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魔鋼少女<マギメタガール>ミハル・Shining!  作者: さば・ノーブ
第1編<輝け!魔鋼の少女>
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蠢く闇 Act2

マリアに因って奪われた魔法石。

本来なら宿る女神が止めたろう。

なぜ止めなかったのか・・・その訳は?

走りながら泣いていた。


蒼き魔法石を握り締めながら・・・



ー 赦して・・・許してくれやコハル・・・


眼が涙で霞む。

心の中が今まで経験した事が無い位に痛んだ。


「コハル・・・ウチを・・・ウチを憎んでくれや。

 そして二度と姿を見せへんさかいに・・・忘れてくれ!」


マリアは叫んだ。

親友に別れと謝罪を。


いや、もう親友でも友達でさえもありはしないのだと。


「ウチは・・・友達を裏切ってもうた。

 ウチがされた事と同じ目にコハルを遭わせてもうたんや。

 許して貰える筈なんか・・・あらへんのや」


どうして・・・と、コハルが泣きながら訊いていた。

なぜ・・・と、訳を訊いてきた。


答える事が出来なかった。

答えたくても答えようが無かった。


「許して・・・ホンマは来ないな事しとうはないんや!

 コハルを裏切るなんてしたくはないんや・・・せやけど。

 ウチはオカンの言いつけを守らなあかんのや。

 おとうはんを助ける為やと言われたら・・・ミリアママとの約束を果たさなアカンのや!」


コハルに訊かせるべきだったかもしれない。

奪い去るような真似をしなくても済んだのかもしれない。


でも、マリアは言いつけ通りに無理やり奪った。

ミリアが言い付けたのは・・・


「オカンの言う通りにしないとアカンかったんや。

 何を目的でこないな事をさせるんかは、ウチには判らへん。

 理由も教えてくれへんミリアママやけど、ウチにとってはたった一人の肉親なんや。

 ミリアママに見放されたら、ウチは生きていけへんのやから!」


コハルから奪い去るなんて、やりたくなかった。

訳も詳しく教えて貰えなかった。

どうして・・・コハルが訊いてきた言葉をそのまま母親に訊いたのだが、

返って来たのは借地定規な答えのみ。


<ジョセフ・・・主人を連れ戻す為・・・他に何を知りたいというの?>


ミリアの答えに、十分納得できなかった。

その答えだけでは割り切れる筈もなかった。


<嫌だ。どうして無理やり?コハルに話せば貸して貰える>


心の中で抗っただけ・・・

マリアには、母親へ反抗する事が出来よう筈が無かった。

此処には、親族も身内も居ない。

この国には頼りに出来る人なんて何処にもいなかったのだから。


ー どうして母と二人だけの国に来てしまったのだろう・・・


移民ではないが、母の仕事でこの国に来てしまったのを今更ながら後悔してしまう。


「こんな事になるんやったら・・・

 オカンの言いつけ通りの転校なんかするんやなかった。

 コハルに近寄れって言われても断るんやった・・・」


振り返りたくても振り返る勇気が湧かない。

今直ぐコハルの元に戻って詫びたいと思っても、もうどうしようもない。


以前自分に対して執られた裏切りという仕打ちを、大切な友にしているのだから。

許してはくれないだろう・・・どう謝っても赦しては貰えないだろう。


マリアは走りながら泣いていた。





「君!ちょっと待ちなよ」


学校の塀に凭れ掛かった少年が呼び止めた。


「そいつは彼女の物だろう?どうする気なんだい、コハルから奪って?」


見かけない少年がマリアの足を停める。

紫がかった髪と紅い目が印象的な少年が、マリアの前に立ち塞がった。


「あ・・・?!」


マリアは立ち塞がった少年の顔を観て気が付いた。


「アンタは・・・この前の?」


挿絵(By みてみん)


自分より幾分背の高い少年に立ち塞がれたマリアにとって、まるで救いの神にも思えた。


ー 闇の者・・・やったっけ?

  せやけど・・・今この場に現れてくれたんは有難いこっちゃで!


立ち竦んだようにマリアは少年を見詰め・・・そして。


ー コハル・・・追いついてくれ・・・頼むさかいにウチを捕まえてくれ!


そっと後ろを振り返って願った。

コハルに捕まり、返そうと思っていたから。


「君?訳を話してくれないかなぁ?

