かったの?!
もう、アタシのお友達に戻ったの?」
女神が我に返る。
姪っ子の心配げな声で・・・
「「コハルちゃん、もう魔法衣を脱ぎなさい・・・」」
大丈夫だと教える代わりに、魔砲戦の終結を教えた。
「うん、分かった・・・」
魔法衣を解除すると、目もくれずにシキに飛びつくコハル。
「う、うう~ん・・・あれコハルじゃないか?」
飛びつかれたシキが頭を軽く振って訊いて来る。
「シキ君!大丈夫?どこか怪我でもしていない?」
シキの服や体を調べるコハルに、どうなっていたのか分からないのか。
「コハル?なにべたべたくっついてるんだよ?」
悪魔から解放されたシキは、闘いの記憶は残されていないようで。
「小学生が中学生をべたべたしてるのはおかしくは無いのか?
この学校ではそんなことは当たり前なのか?」
ハタ・・・と、コハルの手が停まる。
「シキ君・・・大丈夫なんだね?」
ジトっとシキの顔を見上げるコハルに。
「だから?何がどう大丈夫なんだよ?!」
「あら?コハルちゃん。学校に忘れ物でもしたの?」
シキに同道していたラミ候補生までもが不振がって訊いてくる。
2人共、何が起きていたのか全く記憶が無いみたいだった。
「だって!二人共に闇の者が乗り移っていたんだもん!
ねぇチアキお姉ちゃ・・・あれ?」
言い募ろうと味方になって貰える筈の、チアキ剣聖に振り返ったが。
「あれれっ?!どこ行ったのチアキお姉ちゃん?」
時既に、剣聖の姿は何処にも観えなくなっていた。
「こんな学校の中にチアキ指揮官が来られる筈がないでしょ!
嘘を吐くのなら、もう少しリアリティーのある人の名を言ったら?」
ラミには恐怖の的でもあるチアキ少佐だったが、コハルが嘘を吐いていると思っているようだ。
「だって!つい今迄此処に居たんだもん?!」
抗うコハルに肩を竦めたラミとシキが、
「はいはい。じゃあコハルちゃん、私達は教員室に行くから。」
「コハル、じゃあな。明日からは宜しく頼むよ?」
何事も無かったかのように手を振って来た。
「あ、あのっ!・・・うん。またね・・・」
二人が何事もなく歩いて行くのを、言葉少なに見送った。
怪我も無く済んだ事に、一安心して。
「コハル・・・お疲れさん」
校門の影でマリアが呟く。
「あなたもね、マリアちゃん」
その横で腕を組んでいるチアキ少佐が笑い掛けると。
「これからマリアちゃんに付き添ってあげる。
お母さんに報告しなきゃいけないのでしょう?付き添ってあげるからね」
ポンと肩に手を添えたチアキ少佐に頷いたマリアが、
「えっと・・・あの。お願いします!」
付き添ってもらえる事に感謝を告げた。
「気にしないでマリアちゃん、私は部下の件で言いたい事があるから」
微笑んだチアキ少佐が、マリアの肩を抱いて歩き始めた。
魔法力が消えたというのに?
人だと思っていましたが・・・チマキ畏るべし!
こうしてコハルの悪魔退治は決着をみました・・・が。
問題はこれからなのです!
悪魔をつれてきた諸悪の根源が居るようです。
そいつが諦めない限り、悪魔は再び襲って来るでしょう。
闘えチマキ!お前をおいて闇払いは居ない!
・・・あ、病み払いだったか?
次回 望郷の彼方 Act1
君は過去の自分を思い出す・・・そう、哀しき別れの時に見た微笑を。
ミハル「姪っ子コハルちゃんには、話してなかったんだねお母さん?」




