蠢く闇 Act5
悪魔との戦闘。
コハルに宿った女神は、
古の力を発動させてまでも滅ぼそうとするのだが・・・
女神に名を示された悪魔の紋章が、ラミの額に浮き上がった。
少女の額に浮き上がったのは悪魔が宿った証。
ラミ本人さえも分からない内に巣食った証拠。
それまでラミだった顔に浮かんだ邪な表情。
額に浮かび上がった赤黒い紋章は・・・
「その子から出て来なさいっガーゴルム!
出て来ないというのなら、その子共々消し去ってやるわよ」
額に浮かんだ悪魔の紋章。
高位の悪魔である証・・・紋章を持てる程の闇の者。
ラミの額に浮き上がるのは、スリー6。
放射状に6が描かれる、悪魔輪環。
ラミに巣食ったガーゴルムが、名を言い当てられて動揺する。
「シキ君にも潜んでいるんでしょ?
ガーゴルムは何体にでも分裂出来る筈だったと覚えてるんだけど?」
看破された悪魔が、女神を睨みつける。
「さすがだな女神よ。
だが、言い当てたとしてもどうする事も出来まい。
この二人の身体を乗っ取った我には、手出し出来まい?」
悪魔に支配されてしまったラミから、全く別人の声が答えて来た。
「ふんっ、どうかしらね?
あなたは私を見くびっている様ね、理の女神である私の事を。
この1000年間で何体の悪魔を滅ぼしてきたと思ってるのよ?
あなたのような卑怯者は、特に赦さなかったのを忘れている様ね?」
コハルの姿のまま、悪魔と対峙する女神。
ー こいつ・・・しっかり私の事を覚えているみたいね。
いつぞやに滅ぼした事を、まだネに持っているんだわ・・・
ガーゴルムと面識があるのか、女神は警戒を怠らなかった。
ー そう、初めて戦った時にもコイツは卑怯な手を使ったんだ。
私の憑代だった茜ちゃんの弱点を突いてきた。
人一倍優しい娘の心を揺さぶって来た。
友を救うと誓った娘を逆手にとって・・・人質を獲ったんだ・・・
睨みつける女神が悪魔を思い出す。
ー だけど、確かにあの時滅ぼした筈だったのに。
今目の前に再び蘇ったというのか・・・それとも前回はしくじったのか?
対峙する悪魔と女神。
傍から見れば魔砲少女達が内ゲバ状態にしか見えていないだろう。
宿るのが闇と光を代表する者だとは、気付きもしないだろう。
「女神よ、その娘を我等に寄越せ。
蒼き魔法石と共にだ・・・この意味が分かるであろう?
お前も我等のモノになれということだ・・・」
勝手な言い分を捲し上げたガーゴルムに、
「相変わらず勝手な物言いだこと。
どうして悪魔って自分勝手なのかしらね?
さっきも言ったでしょ、私を見くびるなって!」
嘲り返す女神ではあったのだが。
ー でも、コハルちゃんの魔砲力はとうに底を尽きかけている。
もう私の力でしか戦えない・・・だけど。
通常世界では宿り主が戦えない限り、女神も力が出せない!
女神はジレンマに陥る。
通常世界でコハルに与えられた魔砲力の限界は直ぐにやって来る。
結界の中で約3分。
通常世界でならコハル自身の力だけだと約2分が良い処だろう。
既に限界時間は過ぎ去っていた。
宿った女神の力が無ければ、当に気絶するか眠りに就いていただろう。
ー だけど、悪魔をこのまま放置してはおけない。
せめて闇に追い返す位はやっておかないと・・・
時間が経過すればする程、情勢は悪化の一途を辿る。
ー 早く奴を二人から引き剥がさないと。
最悪の場合、二人に致命傷を与えなければならなくなる・・・
ラミにも宿った悪魔と、もともとシキに潜んでいた悪魔。
二人に分派しているガーゴルムを同時に誘き出すにはどうすれば善いのか?
ー シキ君が闇から簡単に抜け出せたのは、ガーゴルムの策略だった?
それにしてはおかしい。なぜあの時には感じられなかったのか?