 私にもなぜコハルちゃんから盗み取るような真似をしてしまったのかを」


少年だけだと思っていたマリアに、もう一人の声が掛けられる。


「教えてくれれば悪いようにはしないから。

 この場で取り押さえるのは簡単だけど、私には泥棒さんには観えないからね」


声を掛けてきたのは、中学生くらいのお姉さんだった。

くらいというのは、着ている服装が軍服だったから。

しかも、その軍服は・・・


「ああ、自己紹介がまだだったわね。

 こう見えても私は士官候補生なんだ・・・日の本人じゃないけど。

 フェアリア魔鋼まほう隊所属のラミ候補生って言うんだ」


薄いピンクの制服。

白のカッターの襟には、金の宝石が着いた紅いネッカチーフが靡いていた。

スラっと伸びた白のズボン、赤色のブーツ。


確かに日の本軍人ではなさそうだと思えた。


「ボクの事は覚えて居るだろ?元は闇の者として君の前に現れた事があったから」


「ああ、アンタは覚えてるよ。シキ・・・って、名乗ってた」


マリアは中学生の制服を着たシキに答える。

その闇の者が白昼どうどうと現れ、フェアリア軍人と自分を誰何すいかしている。


「言っとくけど。ボクはもう闇の者なんかじゃないから。

 コハルに助け出して貰ったんだ、闇からね」


確かに、今目の前に居るシキは別人のようだった。

髪色や瞳の色以外は、普通の少年に見える。


「アンタ等、ウチを捕まえへんのか?」


マリアは身構えるでもなく、二人の前に立ち尽くす。


「コハルから大事にしている魔法石を、ウチは奪ったんやで?

 これはもう犯罪や、泥棒よばわりされても言い返せへん・・・」


「そうかい?捕まえたって誰も喜ばないんじゃないの?」


シキが壁に凭れ掛かってマリアの後ろを観る。


「あなたは先ず、訳を教えなくてはならないだけ。

 捕まえても訳が解らないと赦してくれないと思うんだけど?」


ラミ候補生も腕を組んでマリアに近付く人を観ている。


マリアは近付く影に気付いていた。

早く怒鳴り散らして欲しくて。

怒りの矛先に自分の身を置きたくて。



「ねぇ。大切な物を忘れて行ったよ?

 マリアはもう魔砲使いにならないつもりだったの?」


両手で抱え持っていたのは、


「中に入ってるんでしょ?水晶のデバイスが。

 マリアにとって、大切な物じゃなかったの?」


コハルが差し出して来るのは、落として行ったマリアのリュック。


「・・・あ」


声が詰まる。

涙目のコハルが・・・微笑んでいたから。


「なんでや・・・なんで怒らへんのや!」


いっそ殴って貰いたかったのに。

怒りに任せて喧嘩した自分とは正反対の態度に、マリアは戸惑いを隠せなくなる。


「怒らないよ、だって・・・マリアは泣いてたもん。

 泣きながら奪うなんて、きっと深い事情があるに決まってるんだから」


コハルがリュックを差し出す。


「大切な物を置き去りにしてまで、走って行くんだもん。

 単に奪い去るんだったら、こんなにまで泣かないでしょ?」


コハルに言われるまで、涙が頬を伝っている事さえも判らなかった。


「怒るとしたら。

 訳を話してくれなかった事かな?」


コハルが微笑んだまま、リュックをマリアに手渡す。

受け取る手がリュックを取らずにコハルを抱きしめた。


「ごめんっ!ごめんなコハル!ウチが間違ぉてたんや!

 いくらオカンの言いつけやからって。

 コハルの大切な魔法石を取ってしもうたなんて・・・堪忍や!」


抱き締められたコハルが頷く。


「やっと・・・話してくれたねマリア。

 善いんだよ話してくれさえすれば。

 マリアはきっと話してくれるって信じてたから・・・もういいんだよ?」


マリアの手が、コハルの首元へ魔法石を戻した。


「コハル・・・ウチが断れへんかったんが間違いやったんや。

 オカンの言いなりになってしもうたウチが悪いんや。

 謝っても済まへんやろうけど・・・堪忍やで」


ネックレスを戻したマリアが謝って、


「せやから・・・ウチはもう・・・コハルの前には居られんようになってもうた。

 親友を裏切って、オカンの言いつけも守れへんかったさかいにな。

 この国に居られんようになってもうた・・・」


マリアは身を引くという。

友を裏切った代償、母親にも会わせる顔が無いと思っているのか。


「コハル・・・つるんでくれてありがとうな。

 今日まで楽しかったわ、ホンマに。

 せやけど・・・もうお別れや、ウチの事なんか忘れてくれ・・・な?」


「な、何言うのマリア?!

 アタシの事を気にするんだったら、そんな事言っちゃ嫌だよ?!」


突然に、別れを切り出されたコハルが驚く。


マリアはコハルの顔を呆然と見つめながら首を振る。


「コハルには解らんやろうけど。

 ウチはミリアママに約束したんや、おとうはんを救う手助けをするんやと。

 ミリアママの言いつけ通りに何でもするからと。

 だから、この学校へ来たんや。コハルに近寄る為にやって来たんや」


ビクンとコハルが震える。


「コハルのネックレスに女神様が宿ったんやとオカンに知らせた。

 コハルとの約束を破り、女神様と交わした約束まで破って。

 なんでやと思う?

 それはな・・・初めから魔法石が狙いやったからなんや。

 コハルと仲良くしていたのは、この時が来るのを待ってたからなんや!」


コハルの顔が青くなる。

教えられた真実に、心が裂けそうになって。

「嘘・・・嘘だよね?

 アタシと友達になってくれたのは、魔法石を奪う為だったなんて?」


コハルは耳を塞いで首を振る。

信じたくないマリアの言葉に耳を疑って。


「嘘やない、これが本当の訳なんや」


立ち尽くして話すマリア。

コハルを観る目は光を失っていた。

その眼には本当の心を宿してはいない暗さがあった。



「君、そうまで云えるのはコハルから離れる為だろ?

 酷い事を言って、コハルの心から逃げ出すつもりなんだろ?」


それまで何も言わずに訊いていたシキが、口を挟む。


「そうねぇ、私もあなたが心にもない事を言ってるようにしか聴こえないわ。

 コハルちゃんから嫌われたいって、もう逢えなくなってしまうからって。

 自分を悪者にしようとしている様にしか聴こえないわよ?」


ラミ候補生がシキに被せて言って来る。


「ねぇ・・・マリア。それってそうなの?」


思い込んでしまった自分を恥じるように、コハルがマリアに縋り付き。


「そんなの嫌だよ。アタシから離れる為に嫌われようなんて。

 そんなの絶対許さないんだから!マリアを嫌いになれる訳がないじゃない!」


心が折れたかのように崩れ落ちる。


挿絵(By みてみん)


「コハル・・・こうでもしないと。

 偽りの言葉でもかけないと、別れてくれないだろ?

 いいや、忘れてくれないやんか・・・大好きなコハルは」


(( ビクンっ ))


その声で。

マリアの本心が解った。


「マリア!魔法石が欲しいのならあげてもいい!

 だけど、アタシから離れるなんて言わないで!

 忘れろなんて絶対に言わないでよ!

 だってアタシ達は親友でしょ?いつまでも忘れたりなんかしない親友でしょ!」


縋るコハルが抱きしめる。

その手に流れる血潮のように。

・・・熱い想いが伝わるようにと。


「ありがと・・・な。

 ホンマにありがとーなコハル。

 ウチも忘れへんことに決めたから・・・親友を」


コハルの肩に手をかけるマリアが言った。


「ウチがミリアママに言う。

 もう・・・コハルから手を退いてと。

 魔法石を奪うのは辞めてくれって、頼んでみる!」


「マリア?!」


見上げたマリアの顔に、元の瞳が輝いていた。


(( パチパチ ))


シキとラミ候補生が拍手を贈った。


「良く言ったわね、マリアちゃん。

 その勇気があれば大丈夫!きっと誰かが救いの手を指し伸ばされるわ!」


ラミ候補生が微笑みかける。


「その石に宿った女神様も、ほってはおけないんじゃないのかい?」


シキは、女神の宿った魔法石が蒼き光を放っているのに気付いた。

二人の少女に何かを伝えようとするかのように。


そう。

女神ミハルはマリアの母、ミリアの事を案じているのだった。


<私を彼女の元へ連れて行きなさい。

 ミリアの元まで魔法石わたしを連れて行きなさい・・・>


蒼き魔法石の中で、元フェアリア軍戦友を想う女神が瞳を開いていた。

コハルとマリアは心の底から繋がっていた。

親友とは信じあえる者同士が名乗れるモノ。


哀しい声に返されたのは、真実を求める顔だった。

救いの手を指し伸ばしてくれた少年に感謝した。


その時、コハルが急変する?!


次回 蠢く闇 Act3

君は突然気を失う・・・訪れた変化とは?!


ミハル「私にだって、判らない事だってあるの!神様じゃないんだから!・・・って、女神だったW」

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