コハルちゃんとシキ君が闇と闘った時にも触れ合っていたというのに。
あの時にはガーゴルムの気配なんて感じられなかった・・・
・・・もしかして、シキ君に宿ったのが後から・・・だということか?!
つまり、もともとラミの方に悪魔は巣食っていたということ。
そして闇から抜け出したシキに、この学園に来るまでの間に宿ったのだと。
「元が闇の貴公子だっただけに、乗り移りやすかったのか。
そもそも闇の者に貶められた少年であっただけに、違和感が無かったのか」
女神は今度こそ、敵たる悪魔の本性を見限った。
「だったら・・・構う事はない。
闇は葬れば良い・・・二人共ガーゴルムに支配されたのだから」
悪魔達はコハルを囲んで薄気味悪い笑みを溢している。
ゆっくりとコハルの周りを歩き出し、ゆっくりと手に闇の力を引き出しながら。
「やるっていうんだね?
良いよ、だったら滅ぼしてあげるわ・・・今回も」
自分を中心に廻り始めた二人に、俯いたコハルから蒼き光が放たれ始める。
「私もね、この1000年で教えられた事があるの。
目的の順番って奴を、何が優先されるのかって事をね」
口元を歪ませた女神が右手に力を込めて呟く。
「悪魔に情けは無用だって・・・潜まれし者に対しても。
そして、誰を護るのが優先され、誰を犠牲にするのかってこともね?」
右手に現れたのは女神の怒り。
電気を手に握っている様にスパークが飛び散る。
「今はコハルちゃんを護るのが最優先。
他の誰でもない、護るのはこの身体、この魂。
どんな犠牲を払おうと、女神が護らねばならないのは此処に在る人!」
下を向いて呟いていたコハルが振り仰ぎ、女神の力を撃ち放とうとする。
「その子達から離れなくとも!
理の女神は闇を討つ!正義は勝たねばならないの!」
1000年の永き時が、理の女神を変えてしまっていた。
理の名の如く、何を観て、何を知ったというのか?
目的の為には犠牲も厭わないという女神。
あの愛に満ち溢れ、優しく他人を想い、手を指し伸ばしていた女神はそこには存在しなかった。
目的の為には犠牲をも求める者の姿があるだけだった。
「「待って!シキ君は何も悪くないんだよ?!」」
女神の手から力が抜けていく。
「「女神様っ、どうして二人を撃とうとするの?!」」
撃ち祓おうとして伸ばしていた手が下がる。
「「コハルは女神様に反対するから!
シキ君に酷いことをするのなら、黙っていられないからね!」」
コハルが無理やり介入してきた。
友達を想い、女神に反抗しているのだ。
「コハルちゃん、相手は人の敵である悪魔なのよ。
闇の中に連れ込もうとする闇の者なのよ?」
静かな口調でコハルに話しかける。
「「そうだとしたって!
シキ君は大切なお友達なんだから!
お友達に酷い事をするなんてアタシには出来ないから!」」
猛烈に反対するコハルが、身体の支配を取り戻そうと試みている。
このまま見過ごしていたら、女神に因って友達に魔砲を撃つかも知れなかったから。
「コハルちゃん、あなたはどうしたいというの?
このまま見過ごせば悪魔は襲って来るでしょう。
その時、あなたの力で自分と友達両方を護れると思うの?」
諭すように、教えるように女神が訊いた。
「「女神様こそ。
本当は二人を傷付けたくなかったんじゃないの?
アタシが停めなかっても、本当は撃たなかったんじゃないの?」」
コハルの声に女神が俯く。
前髪で隠れた目は閉じられ、口端が上がる。
「「女神様、本当は悪魔だけを倒したいんでしょ?
悪魔を二人から誘き出して、葬り去ろうと考えていたんでしょ?
でも、アタシの力が足りなかったから・・・二人に撃とうとしてたんでしょ?」」
コハルの身体では魔砲力が足りないから。
女神に残された手段は、唯の一撃で悪魔を葬り去らねばならなかったから。
「「そうしなければアタシの身体が保てないと考えたからでしょ?
だとしたら、アタシは女神様にお願いする!
友達を傷付けてまで自分を護らないでって。
友達を傷付けるような真似をするのなら、アタシは女神様を許さないから!」」
必死のコハルが心で叫んだ。
ふっ・・・と、女神が笑った。
「どうやら、小学生の姪っ子に女神が教えられちゃったわね」
俯いたままで、笑う。
「コハルちゃん・・・いいえ、ミハル。
あなたが私を取り戻させるなんてね。
1000年前の私と、同じ言葉をかけて来るなんて。
ホント・・・思い出させてくれたわ・・・」
コハルの姿で女神が笑う。
「でもねミハル。
今の状況では、残された手段は唯の一つ。
一撃で悪魔を葬らなければならないの。
それには宿られてしまった二人に、撃つしかないのよ?」
「「そんな・・・他に方法はないの?」」
純真な少女の心が抗っている。
女神の力に頼らず、自分で道を切り開こうとして。
「出来る事なら撃ちたくはないけど。
奴が二人から離れたら・・・解決するんだけどね?」
女神は一つの賭けに出た。
コハルがどう回答して来るのかと。
コハルは必死に考えた。
どうすれば悪魔を二人から引き離せるのかと。
・・・考えて・・・考えた末に・・・
「「アタシが捕まえます!
ラミさんに抱き着きますから!
直接攻撃を掛けてください、ミハル様になら追い出せるでしょう?」」
にっこり笑った・・・女神が。
模範解答が返って来たから。
「じゃあ、シキ君の方はどうする気なの?
片方だけじゃ手落ちじゃないの?」
もう一つ付け加えてみた。
その回答次第では、コハルに任せてみようとも思えた。
「「それは・・・ラミさんの悪魔が放り出されたと知ったら。
もう一つは必ず巻き返そうと背後から襲ってくると思うんですけど?」」
「つまり・・・一網打尽に出来ると?
一対の悪魔だから・・・そう言う事ね?」
心の中で喝采を叫んでいた・・・女神が。
姪っ子は幼き者ではなく、確かに優れた少女なのだと分かったから。
「「タブン・・・そうならないかなぁーって」」
多少自信なさげな処も、慎重に事を運ぶには適しているとも思えた。
ー 宜しい。任せてみようか、姪っ子に・・・
女神は姪っ子の美晴に託そうと思った。
「そう?じゃあ、二人を傷付けないように悪魔を祓って。
私がサポートに廻る。美晴が悪魔を倒してみなさい!」
「「ええっ?!アタシがですか?」」
((シュゥン))
光が逆転した。
今コハルだった女神が潜み、今迄心の中に居た者が表に出た。
「やって・・・みます。
二人を救ってみせるんだから!」
女神の力を与えられたコハルが。
「シャイニングゥー・チェーンジィ!」
元々魔法衣姿であったのに、もう一度変身文句を唱え直した。
嘘のような話だが、魔砲少女の姿が光に包まれた。
化かされている様に思えるが、コハルが変わった。
「蒼き輝ひかりの魔鋼コハル。
月の女神様に代わって闇を討ち、闇を祓ってやるんだから!
覚悟しちゃってよね!
魔砲力は少ないままだけど!
卑怯な悪魔になんて負けっこ無いんだからね!」
紅いジェネレーターが輝く。
紅いリボンが靡く。
蒼き瞳だった今迄のコハルには無かったもの。
それは・・・
「「美晴ちゃんも、とうとう完全に光と闇を抱く者になっちゃったんだね?」」
躰の中に現れた力を感じ、女神が呟いた。
コハルの眼は蒼と金。
片方が金色に輝いていたのを知ったから。
姪っ子に任せた女神。
唯、悪魔は2人に分散してかく乱してくる。
片方を狙えば、もう片方が襲って来るという苦しい展開に陥った。
コハルがラミを掴まえようとタイミングを計っていた時。
その声が響いた・・・
次回 蠢く闇 Act6
君に掛けられた声に振り返った時、事態が急変を迎えた・・・
ミハル「コハルなんて呼んでいたら、その内私も<おばさん>って呼ばれちゃうかも・・・・」




